天鶴上人は顔面に凶猛な形相を漲らせ、双眸に突如兇光が閃く。不意に手を翻し、鳥翼の如き箭雨を撒き散らした。
箭雨は古月一代を狙撃せず。血鬼屍へと変貌した彼の防御は卓抜し、効果的な攻撃を奏させるのは困難だったからだ。
鳥翼の箭雨が天から降り注ぎ、数多の蛊师が身体を貫通され、瞬時に命を落とした!
同時に、天鶴上人の両眼より白烈の光芒が迸り、二条の白焔光柱が山寨を掃射。
光線が到達した所では:
竹楼は木端微塵に砕け
舗石は粉々(こなごな)に崩解。
人の身体に照射されれば、筋肉も白骨も、陽炎に晒された雪片の如く溶解消融した。
五轉蠱師の手が下り、瞬時く間に大量の犠牲者を生じた。
悲痛な叫び、恐怖の悲鳴、絶望の喚声が絡み合う。
一本の鳥翼箭羽が方源めがけて飛来。方源はさっと傍らにいる者を無造作に掴み、遠くへ放り投げた。鳥翼箭羽はその者の頭蓋骨を易々(やすやす)と貫通し、刺さったまま動かなくなった。方源は流れるように転がり、鉄嘴飛鶴の鉤爪をも回避した。
三轉と五轉の差は天淵、太刀打ちできるものではない。白凝冰でさえ今や回避行動を繰り返すのみ。傷を負う度に、北冥冰魄体が治癒するが、それこそが死への限界を一歩ずつ近づけている。
五轉蛊師は、最早人界の頂点に立つ存在であった。
「手を住めろ!」古月一代が絶叫する。眼下で蛊师たちが虐殺される様に、心臓が裂けんばかりの痛みが走った。
彼が山寨を築き、血脈を伝えたのは、単に身を隠すためではない。数百年かけて練り上げた百年大計であった。一族の子弟こそが、彼が数百年かけて育て上げた実りある成果だった。今天鶴上人に破壊されるその光景は、まさしく古月一代の数百年の心血が踏みにじられる瞬間であった。
止むを得ず、古月一代は天鶴上人への攻撃を断念した。刀翅血蝠蛊も血滴子も方向を変え、山寨へ飛び降り、鶴群の攻撃から防衛を始めた。
天鶴上人は高笑いを放つ。血海伝承は攻撃を重んじて守備を軽んじており、古月一代のこの選択は、自らの長所を捨て、短所で当たろうとするものだ。
彼は古月一代を隅から隅まで知り尽くしており、その企みも理解していた。だからこそ、あえて古月一族の者をわざと見逃し、今この時にとどめを刺そうと、見事に古月一代を右往左往させ、自れの危機を鮮やかに脱したのだった。
「しまった!」
戦況が膠着状態に陥ったその時、古月一代が突然叫び声を挙げた。全身に無数の鉄鎖の黒影が浮かび上がった!
その影は瞬時に虚から実へと変わり、まさしく無数の鉄鎖が連環を成して、蛇や蟒の如く古月一代の周囲を絡みつき、文字通りに彼を「五花十色に縛り上げて」しまった。
長細い黄紙の符が次第に浮かび上がり、丁度古月一代の眉間に貼り付いた。
バン!
