「あれは方源?それとも方正?」生徒たちが噂する。双子の見分けが付かない者もいる。
「方正だ。方源は常に無表情で緊張なんてしない」と誰かが解説する。
「おお、見物だ!三年ぶりの甲等天才の実力!」視線が集まる中、方正は手の震えを抑えきれず、第一撃を首筋に外す。
「おっ!」場内が騒めく。生徒たちは意図的な高度な攻撃と勘違いし、期待を膨らませる。
古月漠北と古月赤城は顔色を曇らせる。失敗を見抜いたのは家老と方源だけだった。
「危うかった…!」方正は内心で冷汗をかき、深呼吸で落ち着いて残り二発を胸に命中させた。
家老が満足げに頷くのに対し、観衆はため息をつく。「甲等の実力はこんなものか…」
最終組で方源が悠々(ゆうゆう)と登場。
「丙等の『冷徹天才』か?ふん」嘲笑の声が湧く。
古月赤城が嗤う:「前回は運が良かっただけ。今度は地獄を見せてやる」
方正は唇を噛み締めた:「兄貴…今度こそ」
方源は無表情のまま掌を振るう。月刃が竹垣を越え十五米先で消散する。
「プッ…!」
「的外れにも程がある」
「さすが天才だな、煉化一位も当然だわ」皮肉交じりの囁きが飛び交う。
かつて詩才を誇り、今は「運頼み」と嘲られる方源への嫉妬と嫌悪が爆発した。観客席全体が哄笑に包まれる。
学堂家老は軽く首を振り、自嘲した:『丙等の運に過ぎぬ奴を気にかけるとは』
彼は内心で方正を首席に選ぶ決意を固めた。古月博族長派への配慮と甲等資質への期待からだ。
春風が演武場に花の香りを運んできた。
陽の光が方源の孤影を地面に刻む。彼は冷徹な表情で草人形を凝視、掌の月牙が青白く輝いていた。
最初の外れは計算ずく――残り二発で他を圧倒する必要があった。
「兄貴…ついに勝ったぞ」方正が震える拳を握り締めた。甲等の栄光で長年の劣等感を拭い去る瞬間を確信していた。
その時、方源が動いた。
右掌を刀の如く振るうと、シュッという音と共に二連の月刃が放たれた。
観衆が息を呑んだ――
二発の刃が草人形の首を貫き、頭部が地面を転がる。
「まさか…!」方正の声が虚ろに響く。
演武場が水を打ったような沈黙に包まれた。
家老が眉を顰める:「実力か? それともまた運か?」
生徒たちも疑心暗鬼の眼差しを向ける中、方源は空を仰いだ。
七色の尾羽を煌めかせた鸚鵡の群れが春空を舞う。
「春の陽射しは実に明るいな…」彼は心で呟き、喝采も嘲笑も無視するように場を去った。