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蛊真人  作者: 魏臣栋
魔子出山
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第五十八節:ズッ!

僵尸群(きょうしぐん)攻勢(こうせい)次第(しだい)緩和(かんわ)し、戦況(せんきょう)膠着状態(こうちゃくじょうたい)移行(いこう)した。


刻一刻(こくいっこく)時間(じかん)()ぎる(なか)蛊师(こし)壮烈(そうれつ)最期(さいご)()げたり、僵尸(きょうし)完全(かんぜん)(たお)れたりする光景(こうけい)散見(さんけん)された。


一時間余(いちじかんあま)(のち)丁浩(ていこう)方源(ほうげん)指示(しじ)通り突如(とつじょ)攻勢(こうせい)激化(げきか)させ、(すで)崩壊寸前(ほうかいすんぜん)だった防衛線(ぼうえいせん)瞬時(しゅんじ)突破(とっぱ)した。


商隊(しょうたい)(がわ)最早(もはや)三十余名(さんじゅうよめい)のみに激減(げきげん)


脱出(だっしゅつ)必須(ひっす)だ!」という認識(にんしき)全員(ぜんいん)(つらぬ)いた。(かさ)なり()白毛僵尸(はくもうきょうし)包囲網(ほういもう)と、()()(はば)黒毛僵尸(こくもうきょうし)(なか)を──生き()びるための一縷(いちる)生路(せいろ)()けた死闘(しとう)(はじ)まった。


(ぼん)(じん)など(かば)うな!速度(そくど)()ちるだけだ!」賈龍(かりゅう)怒鳴(どな)る。


商心慈(しょうしんじ)小蝶(しょうちょう)二人共(ふたりとも)顔面(がんめん)蒼白(そうはく)となる。


()がるな、(わたし)()ている」方源(ほうげん)二人(ふたり)(まも)るように()()った。


(ほか)凡人(ぼんじん)たちは容赦(ようしゃ)なく見捨(みす)てられ、(のこ)されたのは彼女(かのじょ)らだけだった。


賈龍(かりゅう)らは不満(ふまん)(かく)すも、方源(ほうげん)白凝冰(はくぎょうひょう)戦力(せんりょく)(たよ)らざるを()なかった。


包囲(ほうい)突破(とっぱ)目前(もくぜん)という(とき)、ドサッ!と二体(にたい)青毛僵尸(せいもうきょうし)出現(しゅつげん)


後退(こうたい)するぞ」方源(ほうげん)商心慈(しょうしんじ)らを()()せ、(こえ)(ひそ)めた。


白凝冰(はくぎょうひょう)一瞬(いっしゅん)動作(どうさ)()める──後退(こうたい)すれば(ふたた)包囲網(ほういもう)(おちい)るのに?


だが方源(ほうげん)(すで)主従(しゅじゅう)()れて後退(こうたい)(はじ)めていた。視界(しかい)(ひら)けた正面(しょうめん)()つめ()()いしばった彼女(かのじょ)は、結局(けっきょく)(きびす)(かえ)方源(ほうげん)合流(がっりゅう)した。


商隊(しょうたい)(もの)たちと二体(にたい)青毛僵尸(せいもうきょうし)激突(げきとつ)乱戦(らんせん)爆発(ばくはつ)した。


青毛僵尸(せいもうきょうし)戦闘力(せんとうりょく)千獣王(せんじゅうおう)(きゅう)疲弊(ひへい)()った三転蛊师(さんてんこし)たちは太刀打(たちう)ちできず、包囲網(ほういもう)(またた)く間に縮小(しゅくしょう)した。


ザワッ!


黒毛僵尸(こくもうきょうし)白毛僵尸(はくもうきょうし)(なが)れるように合流(がっりゅう)商人達(しょうにんたち)鉄壁(てっぺき)()()()める。


一方(いっぽう)方源(ほうげん)らへの(あつ)(りょく)激減(げきげん)数十歩(すうじっぽ)後退(こうたい)した(かれ)らは(ふたた)突撃(とつげき)開始(かいし)


ビュンビュン!


