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蛊真人  作者: 魏臣栋
魔子出山
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第二十九節: 幽豹殉情

夕陽(ゆうひ)()のように(あか)く、西(にし)(そら)(つら)なる()(くも)


夕焼(ゆうや)けの(した)半日(はんにち)()(つづ)けた無足鳥(むそくちょう)が徐々(じょじょ)に降下(こうか)(はじ)める。


極限(きょくげん)()えた一連(いちれん)急上昇(きゅうじょうしょう)急降下(きゅうこうか)()え、()(ひと)爆発(ばくはつ)にも(こら)えたが、全身(ぜんしん)亀裂(きれつ)(はし)り、最早(もはや)飛翔(ひしょう)する(ちから)はなかった。


ドッ!


轟音(ごうおん)(とも)に、方源(ほうげん)最善(さいぜん)()くして操縦(そうじゅう)するも、無足鳥(むそくちょう)(つい)森林(しんりん)(なか)墜落(ついらく)した。


瞬時(しゅんじ)砂煙(すなけむり)()()がり、(けもの)たちが四方(しほう)()()った。


「ここはどこだ?」


白凝冰(はくぎょうひょう)鳥背(とりせ)から()()り、周囲(しゅうい)見渡(みわた)す。


(まわ)りの木々(きぎ)は()(ひく)(ふと)いが、枝葉(えだは)(とく)()(しげ)り、白骨山(はっこつざん)(まば)らな骨樹(こつじゅ)とは(ちが)う。ここの山林(さんりん)天蓋(てんがい)のように木々(きぎ)が(しげ)り、()はすべからく紫色(むらさきいろ)だ。


淡紫(うすむらさき)暗紫(くらむらさき)紫紅(しこう)嫣紫(えんじむらさき)


夕風(ゆうかぜ)()いてきて、はるか(とお)くまで見渡(みわた)すと、一面(いちめん)紫色(むらさきいろ)(なみ)(ひろ)がっている。


(むらさき)山林(さんりん)か…(きた)(いっ)()(すす)んできた。行程(こうてい)から()して、紫幽山(しようざん)(へん)りだろう」


方源(ほうげん)推測(すいそく)する。


(かれ)眉間(みけん)(うれ)いの(かげ)(ただよ)う:


紫幽山(しようざん)昼間(ひるま)安全(あんぜん)だが、(よる)(きわ)めて危険(きけん)だ。()()れようとしている。(いそ)いでここを(はな)れ、出来(でき)(かぎ)安全(あんぜん)()()(どころ)(さが)そう」


「それも()かろう」


白凝冰(はくぎょうひょう)(うなず)く。


(いっ)()(しん)(はん)ほど(のち)幸運(こううん)にも洞窟(どうくつ)(ひと)()つけた。


洞窟(どうくつ)(もと)(ぬし)袋熊(ふくろぐま)


この(くま)(はら)には天然(てんねん)育児袋(いくじぶくろ)があり、カンガルーのような(とく)(ちょう)()つ。


(たきぎ)()えるパチパチという(おと)篝火(かがりび)(しず)かに()らめき、鉄鍋(てつなべ)にかけられた肉汁(にくじる)沸騰(ふっとう)して濃厚(のうこう)(かお)りを()てている。


ぷりぷりに()けた熊手(くまで)調理(ちょうり)()み。これら以外(いがい)に、兜率花(とそつか)には百家(ひゃっか)から(うば)った美食(びしょく)(おさ)められている。


二人(ふたり)がむしゃむしゃと()べるうち、()()めた(こころ)(じょ)々(じょ)に(ほぐ)れていった。


白凝冰(はくぎょうひょう)突然(とつぜん)(かる)(わら)い、(あお)(あや)しい双眸(そうぼう)方源(ほうげん)()ける:


