表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
蛊真人  作者: 魏臣栋
魔子出山
201/547

第二節:浅瀬で休養しつつ蛊虫を借り受ける

五日いつかまえ方源ほうげん青茅山せいぼうさん再起さいきした。


当時とうじ血罩けっちょうなか白凝冰はくぎょうひょうみ、虐殺ぎゃくさつ最中さなか戦利品せんりひんきゅういで回収かいしゅうしていた。


しかしそれら蠱虫こちゅうすべきずいていた。この五日間いつかかん方源ほうげん江上漂流こうじょうひょうりゅうつづけるなかえさ不足ぶそくで次々(つぎつぎ)とんでしまったのだ。


治療ちりょうきの蠱虫こちゅうは、方源ほうげん満足まんぞくできるものをさがせず、もとからけていた。


自爆じばくおれ蠱虫こちゅう全滅ぜんめいしたのがしい…でなきゃこんなきずわんわ」白凝冰はくぎょうひょうてんあおいでなげいた。


だが方源ほうげんわらってった。「悲観的ひかんてきになるなよ。何事なにごと蠱虫こちゅうじゃなきゃ解決かいけつできないわけじゃねえんだ」


「うん?」白凝冰はくぎょうひょうるようにつめる。


方源ほうげんひそかに真元しんげんめぐらせくちひらいた——パッ! と赤光せきこうひらめき、提灯ちょうちんじょう花蛊はなこあらわれ、ゆるやかに回転かいてんしながらちゅういた。


まさに兜率花とそつかである。


方源ほうげんねんじると、はな全身ぜんしんあかぼうみなぎらせ、紅霞こうか爛漫らんまんとするなかからいくつかの物品ぶっぴん飛出とびだした。


包帯ほうたい大型薬壺おおがたくすつぼ小型薬瓶こがたやくびん——がそれだ。


小瓶こびんこな消毒しょうどく消炎しょうえんよう少量しょうりょう十分じゅうぶん大壺おおつぼ薬液やくえき止血しけつ生肌せいき効果こうかあり。包帯ほうたいの使いつかいかたかるか?」そういながら、品物しなもの二組にぐみけ、片方かたほう白凝冰はくぎょうひょうわたした。


ぼん手段しゅだんばかりだが、学堂がくどうおそわったことはある」彼女かのじょるとくちをへのにした。「随分ずいぶん用意周到よういしゅうとうだな」


そうって大壺おおつぼふたかるると——ツン! はな悪臭あくしゅうし、かおめてさけんだ。「なんてくさいんだ!」


方源ほうげんわらいながら、無言むごんのままだった。



上衣うわぎて、さき小瓶こびんこなそそぐ——傷口きずぐちにひりひりとけつくようないたみがはしる。いで大壺おおつぼひらくと、なか薬漿やくしょう黒緑色くろみどりいろのドロリとしたどろで、不快ふかい臭気しゅうきはなっていた。


だが方源ほうげん前世ぜんせですでにれっこで、微動びどうだにしない。


ばして黒緑色くろみどり薬泥やくでい一掴ひとつかみし、傷口きずぐち均等きんとう塗布とふしていく。その手慣てなれたつきは至極しごく老練ろうれんであった。


包帯ほうたいけ、一巻ひとま一巻ひとまきと丁寧ていねい固定こていして、手当てあてはまたたく間に完了かんりょうした。


薬漿やくしょう効果こうかか、傷口きずぐちにやがて冷気れいきのような清涼感せいりょうかんひろがり、先程さきほど灼熱感しゃくねつかんいたみをしずかにながしていった。



「おまえくすり案外あんがいくんだな!」そばでは白凝冰はくぎょうひょう傷口きずぐち処置しょちしながら、いたみで歯軋はぎしりしつつった。


彼女かのじょ白服しろふくやぶれ、傷薬きずぐすりるためにむねあらわになったが本人ほんにんまった無自覚むじかくくすり擦込すりこみつつ嘆息たんそくした:「あらめておもうけど…治療蠱ちりょうこ一匹いっぴきでもいたら、どんなにいか」


方源ほうげん彼女かのじょ一瞥いちべつし、ふたた兜率花とそつか召喚しょうかんして、衣装いしょう二組にぐみした。


逃亡準備とうぼうじゅんび万全ばんぜんしていたかれ複数ふくすう着替きがえを準備じゅんびしており、年齢ねんれい体格たいかく自分じぶん大差たいさない白凝冰はくぎょうひょうにはわりと似合にあ代物しろものだった。


