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蛊真人  作者: 魏臣栋
魔子出山
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第三十六節:商心慈

隊列(たいれつ)一日(いちにち)(すす)み、夕暮(ゆうぐ)(どき)渓谷(けいこく)沿()いで停止(ていし)した。


この()(たい)全員(ぜんいん)(うん)(わる)くなかった。()つの小獣群(しょうじゅうぐん)()っただけだ。


二群(にぐん)(ほふ)り、一群(いちぐん)駆逐(くちく)した結果(けっか)(すこ)しの損失(そんしつ)()()いても獣群(じゅうぐん)からの利益(りえき)()えるほどだった。


夕焼(ゆうや)(ぞら)(かすみ)(いろど)られていた。


(あか)(あざ)やかに、蜜柑色(みかんいろ)葡萄色(ぶどういろ)がかった灰色(はいいろ)茄子紺(なすこん)……。変幻自在(へんげんじざい)(いろ)()じり()い、(またた)く間に(いか)(くる)獅子(しし)となり、やがて天駆(あまか)ける(うま)()り、(はな)()(みだ)野原(のはら)に変わっていった。


宝石(ほうせき)(ごと)(みどり)渓谷(けいこく)()()夕映(ゆうば)えのなか、商隊(しょうたい)場所(ばしょ)()()め、(すみ)(ちい)さな区画(くかく)(もう)けてわいわいと設営(せつえい)(すす)めた。


「さあさあ()てっておくんなせえ、今日(きょう)しめしたての獣肉(じゅうにく)!」


乳飲(ちちの)みよ~とろり~んとした乳飲(ちちの)み~」


衣類(いるい)(のこ)十枚(じゅうまい)(かぎ)り、蔵払(くらばら)いするわ!」


方源(ほうげん)白凝冰(はくぎょうひょう)(ひと)()みの(なか)にいた。


荷車(にぐるま)をゴロゴロ()きずり、(ひと)区画(くかく)()めた(かれ)らの左手(ひだりて)(がわ)には山菜(さんさい)()りの露店(ろてん)右手(みぎて)(がわ)には牛乳(ぎゅうにゅう)()りの(みせ)(なら)んでいた。


白凝冰(はくぎょうひょう)興味深(きょうみぶか)そうに(まわ)りを見回(みまわ)した:「商隊(しょうたい)(なか)でこんないちば()ちするとは(おも)わなんだ」


消耗(しょうもう)ある(ところ)取引(とりひき)あり、消費(しょうひ)ある(ところ)市場(しじょう)(しょう)ず」方源(ほうげん)一言(ひとこと)喝破(かっぱ)した。


白凝冰(はくぎょうひょう)()がきらりと(ひか)った――この(こと)()、まさに金言(きんげん)だ。


彼女は方源を見て言った:「この紫楓葉(しふうよう)、全部売るつもり?」


方源は微かにうなずく:「商隊(しょうたい)に入れた以上、この紫楓葉(しふうよう)はさっさと(さば)く。持ち続ければ鼠輩(そはい)(ねら)われる」


何しろ紫楓葉(しふうよう)保存(ほぞん)()かぬ。


一日(いちにち)(あま)るだけで、荷車(にぐるま)紫楓葉(しふうよう)(かわ)(はじ)めた。(とき)()つほど値打(ねう)ちは()がる一方(いっぽう)だ。


無論(もちろん)、たかが二枚(にまい)元石(げんせき)など方源(ほうげん)()にかける(あたい)しない。


だが勝手(かって)()てれば、(いま)身分(みぶん)にふさわしくなく、(うたが)いを(まね)くことになろう。



商隊(しょうたい)(ちい)さな(いち)には二種(にしゅ)ある。我々(われわれ)が参加(さんか)してるのは凡人間(ぼんじんかん)取引(とりひき)で、ほぼ毎日(まいにち)(ひら)かれる。もう(ひと)つは蛊师(こし)同士(どうし)(いち)七日(なのか)一度(いちど)だ」と方源(ほうげん)説明(せつめい)した。


麦藁帽(むぎわらぼう)(かげ)(かく)れた白凝冰(はくぎょうひょう)(あお)(ひとみ)(かす)かに(かがや)く:「蛊师(こし)(いち)()られれば(たす)かる。商家城(しょうかじょう)までまだ(とお)い。不測(ふそく)事態(じたい)(そな)え、偵察蛊(ていさつこ)(すく)なくとも一匹(いっぴき)必要(ひつよう)だ」