()ろよ、これが(むく)いだ。あの兄妹(きょうだい)()(ころ)そうとしたが、すぐさま(みずか)らも()()げる姿(すがた)に」


(かが)()(あか)りが方源(ほうげん)(かお)()らし、(おそ)ろしい傷口(きずぐち)(かれ)一層(いっそう)不気味(ぶきみ)(みにく)()せている。臆病(おくびょう)女性(じょせい)なら、(かれ)容貌(ようぼう)()即座(そくざ)悲鳴(ひめい)()げるだろう。


だが方源(ほうげん)(わら)いを(こぼ)し、(まった)()()めず、(ひそ)かにその事態(じたい)(よろこ)んでさえいた。


(さいわ)肉白骨(にくはっこつ)()にあるからな」


元通(もとどお)りの姿(すがた)(もど)るのは(むずか)しくない」


全身(ぜんしん)()(ただ)れた(にく)(けず)()とし、肉白骨(にくはっこつ)治療(ちりょう)すれば、(あたら)しい皮膚(ひふ)()えてくる」


「しかし現状(げんじょう)一転(いってん)では肉白骨(にくはっこつ)使(つか)えまい」


白凝冰(はくぎょうひょう)嘲笑(あざわら)うように(つづ)ける:


(たの)んでみろよ」


(うん)()ければ慈悲(じひ)をかけ、不憫(ふびん)(おも)って(いや)してやるかもしれん」


方源(ほうげん)(まゆ)()げる動作(どうさ)をしてみせる——()()げて(まゆ)()くなった(かお)にもかかわらず。


「なぜ治療(ちりょう)する?」


(かれ)()(ただ)れた(くちびる)(ゆが)めて(わら)った:


「こんな状態(じょうたい)最適(さいてき)だろう」


百家(ひゃっか)二人(ふたり)(しょう)(しゅ)ことごとく(ころ)し、族長(ぞくちょう)家老(かろう)愚弄(ぐろう)した」


(やつ)らが解放(かいほう)してくれるとでも(おもう)のか?」


「この傷跡(きずあと)こそ偽装(ぎそう)手間(てま)(はぶ)いてくれる」


地聴肉耳草(ちちょうにくみみそう)破壊(はかい)され、方源(ほうげん)右耳(みみみぎ)欠損(けっそん)している。(みみ)には軟骨(なんこつ)があり、肉白骨(にくはっこつ)治癒(ちゆ)できる(きず)ではない。だが(なお)手段(しゅだん)があっても、意図(いと)的に(みみ)欠損(けっそん)()かし容姿(ようし)()えることを(えら)んだ。


(むかし)魔頭(まとう)白鱔子(はくぜんし)(つか)まって牢獄(ろうごく)(とう)(ごく)されるや、(くる)ったふりをし、排泄物(はいせつぶつ)全身(ぜんしん)()りたくり、(つい)には(みずか)男根(だんこん)一部(いちぶ)(けず)()って宦官(かんがん)()した。仇敵(きゅうてき)完全(かんぜん)(くる)ったと()なし警戒(けいかい)(ゆる)めたため、(かれ)脱獄(だつごく)成功(せいこう)する。後日(ごじつ)(もど)って復讐(ふくしゅう)し、(てき)一族(いちぞく)皆殺(みなごろ)しにした。


正道(せいどう)巨頭(きょとう)武姫娘娘(ぶきじょうじょう)幼少時(ようしょうじ)実姉(じつあね)権力(けんりょく)(うば)われ、忍従(にんじゅう)余儀(よぎ)なくされた。(あね)彼女(かのじょ)美貌(びぼう)嫉妬(しっと)迫害(はくがい)したため、(みずか)鼻梁(びりょう)(けず)いで切り()とし、(みずか)らを(おとし)めて成長(せいちょう)(とき)()いだ。十数年後(じゅうすうねんご)(あね)支配(しはい)打倒(だとう)し、権力(けんりょく)を取り(とりもど)すと、(あね)五官(ごかん)(けず)()として()きるにも()ぬにも()ちない(くる)しみを(あた)えた。