「ほら」かれ衣装いしょう一組ひとくみす。


白凝冰はくぎょうひょうころもを受けうけとり、「へぇ」とかるおどろいたこえらす:「用心深ようじんぶか準備じゅんびしてやがるな」


そなればわずらいなしさ」方源ほうげんこたえると、みずかびたびたの衣類いるい靴下くつしたて、あたらしい着物きもの着替きがえた。


さっと清潔せいけつ衣服いふくはだれると、からだ全体ぜんたいらくになるのをかんじた。


白凝冰はくぎょうひょう着替きがわると、ボロきれした白袍はくほう砂浜すなはまほうした。しかし彼女かのじょ顔色かおいろあきらかにすぐれず、危険きけんだっきず手当てあてや着替きがえをする過程かていで、みずからの肉体にくたい変化へんかつよ自覚じかくさせられていた。


つぎはどうするつもりだ?いつ陽蛊ようこわたす?」彼女かのじょまゆをひそめてめた。


方源ほうげんてた黒衣こくい靴下くつしたひろあつめながらこたえる:「った通り、白骨山はっこつざんかう。陽蛊ようこすくなくともおれ三转さんてんたっするまでて」


白凝冰はくぎょうひょう眉間みけんしわふかまり、こえとげじった:「三转さんてんまでてだと!?」


立派りっぱおとこおんながる——命懸いのちかけの緊迫感きんぱくかんくと、この忌々(いまいま)しい変貌へんぼうあたまもたげる。一日いちにちはや正体しょうたいもどりたい焦燥感しょうそうかん彼女かのじょさいなんでいた。


方源ほうげん一瞥いちべつ無視むししたまま、川岸かわぎしあるき、黄龍江こうりゅうこうみず洗濯せんたくはじめた。


この黒衣こくいあないていたが、修繕しゅうぜんすればまだ使つかえる。白凝冰はくぎょうひょう白袍はくほうとはちがう。をさまよう日数にっすう未定みていなのだ、衣類いるい無駄むだにできぬ。


白凝冰はくぎょうひょうかしこい。方源ほうげん沈黙ちんもくおのれの真実しんじつ境遇きょうぐうさとらせた。


いま彼女かのじょ三转さんてん実力じつりょくがあっても蠱虫こちゅう一匹いっぴきたぬ。かりにあっても方源ほうげん手出てだしはできまい——陽蛊ようこ掌握しょうあくされているのだ。かれねんじれば瞬時またたくに破壊はかいされてしまう。


陰陽轉身蛊いんようてんしんこついになってはじめて機能きのうする。片方かたほうこわされれば、永遠えいえんおとこからだもどれなくなる。


方源ほうげん背中せなかにらみながら、白凝冰はくぎょうひょう歯軋はぎしりした。ほこ白家はくけ天才てんさいが、他人たにん翻弄ほんろうされるちぶれるとは。


この感覚かんかくは、気位けいたか彼女かのじょつよ不快感ふかいかんいだかせた。


(いま)治療蠱(ちりょうこ)一匹(いっぴき)もいない。また危機(きき)()ったらどうすんだ?問題(もんだい)はそれだけじゃない——(おれ)蠱虫(こちゅう)()たず戦力(せんりょく)皆無(かいむ)だ!自衛(じえい)できるよう、野蠱(やこ)()って煉化(れんか)しなければ!」


白凝冰(はくぎょうひょう)()いかけた瞬間(しゅんかん)(はら)が「グウ」と()った。


「ちっ!」彼女(かのじょ)(はら)()さえ、空腹感(くうふくかん)(おそ)われた。「おい、洗濯(せんたく)してるやつ!干肉(ほしにく)()せ!(はら)がペッタンコだ!」


(いかだ)漂流(ひょうりゅう)五日間(いつかかん)二人(ふたり)方源(ほうげん)携帯(けいたい)した干肉(ほしにく)()えを(しの)いでいた。


(にく)(かた)く、()むと(かわ)いた木材(もくざい)()んでいるようだったが、(はら)()たし熱量(ねつりょう)(おぎな)えた。


方源(ほうげん)()()がり、両手(りょうて)黒衣(こくい)(みず)()()め、何度(なんど)()ってから(こた)えた:「(あわ)てるな。()ってろこれ」


白凝冰(はくぎょうひょう)(まゆ)をひそめ、嫌々(いやいや)ながら黒衣(こくい)を受け(うけと)るよう()()ばした。


方源(ほうげん)(ふたた)兜率花(とそつか)召喚(しょうかん)し、干肉袋(ほしにくぶくろ)を取り(とりだ)す。


白凝冰(はくぎょうひょう)遠慮(えんりょ)なく(ふくろ)(うば)()ると、ガリッと(かじ)()いた。顎関節(がくかんせつ)(いた)みそうなほど(はげ)しく咀嚼(そしゃく)しながらも、満足(まんぞく)げに()らい(つづ)ける。