「とっくに()()ってある。ただ時機(じき)はまだ(はや)い」兜率花(とそつか)(なか)(なにがし)かを(おも)()かべ、方源(ほうげん)自信(じしん)()ちた(わら)みを()かべた。


二人(ふたり)(こえ)(ひそ)めて(はな)(つづ)けていた。


一人(ひとり)(おとこ)家僕(かぼく)がよろよろと(ある)いて(ちか)づいてきた。


(かれ)(ふく)はボロボロ、(かお)には()のりがべっとりと()いていて、まさに物乞(ものご)いの(ごと)()(たい)だった。方源(ほうげん)(となり)露店(ろてん)(まえ)()ち、牛乳(ぎゅうにゅう)陶器(とうき)(びん)(なが)めながら(つば)()()んだ:「(にい)さん、一口(ひとくち)牛乳(ぎゅうにゅう)(めぐ)んでくれんか?」


「ほっといてくれ、商売(しょうばい)邪魔(じゃま)すんな!」牛乳売(ぎゅうにゅうう)りの店主(てんしゅ)(いや)そうに()()った。


家僕(かぼく)仕方(しかた)なく(うつ)(ある)き、方白(ほうはく)荷車(にぐるま)(まえ)()った:「お二人(ふたり)(にい)さん…」


()()わらぬ(まえ)に、方源(ほうげん)(すす)()てきて(あし)(はな)つと、家僕(かぼく)()()ばされ、(かみなり)(ごと)(どな)りつけられた:「どくがな!」


家僕(かぼく)地面(じめん)(たお)れ、(くろ)(にご)った(どろ)()()れた衣服(いふく)()きまとった。傷口(きずぐち)()()られた(いた)みに()()(しば)った。


(かれ)()()()がると、(うら)(ぜつ)眼差(まなざ)しで方源(ほうげん)(にら)んだ:「ふん、(おぼ)えたぜ。お(まえ)(ぼん)(じん)だろ、()ちぶれる()(だれ)にでも()るんだ…ふんっ…」


方源(ほうげん)顔面(がんめん)()え、(ふたた)(きゃく)()びせた。


バシッ!


家僕(かぼく)(ふたた)地面(じめん)(たた)()けられた。


「もう(ひと)(こと)()ってみろ?」方源(ほうげん)見下(みお)ろすように()(はな)つ。


家僕(かぼく)()()みしめて方源(ほうげん)一瞥(いちべつ)したが、()()がった(あと)(くち)(つつし)んだ。


だが即座(そくざ)に、方源(ほうげん)三度目(さんどめ)()りが炸裂(さくれつ)する。


「お(まえ)目付(めつ)きが()()らん」(うで)()んだ方源(ほうげん)(こえ)(つめ)たかった。


家僕(かぼく)はうつむいて(まゆ)()げ、方源(ほうげん)(あお)()ることもできず、(だま)って()()がった。この区画(くかく)物乞(ものご)いを(つづ)ける勇気(ゆうき)もなく、(とお)くへ()っていく。


(かれ)()って()背中(せなか)見送(みおく)りながら、白凝冰(はくぎょうひょう)(くび)(かし)げた:「(みょう)だな、商隊(しょうたい)物乞(ものご)いがいるとは?」


()たり(まえ)だ。こいつは(なに)(あやま)ちを(おか)したか、(あるじ)機嫌(きげん)(わる)かったか。とにかく蛊师(こし)(なぐ)られた(うえ)(しょく)()()()められたのだろう」方源(ほうげん)(かた)(すく)めたが、視線(しせん)()ややかに(ちか)くの片隅(かたすみ)(はし)った。


その(すみ)では、(みっ)四人(よにん)屈強(くっきょう)家僕(かぼく)新顔(しんがお)(ねら)っていて、どう新入(しんい)りを(いじ)めるか談合(だんごう)していた。


