表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
蛊真人  作者: 魏臣栋
魔子出山
213/561

第十四節:坑

このひとだけがさけかもわけではない。


さけにまつわる最古さいこ記録きろく人祖伝説じんそでんせつさかのぼる。


人祖じんそ左右さゆうえぐり、それぞれが長男ちょうなん太日陽莽たいじつようもう次女じじょ古月陰荒こげついんこうへとした。


日夜にちやともにするうちに、太日陽莽たいじつようもういもうとおもいをせる。しかし古月陰荒こげついんこう幾度いくど求愛きゅうあいこばつづけた。


太日陽莽たいじつようもう懊悩おうのうすえ智慧蛊ちえのまじなこおそえをこううた。


当初とうしょ智慧蛊ちえのまじなことおくへこたえようとしなかった。だが執念しゅうねん追跡ついせききまとわれるのにえきれず、ついひとつの方策ほうさくかれつたえた──


ひがしわだかま蜜桃猿みつとうざるあり。ぞくかもさけみてから、ふたたわれたずねよ」


太日陽莽たいじつようもうひがしおもむき、さけくちにした。


蜜桃猿みつとうざるかもすは果実酒かじつしゅしてもどったかれほほあからみ、くちびるらして反芻はんすうした「さけとはあまきものなり」


智慧蛊ちえのまじなこわらい、ふたたげる「西にし通霊猿つうれいざるあり。らのさけめ」


通霊猿つうれいざるさけにがし。太日陽莽たいじつようもう西にしき、舌苔ぜったい黄褐色おうかっしょくめて帰還きかんした。渋面しぶつらに「さけにがときもあり」と


智慧蛊ちえのまじなこった「さけ甘苦かんくあり、こいもまた人生じんせいしかり。いまきたほう金剛猿こんごうざるあり。らのさけこそむべし」


金剛猿こんごうえんかもすは灼熱しゃくねつ烈酒れっしゅ


太日陽莽たいじつようもうのどごしをこころよく感じ、泥酔でいすいするまでびるようにんだ。


ぎてわんさけすと、今度こんどつぼ中身なかみまで貪欲どんよくもとめた。


ついにはげしく嘔吐おうとし、体中からだじゅうまわった酒気しゅきぬほどくるしませる。


体内たいない劫火ごうかかれ、熔岩ようがんみゃくながれるかのような灼熱感しゃくねつかんおそわれた――[ぐぁっ…ぐぉっ…]とのど悲鳴ひめいこぼれる。


あつい!あつい!」と絶叫ぜっきょうするや、体内たいない火炎かえん頭頂とうちょう逆流ぎゃくりゅうした。かみ轟音ごうおんともがり[ウォッ]――これ以来いらいかれあたまには常時燃じょうじもさかほのおかみ宿やどった。


太日陽莽たいじつようもう目覚めざめたとき智慧蛊ちえのまじなこうつむ加減かげんかれ見下みおろしていた。


灼熱酒しゃくねつしゅんでなにさとったか?」とのいに、かれふか嘆息たんそくした。「銘酒めいしゅぎればくとった。万事ばんじほどほどにせよ、と」


智慧蛊ちえのまじなこ哄笑こうしょうし、胴体どうたい大揺おおゆれにらめかせた。「では南方なんぽうけ。天水猿てんすいこうかもさけ一興いっきょうぞ」


天水猿てんすいえんかもすは清冽せいれつなる清酒せいしゅで、烈酒れっしゅとは対極たいきょくにある。


太日陽莽たいじつようもうしずかにさかずきかたむけ、わずらいをわすれて微酔びすいただよう。かすんだおくにほのかな陶酔とうすいらいだ。


智慧蛊ちえのまじなこふたたかんじをうと、かれかるってった。「酒中しゅちゅうおもむきたり、めるものつたうるなかれ」


智慧蛊ちえのまじなこはかすかなわらいをらし、おともなくった……


ゆえに、このひと最初さいしょさけかもした種族しゅぞくではない。むしろさるが、ひとよりさき辿たどいたのだ。


およ猿群さるむれあれば、かならさけかもす。


猿群えんぐんによってことなる各種かくしゅあじさけがある。しかし人々(ひとびと)は猴子こうし醸造じょうぞうしたさけ総称そうしょうして猴児酒こうじしゅしょうする。


方源ほうげん此処ここ洞窟どうくつ棲息せいそくするのは、一方いっぽう修爲しゅうい突破とっぱきざしかんじたため、とどまってわざわざ難関なんかん突破とっぱしようとするためであり、他方たほうでは猴児酒こうじしゅ目当めあてである。


