表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
蛊真人  作者: 魏臣栋
青茅山
175/455

第百七十四節:小神捕

鉄血冷てつけつれいがまた言った(いった):


いま、おまえから方源ほうげんというおとこ分析ぶんせきしてみろ」


とうさん、方源ほうげんうたがってるの?」


鉄若男てつじゃくなん一瞬いっしゅんポカンとしたが、すぐつづけて言った:


「あのひとはすごく理性的りせいてきかしこいわ。山寨さんさい説明せつめいしてたとき一言一言ひとことひとことまとてて、はなしがめちゃくちゃ整理せいりされてたの。はぁっ…」


鉄若男てつじゃくなん突然とつぜんかすかにいきんだ。


彼女かのじょまゆをひそめて言った:


「さっきまでづかなかったけど、父さんにわれてわかった!この方源ほうげん話術わじゅつ上手うますぎるわ。かれうこと全部ぜんぶ客観的きゃっかんてき事実じじつで、個人的こじんてき感情かんじょう一切いっさいはいってないの。第三者だいさんしゃ立場たちばから冷静れいせいはなしてる。はなしのツッコミどころもつけられないし、言外げんがいにヒントもない。かれはなしはすごく…すごく…すごくクリーンなの」


少女しょうじょ一瞬いっしゅんまよい、最後さいごに「クリーン」という言葉ことばえらんだ。


鉄血冷てつけつれいうなずいて、またくびった:


かれ感情かんじょうてたわけじゃない。だれにだって感情かんじょうはあるんだ。冷血れいけつ殺人鬼さつじんきだってそうさ。かれたん自分じぶん感情かんじょうを、とてもうまかくし、制御せいぎょしてるだけだ。この少年しょうねんには、魔性ましょう宿やどってる」


魔性ましょう?」


「そうだ。考えてみろよ。宴会えんかいせきで、あれほど率直そっちょく戦場せんじょう恐怖きょうふみとめてただろ?普通ふつう人間にんげんが、そんなことするか?」鉄血冷てつけつれいう。


鉄若男てつじゃくなんくびる:


「ありえない。蛊師こしはみな、家族かぞく名誉めいよ自身じしん名声めいせいいのちよりおもんじてる。でも...絶対ぜったいとはえないわ。歴史れきしにはみずか声望せいぼうてたもの大勢おおぜいいたじゃない?」


「そのとおりだ。だが連中れんちゅう何者なにものだったか?」鉄血冷てつけつれいが深々(ふかぶか)とひかる。


鉄若男てつじゃくなんはしばらく思索しさくし、顔色かおいろえてう:


例外れいがいなく!全員ぜんいん傑物けつぶつじゃないか!」


「そのとおりだ。歴史れきしにおいてみずか名声めいせいてるものは、


ふたつの目的もくてきしかたない。


一つ(ひとつ)は遠大えんだいたくらみのため――


目標もくひょうくらべれば名誉めいよなどるにらない。


もう一つ(ひとつ)は自己保身じこほしんのため――


みずか汚名おめいこうむって猜疑さいぎけるのだ」


鉄若男てつじゃくなん両目りょうめがパッとかがやいた:


とうさん、もしかして…?」


ふかかんがえすぎだ。


ただこの少年しょうねんがとても面白おもしろいとかんじただけだ。


……しいことに、かれ丙等へいとう素質そしつしかっていないのだがな」


鉄血冷てつけつれいはそうって言葉ことばった。



このよる月光げっこうみずごとそそいだ。


方源ほうげん人気ひとけのない街路がいろあるき、


足取あしどりはすこおも々(おも)しいが、


それでいてしっかりとかた意志いしたもっていた。


さきほど鉄血冷てつけつれい一瞬いっしゅんい、


たして盛名せいめいもと虚士きょしなしだった。


この鉄血冷てつけつれい世事せじ洞察どうさつする眼力がんりきそなえ、


知略ちりゃく深謀遠慮しんぼうえんりょはかれないほどの器量きりょう持主もちぬしだ。


南疆なんきょう数十載すうじゅっさい縦横じゅうおうし、


赫々(かくかく)たる威名いめいてたこのおとこは、


まさしく一方いっぽう人傑じんけつというべきだろう。


こういう人物じんぶつまえ嫌疑けんぎらすとなれば、


せんひとつも難しいことだった。


彼ら(かれら)に十分じゅうぶんときさえあたえれば、


真実しんじつ解明かいめいすることは間違まちがいなくできてしまう!