方源(ほうげん)彼女(かのじょ)()つめ、口元(くちもと)(わら)みを()かべた——白家(はくけ)天才(てんさい)飢餓(きが)(さいな)まれることなど前代未聞(ぜんだいみもん)だ。前世(ぜんせ)(おも)(かえ)せば、この感覚(かんかく)十二分(じゅうにぶん)理解(りかい)できる。


白凝冰(はくぎょうひょう)肉片(にくへん)()()ると、(かわ)いた(くちびる)を~~ペロリ~~と()めて(つぶや)いた:「(はら)()しにはなるが(かた)すぎる。…はあ、こんなものでも()えるのだから満足(まんぞく)すべきか」


方源(ほうげん)口元(くちもと)(わら)みが一層(いっそう)(ふか)まり、白凝冰(はくぎょうひょう)驚愕(きょうがく)眼差(まなざ)しを()びながら鉄鍋(てつなべ)を取り(とりだ)した。


鉄鍋(てつなべ)まで()ってるのか? 最高(さいこう)だ!これで干肉(ほしにく)煮込(にこ)んで()える!(みず)(かわ)調達(ちょうたつ)できる…だが()()くには(まき)必要(ひつよう)だ。()()らねばならんな」


しかしここまで()って白凝冰(はくぎょうひょう)周囲(しゅうい)見渡(みわた)し、難儀(なんぎ)した表情(ひょうじょう)に変わった。


座礁着陸(ざしょうちゃくりく)した浅瀬(あさせ)一方(いっぽう)(かわ)(めん)し、他三方(たさんぽう)(そび)える断崖(だんがい)(かこ)まれていた。崖上(がけうえ)には密林(みつりん)(ひろ)がるが、砂浜(すなはま)には材木(ざいもく)一本(いっぽん)もない。


(まき)()るには、白凝冰(はくぎょうひょう)(みずか)らが(すべ)りやすい絶壁(ぜっぺき)(のぼ)って伐採(ばっさい)しなければならない。


全盛期(ぜんせいき)なら朝飯前(あさめしまえ)仕事(しごと)だったが、(いま)蠱虫(こちゅう)一匹(いっぴき)もない彼女(かのじょ)には、大変(たいへん)苦労(くろう)になりそうだった。


白凝冰はくぎょうひょうがひそかに難儀なんぎしていると、そのとき方源ほうげんさら炭石こいしやまを取りとりだした。


炭石こいし木材もくざいよりはるかにすぐれている。白凝冰はくぎょうひょう自然しぜん歓声かんせいげた。


つづけて方源ほうげん火打石ひうちいし火油かゆ鉄製てつせい鉄架てつかも取りとりだす。またたく間に全て(すべて)を組みくみあげた。


白凝冰はくぎょうひょうかおけわしくなり、瑠璃色るりいろひとみ方源ほうげんつらぬく:「周到しゅうとうすぎる準備じゅんびだ…最初さいしょから青茅山せいぼうざん脱出だっしゅする算段さんだんだったな?」


蠱虫こちゅう携行けいこう無論もちろん鉄鍋てつなべまで用意よういするなどあきらかに異常いじょうだ。白家はくけ天才てんさいするど不審点ふしんてん見抜みぬいた。


「どうおもう?」方源ほうげんはニヤリとわらい、質問しつもん回避かいひして鉄鍋てつなべ指差ゆびさした。「かわみずすくっていよ」


白凝冰はくぎょうひょう歯軋はぎしりした。このらない態度たいどこそが彼女かのじょを最も(もっとも)苛立いらだたせた。


彼女かのじょみずんでもどると、方源ほうげんおこしていた。


鉄鍋てつなべ沸騰ふっとうするや、小袋こぶくろ干肉ほしにくをドサッと)()む。ほどなく芳醇(ほうじゅん)(にく)(かお)りが(ただよ)った。


白凝冰(はくぎょうひょう)無意識(むいしき)(くちびる)を~~ペロリ~~と()めた。


方源(ほうげん)(はし)(さじ)を取り(とりだ)すと、二人(ふたり)即座(そくざ)にむさぼるように()らいついた。


煮込(にこ)まれて軟化(なんか)した(にく)は、わずか数回(すうかい)()むだけで()()める。(あつ)々(あつ)のスープが全身(ぜんしん)を~~じんわり~~(あたた)めた。ただ(ひと)難点(なんてん)()えば——黄龍江(こうりゅうこう)(みず)(ふく)まれる砂泥(さでい)(くち)(のこ)り、(すこ)しザラついた。


だが流浪(るろう)()でこれだけの待遇(たいぐう)があれば、文句(もんく)など()えようか?


