表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
蛊真人  作者: 魏臣栋
青茅山
183/457

第百八十二節:血湖墓地

「誰もやしない!」いえじゅうさがまわった古月博こげつはくだが、方源ほうげん姿すがたつからなかった。胸中きょうちゅう巨石きょせきのようにおもく、方源ほうげん失踪しっそう鉄血冷てっけつれい消失しょうしつ容易よういむすびついた。


方源ほうげんはどこだ?!」みずったような表情ひょうじょう古月博こげつはくが、けた鉄若男てつじゃくなん爆発的ばくはつてき怒声どせいびせる。


方源ほうげんがどこにいるかなんて、おれるものか!」鉄若男てつじゃくなんあつ微動びどうだにせず、四転してんつよものを前にしてもまったひるまない。


「では血冷けつれいはどこへえた?鉄家てっけむすめよ、説明せつめいしてくれんか?」いながら古月博こげつはくはじりじりと若男じゃくなんる。


少女しょうじょはわずかに呆然ぼうぜんことはじまりからしてずっと気味きみわるかったのだ。


「元々(もともと)の計画けいかくでは、彼女かのじょちち来年らいねんにここへ予定よていだった。当時とうじ鉄血冷てっけつれいべつ事件じけん調査中ちょうさちゅうで――そこへ突如とつじょてんからりた一羽いちわ白鶴はくかくあらわれた。


白鶴はくかく一巻ひとまき書簡しょかんくわえて、鉄血冷てっけつれいわたす。


鉄血冷てっけつれいがその書面しょめんえっしたあと突如とつじょ計画けいかくえ、手掛てがけていた事件じけん中断ちゅうだんして青茅山せいぼうざんおもむいた。


もしこの書簡しょかんとどいていなければ、鉄家てっけ父娘ふじょうがこんなにはやくここへることは不可能ふかのうだった。


むすめとして、鉄若男てつじゃくなんちち理解りかいしている。通常つうじょう重大じゅうだい案件あんけんなら鉄血冷てっけつれいはそう決断けつだんするものだ。


だが彼女かのじょ不可解ふかかいはここにあった――青茅山せいぼうざん事件じけんは、所詮しょせん賈金生かきんせい死亡事件しぼうじけんぎないのでは?



賈金生かきんせいは、賈家かけ家産争かさんあらそいにからんでいるとはいえ、事件じけん重大性じゅうだいせいはあくまで凡庸ぼんようで、神捕しんぽがここまで注目ちゅうもくするレベルにはとおおよばなかった。


鉄若男てつじゃくなんはこのてんをずっと不審ふしんおもっていた。


しかもいま鉄血冷てっけつれい神秘しんぴ的に失踪しっそうし、じつむすめにすら一言ひとことげずにえた。


ちち一体いったいどこへ?なにをするために?


父上ちちうえ、あんな古傷ふるきずかかえているんだから※、絶対ぜったいに…おからだ大事だいじにしてください!」若男じゃくなん心配しんぱい胸中きょうちゅう渦巻うずまく。


こうした状況じょうきょうは、じつ過去かこにも数回すうかいあった。そのたびに、鉄血冷てっけつれい強敵きょうてき対峙たいじし、若男じゃくなんへの気配きくばりも出来できひとりでたたかいへおもむくのだった。


かれからだきざまれた負傷ふしょうこそが、過去かこ同様どうよう状況下じょうきょうか強敵きょうてきからけた深手ふかであかしだった。



父上ちちうえ五转蛊師ごてんこしきずってはいるが、普通ふつう四転蛊師してんこしなどてきではない。父上…しんじてる、かならかえってくると!」鉄若男てつじゃくなんひとみひかりまたたいた。


古月博こげつはくがじりじりるなか、少女しょうじょかおを上げ、りんとして見据みすえた:


説明せつめい説明せつめいしいとでも?おしえてやるとおもうか?」


古月博こげつはく表情ひょうじょうがさらにけわしくなる:「小娘こむすめくちかたいな。…ならおまえらえ、方源ほうげん交換こうかんするまでだ!」


「ふふふ…」鉄若男てつじゃくなんぎゃくわらした:「古月族長こげつぞくちょう本気ほんきせるものか?わが叔父おじ当代とうだい鉄家てっけ族長ぞくちょうだ。鉄家てっけ戦端せんたんひらくおつもりか?」



古月博こげつはくあしくぎづけされた。焦燥しょうそうられてわすれかけたが――


鉄家てっけか!


