煉化の最中、蛊の反噬が発生!
花酒行者の強靭な意志を継承した酒虫が空竅に侵入し、方源に猛然と反撃を仕掛けてきた。
この強力な意志の力は上から下へ、空竅の底部にある青銅元海を目掛けて激しく襲いかかる。
青銅元海は逆巻く波のように激しく揺れ動き、方源の意志によって大きな真元の流れが天を衝く大波となり、酒虫の意志に立ち向かった。
両者の力が空竅の中央で激突しようとする瞬間、両勢力の間の空白の領域に、かすかな蛊の虚影が浮かび上がった。
それは一匹の蝉であった。
その蝉は小さな体をしており、月光蛊が青く輝く月の形をした水晶であるなら、この蝉は職人が茶色の木と葉で作った精緻な工芸品のようであった。
頭部と腹部は茶褐色で、表面には木の年輪のような模様が刻まれており、長い歳月を経たことを思わせる。
背中の翅は幅広く半透明で、二枚の葉が重なっているかのようであった。両方の翅には非常に似た葉脈のような模様があり、中央の太い茎から両側に網目状の紋様が広がっている。
春秋蝉!
それが目覚めた。
あたかも巨獣が洞窟に潜んで眠っていたが、突然目覚め、自分の縄張りが侵されたことに気付いたかのようであった。
「誰が我が領域を犯すのか!」
尊厳を汚されたとでも言うように、春秋蝉は怒り狂い、一筋の気を放った。
その気は微かでありながら、同時に圧倒的な強さを有していた。まるで天から流れ落ちる大河が、万里の山々(やまやま)を飲み込み、果てしない砂漠を水浸しにするかのようであった。
この気と比べれば、酒虫の意志は蟻が象を見るようなものだった。
気は周囲に広がり、見えざる大津波となって酒虫の意志を飲み込んだ。抵抗する余裕もなく、酒虫の意志は完全に消え去った。
方源は胸が締め付け(つけ)られるような感覚に襲われた。天山にぶつかる波のように、集結した青銅真元が粉々(こなごな)に砕け、雨のように元海に降り注いだ。
ざあざあ――
真元海は暴雨に打たれたように激しく揺れ動いたが、数回の呼吸後、春秋蝉の気が元海を静め落ち着かせた。
ドォン! 方源は耳鳴りのような音を感じた。瞬時に波濤が渦巻く元海が完全静止した。
春秋蝉の気配が元海全体を締め付け、無形の巨山が鎮座するが如く、海面は微動だにせず鏡面のように平らかだった。
皺だらけの紙が巨人の掌で押し潰され平らにされるような圧倒的な力。
方源は心臓に山を載せられたような重圧を覚え、孫悟空が五行山に封じられたように、一片の真元も動かせなかった。
だが驚きよりも烈しい喜びが胸を湧き上がらせた。
「春秋蝉が私と共に転生していたとは! この蛊は消耗品ではなく再利用可能だったのか!」
六転という最高品級を誇る春秋蝉は、前世の方源が全財産と三十年の歳月を費やし完成させた最高傑作。
だが完成直後、正派の攻撃により方源は死亡。転生後、春秋蝉の気配を感知できず消滅したと思い込んでいた。
実際は方源の体内に宿り、五百年の時空逆行による消耗で衰弱しきっていたのだ。
今現れた春秋蝉の姿は痛ましい。
記憶の中では、躯幹は高級木材のような光沢を放ち、翅は若葉のような嫩緑色をしていた。
しかし現在、躯幹は枯れ木のように荒く、翅は秋の終わりに散る枯れ葉のような黄褐色。翅先は欠け、枯葉の縁のように巻き上がっていた。死の気配が濃厚に漂っている。
これに対し、方源は胸が痛むと同時に安堵していた。
痛みの理由は、春秋蝉が崩壊寸前——崖っぷちに片足を突っ込んだ状態——であること。
安堵したのは、春秋蝉がこの程度まで衰弱していたからこそ、自らの命が助かっているという現実だった。
蛊師と蛊の関係は相互補完が最適で、同階級であることが望ましい。
一転蛊師が一転蛊を使うのが最適解だ。蛊が低ければ大男が小枝を振り回すような非効率、高ければ子供が重い斧を担ぐような危険を伴う。
六転蛊虫である春秋蝉と一転初階の方源は、山と栗鼠の関係に等しい。栗鼠が山を背負って戦えば即ち圧死する。
もし春秋蝉が全盛期なら、方源の空竅など瞬時に破裂していただろう。虚弱極まった今だからこそ収容可能なのだ。
「月光蛊を捨て酒虫を探し求めたが、実は既に本命蛊を有していた。春秋蝉こそが私の本命蛊なのだ!」
蛊師にとって最初に煉化する本命蛊は将来を左右する。優れた本命蛊は成長を加速し、劣るものは足を引っ張る。
方源は古月山寨最高の月光蛊さえ不満で酒虫を選んだ。彼の記憶では、酒虫は一転蛊師にとって最上級の選択肢だった。
しかし人生の妙は予測不能にある。
前世で煉化した春秋蝉は転生後も契約を保持していた。時の川を遡った影響か、絆は前より深く神秘的になっていた。ただ衰弱が著すぎて気付かなかっただけだ。
つまり真の意味で、春秋蝉は方源最初の本命蛊——前世五百年の結晶として存在する。
一転蛊師が六転蛊を本命とする事実は常識を超越している。誰も信じまいが、紛れもない現実だ。
「酒虫は最良の選択だったが、春秋蝉と比べれば塵同然! 哈哈哈!」