「方源、何をしている!?」
「何て事をする…大敵当たる中、内輪揉めなど!」
「や、止めてくれっ…ぐはっ!」
衆人は戦慄した。方源は更に辣腕を揮い、又も同族の一員を斬り捨てる。
「斬るのは古月一門のみ。
雑人共は、さっさと退け!
然らば殺戮に巻き込まれるぞ!」
方源が咆哮すると、衆人は総崩れに後退する——まさか方源がここまで狂うとは。
「方源め、正気を失った!」
「理性など吹き飛んでいる!皆、寄ってたかって倒せ!」
「そうだ!このままでは一代様が敵を倒す前に、我々(われわれ)が方源に殺され尽くしてしまう……!」
方源は蜂の巣を突いたかの如き騒然とした状況を生んだ。激しい怒りながらも誰一人直ちに手を出す者は無く、叫びや扇動の声が飛び交う中。
「はっはっは!面白い!」
白凝冰が不意に爆笑し、手を翻してすぐ側の者を斬り捨てた。
「白凝冰様!貴様は――!」
倒れたのは、紛れもなく白家の一員であった。
「遭った!白凝冰様までもが狂ったぞぉ!」
衆人は魂すら凍るほど震撼した。
方源の目つき(めつき)が鋭くなる。白凝冰を射るように見つめる――ここまでの豹変は予想外れだった。
白凝冰は狂気を撒き散らす笑いを漏らし答えた:「お前が同族を斬るなら、我れも負けておられんわけだ」
「まことに…万事休す。如何なる結末であろうとも、犠牲は大き過ぎる。白家寨はすでに塞として成り立たぬ」
「唯一、恩ある者であった族長すら逝ってしまった」
「…ならば全員を道連れにして、絶景の華を飾ろうではないか」
「ウッフフ、それならこれ以上ないほど良い。」方源は高らかに笑い、影がひらりと移動し、大虐殺を開始した。
これらの同族はどうせ死なねばならぬ、それなら死ぬのは己の手の中で、彼方源のため、古月一代のためではない素質増強に。
血天蓋の中のこれら人々(ひとびと)が、方源と白凝冰が連携した敵に到底なるはずが無い?特に白凝冰は、死の淵に瀕しているため、実力が強く、方源よりもはるかに多く殺戮した。
方源はその背後で止めを刺し、血を抽した。
百人を殺した後、血颅蛊は限界に達し、水晶の頭蓋骨の表面が滴り落ちんばかりの深紅になった。
方源は高笑いし、血颅蛊を駆動させ、頭頂に懸ける。
頭蓋骨の歯並びの間を開け、一口の清冽な血の泉を吐き出し、方源を頭から足の先まで浴びせた。
方源はそれを甘美に感じ、深く息を吸い込み、この一切を全身で享受した。
彼は黒髪に黒衣、その上全身血浴びの状態で、まさしく地獄から現れた悪鬼や魔頭そのものだった。周囲の人々(ひとびと)はそれを見て、心臓が凍りつき胆を潰し、悲痛な悲鳴を上げた。
「素質、本当に上昇したぞ!」方源の素質はもともと丙等四割四分で、その後、人獣葬生蛊のせいで四割三分に低下していた。しかし今、血の泉が体に染み込み、空竅を灌漑して、素質は瞬く間に一割上昇した。五割三分に達したのだ!
「本当に良い宝物だ、道理で古月一代が命の如く珍重していた訳だな!」方源は目を見開き、満足そうにうなずくと、新たなる殺戮を開始した。
二人は血天蓋の中で、血と惨劇の嵐を巻き起こした。
これは一大の虐殺だった。
「方源、この人外め!悪魔の所業!」古月漠颜が飛びかかってきた。
方源は体をかわして彼女の攻撃を避け、それから高々(たかだか)と掲げた鋸歯状の金色蜈蚣刃を一閃した。
少女は真っ二つに斬り裂かれた。
「方源、お願いだ、見逃してくれ!私たちはお前の叔父と叔母だぞ!」古月冻土とその妻が跪いて命乞いをした。
方源は冷笑し、左手を一振りすると、血の色をした月牙刃が飛翔し、二人分の生首が地面に転がった。
……
はい、承知いたしました。以下に逐語訳を記載します。
血颅蛊は同族の血液を貪るように吸収し、精華である血の泉へと凝練し、再び方源を灌いだ。
「快楽よ…」方源は目を閉じ、深く息を吸った。ほんのり温かい気流が全身を巡り、精神が喚起され、新しい生命を得た感覚を覚えさせた。
素質はさらに一割向上、六割三分に達した!
蛊師の素質は五割が丙等、六~七割(ろく~ななわり)が乙等、八割以上が甲等である。
方源は今この時、正式に丙等を脱し、乙等の素質となった!