方源(ほうげん)双拳(そうけん)疾風(しっぷう)のように(かけ)()ける。白毛僵尸(はくもうきょうし)()れれば(くだ)け、(かす)れば(くず)()ちる。


白凝冰(はくぎょうひょう)呆然(ぼうぜん)見守(みまも)った──これが方源(ほうげん)(しん)実力(じつりょく)だったのか?


「ん?」白凝冰(はくぎょうひょう)()()した途端(とたん)違和感(いわかん)気付(きづ)いた。


(はば)白毛僵尸(はくもうきょうし)以前(いぜん)より数倍(すうばい)(よわ)く、間抜(まぬ)けに()()っている。まともな攻撃(こうげき)もせず、()たれ放題(ほうだい)(まと)のようだ。


「まさか方源(ほうげん)最初(さいしょ)から弱点(じゃくてん)見抜(みぬ)いていたのか?だが()()(おな)白毛僵尸(はくもうきょうし)、どうやって見分(みわ)けた?」彼女(かのじょ)(むね)(なぞ)(ふか)まる。


その(ころ)方源(ほうげん)内心(ないしん)罵倒(ばとう)していた。


丁浩(ていこう)め…撤退(てったい)前に『(つよ)さを(よそお)巧妙(こうみょう)()()きせよ』と(きび)しく()(ふく)めたはずだ。この手抜(てぬ)工事(こうじ)のような脆弱(ぜいじゃく)ぶりは(なに)だ!?本気(ほんき)()せ!)



丁浩(ていこう)(ひたい)(たき)のように(あせ)(なが)した。


かくも全身全霊(ぜんしんぜんれい)(かたむ)けて僵尸軍(きょうしぐん)(あやつ)ったことは、(しょう)(がい)(はじ)めてだった。


大師兄(だいしけい)密命(みつめい)台無(だいな)しにした」という罪悪感(ざいあくかん)不安(ふあん)(かれ)(さいな)み、方源(ほうげん)芝居(しばい)必死(ひっし)()わせていた。


大師兄(だいしけい)身分(みぶん)()らぬ(まえ)()かったが、(いま)本気(ほんき)など()せるはずがない!


「す、すごい…!」小蝶(しょうちょう)(いき)()む。


商心慈(しょうしんじ)(ひとみ)(きら)めいた。


方源(ほうげん)縦横無尽(じゅうおうむじん)(かけ)(めぐ)り、()(あし)()せない(てき)などいなかった。無敵(むてき)気概(きがい)(かれ)(つつ)む!


英雄(えいゆう)(あい)でない(もの)がいるか?


白馬(はくば)王子様(おうじさま)英雄(えいゆう)(すく)われる(ゆめ)(いだ)かない少女(しょうじょ)がいるか?


小蝶(しょうちょう)も、商心慈(しょうしんじ)も──例外(れいがい)ではなかった。


この(とき)主従(しゅじゅう)方源(ほうげん)(ひろ)背中(せなか)視線(しせん)(そそ)ぎ、(むね)(かす)かな波紋(はもん)(ひろ)がった。


(みにく)容貌(ようぼう)(いま)(いと)おしい(かがや)きを(はな)ち、危機(きき)()二人(ふたり)(こころ)圧倒的(あっとうてき)安心感(あんしんかん)(しょう)じさせる。(かれ)勇猛(ゆうもう)(かれ)気概(きがい)は、()()かり依存(いぞん)したくなる衝動(しょうどう)(おさ)えきれなかった。


芝居(しばい)下手(へた)すぎる…腰抜(こしぬ)けめ!」方源(ほうげん)丁浩(ていこう)()()ばして断種(だんしゅ)したくなる。


(やつ)心理(しんり)()めている…仕方(しかた)あるまい)


瞬時(しゅんじ)天蓬蛊(てんほうこ)解除(かいじょ)し、白毛僵尸(はくもうきょうし)鉤爪(かぎづめ)(みずか)()(とう)じた──ズキッ!