鉄鎖に緊縛された古月一代は、翼を開くこともかなわず、墜落して地面に叩きつけられた。
この劇的な変事は、古月一代自身を震駭させたばかりか、天鶴上人さえも一瞬呆然とさせた。だが後者は即座に狂喜乱舞の哄笑を放った:「なるほどな、鎮魔鉄鎖蠱と符底抽薪蠱だったかッ!ガハッハッ!あの神捕とやらも全くの役立ち外れではなかったようだなッ!愛しき師兄よ、今日こそ貴様の最期と決まってんだッ!」
両方の蠱は、いずれも鉄家寨の看板となる蛊虫だった。
鎮魔鉄鎖蠱は蛊師の動きを縛り付け、身動きも取れず、なすがままにされる。
符底抽薪蠱は蛊師の体内から蛊虫を抜き取り、封印することさえできる。
鉄血冷はこの二つの蛊で、数多の魔道蛊師を生捕りにしてきたが、今古月一代に行使されたのだ。
「いったいいつ仕掛けられた!?」古月一代は怒りと驚きが交じり合っていた。
鉄血冷を仕留めた最後の瞬間を脳裏に再現する——
青銅の仮面が飛び出し、角張った顔面を露わにする。
死が確実な状況というのに、その顔に一片の恐怖もなく、双つの眼差しは人生を経た確固とした意志を宿していた。
血痕の付着した掌がごくわずかに上がり、暗に古月一代の胸を微かに叩いたのだった。
だがその程度の力は取るに足らず、古月一代は当時は全く気にも留めなかった。
「まさしくあの時だったのか! 悔しいぞッ!もし生き身なら直ちに感じ取れたものをッ!」古月一代は深く悔恨する。だが僵屍の躯は、剛健で防御に優れる反面、感覚が鈍麻していたのだ。
血鬼屍への転生にも多きな弊害があって。本来の寿命ならとっくに死んでいる身であり、天に背いて命を伸ばせば代償がないはずがない。
「ガハハハッ!」天鶴上人は哄笑を轟かせ、気勢を急上昇させつつ古月一代に殺到する。
古月一代は防戦するしかなく、当然のごとく絶体絶命の劣勢に立たされた。
鎮魔鉄鎖蠱は彼の胴体を縛るだけでなく、黒き鉄鎖の虚影が空窓内に浮かび上がり、全ての空窓を封鎖せんと押さえ込もうとする。
真元の海は煮えたぎる湯のように沸騰し、無数の蛊虫が空窓を乱舞し、鎮魔の圧迫に抗う。
かくして古月一代の真元消耗は、激烈を極めた。
「お前の負けは決まった、覚悟しろ!」天鶴上人の攻勢は怒濤の如く、次々(つぎつぎ)と続き、全くの捨て身であった。
古月一代は全身傷だらけ、胸には青白い屍骨が露わに、両腕も天鶴上人に肩口から斬り落とされていた。
天鶴上人が勝利目前という刹那、古月一代が突如異様な金切り声を放つ。
「キャアーン──ッ!」
音波が一筋に集束し、耳を刺すような轟音が天鶴上人を直撃する。
その声を聞いた天鶴上人は、あたかも巨弾を受けたが如く、数十歩も吹き飛ばされ、白眉がピンと逆立つ。そして真っ逆様に墜落し地面に叩きつけられた。
必死に起き上がった彼の眼窩・鼻の穴・両耳・口角から鮮血が噴出する。残響が体内を暴走し、血液を逆流させ暴走させる。一瞬身動きが取れなくなった。
数多の蛊師が好機と見て、遠方から月刃や水弾を放ったが、悉く天鶴上人の光輪に阻まれる。
十数羽の飛鶴が群がって古月一代に襲いかかるも、鉄嘴は血鬼屍の躯に当たるや、鋼鉄の皮膚に激突したかの如く、折れる音がボキボキと響き、悉く砕けた。
五轉蛊の防御は並々(なみなみ)ならぬもの。仮え方源が鋸歯金蜈蚣を駆使して血鬼屍の体躯を絞磨しても、一刻の半を費やしても肉片ひとつ削り落とせないだろう。
今この戦場で互いに脅威となり得るのは、唯この二人の五轉蛊師のみである。彼らは無惨な姿ではあるが、真元が尽きるまで、他の者は指を加えることさえ難しく、何の手出しもできないのだ。
天鶴上人は飛鶴が短くも功を奏せず、飛鶴王も血蟒蠱と戦い遠方に離れていることに気付いた。自らも血の巡りに乱れ身動きが取れぬため、両眼を固く見据え、全精神を揚眉吐気蠱に注ぎ、真元消耗を劇的に加速させた。
これが古月一代にとんでもない命取となる!
