この時、木塀の大半が崩落し、途絶えることなく僵尸が陣営へ流れ込み、蛊师たちと入り乱れた戦闘を繰り広げていた。
方源はこの状況を見て、僵尸軍の背後に丁浩が操っていると確信した。
通常の僵尸群なら烏合の衆のように突進するか、白毛僵尸が全滅してから黑毛僵尸が出撃する。このような戦術的連携があるはずがなく、明白に誰かが操っているのだ!
そしてその操り手こそ、間違いなく丁浩であった。
方源は知っていた——二代僵尸王が墓碑山の一族を虐殺した後、ここに継承を遺したこと。その受益者こそ丁浩であり、彼は後年、二代目僵尸王の大弟子となった。魔道の身でありながら忠誠心は極めて厚く、義天山における正邪大戦では進んで師の身代わりとなって死を選んだと。
「前からお前を探そうと思っていたが、自ら飛び込んでくるとは、手間を省いてくれる」
方源は当初から、丁浩を利用して商隊を壊滅し他の者たち全てを葬る計画を練っていた。
獣群を誘引する術は持つものの、規模の制御が難しかった。
商隊の戦力は衰え、弱体化が進んでいた。巨大な獣群を呼び寄せれば自らの生命が危うくなり、商心慈の保護も更に困難となる。
この状況下において、丁浩は最適な駒であった。
「ただ、この丁浩は今、どこに潜んでいるのか?」周りに炎が四方に燃え上がる中、方源は目を細め周囲を見渡した。
「僵尸軍を指揮するには、当然戦場を見下ろせる高台を選ぶはずだ。鳥瞰できる蛊虫を持つ可能性も排除できないが、いずれにせよ逃げ易い隠れ場に違いない…」
方源は地聴肉耳草を失い、偵察手段が無いため推測に頼るしかなかった。
殺戮はますます凄惨を極め、僵尸は数百体が倒れ、蛊师たちも同様に死傷者が続出した。湧き出るような僵尸軍の前に彼らは敗走を重ね、瞬く間に陣営の中心へ追い詰められた。
そこでは慌てて貨物を積み上げたバリケードが急造され、一部の一転蛊师が様々(さまざま)な手段を講じて補強していた。
「僵尸が多すぎる、ここは遅かれ早かれ守れなくなる」
「我々(われわれ)は突破しなければ!」
「突破だと?少なくとも数十頭の黑毛僵尸がいるぞ!」
「夜明けまで固守すべきだ。太陽が昇れば僵尸の戦力は暴落する。我々(われわれ)が手を下さずとも群れは退くだろう」
陣営内で議論が噴出した。突破派と固守派に分かれての激論である。
双方の譲らぬ争いが続く中、僵尸群は迫り続けた。
この場当たりで集められた商隊は、この時最大の欠陥を露呈した。真の団結ができず、大局を統率する強力な指導の声が欠けていたのだ。
方源は冷やかに傍観していたが、突然立ち上がり怒鳴りつけた。「黙れ!」
争いの声がぴたりと止んだ。
衆人の目には、彼が三转頂点の実力者であり、商隊最強の一人と映っていた。生死を分けるこの状況下で、方源の発言権は絶大だった。
方源が周囲を見渡す眼光は冷やかで鋭く、醜い顔面が篝火のきらめきに照らされ、鬼神のように恐ろしい形相を浮かび上がらせた。
「籠城を主張する者は阿呆め!突破できるなら、なぜここに留まる必要がある?」
彼の罵声は強権的に響き渡った。
死守を叫んでいた蛊师たちは憤りを浮かべたが、怒りを口にできずにいた。一方、突破を主張していた蛊师たちは喜色を浮かべた。
「さすが黑土様は英明で!」
「黑土様、私たちは貴方に従います!」
「この時こそ、黑土様だけが狂瀾を既倒に返せるのです!」
彼らは口々(くちぐち)に叫び、方源を祭り上げ、最も危険な先鋒役を担わせようとした。
だが方源は冷やかに笑い、再び罵った。「黙れ!突破だと騒ぐお前らこそ、大いなる阿呆の群れだ!」
「はっ…」今し方まで方源を称えていた蛊师たちは表情が硬くなり、顔色が変わり続けた。
死守派たちは嘲りと嘲笑いの笑みを浮かべた。
「黑土閣下、では貴殿の見解は?」賈龍は顔面蒼白、声を低く険しい目付きで問うた。
「ふん、籠城であれ突破であれ、まず状況を把握せねばならん。お前らはこの僵尸群の規模を知っているのか?もしや暗闇にまだ大軍が潜んでいれば、突破など飛んで火に飛び込む夏の虫だ!逆にこれが全てなら、籠城を主張するお前らは早期脱出の機会を逃し、血の匂いで更なる僵尸を呼び寄せて自滅する愚か者だ!」方源は唾を飛ばしながら罵倒した。
これほど痛烈に罵倒されれば、誰も良い顔はできない。
陳双全が陰湿に問うた:「では、閣下には何か良案が?」
方源が怒眼で睨みつけ、指を突き付けて罵った。「だから貴様ら阿呆どもの脳みそは糞詰まりだ!俺が長々(なが)と説いてきたのに、まだ分からん奴がいるとは。無論突破だ!まずは探りを入れる。偵察蛊师は全て本気を出せ!」
陳双全は鼻先を指されて罵倒され、顔色が更に険悪になった。胸には怒りの塊が積もっていた。
だが方源が欧家父子を瞬殺した光景が脳裏に焼き付いており、怒りを押し殺すしかなかった。
方源の強権的な態度に衆人は不満を抱きつつも、この状況下ではかえって奇妙な安心感を覚えた。
間もなく、方源の指揮で突破小隊が編成された。
「あの方向へ突破せよ」方源が東南を指差し厳しく命じた。
「承知しました、黑土様!」
「偵察を主、命を守ることを最優先とせよ。無理なら直ちに撤収しろ」方源は突然微えみ、小隊長の肩をポンポンと叩いた。
小隊長の胸の内が瞬時に緩み、方源への印象が先程までの憎々(にく)しさから一変した。
僵尸群が最終防衛線に迫り、戦闘が全面に拡大した。突破班は三百歩進んだ後、無念ながら撤退してきた。
「恐ろしい…暗闇の中に少なくとも数百頭の僵尸が潜んでいるのを確認した」偵察蛊师が恐怖の余韻に震えながら報告した。
この言葉に、全員の顔色が微かに曇った。
「構うな。まずは休め。第二小隊、お前たちはあの方向へ突破せよ!」方源が指示を飛ばした。
この小隊は四五百歩ほど進んだが、やむなく撤退してきた。
「びっしりと隙間なく並ぶキョウシの群れです…」偵察蛊师は顔面蒼白で報告した。
方源は慰めるように一言かけると休憩を命じ、新たに編成した第三小隊に指を差した。「あの方向へ行け」
「ですが、そちらは谷間で行き止まりでは…」小隊長が首を傾げた。
パン!