「まだ()りない。肉干(ほしにく)半分(はんぶん)よこせ」白凝冰(はくぎょうひょう)満腹(まんぷく)できておらず(はら)()でながら()った。


方源(ほうげん)即座(そくざ)拒絶(きょぜつ)した:「これ以上(いじょう)駄目(だめ)だ。節約(せつやく)しなければ」


「どケチなこと()うな! ()ろよ、すぐ目の(まえ)密林(みつりん)天然(てんねん)獲物(えもの)がどれだけいると(おも)ってる!?」白凝冰(はくぎょうひょう)不満(ふまん)げに(さけ)んだ。


方源(ほうげん)(にら)(かえ)す:「野味(やみ)があるのは()りゃ()かる。だがそれは同時(どうじ)野獣(やじゅう)(ひそ)むってことだ。お(まえ)(いま)何頭(なんとう)(けもの)(たお)せる?()れに遭遇(そうぐう)したら?伏撃(ふくげき)する野蠱(やこ)出会(であ)ったら?(かり)(けも)()れても(にく)(どく)があるか()かるのか?毒見(どくみ)できる蠱虫(こちゅう)でも()ってるのか?」


白凝冰(はくぎょうひょう)()まり、()(かえ)言葉(ことば)(うしな)った。


方源ほうげんややかにはなわらった。白家はくけ天才てんさいたる彼女かのじょ元来がんらい気位けいたかい。これじょう叱責しっせきすれば逆効果ぎゃくこうかだ。


鉄架てつかからなべろすと、あらざらした黒衣こくいなおした。のこった炭石こいし余熱よねつ利用りようし、ゆっくりところも乾燥かんそうさせる。


つづけてくちひらく:「れる。今夜こんやはここで野営やえいし、明朝みょうちょうはやしさぐる。三方さんぽう断崖だんがいかこまれた地形ちけいは、けもの到達とうたつがただから相対的あいたいてき安全あんぜんだ」


しかしまゆせて警告けいこくした:「油断ゆだん禁物きんもつ夜番よばん交代制こうたいせいだ」


二人ふたりならではのつよみだった。


ねんじると、鋸歯金蜈きょしきんご天蓬蛊てんぼうこかびがった。



「この二匹(にひき)蠱虫(こちゅう)当座(とうざ)()す。存分(ぞんぶん)()れておけ」方源(ほうげん)()(わた)す。


(かれ)一转初阶(いってんしょかい)実力(じつりょく)では、三转蛊(さんてんこ)駆動(くどう)過度(かど)負担(ふたん)になる。甲等资质(こうとうししつ)回復力(かいふくりょく)天元宝莲(てんげんほうれん)()っていても、(しん)威能(いのう)発揮(はっき)できなかった。だから三转(さんてん)白凝冰(はくぎょうひょう)(ゆだ)ねる方が合理的(ごうりてき)だったのだ。


白凝冰(はくぎょうひょう)蠱虫(こちゅう)を受け(うけと)り、(おも)わず方源(ほうげん)(ふか)見詰(みつ)めた。


蠱師(こし)(かん)では、蠱虫貸与(こちゅうたいよ)可能(かのう)だ。


蠱虫(こちゅう)には蠱師(こし)意志(いし)宿(やど)る。煉化者(れんかしゃ)承認(しょうにん)があれば他者(たしゃ)()(あやつ)れる——煉化(れんか)()ほどの精度(せいど)()ないにせよ。


しかし(もと)(ぬし)(ねん)一つで召還(しょうかん)可能(かのう)というリスクがあるため、蠱師(こし)滅多(めった)他者(たしゃ)()()さない。


()(せま)った状況(じょうきょう)とはいえ、方源(ほうげん)のこの度量(どりょう)に、白凝冰(はくぎょうひょう)(おどろ)きの視線(しせん)()けた。







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