夕暮れ近く、空の果てには血のように赤い残陽が差し込んでいた。学堂には五十人余りの生徒が姿勢を正し、壇上で家老が名前を呼びながら補助金を配っていた。七日ごとに支給される元石補助――彼ら少年たちが蠱虫を飼育する経済的負担を軽減するための制度だ。
「古月方源」
窓際の最前列から立ち上がった方源は二つの袋を受け取る。一つは三個の元石、もう一つは先日の試験優勝の褒賞十個だ。
「引き続き励むように」家老が深い視線を送る。二度連続の首位がこの丙等の少年への評価を僅かに変えつつあった。
「くそっ…また奴に一位を取られるなんて」古月漠北が歯噛みする。
「傀儡の首に二発連続命中なんて、果たして実力か? それとも…」古月赤城は目を細める。この疑問は試験終了後から脳裏を離れない。
解散前、家老が新たな方針を告げる。「今後は空竅の温養を指導する。蠱師の境が一段上が(あが)れば真元も凝練される。一転は青銅真元、二転は赤鉄真元、三転は白銀真元だ。各段階の真元は十倍の差がある」
「三ヶ月以内に一転中階に達した者は元石三十個と第二蠱の優先選択権を獲得する。さらに班頭一名、副班頭二名を設置――班頭は毎週十個、副班頭は五個の補助が追加される」
教室が騒めき立つ中、方正が振り向くと、既に兄の席は空き壳になっていた。「逃げたのか…? 今度こそ班頭の座で見返してやる」
玄関に寄り掛かる方源が冷笑する。「栄誉などという虚飾に踊らされる若さよ。組織というものは上から餌を撒き、下の者を競わせて搾取する装置に過ぎん」
五百年の経験が教える真実――権力とはロバの鼻先に吊るされたニンジンの如きもの。人々(ひとびと)は己が特別だと錯覚し、虚構の階段を登り続けるのだ。
「これが真実だ…残念ながら世間の大多数は気づかず、愚かにも他者のため命を削っている。世界のあらゆる組織の根本はただ一つ――資源の再分配。上層ほど多くの資源を享受するのだ」
前世で方源は中洲に血翼魔教を創立し、数万の信徒を従えた。魔兵・魔将・魔帥といった階級を設け、福利で人々(ひとびと)を釣り、己の手足として駆使した経験が、この道理を骨の髄まで悟らせた。
「故に組織など表層に過ぎぬ。真の根本は二文字――資源。食べる資源が無ければ餓死し、飲む資源が無ければ渇死する。修行の資源が無ければ弱り、遅かれ早かれ虐げられる」
「そして元石――これこそ蠱師修行の最優先資源だ」方源の双眸が深淵のように暗く輝き、口元に冷たい笑みが浮かぶ。
早々(そうそう)に学堂を出た彼は正門に佇み、最初の生徒たちが近づくのを待ち受けた。
「方源だ」
「門の真中で何してやがる?」
「フン…あの冷徹な面構えを見る度に腹が立つ」
「構うな。誰か待ってるんだろ」
少年たちが無関心に通り過ぎようとした瞬間、方源が一歩踏み出して道を塞いだ:「金を出せ。一人一個の元石を払わないと通さねえぞ」