皮膚(ひふ)()(しし)がめくれ、鮮血(せんけつ)(ほとばし)る。


(よし、これだ!)(きず)こそ商心慈(しょうしんじ)信頼(しんらい)()()絶好(ぜっこう)機会(きかい)見逃(みのが)すわけにはいかなかった。


「この野郎!!」白凝冰(はくぎょうひょう)(のろ)いの言葉(ことば)()商心慈(しょうしんじ)(はな)れ、方源(ほうげん)()()った。方源(ほうげん)()阳蛊(ようこ)こそ彼女(かのじょ)(おとこ)(もど)唯一(ゆいいつ)(かぎ)だった。


「あかんわ!!!」丁浩(ていこう)方源(ほうげん)負傷(ふしょう)(ふる)()がった。自責(じせき)焦燥(しょうそう)()られ、顔面(がんめん)蒼白(そうはく)(つぶや)く。「わてのせいじゃ…わてのせいや…大師兄(だいしけい)!」


「あっ…!」主従(しゅじゅう)同時(どうじ)(さけ)びが()れる。方源(ほうげん)(きず)二人(ふたり)(むね)()した。


()ずに(まも)れ!」白凝冰(はくぎょうひょう)(ひく)叱咤(しった)する方源(ほうげん)


(あお)双眸(そうぼう)見開(みひら)かれる──(この詐欺師(さぎし)、わざと傷付(きずつ)いたんだ!)白凝冰(はくぎょうひょう)()()いて(にら)んだ。「調子(ちょうし)()るなよ」


丁浩(ていこう)(あやつ)白毛僵尸(はくもうきょうし)(つめ)()りかざすが、()()けだけで脅威(きょうい)皆無(かいむ)


トンッ!


白凝冰(はくぎょうひょう)一蹴(いっしゅう)僵尸(きょうし)(はじ)()ばし、商心慈(しょうしんじ)(かたわ)らへ(まい)(もど)った。


黑土様(くろつちさま)様子(ようす)は…?」商心慈(しょうしんじ)白凝冰(はくぎょうひょう)(うで)(つか)んで()いただした。


()なん」白凝冰(はくぎょうひょう)(くちびる)(ゆが)めた。「なぜ交代(こうたい)させないのです?怪我(けが)してるのに!」


普段(ふだん)(おだ)やかな彼女(かのじょ)が、(きわ)めて(まれ)(いか)()じりの口調(くちょう)()った。


白凝冰(はくぎょうひょう)口元(くちもと)(かす)かに痙攣(けいれん)した──((みずか)(きず)()った真実(しんじつ)など()えるはずがない)。


(やつ)はそういう(おとこ)だ。(いっ)たん突撃(とつげき)したら()まらない。(たお)れるまでな」と(うそ)誤魔化(ごまか)した。


商心慈(しょうしんじ)(うつく)しい(ひとみ)(またた)き、(かす)かに(あか)らんだ。


小蝶(しょうちょう)(くち)()さえ、()(ふち)(なみだ)()めた。


(ふたた)(まえ)方源(ほうげん)()ると、主従(しゅじゅう)二人(ふたり)(むね)波紋(はもん)(ひろ)がった。


これは一体(いったい)何者(なにもの)だ!魑魅魍魎(ちみもうりょう)(ごと)屍群(しぐん)(なか)縦横無尽(じゅうおうむじん)()(めぐ)り、一歩(いっぽ)退(しりぞ)かぬ。


間違(まちが)いなく、(かれ)英雄(えいゆう)だ!悲劇(ひげき)()びた英雄(えいゆう)だ!