方源(ほうげん)たちの()(さま)()にすると、(かれ)らは(あわ)てて視線(しせん)()(まと)(うつ)した。


(ぼん)(じん)(いのち)(かろ)く、地位(ちい)(きわ)めて(ひく)く、生存(せいぞん)綱渡(つなわた)りの(ごと)(きび)しい。商隊(しょうたい)では、蛊师(こし)()ままに(ぼん)(じん)を切り()て、(くさ)(ごと)(いのち)(ろう)する。道中(どうちゅう)の村々(むらむら)から(おぎな)えるからだ。


商隊(しょうたい)(なん)()(たび)に、膨大(ぼうだい)(ぼん)(じん)(いのち)()とす。


それ以上(いじょう)(ぼん)(じん)同士(どうし)(あいだ)でも凄惨(せいさん)暗闘(あんとう)()(ひろ)げられている。方源(ほうげん)到着(とうちゃく)して(はや)々(ばや)、(はや)くも(ふた)つのグループが(かれ)(から)もうとしている。


(かれ)無論(むろん)()じないが、(たやす)処理(しょり)できるものは事前(じぜん)(つぶ)す。


しかし(なか)には派手(はで)()らす(ぼん)(じん)もいる。


(かれ)らの(おお)くは蛊师(こし)縁戚(えんせき)関係(かんけい)(むす)び、(とら)()()(きつね)となってのさばっているのだ。



飯乞(めしご)いの家僕(かぼく)()ると、(はや)くも二組(ふたく)みが(あらわ)れた。


片方(かたほう)頭目(がしら)眼光(がんこう)(するど)老人(ろうじん)価格(かかく)(たず)ねると(ただ)ちに四分(よんぶん)(いち)まで値切(ねぎ)った。方源(ほうげん)はこの老獪(ろうかい)身分(みぶん)推量(すいりょう)した――おそらく使用人(しようにん)管理(かんり)総管(そうかん)だろう。


もう片方(かたほう)(かしら)(きぬ)(ころも)(まと)った(なが)()(おんな)方源(ほうげん)(またた)く間に(さと)った――とある男蛊师(おとここし)(なぐさ)(もの)集団(しゅうだん)(なぐさ)(もの)だ。


両者(りょうしゃ)とも数人(すうにん)従者(じゅうしゃ)()れ、(おな)(ぼん)(じん)でありながら(あき)らかな階級差(かいきゅうさ)があった。


(かれ)らが()()価格(かかく)法外(ほうがい)(やす)く、(やす)()って(たか)()魂胆(こんたん)だ。多少(たしょう)小金(こがね)(にぎ)り、明日(あす)(めし)覚束(おぼつか)ない(ほか)家僕(かぼく)とは(ちが)う。


方源(ほうげん)紫楓葉(しふうよう)など眼中(がんちゅう)になかったが、偽装(ぎそう)完遂(かんすい)するため二人(ふたり)値切(ねぎ)りを(こば)んだ。


老人(ろうじん)(おだ)やかな口調(くちょう)(おど)しを()め、(おんな)罵詈(ばり)()(ちら)して()っていった。


三人目(さんにんめ)()()(あらわ)れりゃ、この(くさ)()()ってやる」方源(ほうげん)(かんが)()んでいると、(ちい)さな(いち)突然騒(とうぜんさわ)がしくなった。


数人(すうにん)熱狂(ねっきょう)喚声(かんせい)()げている。


(れい)(やさ)しい(ちょう)()のお嬢様(じょうさま)()られたぞ!」


(ちょう)嬢様(じょうさま)慈悲深(じひぶか)く、天女(てんにょ)(ごと)きお(かた)!」


本当(ほんとう)善人(ぜんじん)だわ…今夜(こんや)()えずに()む…」


(なに)(さわ)ぎだ?」白凝冰(はくぎょうひょう)見渡(みわた)すと、市場(いちば)()(ぐち)一筋(ひとすじ)緑衣(りょくい)(うつ)った。


方源(ほうげん)(くび)(かし)げた――どういうことだ?