あれは数千年すうせんねん伝統でんとうほこ名門めいもん不朽ふきゅう権威けんいだ。鉄家山寨てっけさんさいそびえる鎮魔塔ちんまとうは、無数むすう魔道蛊師まどうこし幽閉ゆうへいする正派せいは巨頭きょとう象徴しょうちょう※1。


古月一族こげついちぞく中規模ちゅうきぼの一族にぎず、賈家かけおよばない。しかも賈家かけいたっては新興勢力しんきょうせいりょくで、鉄家てっけとはくらべものにならない!


南疆なんきょう全域ぜんいきとおしてみても、鉄家てっけ影響力えいきょうりょくにぎ一流勢力いちりゅうせいりょく根深ねぶか歴史れきしきず巨大きょだい権威けんいなのだ!



「お言葉ことばえましょう」鉄若男てつじゃくなんこえやわらぐ:「古月こげつ族長ぞくちょう敵対てきたいするつもりはございません。わたし誠意せいいしんじてください。ちち行方ゆくえりませんし、げ出すつもりもありません。鉄家てっけ逃亡者とうぼうしゃ臆病者おくびょうものはおらず、戦死せんしおにのみ※1。わたしさないばかりか、賈金生かきんせい殺害さつがい犯人はんにんかなららえてみせます!」


方源ほうげん犯人はんにんとはかぎらぬ!」古月博こげつはくまゆをひそめ、眼光がんこう凶刃きょうじんのごときかがやきを宿やどした。


「だが可能性かのうせいはある!」鉄若男てつじゃくなんえて挺然ていぜんと立ち※2、英気えいきあふれて一歩いっぽかなかった。


両者りょうしゃにらいはやや長引ながびいた。


鉄若男てつじゃくなんくちひらく:「方源ほうげん失踪しっそう逃亡とうぼう可能性かのうせいたかく、うたがいはふかまった。だが私はけっして――無実むじつもの冤罪えんざいおとしいれはしない!」


ねがわくはそうあれ!」古月博こげつはくそでをひらりとるとっていった。


一刻いっこく前……


ごぷごぷ、ごぷごぷ。


元泉げんせんうずなくき上がり、一輪いちりんはす虚影きょえいのように泉水せんすいしずむ。


ひとつまた一つと元石げんせき方源ほうげんからいずみまれ、天元宝蓮てんげんほうれん輪郭りんかく次第しだいにくっきりと。


同窓会どうそうかいでの供物くもつである一万塊いちまんかい元石げんせきに加え、古月漠塵こげつばくじんから分割ぶんかつ支給しきゅうされた四万塊よんまんかいをすべてそそいだのに、どうしてまだ実体じったいあらわさぬ?」


水晶壁すいしょうへきしに元泉げんせん凝視ぎょうしする方源ほうげん眉根まよねかすかな疑念ぎねんきざまれる。


天元宝蓮てんげんほうれんきわめて貴重きちょう六转ろくてん昇華しょうかすれば、その価値かちせみにもけをらぬ※1。


前世ぜんせでさえ伝説でんせついたことがあっても、実際じっさいにしたことはない。


ゆえこんのこのはじめての邂逅かいこうに、一抹いちまつ不安ふあんきまとうのも無理むりはなかった。


だがかれはすぐにこころととのえ、自嘲じちょう気味ぎみわらった:


合計五万塊ごうけいごまんかい元石げんせき十二分じゅうにぶんだ。おれ一体いったいなにようとしてうしなうことをおそれているのだ?


たとえ煉化れんか失敗しっぱいしようと、何が問題もんだいか? ふっ」


この思いがあたまをよぎると、かれはもはや躊躇ちゅうちょなし。ふかいきみ、ひるがえしてかべんだ!


