方源は驚いて直ちに停止した。
彼は酒虫を用いたことはあれど、それは真元を洗練し品質を一小境界向上させるだけ。これほど格差の大きい雪銀真元など使ったことがあるはずがない。
止むを得ず、方源は一回の使用量を減らし、洗練の強度も緩和した。
「真元の品質が高すぎることも欠点とはな」方源は少し困り果てた様子で言った。
暗闇の中、白凝冰はその言葉を聞き、思わず白い目を剥いた。
何たる奇縁!
他の者が知れば、怒りに方源を一撃で叩き斬ろうというところだ。
まさしく幸福の悩みである。
二时辰を経過、ようやく六分の雪銀真元が消耗し尽くされた。
たった一度の修行で、粗削りだった石膜は磨きをかけた輝きを帯び、まるで荒玉が研磨を受けて円潤の質感を現し始めたようだ。
「早く、早く、次の一割を」方源が急かした。
かくして修行に明け暮れた一夜が過ぎた。
庭で鶏が時を告げ、窓の外が薄明らみ始めた頃、方源が目を見開いた。
その瞳には神采が燦然と輝り、遮り切れぬ興奮があふれていた。
掌を引き収めると、彼は拳を握りしめた:「一転巅峰だ!」
この一夜の修行で、一転高階から一転巅峰へ昇格したのだ。
何たる速度!
方源は前世も含め修行歴において、今夜ほど爽快で痛快な経験は未だかつてなかった。
すでに病みつきも同然だ。
比喩をするなら――
かつて丙等の資質だった頃は、蜗牛のような歩みでしかなかった。酒虫を用いた後は歩行できる程度。甲等の資質で天元宝莲を得てからは奔跑の如くだった。
「ちくしょ!この骨肉团圆蛊を使えば翼を生やしたも同然で空を飛べるわ!」
白凝冰の表情も心底から震え上がっていた。
彼女の雪のように澄んだ頭脳が即座に気付いた──この蛊には更に巨大な役割が存在することを。
「この蛊の手強さ、おそらく大境界突破をも可能にするだろう!」
酒虫が向上させるのは小境界のみ。大境界突破には蛊師自らの真元が必要ゆえ、資質が重要視される。
だが骨肉团圆蛊を有すれば、突破時に他人の空窍を借り受けられる!
これほどの圧倒的優位があろうか!
「この蛊さえあれば白骨山は絶対に元取れだ。天元宝莲を犠牲にしても値する」
その時、朝の光が農家の部屋に差し込み、白凝冰は深いため息を漏らした:「天下の英才は何と多いことか!」
灰骨才子は四转蛊师に過ぎないが、よくも骨肉团圆蛊を開発したものだ。真の異才である!
称号ある蛊师は皆、並外れた所を有つ。比較すれば、方源と白凝冰の二人は今なお名もなき存在に過ぎぬ。
……
太陽が真上に照りつける農地で。
「婆さん、ゆっくり休んでて。おらが手伝うど」方源は老婆の手から鍬を奪い取った。
老婆は若く力強い方源に抗えず、道具を取られながらも却って嬉しそうに口を歪めた:「あらまあ、こんな若者どこにいるもんかねえ」
初めての双修から二日が経過。
当初は一泊の予定だったが、骨肉团圆蛊の効果で修業が爆速で進む快感に浸った方源は計画を変更。少なくとも二転境を突破するまで滞在することに決めた。
あの石が見つかるまで二、三年の猶予がある。急ぐ必要などなかった。
白凝冰も異議は唱えなかった。二转境と一转境の差は絶大だ。二転蛊师となれば今後の旅路に計り知れぬ助けとなる。
かくして二人は村に居座り続けた。
老婆は彼らを追い立てようとはしない。
実のところ、彼女は二人が永遠に居てくれたらと願っている。仕事は勤勉だし、一人は口下手、一人は不器量ながら、どちらもおとなしい子なのだから。
方源と白凝冰は昼間農作業を手伝う。一人は二猪の力を、一人は一鳄の力を持ち、凡人の中では神がかり的な怪力。農作業など朝飯前だ。況して一り暮らしの老婆に重労働がどれほどあるというのか?
毎日二、三刻しか眠らずとも、二人は尚元気溌剌。
野宿の風餐露宿、明日をも知れぬ暮らしと比べれば、天の楽園も同然だ。
方源は寸刻を惜しんで修業に没頭、まるで中毒のように。
骨肉团圆蛊による修業速度は「一目千里」と評しても過ぎない。
初夜で一転巅峰に達し、以来着実に基盤を固め、空窍の四壁は透き通る水晶の如き輝きへと変貌した。この調子なら、二転境突破も数日のうちだろう。
修行を重ねるにつれ、骨肉团圆蛊の方源心における地位は急騰し、血颅蛊や天元宝莲を凌駕し、春秋蝉に次ぐ存在となった。
酒虫は言うに及ばず、一小境界の向上しかもたらさず、骨肉团圆蛊の比ではない。血颅蛊は投資が膨大で回収までに時間が掛かりすぎる。天元宝莲は有用だが、単独の蛊师にしか恩恵を与えられない。
白凝冰の賛辞を借りれば、この骨肉团圆蛊こそ天下の勢力図を塗り替える蛊である。
この評価は誇張など微塵もなく、方源も心から同感した。
骨肉团圆蛊は階位が低く、一転・二転蛊师でも使用可能だ。合炼条件は少なくないものの、要求水準が真に低く、一族の財力と蓄積さえあれば蛊の煉製は困難ではない。
この蛊は一匹狼には魅力薄いが、家族や門派にとっては神器!