「だが、俺の修为は下がってしまった…」方源は目を見開き、眼光を沈めて凝らした。
方源の素質は乙等に上昇したが、修为は三转から二转へと低下していた。
不思議でもあり奇妙でもあるわい!
明らかに古月一代は、修为が寸分も減ることなく、素質が増大していたのに、どうして方源の体になると、このような問題が起きたのか?
「これは厄介だ。原因は石窍蛊にあるな!」方源は心中で嘆いた。
彼方源はかつて石窍蛊を発動し、自身の空竅の潜在力を搾り尽くし、修为を急増させて三转の頂点まで到達させた。しかしこの血颅蛊は、精華の血泉を灌漑し、空竅の中の潜在力を増大させ、方源の素質を高めるものだ。
疑問の余地なく、この二つの蛊は相容れない衝突を起こす。
しかし血颅蛊は高く四转級であり、石窍蛊は三转に過ぎないため、血颅蛊が石窍蛊に上位に立ち、それ故に方源の空竅は徐々(じょじょ)に石質の状態から、再び光膜へと戻り変わっていった。だが石窍蛊がもたらした修为向上の効果も消え失せ始め、遂には方源の修为境界を削減し始めた。
これらの変化は、方源も短時間の内には予測し得なかった。
しかし白凝冰はますます強力になり、彼は四方八方を殺し回っているので、方源は手間を省き労力を節約でき、もはや自ら出手することはなく、同族の血脈を相変わらず採取し続けた。
血天蓋の外の古月一代は、数多の人が虐殺される様子を目にし、激怒して躍り上がり、幾度も喚き叫んだけれども、どうすることもできなかった。
彼はこの遺伝血脈を継承し、数百年も守り続けてきたのは、己の血脈を斬り捨てて自らの素質を向上させようとしたためだ。これほど長い間計画を練り上げてきたが、結局は他ん人のために花嫁衣裳を仕立ててやる結果となった。
「この小僧、若いくせに、これほどまでに非情で冷酷だ。彼の祖先よりもなお魔性が深いな!」天鶴上人はそれを見て、やはり心の奥底で恐れおののいた。
虐殺は相変わらず続き、二、三時辰ほど経過した後。
方源の修为は一转初階にまで下落したが、空竅は元の光膜状態に戻り、真元を自動再生できるようになった。
彼は相次いで近く十度も血浴びをし、後期に進むほど、効果は徐々(じょじょ)に低下していった。最初の二、三度はまだ一割ごとの増加だったが、後になるに従って数分ずつの上昇になっていった。
だが彼の素質は、元の丙等四割三分から、直接九割の数へと急激に跳ね上がった。
素質九割、これぞ甲等の天賦!!
甲等の天賦だ!!
「五百年前世では、俺は二百余年後に至り、運に頼って丙等の素質を乙等まで上げた。思いもよらなかった、今回は災いによってかえって福を得、直接甲等に上昇するとはな。」方源は拳を握り、心の内で密かに奮い立った。
白凝冰が殺戮を止め、近づいて言った:「次は、どうする?」
血天蓋の中には、彼ら二人だけが残り、他の者たちは、蛊師であれ凡人であれ、皆殺しにされた。
血天蓋の外では、二人の五转強豪の激戦に巻き込まれ、とっくに誰一人として免れる者はいなかった。
戦場全体に残るのは、血天蓋の中の二人と、血天蓋の外の二人だけだった。
方源は視線を天蓋の外に向け、悠々(ゆうゆう)とした口調で言った:「次は、古月一代が敗走し、血幕天华が消えるのを待つだけさ」
「その次は?」白凝冰が詰め寄るように訊いた。
「それから?」方源は体を半ば向け、白凝冰を一瞥し、笑いながら言った:「それからお前は死ねばいい」
白凝冰は呆然とした。
「おや?どういう意味だ?」直ちに彼の両目は細い縫い目のように見え、幽かな青みを帯びた瞳の奥に危険な殺意が宿った。
「北冥氷魄体の自爆は強力だ、お前の修为は低いが、わずかな望みはあって五转強者に匹敵する。自爆する時、霜の行方を制御できるだろう?」方源は笑って言った。
「俺にわかるかよ?」白凝冰は口元を歪めた。「爆発させたことないのに!」
「俺は知っている、お前にはできる!」方源は朗々(ろうろう)と笑い、彼の胸を叩いた。否応なく、彼の脳裏には以前、白凝冰が自爆して命を落とした光景が浮かび上がった。
そしてあの言葉も――
「俺に代わって生きろ、この世の万般の精彩を目撃しろ!」
「俺はお前のそばに残る。お前が自爆した後、時機が熟すれば、俺は命を救い、お前を起死回生させる」方源は言った。