(ちょう)嬢様(じょうさま)!」「張仙子(ちょうせんし)(さま)!!」家僕(かぼく)()れが殺到(さっとう)し、瞬時(またた)()()(ぐち)()()いへし()いの混雑(こんざつ)となった。


(かれ)らの(おお)くは蛊师(こし)(ばつ)食事(しょくじ)()たれた(もの)。さっき方源(ほうげん)蹴飛(けと)ばされた(おとこ)も、必死(ひっし)()()ばしていた。


(みな)さん、(あわ)てないで。(すべ)ての(かた)()(わた)りますから、()()いて順番(じゅんばん)に」緑衣(りょくい)(しょう)(じょ)(かた)りかける。


彼女(かのじょ)(こえ)(やさ)しく(やわ)らかく、声量(せいりょう)(おお)きくなかったが、(はっ)するや(いな)群集(ぐんしゅう)喚声(かんせい)()()された。


(だま)れこの野郎(やろう)(ども)(れつ)(つく)って(ひと)()ずつ()い。(かす)()(やつ)(さわ)(やつ)即座(そくざ)に切り()てる!」突如(とつじょ)雷鳴(らいめい)(ごと)(とどろ)(こえ)(ちい)さな(いち)(ひび)(わた)る。


一人(ひとり)()いても魁偉(かいい)たる蛊师(こし)(たか)らかに()(あらわ)れた。眼光(がんこう)(とら)(ごと)群集(ぐんしゅう)一巡(いちじゅん)すると、沸騰(ふっとう)していた市場(いちば)(またた)く間に静寂(せいじゃく)(つつ)まれた。


これぞ蛊师(こし)威厳(いげん)


(かれ)宣言(せんげん)(うたが)(もの)などいない。蛊师(こし)とし気分(きぶん)次第(しだい)凡人(ぼんじん)()(さん)(にん)始末(しまつ)することなど、(なん)(やま)しいこともないのだから。


()()いへし()いしながら、人々(ひとびと)は()ぐに大人(おとな)しく長蛇(ちょうだ)(れつ)(つく)った。



(れつ)先頭(せんとう)で、緑衣(りょくい)(おんな)(せい)(かご)()げ、一人(ひとり)ずつ()(もち)(くば)っていた。


(いち)全体(ぜんたい)(みず)()ったような静寂(せいじゃく)(つつ)まれている。


無数(むすう)視線(しせん)緑衣(りょくい)(おんな)(せい)(そそ)がれ、尊敬(そんけい)崇拝(すうはい)、そして敬愛(けいあい)(じょう)()められていた。


白凝冰(はくぎょうひょう)(となり)店主(てんしゅ)(たず)ねた:「あの女性(じょせい)は?」


(ちょう)心慈(しんじ)(さま)()らんのか?二人(ふたり)新入(しんい)りだな?」


(ちょう)心慈(しんじ)?」方源(ほうげん)()(かえ)り、(まゆ)()(ひそ)めた:「()ってることを(のこ)らず()え!」


店主(てんしゅ)方源(ほうげん)家僕(かぼく)()(たお)した冷酷(れいこく)さを(おも)()し、(かく)勇気(ゆうき)もなく(かた)()した:「(ちょう)()のお嬢様(じょうさま)商隊(しょうたい)副首領(ふくしゅりょう)一人(ひとり)だ。修行(しゅぎょう)素質(そしつ)はなく、(わたし)たち(おな)(ぼん)(じん)さ。だが家柄(いえがら)()く、(かたわ)らの蛊师(こし)彼女(かのじょ)護衛(ごえい)だ。こん(とし)まで()きてきて、本気(ほんき)()うが、こんほど慈悲深(じひぶか)(ひと)()たことがない。(ちょう)嬢様(じょうさま)(まこと)()御方(おんかた)で、風雨(ふうう)(おか)してでも毎晩(まいばん)()えた家僕(かぼく)食糧(しょくりょう)(とど)けられる…ああ、(てん)不公正(ふこうせい)にも、こんほど()(ひと)修行(しゅぎょう)(みち)()ざしている」



白凝冰(はくぎょうひょう)(かろ)(うなず)き、方源(ほうげん)()かって(わら)みながら()った:「(もり)(おお)きくなれば、どんな(とり)でも(あらわ)れるものだな」


しかし方源(ほうげん)応答(おうとう)しなかった。


白凝冰(はくぎょうひょう)不審(ふしん)視線(しせん)(うつ)すと、(かれ)様子(ようす)(あき)らかに()わっていた。


(あと)(もの)緑衣(りょくい)(しょう)(じょ)()くような眼差(まなざ)しで凝視(ぎょうし)し、(まゆ)(ふか)(きざ)んでいた。


緑衣(りょくい)(おんな)(うるわ)しい黒髪(くろかみ)(かた)(なが)し、(しな)やかさが(にじ)む。(まゆ)(あわ)(やなぎ)(けむ)(りゅう)(ごと)く、()明月(めいげつ)清流(せいりゅう)()える(なみ)のごとし。(ゆき)のごとき(はだ)桜色(さくらいろ)(くちびる)