真元の海が急激に枯渇しはじめる。完全に尽きれば、蛊虫は真元の支えを失い、鎮魔鉄鎖蠱の圧迫に抗えない。ひとたび鎮魔鉄鎖蠱が完全に封印したなら、符底抽薪蠱が発動し、蛊虫を一個一個抜き取ってしまうだろう。これこそ本当に万事休すとなる!
「急げ!白眉の老を抑え真元を催せ!我が力となれ!」古月一代が焦燥の声を張り上げた。
「助太刀だ!」
「初代の祖を助けるんだ!」
「皆でかかろう!」
大群の蛊師が蟻の群のように押し寄せた。古月の一族ばかりか、白家・熊家の蛊師たちまで駆け付けてくる。
古月一代すら斬り切れないこの白眉の老人に、彼らの手段など到底及ばない。ただ古月一代の言うままに、次々(つぎつぎ)と手を伸ばし白眉の体を掴んだ。
その手が触れた瞬く間に、白眉から糸状の気が分岐し、鋼の如く手首から腕へ、さらに全身へと絡み付いてきた。
「うっ…ぐぎゃあッ!」
絶叫が途切れることなく響き——
一轉・二轉の蛊師たちの真元が、五轉の真元と消耗し合えるはずがない。瞬く間に枯渇し、真元海は見る見る減り、空窓は完全に干からびた。やがて裂け目が生じ、最終的に崩壊散滅した。
空窓は人体の要たる要害で、心臓よりもなお重要。空窓が破れた途端、数多の蛊師が両眼を白黒に剥き、その場で命を落とした。
「くそッ!」古月一代が怒声を放つ。鎮魔鉄鎖蠱は締まる一途で、皮肉に食い込み、白骨をギシギシと軋ませる。
本来なら鉄血冷が死んでいる以上、この鎮魔鉄鎖蠱は蛊師の真元なくして稼動できぬはずだった。だが血狂蠱に汚染された結果、自ら大気中の元気を吸収できるようになっていたのだ。さらにこの鎮魔鉄鎖蠱には、鉄血冷が古月一代を封ぜんとする意志が宿っていた。
真元消耗が急激すぎて、古月一代は徐々(じょじょ)に限界を迎えていた。
その光景を目にした駆け付けた大勢の蛊師たちの足が、思わず滞った。
「恐れるな!一代が敗れれば、我々(われわれ)も皆死ぬのだ!相手が手を貸すとでも思うのか!?」方源が一声叫ぶと、古月一代の側へ駆け寄り、一つ掴んで白眉を握った。
千里地狼蛛は既に死んでおり、相手は飛鶴で追撃できる。独りで逃げるのは全くの望み薄だ。
逆に古月一代を助けることこそ、双方を共倒れさせ、漁夫の利を狙う可能性があるのだ。
白眉は鋼のように方源の手首を緊縛し、腕を伝い、蔦が狂い茂るように腰へ蔓こる。空窓内の雪銀真元が急減する。方源は歯を食いしばり、黙々(もくもく)と耐えた。
彼の行動は模範的な影響を及ぼし、他の蛊師たちも続いて雪崩れ込んだ。
「皆で力を合わせれば必ずしも死なずに済む!」
「そうだ!人数こそが力だ!」
「ふん…どうする?戦うしかあるまい…」
無数の手が白眉へと重なり、絶え間なく蛊師が命を落とす傍らで、新たな蛊師が空白を埋めるように真元消耗戦に加勢した。
「フゥハハハッ!五轉と手を合わせられるとは、何と刺激的だ!」白凝冰も掌を押し当てた。
「生死はこの一か八だ」熊驕嫚も同様に進み出る。
方正の姿は見当たらなかった。彼は野外で迷子になり、山寨へは逃げ延びられず、もはや生死も分からぬ絶体絶命であった。
時間はこの瞬間、異様に長く重苦しく流れる。
刻一刻と蛊師の命が失われていく。何人かが天鶴上人を襲撃するも、白き光輪は微動だにせず、泰然として悠然と構えている。
三轉蛊師だけが辛じて消耗戦で踏み止まれる状態であった。
数多の蛊師が自信を失い、躊躇の色を面に浮かべ始めた。