歴代(れきだい)成大事者(せいだいじもの)(みな)忍耐(にんたい)()け、容貌(ようぼう)()耽溺(たんでき)しない。


この(てん)は、正道(せいどう)であろうと魔道(まどう)であろうと、男性(だんせい)であれ女子(じょし)であれ、(ひと)しく同様(どうよう)である。


武姫娘娘(ぶきじょうじょう)権力(けんりょく)掌握(しょうあく)した(のち)治療(ちりょう)手段(しゅだん)があるにも(かか)わらず(はな)復元(ふくげん)せず、(みずか)らへの(いまし)めとした。(ゆえ)武家(ぶけ)南疆(なんきょう)第一(だいいち)(いえ)となり、鉄家(てっか)商家(しょうか)飛家(ひか)(おさ)え、その覇者(はしゃ)地位(ちい)(だれ)(ゆる)がせなかった!


容貌(ようぼう)()耽溺(たんでき)する(もの)は、(おおむ)(あさ)はかで、大事(だいじ)()()ない。


()世界(せかい)であれ、地球(ちきゅう)歴史(れきし)であれ、この(てん)裏付(うらづ)ける(こと)(おお)い。


(しゅう)幽王(ゆうおう)愛妃(あいひ)褒姒(ほうじ)(わら)わせるため、烽火(のろし)諸侯(しょこう)(もてあそ)んだが、最後(さいご)如何(いか)なる末路(まつろ)辿(たど)ったか?(しゅう)(はん)(しん)()し、蛮族(ばんぞく)斬殺(ざんさつ)された。


呂布(りょふ)貂蝉(ちょうせん)呉王(ごおう)西施(せいし)項羽(こうう)(たたか)いに虞姫(ぐき)()(まわ)したとは、はは、()らはどんな最期(さいご)(むか)えたのか?


反観(はんかん)してみれば、曹操(そうそう)()(ひく)く、孫臏(そんびん)身体障害(しんたいしょうがい)(しゃ)司馬遷(しばせん)宮刑(きゅうけい)去勢(きょせい))を()けた…


()(あい)する(こころ)(ひと)(つね)だが、()()げたことと皮肉(ひにく)()無関係(むかんけい)であり、断固(だんこ)として()()覚悟(かくご)こそが大事(だいじ)()(いしずえ)なのだ。


(じつ)のところ(ぎゃく)(きみ)の」


方源(ほうげん)白凝冰(はくぎょうひょう)全身(ぜんしん)観察(かんさつ)しながら(つづ)けた:


(あお)(ひとみ)銀髪(ぎんぱつ)(じつ)目立(めだ)()ぎる。()える必要(ひつよう)がある」


白凝冰(はくぎょうひょう)(ひや)やかに(はな)()らし、返事(へんじ)をしなかった。


方源(ほうげん)(つづ)けて説明(せつめい)する:


無足鳥(むそくちょう)損傷(そんしょう)し、数千(すうせん)()しか()べなかった」


白家寨(はっかさい)からは(あい)(とう)(とお)いが、我々(われわれ)が()()けた一件(いっけん)百家(ひゃっか)(かなら)()ってくる」


依然(いぜん)として危険(きけん)状況(じょうきょう)だ」


「もし(やつ)らが手配書(てはいしょ)()せば、今後(こんご)生活(せいかつ)(さら)困難(こんなん)になる」


白凝冰(はくぎょうひょう)(まゆ)をひそめ思案(しあん)した(のち)舌打(したう)ちをしながら承諾(しょうだく)した:


「よかろう」


「この()なりも(すこ)()きたゆえ」


()えてみればこれもまた」


()るスリリングな経験(けいけん)となるだろう」


(つぎ)瞬間(しゅんかん)二人(ふたり)今回(こんかい)損害(そんがい)収穫(しゅうかく)をまとめ(はじ)めた。


損害(そんがい)存在(そんざい)した。


地聴肉耳草(ちちょうにくみみそう)鋸歯金蜈蚣(きょしきんごこう)甲虫蠱(こうちゅうこ)鉄刺荊棘(てっしけいきょく)隠鱗蠱(いんりんこ)無足鳥(むそくちょう)——これらすべて追撃戦(ついげきせん)破損(はそん)()くした。


しかし方源(ほうげん)にとって、九死(きゅうし)一生(いっしょう)()たことが(もっと)重要(じゅうよう)だ。


生きているからこそ可能性(かのうせい)があり、希望(きぼう)がある。


これが全て(すべて)の基盤(きばん)だ。


生き()びるためなら、(たと)春秋蝉(しゅんじゅうせみ)()てたとしても(なに)だろう?


一言(ひとこと)()えば:


()てるものを()()てることを(えら)べる(もの)こそ(しん)(おとこ)だ!」


では収穫(しゅうかく)は?


方源(ほうげん)空窍(くうけん)(なか)には大量(たいりょう)骨槍蠱(こつそうこ)螺旋骨槍蠱(らせんこつそうこ)——


三転級数(さんてんきゅうすう)飛骨盾(ひこつたて)玉骨蛊(ぎょっこつこ)鉄骨蛊(てっこつこ)治療用(ちりょうよう)肉白骨(にくはっこつ)各種合煉秘方(かくしゅごうれんひほう)記載(きさい)した骨書(こつしょ)(すう)(さつ)


これ以外(いがい)に、百家営地(ひゃっかえいち)()清熱蛊(せいねつこ)


無論(むろん)最重要(さいじゅうよう)なのは、最終局面(さいしゅうきょくめん)危険(きけん)(おか)して合煉(ごうれん)成功(せいこう)した骨肉团圆蛊(こつにくえんがんこ)だ。


損失(そんしつ)(くら)べれば、これらの収穫(しゅうかく)格段(かくだん)重要(じゅうよう)だと()える!


毕竟(ひっきょう)これは完全(かんぜん)伝承(でんしょう)だ。あの花酒行者(かしゅぎょうじゃ)五転(ごてん)(つよ)(もの)とはいえ、四転(してん)灰骨才子(はいこつさいし)より一籌(いっちゅう)(うえ)だ。だが方源(ほうげん)花酒(かしゅ)伝承(でんしょう)()(もの)は、この白骨伝承(はっこつでんしょう)(およ)ばなかった。


理由(りゆう)(ほか)にない。白骨伝承(はっこつでんしょう)灰骨才子(はいこつさいし)入念(にゅうねん)設計(せっけい)し、(なが)年月(としつき)をかけて準備(じゅんび)したものだ。花酒(かしゅ)伝承(でんしょう)(あわ)てて(つく)られ、(おも)いつきで(つく)られた産物(さんぶつ)だからだ。


実際(じっさい)のところ方源(ほうげん)白骨伝承(はっこつでんしょう)一本(いっぽん)主線(しゅせん)(とお)っただけだ。まだたくさんの()かれ(みち)支線(しせん)(のこ)っており、肉囊秘閣(にくのうひかく)(なか)でも、大半(たいはん)歯関(はかん)解除(かいじょ)されていない。こうしたものはすべて百家寨(ひゃっかさい)(もう)けとなった。


(かれ)らがこの場所(ばしょ)掌握(しょうあく)した以上(いじょう)時間(じかん)(つい)やし、労力(ろうりょく)(そそ)(つづ)ければ、(かなら)伝承(でんしょう)全体(ぜんたい)()()れるだろう。


「しかしどうでもいいことだ。計画通(けいかくどお)りの()は全部手に()れた。この骨肉团圆蛊(こつにくだんえんこ)さえ効果を発揮(はっき)すれば、(ほか)のものすべてを上回(うわまわ)る。ただ地听肉耳草(ちしょうにくじそう)損壊(そんかい)したのは(すこ)厄介(やっかい)だ」