蛊虫こちゅう轉数てんすうたかほど食物しょくもつ需要量じゅようりょうおおきくなり、同時どうじやりの周期しゅうき延長えんちょうされる。


方源ほうげん準備じゅんび充分じゅうぶんととのっているが、兜率花とそつか容量ようりょうには所詮しょせん限界げんかいがある。いま長途ちょうとわた跋涉ばっしょうによる消耗しょうもうて、空余くうよ容量ようりょうひと部分ぶぶんしょうじており、猴児酒こうじしゅ多少たしょうそうてんするには不足ふそくなどではないほど最適さいえよう。


さけ消毒しょうどくもちいられ、寒気さむけはら効果こうかもある。もし四味酒虫しみしゅちゅう逆錬ぎゃくれんする場合ばあいにも、輔料ほりょうとして必要ひつようだ。かり逆錬条件ぎゃくれんじょうけんたせなくとも、四味酒虫しみしゅちゅう食料しょくりょうとして十分じゅうぶん代用だいようく。


しかし猴児酒こうじしゅ入手にゅうしゅ容易よういではない。


この草裙猴群そうくんこうぐん百獣規模ひゃくじゅうきぼながら、千匹規模せんびききぼせまる。百獣王級ひゃくじゅうおうきゅう猴王こうおう三頭さんとういる。


猿群さるむれつね団結だんけつしており、敵対てきたいすれば当然とうぜんむらがっておそいかかる。白凝冰はくぎょうひょう三轉頂点さんてんちょうてんしゅうながら、多勢たぜい無勢ぶぜいで、力攻ちからぜめは自殺行為じさつこういひとしい。


方源ほうげん一轉中階いってんちゅうかい昇格しょうかくしたものの、この成長せいちょう状況じょうきょう打開だかいたすけになるとはがたい。


だが方源ほうげん猴児酒こうじしゅ奪取だっしゅ執念しゅうねん目論もくろみ、これにたい白凝冰はくぎょうひょう危惧きぐおぼえた。



「だから智謀ちぼうめるんだ。い」方源ほうげん白凝冰はくぎょうひょうかたかるたたき、がる。焦雷芋虫蛊しょうらいいもむしこめた地点ちてん慎重しんちょうけながら洞窟どうくつた。


洞外どうがいもりは青々(あおあお)としげり、陽光ようこうそそぐ。とりさえずりとはなかおり[※鳥語花香ちょうごかこう]があたりをたす。


二人ふたり片刻へんこくあるくと、猴群こうぐん外縁がいえん接近せっきんする。


方源ほうげん周到しゅうとう観察かんさつしたすえひとつの傾斜地けいしゃち選定せんていした。


高台たかだいして見渡みわたすと、満足まんぞくげにうなずき、地面じめんみしめてった。「れ」


線香せんこう一本分いっぽんぶん時間じかん陽当ひあたりの斜面しゃめんに――ふか三丈さんじょう直径ちょっけい五丈ごじょう大穴おおあな二人ふたり穿うがたれた。


焦雷豆母蛊しょうらいとうぼこ


方源ほうげんあなそこうずくまり、心念しんねんはたらかせて召喚しょうかんした。


芋虫いもむしじょうのそのは、表面ひょうめん凸凹でこぼこ無数むすう細孔さいこう穿うがたれている。おとるが、まぎれもない三转蛊さんてんこだ。


おれ真元しんげんではりん。すぞ」と方源ほうげん母蛊ぼこ白凝冰はくぎょうひょう手渡てわたした。


白凝冰はくぎょうひょう掌中しょうちゅう真元しんげん注入ちゅうにゅうするや、細孔さいこうから翠緑すいりょく若芽わかめした。


若芽わかめまたたく間にび、開花かいかし、結実けつじつする。


一呼吸ひといきするもなく、指先ゆびさきほどのふとさの墨緑すみみどりいろまめ成熟せいじゅうした。ちたえだともに、掌上たなのうえころがる。


方源ほうげん墨緑すみみどり果実かじつせ、吟味ぎんみ吟味ぎんみかさねてふるいにかける。くされやれ、うつろのまめのぞき、三分さんぶんいちにもたない良品りょうひんだけを選別せんべつした。


