夜明け前、東の空が白み始めた。街に人気はなく、足音だけが響いていた。
古月方正は冷たい朝の空気も気にせず、熱い想いを胸に学堂へ速足で向かっていた。
「元石二個を使い、徹夜で月光蛊を煉化した。甲等の私に敵う者などいない!」頬を赤らめながら歩く。
伯父夫婦の喜ぶ姿を思い出し、胸が熱くなった。「族の者も兄も、今日から私を認めるだろう!」
学堂の門前で警備員に声を掛けられた。「おい、古月方源、また来たのか?」
「兄が?」方正は一瞬呆然としたが、すぐに胸を張った。「私は方正だ。本命蛊を煉化し、首位の褒賞を受け(うけ)に来た」
左の警備員が目を見張った:「家老様も間違えた双子か!」
右の警備員が首を振る:「残念だが、昨夜方源が既に受領した」
「兄が…首位?!」方正の声が裏返った。「丙等の奴が?冗談だろ!」
警備員が不機嫌に言い返す:「家老様公認の事実だ。張り紙もすぐ出る」
方正は石化したように立ち尽した。想定していた敵——古月漠北や古月赤城——ではなく、まさか兄が…
「あの酒浸りの怠け者が?沈翠を泣かせ、私を殴り、元石を奪った奴が?」太陽が昇る中、自分の影を見下ろす。
湧き上がった怒りと屈辱感が心を締め付けた。「努力が報われないなんて…これが世の理か?」
小鳥のさえずりが春を告げる中、彼の拳は震えていた。
……
時が過ぎ、太陽が高く昇る。
学堂の掲示板に新たな順位表が貼り出された——最上位は方源、次点が方正。
この情報が広まるにつれ、自宅で蛊を煉化していた少年たちは騒然となった。
「まさか!」
「丙等の方が甲等に勝つなんて!」
「天地がひっくり返ったか!?」
漠分家
緑あふれる庭で茶を啜る古月漠塵家老が管家に問う:「漠北はまだ煉化を続けていないのか?」
「方源の報せ以来、若様は意欲を失っております」と管家が答える。「丙等に負けたことが堪らぬようです」
「ふん!言い訳は無用だ」漠塵が冷たい声を張り上げる。「蛊師の道は艱難の連続!この程度の挫折に挫けるようでは、赤分家との競いなど叶うまい!」
赤分家
古月赤練家老が孫の赤城を呼び付ける。「方源など運が良かっただけだ。お前の敵は方正と漠北だ」
赤城が跪き「承知しました」と復活した表情で答える。「今から煉化を再開します!」
赤練は満足げに頷き「三転蛊の気配で月光蛊を鎮めよう」と宣言した。