これにより一族の長老が後輩を支援すれば、蛊师育成の時間と資金を何倍も削減できる。
骨肉团圆蛊がある時点で、最早蛊师の育成ではなく蛊师の量産という意味だ。
これこそが天と地の隔たりである。
この蛊がきっかけで、方源は昨日ついに決意を揺るがされ、転生以来の計画を変更し単独行動から勢力樹立へと転換しようかという衝動に駆られた。
組織体制というものは所詮道具に過ぎず、利用すればそれでよいのだ。
前世、方源は血翼魔教を築いていたため、今世で勢力を構築するのはお手のものだ。
しかし勢力を立てる最大の目的はただ一つ——縄張りを奪い資源を占有し、階層的管理でもって他者の力を集中させ、自らの修行に拝するためである。
蛊师の修行は流れに逆らう舟の如く、更に蓄積の過程である。当然資源を要する。
故に五转蛊师とそれ以下の者は、組織の支援があれば、必ず修行が容易となる。然るに六转を超えれば質的変化が起き、超凡成仙し天威を身に集める段階に至れば、組織は無用となる。
この要点を踏まえれば、方源の計画も容易に理解できよう。
前世資源調達のため血翼魔教を築いた方源だが、転生した今世は数多の密蔵と伝承を知る。これらを独り占めすれば、六転境まで自由自在かつ迅やかに突き進めるのに、何故二度も労力を費し勢力を組む必要があろう?
しかし骨肉团圆蛊の獲得で、仮し勢力を立てる場合、以前の想定より遙かに迅速かつ容易となる。投入資源は少なく、効果は格段に速く、蛊师量産で瞬時くに戦力を形づくれる。
然し方源は熟考を重ね、今朝に至って勢力結成への衝動は完全に消え失せていた。
もし骨肉团圆蛊で勢力を立てようものなら、それは自殺行為 に他ならない。
こんな神器が露見すれば、大勢力すべての標的にされるのは必定だ。
新規参入者は言うに及ばず、一縷の基盤を有する族長ですら、この蛊を大胆に運用できまい。
周囲の妬みを買うに決まっている!
南疆第一位の武家ですら、単独使用はおそらく不可能だ。
骨肉团圆蛊の大規模使用には、武家・飛家・鉄家・商家の如き超大勢力が合同联盟を結び、天下の貪欲を防ぎ得るほどが必要だと、方源は推測した。
「もし私が勢力を築こうものなら、萌芽の段階で包囲殲滅されよう。たとえ逃げ延びても、苦心して築いた基盤は水泡に帰す。挙句の果てには喪家の犬と化し、万人に追われる身となる」
方源は完全に冷静を取り戻し、この道が死路であることを見極め、単独突破という今世の大戦略への決意を再び固めた。
「しかし百生百華の慧眼には感服する。前世では骨肉团圆蛊を利用し正道双星へと成長したが、ついにこの力を百家の勢力拡大に用いなかった。それに加え意図的な誤導を重ねたため、骨肉团圆蛊の名声こそ広まったものの、その真価は世間に過小評価させたのだ」
方源は今振り返れば、この正道双星の知恵を察知した。白骨山での行動では、彼は天才兄妹を萌芽のうちに扼殺しようと企てており、それは大きな収穫になるはずだった。しかし逆に彼らに機縁を与える結果となり、灰骨才子の伝承に何かの異変を開かせる結果となった。
今彼らは行方不明だが、方源には予感があった──いつか必ずこの正道双星と再会すると。
考え込むほど頭が痛む。方源は灼熱の陽の下鍬を振るいながら首を振り、拡散した思考を収束させた。
とどのつまり、これらは既に重要ではなく、考えても無駄だったのだ。
「惜しいかな、才思蛊、彗心蛊、玲瓏蛊、思绪如电蛊など、思考を助ける蛊を未だ得ていない。最悪でも书虫が一匹でもあれば間に合うのだが。商家城で購入するしかあるまい」
老婆の農地は元々(もともと)狭く、方源は瞬く間に半分を耕した。白凝冰はその様子を面白く思い、自ら進んで仕事を引き受けた。
彼女はかつて青茅山で農夫の耕作を見たことがあった。しかし当時は未だ混沌とし人生の道を見定めていなかった。今は異なり、自ら境に身を置きつつも心に確かな道を抱き、その中の妙味を味わおうとしていた。
暮の刻、二人は老婆の家の前で夕餉を取った。
「お二人きっと腹が減ったでしょ、鍋には芋がまだたっぷりあるから腹一杯食えよ!」老婆は目を細めて茶碗二杯に山盛りの飯を盛った。
この飯は勿論飯袋草の精米などではなく、雑穀である。
だが方白二人は好き嫌いなど言う者ではない。
「二人ゆっくり食えよ、婆さんお前たちにいい知らせを教えてやるつもりじゃ」食卓で老婆は何やら秘め事をほのめかすように笑った。