「今は時間との勝負だ。ただ、漠脈ばくみゃく勧誘かんゆうは確かに利用できる」


つい先ほど、漠家ばくけにわで、方源ほうげん獅子大開口ししのだいかいこうんだ。


漠颜ばくがんめとるのはかまわないが、条件じょうけんとして元石げんせき十万枚じゅうまんまい珍品盅虫ちんぴんこちゅう十匹じっぴき要求ようきゅうした。各々最低さいていでも三転さんてんしなでなければならない。


この要求ようきゅう古月漠尘こげつばくじん激怒げきどした。


孫娘まごむすめくだってとつがせようというのに、そのうえに付けむとは何事なにごとだ?!」


図々(ずうずう)しくも結納金ゆいのうきん要求ようきゅうし、しかもそこまで貪欲どんよくだとは、最早もはや我慢がまん限界げんかいだ!こうして交渉こうしょう決裂けつれつし、方源ほうげんされた。


方源ほうげんきびすかえし、一片いっぺん未練みれんもなくった。


かれ漠尘ばくじん思惑おもわくさっしていたから、妥協だきょうするだろうと確信かくしんしていた。みずからの法外ほうがい要求ようきゅうは、高値たかねけて値切ねぎられるすきつくるための策略さくりゃくぎなかった。


「しかしこの件は利害相伴う。元石が手に入り天元宝蓮てんげんほうれんに与えられる一方、本来の政治渦からの離脱計画も乱された。今夜の宴席えんせき古月漠尘こげつばくじんが自身を犠牲ぎせいにして我が政治的未来と交換した。これより各長老かろうからの圧力が掛かる恐れがある」


現在の古月山寨こげつさんさい政治格局せいじかっきくは:


族長ぞくちょう健在けんざい


二重臣にじゅうしんの一人・古月赤練こげつせきれん死亡しぼうだが赤脈せきみゃく無勢力むせいりょくではない


後継者こうけいしゃ古月赤城こげつせきじょう生存せいぞん


同脈どうみゃくの長老・古月赤钟こげつせきしょう存在そんざい


漠脈ばくみゃくは後継者を失い


漠尘ばくじん重傷じゅうしょうを負い二階にかい転落てんらく


長老の地位ちいすら維持いじ不能ふのう


かつての二大勢力にだいせいりょくとも没落ぼつらくぎゃく薬脈やくみゃくは、


多数たすう治療盅師ちりょうこしとして後方こうほう位置いち


犠牲ぎせいすくなく実力じつりょく温存おんぞん


上昇傾向じょうしょうけいこうしめしている



薬脈やくみゃく本来ほんらい族長派閥ぞくちょうはばつぞくしていたが、今や完全かんぜん独立どくりつ資格しかくた。しかし古月药姫こげつやくき独立どくりつえらぼうと、あるいは従属じゅうぞくつづけようと、自派じは拡大かくだいするには奪取だっしゅ吸収きゅうしゅう不可欠ふかけつだ。そして凋落ちょうらくしたせきばく両脈りょうみゃくは、最良さいりょう獲物えものである。


いまたねば、両大勢力りょうだいせいりょくいきかえしたあとではどうなるかからない。


红尘漩涡不由己こうじんけんかふゆうき何朝散发弄扁舟かちょうさんぱつろうへんしゅう乘风破浪三万里じょうふうはろうさんまんり方是我辈魔道人ほうぜがはいまどうじん!」


方源ほうげんつきあおぎ、にが嘆息たんそくらした。


政治せいじうずからだっしたいとねがいながら、古月漠尘こげつばくじん強引ごういんもどされたのだ。


四方八方しほうはっぽうから圧力あつりょくせてくる。鉄血冷てっけつれいすで事件解決じけんかいけつ着手ちゃくしゅし、一方いっぽう白凝冰はくぎょうひょうあらたな後援こうえんている。


まるで暗礁あんしょうけつつすすふねごとく、いたところ危険きけんひそむ。いかにして大道だいどうを切りひらけばよいのか?