化粧(けしょう)一つせず、輪郭(りんかく)(きわ)めて(やわ)らか。()(もち)(くば)りながら(とき)(あさ)(わら)えば、無垢(むく)(けが)れなき()


(みどり)(もすそ)清新(せいしん)優雅(ゆうが)()(はな)ち、(らん)(ごと)(さや)けく(はちす)(ごと)(うるわ)しく、(みず)(ごと)(やわ)らか。その容姿(ようし)白凝冰(はくぎょうひょう)(おと)らず、別種(べっしゅ)()(はな)つ。


(おんな)容姿(ようし)精緻(せいち)でも、()みの()さに()ぎず、()みの()(もの)(ごと)き。気品(きひん)()にあって(はじ)めて佳人(かじん)(たた)えられ、熟成(じゅくせい)ワインのごとくなる。


(うたが)いもなく、この緑衣(りょくい)(おんな)こそ絶世(ぜっせい)佳人(かじん)である。


だがその美貌(びぼう)気品(きひん)も、方源(ほうげん)心中(しんちゅう)では塵芥(ちりあくた)()ぎない!


方源(ほうげん)凝視(ぎょうし)しているのは彼女(かのじょ)容貌(ようぼう)ではない――いかに(うるわ)しく気高(けだか)くとも、皮肉(ひにく)()がせば同じ白骨(はっこつ)である。


(かれ)内心大(ないしんだい)いに(おどろ)き、ある人物(じんぶつ)(おも)()かべて(こころ)(つぶや)いた:「この(むすめ)、まさか(しょう)心慈(しんじ)では?」


商心慈(しょうしんじ)――これは商家(しょうか)(わか)主人(あるじ)一人(ひとり)である。


商家(しょうか)において、族長(ぞくちょう)()どもは(みな)(わか)主人(あるじ)」と(しょう)される。家老(かろう)(みと)める後継者(こうけいしゃ)のみが「次期(じき)族長(ぞくちょう)」を名乗(なの)れるのだ。


商家(しょうか)(わか)主人(あるじ)という身分(みぶん)だけで、商心慈(しょうしんじ)(てん)寵愛(ちょうあい)する(ひめ)()える。


()の人々(ひとびと)は商家(しょうか)(もの)(くろ)心臓(しんぞう)欲深(よくぶか)(あざけ)るが、この商心慈(しょうしんじ)のみは(れい)(がい)だ。天性(てんせい)優柔(ゆうじゅう)(あらそ)いを(この)まず、心優(こころやさ)しく手柔(てやわ)らか、商家(しょうか)において商売(しょうばい)才能(さいのう)が最も()けている(もの)なのである。


商売(しょうばい)となれば彼女(かのじょ)頻繁(ひんぱん)赤字(あかじ)()し、(だま)されることもしばしば。容易(ようい)他者(たしゃ)(しん)じ、(だま)されても(まな)()れず、何度騙(なんどだま)されても()りない。


商家(しょうか)(わか)主人(あるじ)として、一時期(いちじき)商家全(しょうかぜん)(たい)から不名誉(ふめいよ)代名詞(だいめいし)とされた。(もっと)期待(きたい)されていなかったが、商家(しょうか)族長(ぞくちょう)血筋(ちすじ)とあってか(なさ)けを()けられ、追放(ついほう)(まぬか)れていた。


彼女(かのじょ)凡人(ぼんじん)にも()(へだ)てなく、(つよ)(おな)(どう)(じん)()ち、救済(きゅうさい)(ほどこ)(つづ)けた。競売会(きょうばいかい)()()めた奴隷(どれい)何度(なんど)()けで購入(こうにゅう)したため、商家(しょうか)族長(ぞくちょう)幾度(いくど)痛罵(つうば)されたこともある。


(しか)るに運命(うんめい)というのは(じつ)(みょう)なもので、(つい)には逆説(ぎゃくせつ)にも彼女(かのじょ)こそが商家(しょうか)(あるじ)となったのだ!



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