このかべ通堑蛊つうけんこしたもの。


方源ほうげんがぶつかるや、みずんだように壁面へきめん波紋はもんはしり、瞬時またたかれんだ。


泉水せんすい即座そくざ四方八方しほうはっぽうからつつむ。


水中すいちゅう方源ほうげん見開みひらいたが、天元宝蓮てんげんほうれんえなかった。天元宝蓮てんげんほうれん採集さいしゅうまえ水晶すいしょうしでなければ、ひと肉視にくしではとらえられぬ。


方源ほうげん予想よそうみでどうじなかった。先刻さっき距離きょりし、光線こうせん屈折くっせつすら計算けいさんしていた。記憶きおく辿たどり、前方ぜんぽうばしつかんだ!


この一掴ひとつかみは、魔法まほうごと妙技みょうぎだった──


からゆうしょうじ、一輪いちりん蓮華れんげ現出げんしゅつさせた!


青白あおじろまった花弁はなびらじたまま、ランタンのようにふっくらとふくらみ、神聖しんせい雰囲気ふんいきただよわせている。しかしそのはすには意思いし宿やどり、方源ほうげんつかまれながらも、かすかに抵抗ていこう気配けはいせていた。


しかしこれも些細(ささい)なこと!


春秋蝉(しゅんじゅうせみ)気配(けはい)がほのかに()れただけで、この三転花蛊(さんてんかこ)瞬時(またたく)方源(ほうげん)炼化(れんか)された!


天元宝蓮(てんげんほうれん)入手(にゅうしゅ)


泉中(せんちゅう)で、方源(ほうげん)口元(くちもと)にほのかな微笑(ほほえ)みが()かぶ。


心念(しんねん)ひとつで、天元宝蓮(てんげんほうれん)青白(あおじろ)(ひかり)奔流(ほんりゅう)()わって空窍(くうこう)()()まれた。


天元宝蓮(てんげんほうれん)()えた途端(とたん)元泉(げんせん)()()なく渦巻(うずま)いていた無数(むすう)(うず)がドオーンと消散(しょうさん)


かつて生命(せいめい)(みなぎ)らせていた(いずみ)は、今やまるで(かぜ)もない(いけ)(ごと)く、微動(びどう)だにしない死水(しすい)()した。



元泉げんせんすたれた、ここに長居ながいはできん。いまこそ遁走とんぞうはかるべきだ」


方源ほうげん表情ひょうじょうけわしくなる。まさに来時らいじみちもどらんとした瞬間しゅんかん異変いへん突発とっぱつした!


泉底せんてい深淵しんえんより、灼熱しゃくねつ血芒けつぼう爆散ばくさん


急激きゅうげき吸引力きゅういんりょくがり、方源ほうげん不意ふいかれて※2渦中かちゅうへ引きずり込まれた。


泉水せんすい赤黒あかぐろ変色へんしょく血潮ちしおわって方源ほうげんろうごと拘束こうそくし、深淵底しんえんていへ引きつかんだ!


天蓬蛊てんぽうこ雷翼蛊らよくこ


危機一髪ききいっぱつ方源ほうげんこころ咆哮ほうこうするや、


全身ぜんしん白亀甲はっきっこうごと光甲こうこう瞬結しゅんけつし、


背後はいごから雷光らいこうつばさ轟音ごうおんとも展開てんかいした!


雷翼らよく激震げきしんするも、持ちげる浮力ふりょくは微々(びび)たり。


血潮ちしお幾重いくえにもき、吸引力きゅういんりょくまたたごと倍増ばいぞうしていく——到底とうていあらががたい!


ふぅ…


耳元みみもと水流すいりゅう激走げきそうとどろく。方源ほうげん膨大ぼうだいちからつかまれ、水路すいろ沿って急降下きゅうこうかつづけている。


息継いきつぎの限界げんかいむかえんとした瞬間しゅんかん周囲しゅうい水圧すいあつきゅう消滅しょうめつした。


方源ほうげんふかいきみ、かろうじて窒息ちっそくまぬがれた。そして気付きづいた――いまかれ高所こうしょから真下ました墜落ついらくしている事実じじつに。


無意識むいしき背中せなかつばさとうとするも、雷翼蛊らよくこ萎靡いびしきっていた。


かつて強靭きょうじんだった二枚にまいつばさは、いまかすかにふるえているだけだ。


こころめ、空中くうちゅう必死ひっし平衡へいこうたもちつつ、降下速度こうかそくどおそらせた。


そこは地下ちか空間くうかんだったが、暗闇くらやみではなく、赤光せきこうちていた。方源ほうげん約十五米やくじゅうごメートルたかさからちてゆく真下ましたひろがっていたのは――地底湖ちていこだった!