丁浩(ていこう)方源(ほうげん)負傷(ふしょう)()恐怖(きょうふ)(ふる)()がり、最早(もはや)(さえぎ)勇気(ゆうき)などなかった。


方源(ほうげん)奮戦(ふんせん)するうちに、商心慈(しょうしんじ)三人(さんにん)()れて尸群(しぐん)包囲(ほうい)突破(とっぱ)した。


「これで()わりか?」不満(ふまん)そうに舌打(したう)ちし、自身(じしん)唯一(ゆいいつ)傷口(きずぐち)(あき)れたように()やった。


(せっかくの()()なのに、(ひと)つしか(きず)()えなかったとは…演技(えんぎ)()りない)


たった(ひと)つの負傷(ふしょう)でも、商心慈(しょうしんじ)小蝶(しょうちょう)極度(きょくど)不安(ふあん)(おとしい)れた。


黒土様(くろつちさま)、お怪我(けが)は?(きず)(ふか)くて…(すべ)(わたし)のせいです!」商心慈(しょうしんじ)(ひとみ)(なみだ)(はな)()かぶ。


真黒(まっくろ)()がどっと(なが)れてます。お(どく)におかされましたわ!」小蝶(しょうちょう)心配(しんぱい)そうに()げる。


方源(ほうげん)(むね)()り、(ひく)(しず)んだ(こえ)(ごう)(かい)()(はな)った。


「この程度(ていど)(きず)(なに)だ?屍毒(しどく)清熱蛊(せいねつこ)解毒(げどく)できる。心配(しんぱい)無用(むよう)よ…フフフ」


陣営跡(じんえいあと)廃墟(はいきょ)(ほのお)(てん)()いて()()がっていた。退路(たいろ)()つため、また照明(しょうめい)威勢(いせい)づけのため、商隊(しょうたい)(もの)たちは出発(しゅっぱつ)(まえ)()やすものは全て()やしたのだ。


方源(ほうげん)四人(よにん)尸群(しぐん)包囲(ほうい)突破(とっぱ)した場所(ばしょ)は、(ほのお)()らす外縁(がいえん)だった。


(ほのお)(ひかり)方源(ほうげん)(かお)に、(むね)に、傷口(きずぐち)()らめいていた。


(かれ)微笑(ほほえ)んでいた。(みにく)容貌(ようぼう)だが、二人(ふたり)女性(じょせい)()には、(べつ)英雄的(えいゆうてき)魅力(みりょく)(はな)って()えた!


彼女(かのじょ)たちも英雄(えいゆう)(すく)われる(ゆめ)()たことがある。(ゆめ)(なか)英雄(えいゆう)颯爽(さっそう)として美男(びなん)だった。正直(しょうじき)方源(ほうげん)はその(ぞう)からは程遠(ほどとお)かった。


だが不思議(ふしぎ)なことに、二人(ふたり)はこそが(しん)英雄(えいゆう)だと(かん)じた!疾走(しっそう)れ!(おそ)れぬ!豪気無双(ごうきむそう)


(たす)けてくれ!」尸群(しぐん)(ふか)くに(とら)われた商隊(しょうたい)(もの)たちが、方源(ほうげん)らの状況(じょうきょう)()(きゅう)(えん)(さけ)(もと)めた。


方源(ほうげん)()一瞬(いっしゅん)(ひか)ったが、(くち)(ひら)()もなく──


商心慈(しょうしんじ)(かれ)(うで)(つか)んだ。「お怪我(けが)してるんです、()かないで…(わたし)たち()げましょう。(おぼ)えていますか?(ちから)(およ)範囲(はんい)のことだけをすると、おっしゃったでしょう?」


(ちから)(およ)範囲(はんい)()しとすれば、(こころ)(やす)らぐ。


方源(ほうげん)(ほが)らかに(わら)い、商心慈(しょうしんじ)()をポンポンと(たた)いた。「安心(あんしん)しろ、()()などない。(やつ)らと(わたし)には(おん)(あだ)もない。さあ()こう!」


だがこのまま()るのは(すこ)不都合(ふつごう)だった。


(まん)(いち)張柱(ちょうちゅう)(ころ)したことを()(もの)絶望(ぜつぼう)(あま)(さけ)()したら?商心慈(しょうしんじ)はどう(おも)うだろう?