方源が手の甲で一発叩きつける。「行けと言われたら行くだけだ!余計な口を利くな!」
小隊長はその一撃に呆然とした。方源の怒りに燃えた凶悪な眼差しをまともに見られず、慌てて背を向け、指さされた方向へ突進していった。
方源は三つの突破小隊を順次編成し、輪番で探りを入れ、遂に丁浩の潜伏可能地点を次々(つぎつぎ)と排除した。
「次はあの高台だけだ。俺の読みが正しければ、丁浩は間違いなくそこに潜んでいる」方源は心で冷やかに笑い、更に突破班を配置し続けた。
「しつこい連中め」丁浩は眉をひそめたが、すぐにほころばせた。「ふふ、普通のキョウシ群なら突破されていただろう。残念ながら、この群れの主は私だ…」
彼は密かに指揮し、暗闇の中でキョウシ軍を流動させて補填、弱点区域が生じないよう調整した。同時に数箇所に重兵を配置。
数度の攻防で、突破班は惨憺たる死傷者を出した。
「もう十分だ!無駄な犠牲は止めろ!」
「ああ、どうやら籠城するしかないようだ…」
「皆、耐え抜け!夜明けまで持てば、こいつらは張り子の虎だ!」
「戯言を言うな!突破は目前だ!今度は俺が自ら指揮する。白雲、守りを固めろ」方源が罵声を飛ばし、強行突破を宣言した。
蛊师たちはその強権に押され、中規模の部隊を編成せざるを得なかった。
八名の蛊师が突然飛び出し、方源が先頭で道を切り開いた。怪力に雪銀真元と天蓬蛊を重ね、軽々(かるがる)と包囲網を突破した。
「しまった!あの地点は手薄だった…!」丁浩が阻止しようとしたが、もはや間に合わなかった。
方源がまさかこの行き止まりの谷間を突破点に選ぶとは思わなかった。他の方向への突破に対応するため兵力を集中させた結果、この方面の僵尸が最も少なくなっていたのだ。
「成功したぞ!」
「奴らは突破した!」
陣営に残された者たちは呆然として見守っていた。
突破の過程で五名の蛊师が次々(つぎつぎ)と倒れたが、方源と残り二人の蛊师は生還を果たした。
「我々(われわれ)にも救いがある!急げ、この方向で一斉突破だ!」陣営の者たちが歓声を上げた。
「成功させるものか!」丁浩は歯軋りしつつ、慌ててキョウシ群を再編し穴を塞いだ。
陣営の者たちが態勢を整えぬ間もなく、方源らが突破した方向は白毛僵尸で埋め尽くされた。
更に五頭の黒毛僵尸が方源ら三人へ襲い掛かってきた。
同行の二人は瞬く間に恐慌に陥った。
「俺に付いて来い!」方源が冷やかに喝し、丁浩の潜む方向へ猛然と躍り込んだ。
慌てふためいた二人は考える暇もなく、無意識にその後ろを追った。
「ふん、他の方向ではなく、わざわざ俺の方向へ来るとは。ふふふ、天の神もお前たちを死なせたいらしいな…」丁浩が口元を歪め、傍らに立つ二体の僵尸を得意げに一瞥した。
その二体は背が高く、全身に青い体毛が生え茂っていた。青毛僵尸――黑毛僵尸を凌ぐ実力を持ち、夜間の戦闘力は千獣王級!
丁浩が長年かけて育成したのは、この二体だけだった。
「行け」念うや瞬く間、二体の青毛僵尸が激しく飛び出した。
八十歩先で、方源ら三人と激突した。
方源が一頭と激突――ドッン!双豚一鱷の力を持ってしても互角に渡り合い、双方数歩ずつ後退した。
一方で、残りの二人の蛊师はもう一頭の青毛僵尸に圧倒され、危機一髪の状況に陥っていた。
「私に任せろ」方源は跳跳草を駆り、身を翻し戦局に飛び込んだ。
二人の蛊师は喜色満面、援護への感謝を述べようとした刹那、不意に二本の螺旋骨槍が飛翔した。
ズンッ!ズンッ!
驚愕の表情を浮かべた二人は狙撃され絶命した。
「ん?」戦況を注視していた丁浩はこの急変に予想外れ、巨大な疑念が胸に湧き上がった。
この一瞬の油断で、二体の青毛僵尸の動作が微かに滞る。
続いて響いた方源の声は、丁浩を更に震撼させた。
「丁浩、出て来い!」という低くも鋭い喝が暗闇を劈いた。