「もしその時、お前が救ってくれなかったら?」
「フフフ」方源は淡く笑った。「ならお前は思い切って賭けてみる必要がある。お前が自爆する時、俺は一とお前のそばにいる。もし俺の誠意を疑うなら、いつでも氷潮を爆発させて俺を殺せる。思うに今お前も感じているはずだ、そう、俺の修为は一转初階まで落ちている。その時には、俺にはどんな抵抗の力もない」
「だがもしお前が俺を信じるなら、それも俺がお前を欺く可能性があるということで、結局復活させるつもりはないかもしれない。そもそも俺に復活させる能力など全く無い。だからお前は賭けてみる必要がある。どう選択するかは、今お前がどう考えるかだけでなく、お前が死を間近にした時に、どう考えるかにもかかっている」白凝冰は黙り込んだ。
方源のこの言葉は彼に賭けてみろと言うものだった。実のところ、方源自身も賭けているのではないのか?彼は自らの命を賭け金とし、すべては白凝冰がどう考えるかに懸かっている。
「はは、本当に見事で面白い!なら俺も賭けてみるよ、ハハハ!」しばらく経ってから、白凝冰は仰向けに頭を反らせ、手の平を叩きながら大笑いした。
方源は彼を気にかけず、血天蓋の外の戦いに集中した。
果たして彼の予想どおり、古月一代は劣勢に陥り、天鶴上人に完全に押さえ込まれていた。
彼は真元を補給したとはいえ、使えば使うほど減り、持久戦では天鶴上人の消耗戦に到底太刀打ちできない。
況して天鶴上人も既に彼の手口を把握しており、古月一代が軽く形勢を逆転させることなど更に許さなかった。
「まったくもって腹立たしいわい!」更にしばらくして、古月一代は天を仰いで悲愴に嘯いた。「小僧め、お前は俺の百年大計を台無しにした。今日はひとまず見逃してやるが、将来必ずやお前を殺し、心頭の恨みを晴らしてくれるわ!」
この捨て台詞を吐くと、古月一代は両翼を激しく羽ばたかせ、天の彼方へと飛び立ち、戦場から逃げ去った。
「逃がすな!」天鶴上人は慌てて光へと変わり、後を追って離れなかった。
彼ら二人の激戦の音が無くなると、この戦場は即座に静寂に包まれた。
これは逃げ出す絶好の機会だったが、血幕天华が巨大な障害となっていた。
約二时辰が経過すると、血天蓋は徐々(じょじょ)に薄くなり、まさに消え去ろうとしていた。
しかしその時、一筋の白い光が遥か遠くから飛来し、天鶴上人へと変貌した。
彼の体には負傷があり、その傷口は左肩から腰の横腹まで伸びており、深くて骨が見え、紫がかった赤い毒血が流れていた。しかし天鶴上人は精神が極限まで昂揚しており、大きな仇を討った快感に満ち溢れた歓喜の色を帯びていた。
彼の右手には生首が提げられており、乱れ髪に血まみれの顔こそが、他ならぬ古月一代だった!
「まさか本当に古月一代を殺したのか?」白凝冰は驚異の表情を浮かべた。
方源は笑いながら言った:「見たところ、この老いぼれも相当古月一代を憎んでいたらしいな。ウフフ、彼が古月一代を斬り殺すのに、必ずや凄まじい代償を払ったに違いない」
話している間に、血天蓋は完全に消え失せ、二人にはもはや何の障壁も無くなった。
「そこの小僧ども、速やかにあの二匹の蛊を献上しろ。老夫は今機嫌が良いから、まだお前たちの命を助けてやってもいい。さもなければ、この血天蓋が消えた後には、必ずやお前たちを死体すら葬る場所も無いほどにし尽くしてくれるぞ!」天鶴上人は半空に浮遊し、傲然として見下ろしながら、高笑いした。
方源と白凝冰は互いに一瞥し、淡く笑ったが、口を開こうとはしなかった。
天鶴上人は激怒した:「生意気な小僧め、素直に従わぬならば力で従わせるぞ、殺してしまうぞ!」
言葉の余韻が消えやらぬ間に、彼は一筋の白い光に変わり、襲いかかってきた。
白凝冰は昂然と笑い、一歩大きく前へ踏み出した:「待ってたぜ!」
そう言うと、彼の皮膚は完全に血の気を失い、徹底的に一つの氷像と化した。
寒風が突然巻き起こり、轟音を立てて狂ったように吹き荒んだ。氷霜が充満し、果てしなく広がる氷河が湧き上がった。
「これはまさか!」天鶴上人は万にも想定していなかった、このような変化が起きるとは。この白凝冰に不意を突かれ、氷の中に封じ込まれてしまった。