(じつ)心配(しんぱい)無用(むよう)だった。真相(しんそう)()陳鑫(ちんきん)陳双全(ちんそうぜん)(すで)戦死(せんし)していた。


方源(ほうげん)(ひとみ)(するど)(ひかり)一瞬(いっしゅん)(はし)り、(こえ)()()げた。「()()け!彼女(かのじょ)たちを安全(あんぜん)場所(ばしょ)(うつ)したら(もど)り、援護(えんご)する!」


黑土様(くろつちさま)高潔(こうけつ)なり!」


(すみ)やかに(もど)られよ!」


(いのち)(すく)われば、莫大(ばくだい)(れい)(てい)せん!」


商隊(しょうたい)(もの)たちが(さけ)(つづ)けた。


方源(ほうげん)(わら)い、怪訝(けげん)そうな主従(しゅじゅう)(かお)()いて()った。「(やつ)らに希望(きぼう)(あた)えたまでだ。奇跡(きせき)()こせることを(ねが)う。(ああ)(わたし)にできるのはこれだけだ」


その言葉(ことば)で、方源(ほうげん)姿(すがた)二人(ふたり)女性(じょせい)(こころ)の中で(さら)(たか)(だい)(うつ)った。


方源(ほうげん)三人(さんにん)()れ、山道(やまみち)一路(いちろ)()()けた。


月光(げっこう)(した)山道(やまみち)地面(じめん)霜雪(そうせつ)()いたように(しろ)(かがや)いていた。


(さき)()()わせ通り(どおり)、丁浩(ていこう)此処(ここ)にも僵尸(きょうし)()れを配置(はいち)()()せていた。


四人(よにん)()()んだ瞬間(しゅんかん)方源(ほうげん)白凝冰(はくぎょうひょう)目配(めくば)せし、(みずか)らは(あし)()めた。「(さき)()け!(おれ)がここで()()める。(あと)()いつく」


主従(しゅじゅう)二人(ふたり)女性(じょせい)(あし)躊躇(ちゅうちょ)させたが、白凝冰(はくぎょうひょう)(うなが)され(はし)()し、(またた)()方源(ほうげん)視界(しかい)から()えた。


方源(ほうげん)はしばらく()ち、()()けの戦闘(せんとう)僵尸群(きょうしぐん)()(ひろ)げた。頃合(ころあ)いを見計(みはか)らい跳跳草(ちょうちょうそう)()り、僵尸(きょうし)()れを()()丁浩(ていこう)(もと)(まい)(もど)った。


戦場(せんじょう)彼方(かなた)では(たたか)いが(つづ)いていた。


商隊(しょうたい)(もの)たちは最早(もはや)三名(さんめい)にまで()っていた。だが方源(ほうげん)(おどろ)かせたのは、青毛僵尸(せいもうきょうし)一頭(いっとう)(そん)(かい)されていたことだ!


丁浩(ていこう)()いただしたところ、とある蛊师(こし)(めずら)しい三转爆燃蛊(さんてんはくねんこ)使(つか)ったという。


大師兄(だいしけい)丁浩(ていこう)(あわ)てて(ふか)(あたま)()げた。蒼白(そうはく)(かお)()(あせ)(たま)になっていた。


かくも激烈(げきれつ)分心操作(ぶんしんそうさ)生涯(しょうがい)(はじ)めてだ。(かなめ)方源(ほうげん)芝居(しばい)()わせるため、(たましい)(そこ)から(つか)()っていた。


かつて僵尸(きょうし)指揮(しき)するときは撤退(てったい)進撃(しんげき)二択(にたく)今日(きょう)のごとき、(きば)()(つめ)()てて威嚇(いかく)しながら空虚(くうきょ)()き、方源(ほうげん)(たた)かれたら傀儡(かいらい)静止(せいし)させる――そんな複雑(ふくざつ)操作(そうさ)などありえなかった。


