暗い部屋の中で、白凝冰が不機嫌そうに「ぶん」と鼻を鳴らした。
方源は話の流れを変える:「だが現段階では、商家城こそ最適の地だ。あそこは店舗が林立し、己に合う蠱虫が手に入る。現状の蠱虫は優れてはいるが、調和が取れていない。揃えてセットと成せば、さらに強い戦闘力を発揮でき、越级挑战すら可能となる」
この言葉に白凝冰は心底同感した。
優れた蛊師とて、必ず成熟した蛊虫の組み合わせを有する。
かつて白凝冰が北冥冰魄体であった頃の如く、冰刃蛊、冰锥蛊、水罩蛊、蓝鸟冰棺蛊、冰肌蛊、霜妖蛊……
これらは悉く氷水系の蛊虫であり、互いに組み合わされば驚くほど使い易く、相乗効果をもたらした。
しかし今、二人の手中にある蛊虫は量くとも乱雑極まりない。仮し体系化された蛊に換えれば、戦闘力は少なくとも倍増するだろう。
折り良く方源の空窍には大量の骨槍蛊や螺旋骨槍蛊が蓄積されている。これらは商家城への販売に充てられる。
仮えこれらの蛊がなくとも、方源は天元宝莲を有し、日々(ひび)元石を産出できるのだ。
商家城へ逃れるのが第一の目的。蛊虫購入や交換が第二。だが方源の第三の目的は、白凝冰に口にできぬ。
これは即ち解石に関わる。
ある賭石場の暗い片隅で、一つの原石の中に伝説的色彩の蛊が潜んでいる!
方源の手にある蛊虫には、六転の春秋蝉、九転仙尊に関わる天元宝莲、資質を改竄する血颅蛊、そして骨肉团圆蛊も含まれる。
骨肉团圆蛊は措くとして、血颅蛊は最早価値を失っている。方源の血脈を引く族人は殆ど絶えてしまったからだ。天元宝莲は効能に優れているが、発展性がなく、方源には合炼秘方がわからない。彼の修為が高くなればなるほど、その役割は小さくなる。
春秋蝉は更にお話にならぬ。
今も休養と休眠を続けており、使おうものなら危険が伴ない。使わなければ空窍を破裂させかねない。
この厄介物は正に時限爆弾だ。
春秋蝉、天元宝莲、血颅蛊、骨肉团圆蛊——これらは方源手中で最も価値ある四蛊と言える。しかもこれらの蛊には共通点がある。
それは、全て修行を補助するための蛊虫だという点だ。
方源への貢献度は高いか?
極めて高い!
だが戦闘面での支援となると、顕著ではない。
商家城のその蛊は違う。これは戦闘の切り札だ。これを得、他の蛊を組み合わせて揃えれば、方源は転生以来、初めて同級無敵の構えを備え、前世の魔道巨魁たる風格を一しずく取り戻せるだろう。
「商家城まで行くには長い道程だ。遠い話は置いといて、まずこの骨肉团圆蛊の片方を錬化するがよい」方源は話を引き止めた。
白凝冰は方源の計画を聞き出したことで、少し安堵した。
方源と過ごす日が長くなるほど、彼の陰険で狡猾な性格を痛く感じるようになった。
今日の彼の演じた純朴な人柄など、自分すら危うく騙されそうになった!つい先ほどまで、骨肉团圆蛊の如何なる錬成を目撃していたのかを思い返せば返すほど、背筋が凍る思いがした。
(肝に銘じておかねば…あの哀れな百家の女族長が生きた見本だ!もし油断したなら、いつか私が彼に売り飛ばされても、平気で金を数えているかもしれない)
微かに首を振り、白凝冰は心の内を整え、骨肉团圆蛊の錬化に取り掛かった。
この対の蛊は青と赤の特異な形状をしており、白凝冰は赤を選び真元を注いだ。
骨肉团圆蛊は既に方源によって錬化済みだったが、彼は自ら意識を褪させ協力した。
白凝冰は難なく、時を費やさずに錬化を完うする。
完成するや否や、蛊に異変が生じた──
一対で嵌め合った玉鐲が忽然と空中に消散した。その瞬間、方源と白凝冰の手首に輪状の痕が浮かび上がった。
異なる点は、方源の左手首が青い輪痕であるのに対し、白凝冰の右手首は赤い輪痕だった。
玄妙にして更に玄き感応が二人の胸中に同時に湧き上がる。
この感応により、方源は白凝冰を感じ取れ、白凝冰も方源を感じ取る。あたかも血肉が繋り、不可分の感覚だ。
この感覚は甚だ不快極まりなく、白凝冰は蠅を呑み込んだような吐き気を催した。
方源も深く眉をひそめる。
灰骨才子の残した巻物には、この点が全く触れていなかったのだ。
だが方源は考え直した途端、理解した:「灰骨才子も理論上の研究に過ぎず、使用経験などない。知らぬのも無理はないか…」
この感覚は瑣末な事。肝心なのはこれからだ。
二人は心の異様感を押さえ、向かい合って床に座わり、双修を開始した。
それぞれ掌を伸ばし、四つの手のひらを相対させる。
安全を期して、まずは修為が弱い方源から試す。
彼は空窍から青銅真元の流れを抽き出し、慎ましく白凝冰の空窍へ注ぎ込んだ。
青と赤の輪が突然眩しい光を放った。
