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蛊真人  作者: 魏臣栋
青茅山
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五百年の光陰を遡り、ついに悟りを得た

この作品は中国の作者・蛊真人によって翻訳されました

伝説によれば、この世界には「光陰の川」が流れており、時空の流転を支えているという。春秋蝉の力を使えば、この川を遡って過去へ戻れると噂されていた。


世間の反応は様々だった。眉をひそめる者、首を傾げる者、本当に信じている者などほとんどいない。なぜなら春秋蝉を使用するには、自らの命と全ての修行成果を捧げねばならないからだ。あまりに過酷な代償に加え、成功するかどうかも不確か——仮に手に入れても、普通は使い道に困るというものだ。


「もしこれが嘘の罠だったら?」そう疑うのも無理はない。方源でさえ、追い詰められていなければ即座に使うことはなかっただろう。


しかし今、彼は確信していた。窓の外に広がる五百年前の古月山寨。指先に感じる血の気のない肌。全てが紛れもない事実だった。


「やはり…本当に転生した」


「残念ながらこの貴重な蠱を…あの時はありったけの力を振り絞り、数十万人を虐殺してまでようやく錬成したのに」方源は心中で嘆いた。春秋蝉は転生と共に消滅していた。


人間は万物の霊長、蠱は天地の精華。千差万別の蠱の中で、一度きりの使い切りタイプもあれば、過度に使わなければ繰り返し使えるものもある。


「おそらく春秋蝉は前者だったのか。だが失ったからと言って再錬成できないわけではない。前世でできたのだから、今世ではできぬ道理があろうか」


そう考えると、方源の胸に熱い意欲が沸き起こった。転生成功という事実さえあれば、春秋蝉の損失など取るに足らない。何より彼には、この世の誰も持たない宝——五百年分の記憶と経験が詰まっていた。


彼の記憶には数えきれない秘宝が眠っていた。未開封の遺跡、歴史を動かす大事件の詳細、隠遁仙人から未だ生まれぬ俊才まで——五百年分の修業と戦闘で磨かれた経験が詰まっている。


「これさえあれば、再び魔君として世を席巻できる。いや、前世を超えることさえ可能だ」


窓外の夜雨を見つめながら、方源は冷徹に思考を巡らせた。しかし五百年分の記憶は膨大すぎた。宝の在処や仙人の遺跡は数あれど、多くははるか遠方か特定の時期にしか開かないものばかり。


「西部の不老泉は三年後、東海の剣塚は十年周期…」眉間に深い皺を刻みながら、彼は記憶の束を整理し始めた。霧の向こうに見える断片的な情報を、蜘蛛の糸のように紡いでいく必要があった。


「肝心なのはやはり修行の境地だ。現状の私は元海げんかいが未開で、まだ蠱師こしの道に入っていない一介の凡人に過ぎない。一刻も早く修行を進め、歴史の流れに先んじて利益をかき集めねば」


窓の外で雨音が強まる中、方源は拳を握りしめた。多くの秘宝は一定の修行レベルがなければ消化できず、かえって災いを招くだけだ。


「まず最初の壁は修行速度だ。前世のようにのんびり進んでいては後の祭りとなる。どうしても早急に家族の資源を活用する必要がある」


目前の状況では、普通の山豚にすら命を奪われる危険性がある。しかし三転蠱師さんてんこしまで到達すれば、この世界を踏破する最低限の力が得られる。


五百年の修練で磨かれた魔道の巨頭の目から見れば、青茅山せいぼうさんなどまさにちっぽけな存在だ。古月山寨こげつさんさいはむしろおりのようなものだった。


「だがこの檻は自由を奪う代わりに、ある種の安全も与えてくれる」窓に映る自らの姿を見つめながら、方源は舌打ちした。


「フン、当分の間はこの檻の中で足掻いてみるか。三転蠱師さんてんこしに昇格したら、こんな田舎の僻地から出てやる。幸い明日は開竅大典かいきょうたいでんだ。これでようやく本格的な修行が始まる」