――これらは焦雷土豆蛊しょうらいいもむしこ二转蛊にてんこである。土中どちゅうめれば地力ちりょく吸収きゅうしゅうして成育せいいくし、生物せいぶつ付近ふきんめば発生はっせいする震動しんどう感応かんのうして自爆じばくする。


方源ほうげんひとつぶを取りとりだすと、瞬時しゅんじ练化れんかした。ゆびあいだ青銅せいどういろ真元しんげんそそむと、焦雷土豆蛊しょうらいいもむしこかすかに碧光へきこうはなちながら浮遊ふゆうはじめた。


心念しんねんうごくと同時どうじに[シュッ]と地中ちちゅうもぐっていく。


方源ほうげん意図的いとてきふかめ込み(かえりみ)——足下あしもとから一腕いちわんぶんはなれた深度しんどたっした時点じてん停止ていしさせた。


空窍こうこうなか真元海面しんげんかいめん急降下きゅうこうかつづける。周囲しゅうい地力ちのせいき焦雷土豆蛊しょうらいいもむしこ集約しゅうやくされていく。方源ほうげん感知かんち範囲はんいでは、このこまやかな草蛊くさこまたたく間に拳大こぶしだいいもへとそだつ。


これこそが熟成じゅくせいした焦雷土豆蛊しょうらいいもむしこだ。振動しんどうさえくわわれば即座そくざ爆発ばくはつする。


白凝冰はくぎょうひょうまゆをひそめて疑問ぎもんていした:「奴隷商人どれいしょうにんおんなあさめてたはずだ。そんなふかさでは、わたしあしらしても爆発ばくはつしないでしょう?」


当然とうぜんだ」方源ほうげんひとことこたえると、埋設まいせつ作業さぎょう続行ぞっこうさせた。


白凝冰はくぎょうひょうかすかにくちゆがめた。方源ほうげん正面しょうめんからこたえぬ以上いじょうほこたか彼女かのじょ追及ついきゅうせず、ただおく思案しあんいろしずめた。


方源ほうげんながともにいる彼女かのじょっている――かれけっして無駄むだおこないはしない。


坑底こうてい全面ぜんめんえると、方源ほうげんこしばしひたいあせぬぐい、白凝冰はくぎょうひょう土盛つちもりをうながした。


しかしもどしは五寸ごすんふかさで中断ちゅうだんされる。方源ほうげんが「めろ」とめいじ、ふたた焦雷土豆蛊しょうらいいもむしこ埋設まいせつはじめたのだ。


その瞬間しゅんかん白凝冰はくぎょうひょう眼底がんてい精芒せいぼうかすめる――意図いと看破かんぱしたあかしだった。


成程なるほど焦雷土豆蛊しょうらいいもむしこ二转にてんゆえ、一発いっぱつ爆発ばくはつでは所詮しょせん威力いりょく限界げんかいが。だが此処ここ多数たすう埋設まいせつすれば——かり千獣王せんじゅうおういえど甚大じんだい損傷そんしょうこうむらせるだろう。だが三頭さんとう猴王こうおう如何いかにして此処ここ誘導ゆうどうするつもりだ?」


焦雷土豆蛊しょうらいいもむしこ攻撃こうげきとはえ、移動不能いどうふのう欠陥けっかん実用性じつようせいいちじるしくそこなっている。


造作ぞうさもないことだ」方源ほうげん草蛊くさこめながらこたえた。「二三にさん草裙猴そうくんこう子猿こざるとらえ、あなうえ脳味噌のうみそ味見あじみすればよい。哀叫あいきょうかなら怒涛どとう猿群さるむれ此方こなたせる。最初さいしょ凡猿ぼんえんばかりゆえ貴様きさま彼等かれら殲滅せんめつすればよい。しかのち——れい三匹さんびきあらわれよう」