大師兄(だいしけい)、お怪我(けが)大丈夫(だいじょうぶ)ですか?わてのせいじゃ…わてのせいじゃあらしまへん!治療(ちりょう)()がございますわ」丁浩(ていこう)(あわ)てて弁明(べんめい)した。


方源(ほうげん)(かれ)(かた)をポンポンと(たた)いた。「お(まえ)()くやった。本気(ほんき)()したな。(きず)(おれ)(みずか)()けたものだ。(いま)から(さら)()()れて、(のこ)全員(ぜんいん)始末(しまつ)しろ!」


「かしこまりました」方源(ほうげん)言葉(ことば)丁浩(ていこう)安堵(あんど)(いき)()いた。


()()けると、()(ふる)()無数(むすう)僵尸(きょうし)()()せた。


(のこ)された三人(さんにん)()覚悟(かくご)した。一人(ひとり)()()嘆息(たんそく)し、一人(ひとり)方源(ほうげん)罵倒(ばとう)し、一人(ひとり)(こえ)()()げて号泣(ごうきゅう)した。


()(まえ)に、各々(おのおの)の本性(ほんしょう)(あらわ)になる。



尸群(しぐん)三人(さんにん)()()んだ。方源(ほうげん)満足(まんぞく)げに(うなず)いた。「()れはあるか?」


一切(いっさい)ありません!大師兄(だいしけい)のご指示(しじ)通り(どおり)、外郭(がいかく)にも僵尸(きょうし)三重(さんじゅう)配置(はいち)してございます!」丁浩(ていこう)(あわ)てて(こた)えた。


()い。善戦(ぜんせん)だった。戦後処理(せんごしょり)(はじ)めよ。痕跡(こんせき)(のこ)すな」


(かしこ)まりました、大師兄(だいしけい)


丁浩(ていこう)数年(すうねん)商隊(しょうたい)襲撃(しゅうげき)しながら露見(ろけん)せず、(たし)かな手練(てだれ)()つ。戦場(せんじょう)()(きよ)めも手慣(てな)れており、一般(いっぱん)尸群(しぐん)(おそ)った(よう)偽装(ぎそう)する手腕(しゅわん)に、方源(ほうげん)(かす)かに(うなず)いた。


だが(かれ)方源(ほうげん)より年長(ねんちょう)ながら、経験(けいけん)狡猾(こうかつ)さでは(およ)ばない。


方源(ほうげん)幾箇所(いくかしょ)指摘(してき)不備(ふび)補完(ほかん)すると、丁浩(ていこう)敬嘆(けいたん)(ねん)(きん)()なかった。


例えば:


元石(げんせき)全額(ぜんがく)回収(かいしゅう)せず数個(すうこ)(のこ)す(尸群(しぐん)元石(げんせき)(ひろ)わぬ)


死体(したい)完全(かんぜん)僵尸化(きょうしか)しない(屍毒(しどく)浸透度(しんとうど)()があり、100%の転化(てんか)不可能(ふかのう)


大師兄(だいしけい)、これらの元石(げんせき)、どうかお(おさ)めください」茶一服(ちゃいっぷく)(あいだ)もせず、丁浩(ていこう)機転(きてん)()かせて()元石(げんせき)(たてまつ)った。


方源(ほうげん)一瞥(いちべつ)し──(やく)一万三千枚(いちまんさんぜんまい)元石(げんせき)()()した。遠慮(えんりょ)なく()()り、全て(すべて)兜率花(とそつか)(おさ)めた。


「今回は収穫(しゅうかく)はどうだった?」(かた)をポンと(たた)きながら(おだ)やかに(たず)ねる。


丁浩(ていこう)蒼白(そうはく)(かお)興奮(こうふん)(あか)みが()した。「(おお)きな獲物(えもの)ですわ!三转蛊师(さんてんこし)完璧(かんぺき)死体(したい)五体(ごたい)(さら)力气(りきき)(やしな)った蛊师(こし)死体(したい)十数体(じゅうすうたい)僵尸(きょうし)転化(てんか)すれば(すく)なくとも黒毛僵尸(こくもうきょうし)になります!」