大典のことを考えると、記憶の奥底からある事実が浮かび上がってきた。雨に濡れる窓枠に指を立てながら、彼は「資質か…」と呟くと、冷たい笑みを三度浮かべた。

ドアがきしむ音と共に、痩身の少年が部屋に入ってきた。「兄さん、どうして窓際で雨に濡れてるの?」


方源によく似たその顔——弟の方正ほうせいだった。方源が振り返ると、一瞬だけ複雑な表情が浮かんだ。


「お前か…双子の弟よ」眉を僅かに上げ、いつもの冷たい表情に戻る。


方正はつま先を見つめる癖があった。「明日は開竅大典かいきょうたいてんなのに、遅くまで起きてると叔父さんたちが心配しますよ」


兄の冷たさには慣れていた。物心ついた時から、天才と呼ばれる兄は常にこうだった。鏡に映る似た顔を見るたび、自分が蟻以下の存在に思えてくる。


「同じ腹から生まれたのに…」拳を握りしめ、窓の雨音に紛れて呟く。叔父夫婦の「兄を見習え」という言葉が耳朶にこびりついている。


十数年来、この重苦しい感情は方正の胸に巣食い続けていた。まるで心臓を押し潰す巨岩のようで、彼の頭は日に日に垂れ、口数も減っていった。



「心配だと?」方源は内心で冷笑した。三歳で両親を家族任務の事故で亡くし、弟と共に孤児となった過去が蘇る。叔父夫婦は「養育」の名目で遺産を横領し、兄弟を冷遇してきた。


元々転生者の方源は「爪を隠す」つもりだったが、過酷な環境が彼に「天才」の仮面を着せることを強いた。唐詩や宋詞の知識を使い、幼い体で大人を驚かせた。周囲の期待がプレッシャーとなり、無表情を鎧のようにまとう必要があった。


「気づけば、この冷たさが自分の本質になっていた」窓から流れ込む雨の冷たさに、方源は自嘲の笑みを浮かべた。


こうして叔父夫婦は兄弟への冷遇をやめ、方源の「天才」ぶりが評判になるにつれ待遇も改善された。しかしこれは愛情ではなく、単なる投資でしかない。


皮肉なことに弟の方正はこの真実を見抜けず、叔父夫婦に操られながら兄への恨みを溜め込んでいた。「大人しい弟」の仮面の下には、後に甲等資質こうとうしきが判明すると爆発する憎悪が潜んでいた。記憶の中では、実力をつけた弟が兄を執拗に陥れた。


「そして俺の資質は…フン、丙等へいとうか」窓から流れ込む雨に頬を濡らしながら、方源は運命の悪戯を嗤った。双子の兄が偽りの天才で、無名の弟こそ真の天選の子——これほど皮肉な話はない。


開竅大典かいきょうたいてんの結果は一族を震撼させた。兄弟の立場は完全に逆転——弟は昇天する龍となり、兄は地に堕ちた鳳となった。


その後、弟からの嫌がらせ、叔父夫婦の冷たい視線、一族の軽蔑が続く。「恨み?」前世の方源は確かに恨んだ。自らの資質不足を、一族の無情を、運命の不公平を。


だが五百年の時を経た今、彼は静かな目で過去を見つめていた。恨みなど微塵もない。「何を恨む必要がどこにあろう?」


立場を換えれば理解できた。弟も、叔父夫婦も、前世で自分を包囲した正派の連中も——全ては弱肉強食、適者生存のことわりに過ぎない。天の機会を掴むためなら、手段は選ばぬ。これが世の常だ。


「長生の大道さえ阻む者なら——たとえ肉親でも斬り捨てる」雨戸を叩く風音に混じり、方源の声は氷のように冷めた。野望の大きさが孤独を生み、殺戮の連鎖を呼ぶ。これこそ五百年の人生で鍛え上げられた悟りだった。


「復讐など眼中にない。邪道に妥協などありえん」そう考えると、方源は思わず嗤いた。弟へ氷の刃のような眼光を投げかけ、「下がれ」と吐き捨てた。


方正は背筋に冷たい戦慄を覚えた。兄の視線が臓腑まで抉り取るようで、雪原に裸で立たされたような気分だった。「では明日…」声を震わせながら扉を閉め、逃げるようにその場を離れた。兄の部屋の雨戸が、不気味に軋む音が背後で響いた。


この作品は中国の作者・蛊真人によって翻訳されました

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