異質な気息を帯いた真元が白凝冰の空窍に流れ込むや、瞬時に彼女の気息と寸分違わない状態へと変容した。
「本当だ!」白凝冰はかすかな歓声を上げた。
「だが一割の青銅真元を投入したのに、お前の空窍では六分に減耗している。実に四分の消耗だ」方源の観察は更に微細だった。
白凝冰は別に驚かなかった:「何の不可思議があろう?巻物にも記されていたではないか。この骨肉团圆蛊は、煉製する二人の情誼の深さに応じて五種の品質に分かれると。低きより高きへ順に、骨肉相残、骨肉相连、情同骨肉、亲如骨肉、骨肉至亲だ」
彼女は分析を続けた:「もし例の兄妹が蛊師となり単独で煉製したなら、彼らの情愛から最上級の『骨肉至亲』となっただろう。だが我々(われわれ)が煉じた場合、我々(われわれ)の間柄では――」彼女はへへと嗤った「おそらく最下級の『骨肉相残』で決まりだ。両者を相殺すれば、故にこの高からず低からずの『情同骨肉』となるわ」
この骨肉团圆蛊は一連の系統を指す。豚蛊シリーズに黒豚蛊、白豚蛊、桃豚蛊等があるように。
巻物の記述によれば、骨肉团圆蛊は五種の蛊を包含する。
最下級品の骨肉相残蛊は、十割の真元が二分にしか変換されない。
その上位の骨肉相连蛊は、十割の真元が四分となる。
情同骨肉蛊に至っては、十割中六分が残る。
更に高階級の亲如骨肉蛊では、十割変換後八分が残存する!
最高峰の骨肉至亲蛊に至っては、十割が十割のまま転換され、一切の消耗なしである。
方源は前世の経験に依って秘伝を臨時改竄し、三転情同骨肉蛊を得られたのは、運も良かったと言える。
秘伝方を研究煉製するには、極めて困難を伴うことを知るべし。多くの蛊を用い、絶え間なく推演し、繰り返し実検を要する。
方源が改竄に成功した一因は経験から来る霊感、二つは運気の良さだ。
だがこの種の運任せを、彼は元来好まない。
生まれつき不運という訳ではない。方源の運勢も常の如く良き時も悪しき時もあったが、彼は制御不能な要因を嫌悪した。
何せ彼は操られることを極度に嫌う男。局面を操り、他人を制し、勿論己さえも制御することを好むのだ。
「これでよし。次はお前の番だ」方源が言い放つ。
全体的に見れば、情同骨肉蛊の結果に満足している様子だった。
白凝冰は一割の雪銀真元を催動し、方源の空窍へ注ぎ込んだ。
この瞬間、事態は異常を呈した!
先程、方源の深緑の真元が彼女の空窍に達した時は、一水溜りが海面に浮いたように見えたが、間もなく雪銀色の海流に飲み込まれ、真元海は微かに上昇しただけだった。
今、彼女の一割の真元が方源の空窍に流れ込むや、海に落ちる前に空窍全體が激しく震え始めた。
方源は即座に停止を叫んだ。
これは骨肉团圆蛊に問題があったのではなく、彼の空窍が一転高階に過ぎず、数百もの骨槍蛊を搭載している状態で、雪銀真元を容れるには限界超えの危険があったのだ。
白凝冰は一瞬躊躇した。今この真元を注ぎ込めば、方源の空窍を破裂させられるかもしれない。
だが例え空窍が破れても、陽蛊は方源の一念で破壊されよう。
彼女は考え抜き、結局その真元を再び引き戻した。
この一割の雪銀真元は、方源の空窍に達した際、気息を変えて六分となっていた。それが今彼女の空窍に戻ると、更に目減りして三分半余りにまで縮小した。
この出来事に、白凝冰は心の底で骨肉团圆蛊の神妙さに感嘆せざるを得なかった。
方源は空窍内の骨槍蛊を白凝冰の空窍へ移動させ、改めて雪銀真元の受容を始めた。
この雪銀真元は、白凝冰の体内では彼女の気息を帯びていたが、方源の体内へ入るや瞬時に縮減し、方源の所有物へと変貌した。
銀の流れは方源の空窍へ落ちるや、水銀の如く底へ沈み込んだ。青銅真元は浮かぶことしかできず、無念にも上方に漂うのみ。
両者は平然と共存し、一切の衝突も起こらない。あたかもこの銀の真元が初めから方源の空窍に存在していたかのように。
もし異種の真元同士がこれほど密接に接触した場合、即座に爆発が生じ、空窍を損傷するのは必定だ。
故に凡なる真元注入は綱渡りの如く、極めて危険で心身を消耗する労作業となる。
方源はこの雪銀真元を周囲の窍壁へ流し込んでみた。
蛊師の境界は九転に分かれるが、各階層は初階、中階、高階、巅峰という四つの小境界に細分される。
初階:光膜の如き窍壁 ── 薄くて揺らめく
中階:水膜の如き窍壁 ── 光りが流れる
高階:石膜の如き窍壁 ── 光が凝縮し堅固
巔峰:晶膜の如き窍壁 ── 透き通った透徹
方源は現在一転高階ゆえ、窍壁は石膜様だが、雪銀真元が軽く洗い流しただけで、この石膜は軋みを上げ耐え切れず震えている!