「ハハハ、上々(じょうじょう)の収穫(しゅうかく)じゃ。それらの黑毛僵尸(こくもうきょうし)()飼育(しいく)すれば(かなら)(あたら)しい青毛僵尸(せいもうきょうし)()まれるだろう」


丁浩(ていこう)(はげ)しく(うなず)き、敬服(けいふく)(いろ)()かべた。「わてが商隊(しょうたい)(まる)ごと(ほうむ)るのは(はじ)めてでんねん。大師兄(だいしけい)獣群(けものむれ)誘引(ゆういん)し、(やつ)らを(よわ)(つづ)けてくれたお(かげ)です。この収穫(しゅうかく)大師兄(だいしけい)あってのもの!」


「お(まえ)も上々(じょうじょう)じゃ。指揮(しき)見事(みごと)だった。だが顔色(かおいろ)()るに心神(しんしん)酷使(こくし)し、魂魄(こんぱく)(そこ)なっている。十分(じゅうぶん)休養(きゅうよう)必要(ひつよう)だ。()(りゅう)では魂魄(こんぱく)養生(ようじょう)肝要(かんよう)魂魄(こんぱく)(よわ)ければ心念(しんねん)(おとろ)え、尸群(しぐん)指揮(しき)困難(こんなん)となる」方源(ほうげん)(おだ)やかな()みを()かべ(さと)した。


大師兄(だいしけい)御心配(ごしんぱい)感謝(かんしゃ)します!」孤独(こどく)()()ない十年(じゅうねん)()ごしてきた丁浩(ていこう)は、他者(たしゃ)から気遣(きづか)われるのが(はじ)めてだった。(おも)わず(こえ)()まらせ、ひそかに感動(かんどう)した。


その感激(かんげき)(たか)ぶり、突然(とつぜん)強烈(きょうれつ)眩暈(めまい)(おそ)われた。(からだ)がぐらりと()らぎ、方源(ほうげん)(ささ)えなければ地面(じめん)にドサッと(たお)()むところだった。


()ずかしい…わての修行(しゅぎょう)()りんとですわ。(あたま)がぼーっとし、心念(しんねん)(まわ)りませぬ」丁浩(ていこう)(かろ)うじて()(なお)()うた。


(かま)わん。洞窟(どうくつ)(もど)りよく(ねむ)れ。翌日(よくじつ)目覚(めざ)めれば頭痛(ずつう)(はげ)しいが、心念(しんねん)大方(おおかた)回復(かいふく)し、僵尸(きょうし)自由自在(じゆうじざい)(あやつ)れるようになる」方源(ほうげん)(わら)いながら()うた。


「はっ!わても経験(けいけん)ありまんねん。一度(いちど)僵尸(きょうし)()()ぎて、その()卒倒(そっとう)しそうになりましてん。ホホホ」丁浩(ていこう)(わら)いを(かえ)した。


「うむ…そろそろ()れは()つ。小师弟(しょうしてい)よ、貴様(きさま)(みと)めた。()(やす)んで()っておれ。(もど)ったら師尊(しそん)(とも)拝謁(はいえつ)する。ところで、お(まえ)洞窟(どうくつ)はどこにある?」


中腹(ちゅうふく)陰潭(いんたん)(かたわ)らでんねん。五芒星形(ごぼうせいけい)陰潭(いんたん)目印(めじるし)で、一目(ひとめ)()かりやすおす」丁浩(ていこう)狂喜(きょうき)して(こた)えた。「大師兄(だいしけい)本当(ほんとう)洞窟(どうくつ)一服(いっぷく)されまへんか?」


遠慮(えんりょ)する。時間(じかん)(せま)っておる、師尊(しそん)から密命(みつめい)()けている。しまった…!()偽装(ぎそう)していた者がおる!一匹(いっぴき)()(あみ)が!」


「どこです!?」丁浩(ていこう)心臓(しんぞう)()()がり、(あわ)てて()り返った。


ズッ!