方源(ほうげん)理念(りねん)においては、実用性(じつようせい)のあるものだけに価値(かち)がある。


鋸歯金蜈(きょしきんご)(うしな)えば、螺旋骨槍(らせんこっそう)代用(だいよう)できる。鉄刺荊棘(てっしけいきょく)背甲蛊(はいこうこ)がなくても、天蓬蛊(てんぽうこ)飛骨盾(ひこつじゅん)(のこ)っている。しかし地听肉耳草を失ったことで、偵察面(ていさつめん)弱点(じゃくてん)(しょう)じた。


以前(いぜん)治療(ちりょう)移動(いどう)不足(ふそく)していたが、(いま)ではその(ふた)つはほぼ()まった。だが偵察面で(あな)()いてしまった。


人生(じんせい)(こと)不如意(ふにょい)なる(もの)(じゅう)(はち)()かな」


紫幽山(しゆうざん)(よる)は、昼間(ひるま)より(はる)かに(さわ)がしかった。この(よる)方源(ほうげん)白凝冰(はくぎょうひょう)交代(こうたい)夜番(よばん)(つと)め、(とも)()(ねむ)れなかった。


洞窟(どうくつ)(そと)からは()()なく、野獣(やじゅう)雄叫(おたけ)びや、扼殺(あくさつ)する(おと)()こえてきた。


特に()(がた)()()かる(ころ)洞窟(どうくつ)()(ぐち)ほど(ちか)くで激戦(げきせん)()(ひろ)げられ、熟睡(じゅくすい)していた方源(ほうげん)()()きた。


これは二匹(にひき)千獣王(せんじゅうおう)大戦(たいせん)だっだ!


二枚(にまい)(つばさ)を持つ(くろ)(はね)(うわばみ)が、幽豹(ゆうひょう)挑発(ちょうはつ)した。


両者(りょうしゃ)(たが)いに()(むす)び、(すご)まじい轟音(ごうおん)衝撃(しょうげき)(ひび)かせながら(はげ)しく(たたか)った。


幽豹(ゆうひょう)紫幽山(しゆうざん)固有(こゆう)猛獣(もうじゅう)である。その(からだ)はしなやかで力強く、(むらさき)がかった斑紋(はんもん)毛皮(けがわ)()ち、(きわ)めて高速(こうそく)山林(さんりん)()()け、幽雅(ゆうが)(あや)しい残像(ざんぞう)(のこ)す。狩猟(しゅりょう)()には無音(むおん)獲物(えもの)(ちか)づき、相手(あいて)反応(はんのう)する()もなく腹中(ふくちゅう)餌食(えじき)となる。


方源(ほうげん)白凝冰(はくぎょうひょう)二人(ふたり)(いき)(ころ)して見守(みまも)った。洞窟(どうくつ)(ふう)()められた(かれ)らは脱出(だっしゅつ)困難(こんなん)だった。


(とき)()つにつれ、雌豹(めすひょう)次第(しだい)劣勢(れっせい)()たされた。これは妊娠(にんしん)していた(めす)だった。幽豹(ゆうひょう)(つね)雄雌(おすめす)つがいで行動(こうどう)するが、(めす)妊娠中(にんしんちゅう)のため(おす)()りに()ていた。そこを黒羽蟒(こくうばん)(すき)()かれたのだ。


(つい)雌豹(めすひょう)(うわばみ)()()けで絶命(ぜつめい)した。


だが黒羽蟒(こくうばん)()()れず、(もど)った雄豹(おすひょう)()つかる。(ふたた)()(ひろ)げられた死闘(しとう)(すえ)牡豹(おすひょう)(あだ)()()せたが、()たのはただ雌豹(めすひょう)(つめ)たい亡骸(なきがら)だけであった。