翌日よくじつ


なに賈金生かきんせい殺害さつがいした犯人はすで特定とくていされ、しかも処刑しょけいされただと?」鉄若男てつじゃくなん極度きょくど驚愕きょうがくした。


今朝けさ彼女かのじょはやきて事件じけん審理しんり開始かいしした。


しかし予想よそうだにしなかったのは、最初さいしょ情報じょうほう犯人はんにん処刑済しょけいずみというらせだ。


しかり。犯人はんにん魔道蛊師まどうこし一族いちぞく新星しんせい暗殺あんさつ天才てんさい扼殺やくさつせんとたくらんだが、ぞく蛊師こしにその成敗せいばいされた」長老かろう一人ひとり情報じょうほう提供ていきょうした。


真実しんじつか?かれみずか賈金生殺害かきんせいさつがいみとめたというのか?」鉄若男てつじゃくなん眉根まよねふかせた。


そのかたわらで、鉄血冷てっけつれい青銅せいどう仮面かめんけ、彫像ちょうぞうごと無言むごんっていた。


「それはない。だが、彼でなければ他に誰がいる?」長老は肩をすくめた。


鉄若男てつじゃくなん心中しんちゅう吟味ぎんみする:「推測すいそくに過ぎず証拠しょうこはない。だが真実しんじついなかにかかわらず、この魔道蛊師まどうこし徹底的てっていてき調査ちょうさする必要がある。おそらくこれこそが真相しんそう直通ちょくつうする手掛てがかりだ!」


そうおもいたると、鉄若男は猛然もうぜんかおを上げた:「埋葬まいそう場所は?かんひらいて検視けんしする!」


破曰はじつしるされた粗末そまつな棺の中には死体したいよこたわっていた。悪臭あくしゅうはなき、開棺かいかん手伝てつだ召使めしつかいや蛊師たちは嫌悪けんお表情ひょうじょうとおくに退しりぞいた。


しかし鉄家てっけ父娘おやこはその悪臭あくしゅうづかないかのようで、鉄若男の両目りょうめには微光びこうはしり、興味津々(きょうみしんしん)でしてばした。



人の死体したいには数多あまた痕跡こんせきのこる。往々(おうおう)にして、一二箇所いちにかしょ微小びしょう痕跡こんせきこそが、凶行きょうこう決定的けっていてき証拠しょうことなるのだ!


この遺骸いがいには無数むすう傷痕きずあときざまれ、かろうじてもと相貌そうぼう識別しきべつできる。身体からだには生前せいぜん衣服いふくまとっている。


鉄若男てつじゃくなんなが時間じかんをかけて検視けんしつづけ、ようやく未練みれんなげにがった。


なに収穫しゅうかくは?」鉄血冷てっけつれいほのかにかんがえる様子ようすびつつ、ささやくように問いといただした。



古月一族こげついちぞくはこのもの賈金生かきんせい殺害さつがい犯人はんにんである可能性かのうせいきわめてたかいと判断はんだんし、遺体いたい良好りょうこう状態じょうたい保存ほぞんしていた。この遺体いたいには重大じゅうだい問題もんだいがある」鉄若男てつじゃくなんこたえた。


中年男性ちゅうねんだんせいで、右腕みぎうで左腕ひだりうでより発達はったつしており、両手りょうてにはあつ角質かくしつ形成けいせいされている。しかし角質層かくしつそう分布ぶんぷ不均一ふきんいつだ。全身ぜんしん無数むすう傷痕きずあとがあり、致命傷ちめいしょうおおく、直前ちょくぜん激闘げきとう経験けいけんしたことをしめしている。だが、古傷ふるきず数多あまたある。とく左足ひだりあし指三本ゆびさんぼん欠損けっそんしているが、これは何年なんねんまえきずだ」


ここまで説明せつめいし、鉄若男は推論すいろんつづけた:「生前せいぜんおそらく猟師りょうしだったとられる。根拠こんきょ多岐たきわたる。左右非対称さゆうひたいしょう体格たいかく角質かくしつは、頻繁ひんぱんゆみものであることを示唆しさする。からだには野生動物やせいどうぶつによる爪痕つめあと咬傷こうしょうおおく、常時じょうじけもの接触せっしょくしていた。衣服いふく正統せいとう蛊師こし装束しょうぞくではない。