次の瞬間(しゅんかん)一本(いっぽん)骨槍(こつそう)(かれ)頭蓋骨(ずがいこつ)貫通(かんつう)した。


ドスン!


丁浩(ていこう)地面(じめん)(たお)()す。(ひたい)には(ふと)螺旋状(らせんじょう)骨槍(こつそう)()()ち、()脳漿(のうしょう)螺旋状(らせんじょう)(みぞ)(つた)ってゆっくり(なが)()ちていた。


(かれ)()見開(みひら)き、(しん)(がた)表情(ひょうじょう)(かた)めたままだった。


方源(ほうげん)(かお)から()みが()え、無表情(むひょうじょう)になった。ゆっくりと(こし)(かが)め、丁浩(ていこう)足首(あしくび)(つか)むと、陣営(じんえい)廃墟(はいきょ)へゆっくりと()きずっていった。


(ほのお)(なお)()(つづ)け、(ぬし)(うしな)った尸群(しぐん)漫然(まんぜん)()(まわ)っていた。


地面(じめん)(ころ)がる死体(したい)(かれ)らを誘惑(ゆうわく)する。


尸群(しぐん)死体(したい)(おお)(かぶ)さり、()らい()き、()()(はじ)めた。


方源(ほうげん)丁浩(ていこう)死体(したい)()()りながら、死屍累々(ししるいるい)の戦場(せんじょう)(ある)いた。(みみ)には僵尸(きょうし)(むさぼ)()(おと)(ひび)く。


()(なか)丁浩(ていこう)(ほう)()むと、(しず)かに見守(みまも)った。死体(したい)が徐々(じょじょ)に焦炭(しょうたん)()し、()()けた蛊虫(こちゅう)凄厲(せいれい)悲鳴(ひめい)()げ、次々(つぎつぎ)に()()んでいく。


商心慈(しょうしんじ)(しょう)()族長(ぞくちょう)認知(にんち)されれば、商家(しょうか)厳密(げんみつ)調査(ちょうさ)(はい)る。この戦場(せんじょう)(かなら)核心(かくしん)となる。


もし丁浩(ていこう)(つか)まり、拷問(ごうもん)真実(しんじつ)(はく)(じょう)すれば、方源(ほうげん)危険(きけん)(おちい)る。


(かれ)実直(じっちょく)(だま)(やす)く、使い(つか)いの()(ごま)だったが、商心慈(しょうしんじ)(くら)べれば価値(かち)(はる)かに(おと)る。危険(きけん)(はら)んだ(ごま)()てるのが最善(さいぜん)だ。


()()けていた蛊虫(こちゅう)同様(どうよう)処分(しょぶん)する。二代僵尸王(にだいきょうしおう)はこれらを媒介(ばいかい)方源(ほうげん)追跡(ついせき)できる。(なに)より僵心蛊(きょうしんこ)飼育(しいく)する(さい)商家(しょうか)調査(ちょうさ)痕跡(こんせき)(のこ)危険(きけん)がある。


(ぬし)(うしな)った僵尸(きょうし)たちは、最早(もはや)普通(ふつう)尸群(しぐん)()ぎない。


それらが死体(したい)()()くした(あと)一部(いちぶ)此処(ここ)(とど)まり、他方(たほう)墓碑山(ぼひさん)彷徨(さまよ)い、生血(なまち)(もと)めて()()りになるだろう。


この処理(しょり)()れば、現場(げんば)一層(いっそう)真実(しんじつ)()()すと確信(かくしん)している。


丁浩(ていこう)死体(したい)灰燼(かいじん)()かれるのを見届(みとど)け、方源(ほうげん)は悠々(ゆうゆう)と(きびす)(かえ)した。


尸群(しぐん)(みな)(しょく)夢中(むちゅう)で、知性(ちせい)のかけらもない連中(れんちゅう)に、最早(もはや)微塵(みじん)脅威(きょうい)など存在(そんざい)しなかった。






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