だがその湖水こすいは、普通ふつう透明とうめいいろではない。鮮血せんけつのごとくあかまっている!


いやまぎれもなくだ!



すような血腥けっせいしゅうが、方源ほうげん降下こうかにつれてはなく!


状況じょうきょうはあらゆるてん怪異かいいちている。慎重しんちょうして、方源ほうげん安易あんい血湖けっこちるまいとする。鋸歯金蜈きょしきんごよ!


鋸歯金蜈きょしきんご召喚しょうかんすると、てのひら口器こうきめ込み、むちごとるった!


金蜈きんご胴体どうたい最長さいちょうび、するど尾端びたん岩壁がんぺきむ!


ねんじるままに金蜈きんごからだちぢめ、それにかれて方源ほうげん壁面へきめんへとがった。


岩肌いわはだすべりやすく、足場あしばてきさない。だが金蜈きんごすがり、かろうじて凹凸おうとつのある断面だんめん見出みいだし、かかとった!



一体いったいここはなんなんだ?」一時的いちじてきかせた方源ほうげん即座そくざ周囲しゅうい見渡みわたした。


方位ほうい計測けいそくすれば、ここはさらなる地底ちてい――鍾乳洞しょうにゅうどうさらなる下層かそうにあるはずだ。


(なぜこんな場所ばしょ存在そんざいする?)方源ほうげん内心ないしんいぶかしんだ。前世ぜんせでは地位ちいらず、上層部じょうそうぶ機密きみつれることなどなかった。


じつのところ、ここは血湖墓地けっこぼち――初代しょだい族長ぞくちょうひつぎねむ禁域きんいきだ。家老かろうでさえこの秘密ひみつる者は一握ひとにぎりのみ。


血水けつすいみずうみ俯瞰ふかんする方源ほうげん


湖面こめん紅蓮ぐれんのごときひかりはなち、山塞さんさいよりも広大こうだいで、怪異かいい恐怖きょうふ気配けはいちている。


洞窟どうくつ天井てんじょうにはひゃくえる洞口どうこうひらき、地下水路ちかすいろからながみずが、牡蠣かきかめ雷魚らいぎょなどの野生生物やせいせいぶつしながらはげしく落下らっかしている!


ざあざあ……


洞頂どうちょうあなから幾筋いくすじもの水流すいりゅうなくそそち、血湖ちこはげしくたたく。


血水ちみず逆巻さかまに、無数むすうさかなえびがり、血湖ちこ墜落ついらく数息すうそくのち、それらの生物せいぶつ全身ぜんしん血液けつえきかれ、からびたしかばねわって、まった波頭なみがしらあいだ浮遊ふゆうする。


血湖ちこいろ一段いちだん深紅しんくす。


方源ほうげんがそれをつめ、瞳孔どうこう微細びさい収縮しゅうしゅくした。もしおのれがこの血湖ちこちたなら、天蓬蛊てんぽうこまもりあれど、末恐すえおそろしい結末けつまつむかえたであろう。


凝視ぎょうしつづけると、なまなましい死骸しがいのほかにも、血波けっぱあいだに度々(たびたび)ほねがってくる。


こまかい魚骨さかなほね巨大きょだいくまほね、そしてまぎれもなくひと骨格こっかく


ここは広大こうだい墳墓ふんぼの地──不気味ぶきみ血生臭ちなまぐさい。


血湖ちこ逆波さかなみ周壁しゅうへきあらう。鮮烈せんれつ光沢こうたくのあるみず周辺しゅうへん土中どちゅう浸透しんとうし、まわりのつちめた。この赤土せきど形成けいせいされている。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