特筆とくひつすべきはあし草鞋わらじで、素材そざいくさ竹麻草ちくまそうである。このくさ青矛竹せいぼうちく周辺しゅうへんにしか伴生はんせいしない。そして青茅山せいぼうざん青矛竹せいぼうちく名産地めいさんちであり、周辺しゅうへん千里せんり範囲はんい竹麻草ちくまそう存在そんざいしない」


「君の考えは?」鉄血冷がさらに問い詰めた。


「この人物は魔道蛊師まどうこしになる以前、間違いなく猟師だった。身につけている装束から見て、おそらく青茅山せいぼうざんの地元の猟師だろう」鉄若男てつじゃくなんの瞳に鋭い光芒こうぼうが走った。


「どうして土地の者だと断定できる?草鞋わらじなら、ここで村人を殺して奪ったものを履いている可能性もある」鉄血冷てっけつれいはわざと反論した。


「違います。装束の中でも履物は特別です。奪ったものなら大抵はサイズが合いません。しかしこれを見てください、ぴったり合っているだけでなく編み目も密で、まさにオーダーメイドです。左脚の指が三本欠けているため、左足の草鞋はそれに合わせて短くされています」


「この切断面せつだんめんは根元から鋭く切断せつだんされています。推測するに、何年も前にわなあやまってみ込んだ際の傷だと考えられます」鉄若男はそう結論づけた。


鉄血冷てっけつれい可否かひあきらかにせず、肯定こうてい批判ひはんしめさなかった。


先述せんじゅつの通り、事件解決じけんかいけつ一切いっさい鉄若男てつじゃくなんゆだねていた。


鉄若男はひとごとのようにつづけた:「この推論すいろんもと周辺しゅうへんの村々(むらむら)を捜索そうさくすれば、さらなる手掛てがかりがられるかもしれ――あっ!」


途端とたん少女しょうじょ表情ひょうじょう強張こわばった。


青茅山せいぼうざんおおかみ大群たいぐんによるこう経験けいけんしたばかりだと猛然もうぜんおもいたる。山寨さんさいでさえ甚大じんだい被害ひがいけたのだから、山麓さんろく村落そんらくなど尚更なおさらであろう。


この方法ほうほう人物じんぶつ身元みもと情報じょうほう調査ちょうさしようというのぞみは、きわめてかすかなものとなってしまった。


「たとえのぞみがかすかでも、成功せいこう可能性かのうせいがあるかぎり、私はためさずにはいられません!」


はじめて独力どくりょく事件解決じけんかいけついど少女しょうじょの意気込み(いきごみ)は圧倒的あっとうてきだった。


しかし半日はんにち以上いじょうついやしたすえ、彼女はむなしく帰還きかんした。今回こんかい狼群襲来ろうぐんしゅうらい史上最大しじょうさいだい規模きぼで、生存者せいぞんしゃ一人ひとりもいない村落そんらくすらあった。これが彼女の調査ちょうさ巨大きょだい障壁しょうへいとなったのだ。


「この手掛てがかりは途絶とだえた。つぎにどうするつもりか?」鉄血冷てっけつれい適時てきじいかけた。



少女しょうじょいしばり、強情ごうじょう頑強がんきょう意気いきしめしてった:「いえ、まだわってはいません。父上ちちうえわれたでしょう、真実しんじつ手掛てがかりはつね深層しんそうかくれており、つづければかならあらわれると」


「この魔道蛊師まどうこしには不可解ふかかいてんふたつあります。第一だいいち、なぜ方正ほうせいおそったのか?方正がかれをどこで刺激しげきしたというのか、その強敵きょうてきかえりみずいのちしてまで暗殺あんさつこころみるほどに?第二だいに、彼が地元じもとものであるなら、なぜ死亡後しぼうごだれ身元みもと確認かくにんできなかったのか?」


この指摘してき鉄血冷てっけつれいすらおもわず真剣しんけんった。


よ、おまえ成長せいちょうした」神捕しんぽ感慨かんがい安堵あんどめて嘆息たんそくした。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