夜明(よあ)けが(おとず)れた。


(あけぼの)(ひかり)が、幽豹(ゆうひょう)優雅(ゆうが)華麗(かれい)毛並(けな)みを()らす。


だが雌豹(めすひょう)(すで)息絶(いきた)えていた。


雄豹(おすひょう)(つま)亡骸(なきがら)(かこ)むように(たたず)み、(かな)しげな()(ごえ)()らした。二匹(にひき)距離(きょり)(はだ)()()(ほど)(ちか)く、しかしかすかに脈打(みゃくう)(ぬく)もりと(つめ)たい硬直感(こうちょくかん)は、(せい)()という深淵(しんえん)(へだ)てていた。


「まだ()らないのか?」白凝冰(はくぎょうひょう)(こころ)(うめ)いた。


心配無用(しんぱいむよう)だ。幽豹(ゆうひょう)夫婦(ふうふ)同心(どうしん)片方(かたほう)()ねば、もう片方(かたほう)(けっ)して(ひと)()きはせん」方源(ほうげん)(いき)()()すと、「我先(われさき)二度寝(にどね)をする」と()った。


(かれ)洞窟(どうくつ)(おく)(もど)(ねむ)りに()き、白凝冰(はくぎょうひょう)()(ぐち)見張(みは)りを(つづ)けた。


雄豹(おすひょう)はしばし彷徨(さまよ)うと、腹這(はらば)いになって(した)()ばし、雌豹(めすひょう)傷口(きずぐち)丁寧(ていねい)()(つづ)けた。


雌豹(めすひょう)傷口(きずぐち)漆黒(しっこく)()まっていた。黒羽蟒(こくうまん)(どく)による変色(へんしょく)である。


生息地(せいそくち)()()くした雄豹(おすひょう)は、(ひと)()ぎすれば毒種(どくだね)識別(しきべつ)できた。しかし(いま)や、一切(いっさい)(かま)っていなかった。


やがて(かがや)いていた双眸(そうぼう)は徐々(じょじょ)に(かげ)り、(まぶた)(なまり)のように(おも)くなっていく。


真昼(まひる)(どき)()たずして、雄豹(おすひょう)息絶(いきた)えた。(しず)かに雌豹(めすひょう)(そば)(よこ)たわり、(うつく)しい毛並(けな)みが二匹(にひき)をして、あたかも(かがや)きを(たも)工芸品(こうげいひん)(ごと)きに()せた。


(すべ)てを目撃(もくげき)した白凝冰(はくぎょうひょう)も、(おも)わず()(ほそ)めながら(ふか)(いき)()らした。


()もなく方源(ほうげん)目覚(めざ)め、()()りた様子(ようす)洞窟(どうくつ)()ると、白凝冰(はくぎょうひょう)岩壁(がんぺき)()()かり、二匹(にひき)幽豹(ゆうひょう)亡骸(なきがら)(ぼう)(ぜん)見詰(みつ)めている光景(こうけい)()にした。


収穫(しゅうかく)は?」方源(ほうげん)()う。


白凝冰(はくぎょうひょう)(かた)をすくめ、だるそうに()(はな)った:「()蠱虫(こちゅう)(すべ)()んで()っちまった。(おれ)()()(だん)はない。それに昨夜(さくや)(たたか)いをあんたも()ただろう?蠱虫(こちゅう)()ぬか(きず)つくか、(のこ)ったものは俺々(おれおれ)の(もと)めるものじゃない。ふん、でなければ、お(まえ)みたいな(やつ)がわざわざ()たりするか?」


方源(ほうげん)(かる)(わら)った:「(たし)かに二匹(にひき)千獣王(せんじゅうおう)だが、()いている蠱虫(こちゅう)(たい)したものではない。しかし収穫(しゅうかく)()いとは(かぎ)らんぞ。ふふ」


そう()いながら方源(ほうげん)幽豹(ゆうひょう)死体(したい)へと(ある)()した。






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