白凝冰はくぎょうひょうおもわずうなずいた。野獣やじゅう所詮しょせん野獣やじゅう知恵ちえには限界げんかいがある。方源ほうげんのこのさく粗鄙そひ下品げひんだが、絶対ぜったい効果的こうかてきだろう。


「あの三匹さんびき猴王こうおうさえれば、猴児酒こうじしゅるのはふくろなかものさぐるようなものだ。無論むろん猴王こうおうからだ寄生きせいしている野生蛊虫やせいこちゅう何匹なんびきつかまえられれば尚更なおさら良い(よい)」


白凝冰はくぎょうひょうゆびならしながら勘案かんあんした。


つづ午後全体ごごぜんたいを、二人ふたりはこのあな精力せいりょくそそんだ。


ひたすら焦雷芋虫蛊しょうらいいもむしこ培養ばいようし、方源ほうげんみずか埋設まいせつし、二人ふたりつちる。一層いっそうえると、またあらたなそうを。あなたいらになるまでつづけた。


二人ふたりあせびっしょり。さいわ方源ほうげん二猪にちょ膂力りょりょく白凝冰はくぎょうひょう一鳄いちがくちから修得しゅうとくしていて事足ことたりた。


だが翌日よくじつ方源ほうげん実行じっこううつさず、ふたた穴掘あなほりをはじめた。


白凝冰はくぎょうひょうくびかしげると、こうときいた:「ひとつのあななど保証ほしょうにならん。ひかえのさくもうけるにしたことはない。準備じゅんびすこしでもおおほうが良い(よい)」


そうして三日間みっかかん白凝冰はくぎょうひょうはつくづくと方源ほうげん病的びょうてきなほどの慎重しんちょうさをさとる。五つ(いつつ)のあなられ、大量たいりょう焦雷芋虫蛊しょうらいいもむしこ埋設まいせつされる。無論むろん最初さいしょあなもっと規模きぼが大き(おおき)かった。


念入(ねんにゅう)るべき準備(じゅんび)甲斐(かい)あって、草裙猴(そうくんこう)殲滅(せんめつ)計画(けいかく)驚異的(きょういてき)順調(じゅんちょう)(すす)んだ。


二穴(ふたあな)爆発(ばくはつ)を起こ(おこ)しただけで、猿群(さるむれ)壊走(かいそう)した。


三匹(さんびき)猴王(こうおう)二匹(にひき)死亡(しぼう)一匹(いっぴき)負傷(ふしょう)傷猿(きずざる)(むれ)を引き()れて遁走(とんそう)した。死骸(しがい)爆砕(ばくさい)されて肉片塵粉(にくへんじんぷん)()り、(からだ)宿(やど)った蛊虫(こちゅう)当然(とうぜん)生存(せいぞん)していない。


方源(ほうげん)収穫(しゅうかく)した猴児酒(こうじしゅ)兜率花(とそつか)(あふ)れんばかり――四味酒虫(しみしゅちゅう)逆錬(ぎゃくれん)するに十分(じゅうぶん)だ。


酒虫(しゅちゅう)飼育(しいく)(かん)しては二年間(にねんかん)()たせられる。交易隊(こうえきたい)遭遇(そうぐう)すれば、これらの猴児酒(こうじしゅ)巨利(きょり)(ゆめ)ではあるまい。


「行く前に、掃除そうじがある」と方源ほうげんくよう指差ゆびさした。「ぜた二穴ふたあなもどせ」


「そこまで慎重しんちょうに?」白凝冰はくぎょうひょうあないただけで筋肉痛きんにくつうおぼえた。


方源ほうげん一瞥いちべつをくれれば、一言ひとこと彼女かのじょ仕方しかたなくくわにぎる――


魔道まとう女蛊师おんなこし如何いか追跡ついせきしたか、わすれたか?」


痕跡こんせき辿たどってこそやつめられたのだ。


「掘ったあながついにおのれめることになるなよ」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