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蛊真人  作者: 魏臣栋
青茅山
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第百七十一節:骨の髄まで染み渡る魔

「なんですって?お父様とうさまわたし事件じけん解決かいけつさせるんですか?」少女しょうじょ自分じぶん指差ゆびさし、驚愕きょうがく表情ひょうじょうかべた。


「どうした、やりたくないのか?」鉄血冷てっけつれい微笑ほほえみながら。


「やりたい!もちろんやりたいです!」鉄若男てつじゃくなんわれかえると、おどがってこたえた。


鉄血冷てっけつれいはうなずき、複雑ふくざつ口調くちょう嘆息たんそくした:「おまえわたしと同じみちこころざすとめた以上いじょう、ここ数年すうねんって様々(さまざま)を見聞ぶんしてきた。雛鷹ひゅうよう飛翔ひしょうしてこそしん成長せいちょうする。私はもういた…このきずなおらぬ。お前の一生いっしょう全行程ぜんこうていうこともできん。新陳代謝しんちんたいしゃことわりつぎはお前のばんだ」


「お父様…落胆らくたんなさらないで。まだ治療ちりょうのぞみはあるじゃないですか」少女しょうじょこえふるえ、のどまらせていた。


「そののぞみが如何いかちいさいか、おたがかっている。人は現実げんじつ見極みきわめることをまなばねばならんのだ、若男じゃくなんよ」鉄血冷てっけつれいかるわらい、古月博こげつはくなおった。「古月こげつ族長ぞくちょう安心あんしんあれ。このむすめは私のうで七八分しちはちぶいでおる。私の側面そばめんからの指導しどうくわわるゆえ、貴族きぞく理不尽りふじん嫌疑けんぎこうむることはけっしてあらじ」


「とんでもない」古月博こげつはく即座そくざ拱手きょうしゅした。「令嬢れいじょうはその英姿えいし爽然そうぜんたる女丈夫じょじょうふ英傑えいけつ血筋ちすじにおりあえすれば、不審ふしんに思う道理どうりがござろうか?まずは山寨さんさいへおしくだされ、風塵ふうじんをご馳走ちそういたしたく」


……


料理りょうりたくにずらりとならぶ。香気こうきがむんむんとはなをつき、った琥珀色こはくいろさけ酒壇しゅたんから一筋ひとすじせんえがき、鉄血冷てっけつれいさかずきへとがれた。


狼潮ろうちょうぎたばかりの古月山寨こげつさんさいは、最も貧窮ひんきゅうした時期じきおちいっていた。膨大ぼうだい物資ぶっし消耗しょうもうにより、今後こんご食糧不足しょくりょうぶそく物資欠乏ぶっしけつぼうころう。凡人ぼんじんにすることさえあるだろう。


それでもなお、鉄血冷てっけつれいをもてなすため、古月一族こげついちぞく必死ひっし這席しゃせき酒宴しゅえんととのえた。


族長ぞくちょうとして古月博こげつはく主座しゅざ端座たんざし、かたわらには鉄血冷てっけつれいとそのむすめ鉄若男てつじゃくなんがいる。


これにくわえ、古月赤鐘こげつせきしょう古月歌燕こげつかえん古月赤練こげつせきれん古月薬姫こげつやくひ、そして方源ほうげんといった面々(めんめん)も同席どうせきしている。いずれも家老かろうである。



狼禍ろうかまえは、古月一族こげついちぞく家老かろう数十名すうじゅうめいいた。だがいまのこるはわずかにこの一席いっせきたず、十人じゅうにんにもたない。


それだけでなく、列席れっせき家老かろうたちは各々(おのおの)がきずっている。


特に古月赤練こげつせきれんは、二週間前にしゅうかんまえ防御戦ぼうぎょせん重傷じゅうしょうい、ずっと密室みつしつ静養せいようしていた。本来ほんらい寝床ねどこしていたが、鉄血冷てっけつれい来訪らいほうき、病躯びょうくして宴席えんせき参加さんかしたのだった。


しかしこの行動こうどうぎゃくかれ死地しちからだっさせた。一方いっぽうかれ旧敵きゅうてきである古月漠塵こげつばくじん族長ぞくちょうしたが雷冠頭狼らいかんとうろう追撃ついげきしたにもかかわらず、狡電狈こうでんはいたれてしまったのだ。



本日ほんじつてつどんの御助力ごじょりょくがなければ、わたし狡電狈こうでんはい餌食えじきになっていたでしょう。いのちおん、このさかずきをもっててつどんにささげます!」古月博こげつはくがり、両手りょうてさかずきささこしをかがめ、誠実せいじつれいべた。


わたし出来でき範囲はんいのことをしたまでだ」鉄血冷てっけつれいさかずきかかげ、さけをひとくちふくんだ。 生来せいらい謹厳きんげん賭博とばくこのまず、克己こっきまもかれさけふかたしなむことはなく、かるあじわうだけでこれまでったことはない。


古月博こげつはくさけすと、宴席えんせきもの見渡みわたし、両目りょうめあかまりながらいきいておもむろに着席ちゃくせきした。


鉄血冷てっけつれいはこうした場面ばめん数多あまたてきたので、なぐさめるようにった:「古月こげつ族長ぞくちょう、どうかおなげきなさいますな。人が生き(いき)ているかぎり、山寨さんさいかならふたたさかえるときる。しかも狡電狈こうでんはいきずい、電狼群でんろうぐん消耗しょうもう甚大じんだいだ。当分とうぶん襲来しゅうらいはあるまい。今回こんかい狼禍ろうかったとてよい」


狼禍ろうか最悪さいあく時期じきは、たしかにった。


これから数ヶすうかげつ、相変わらず電狼でんろう出没しゅつぼつするだろうが、


次第しだいかずって巨大規模きょだいきぼにはならず、


れは山寨さんさい直接攻撃ちょくせつこうげき仕掛しかけるちから永久えいきゅううしなった。


狡電狈こうでんはい巣窟そうくつもどり、


そこできずいやしながら、残存ざんぞん狼群ろうぐんを徐々(じょじょ)に統合とうごうするだろう。


無数むすうの電狼がなくもどされ、


大量たいりょう電狼死骸しがいが群れの食糧需要しょくりょうじゅよういちじるしく低下ていかさせた。


狼群ろうぐんふたた自給自足じきゅうじそく可能かのうになり、


今後数年間こんごすうねんかん電狼群でんろうぐんおもむろに勢力せいりょく回復かいふくし、


**その過程かていあらたな百獣王ひゃくじゅうおう豪電狼ごうでんろう


千獣王せんじゅうおう狂電狼きょうでんろう


そして万獣王ばんじゅうおう雷冠頭狼らいかんとうろう誕生たんじょうするだろう**。


盛者せいじゃ必衰ひっすいことわり――


衰微すいび再興さいこうへとてんじる。




じんぞくであれ、おおかみれであれ、いずれもこの変化へんかことわりしたがう。


ただ――


少女しょうじょ言葉ことばはまことにただしいものの、ひと草木そうもくにあらず、どうして無情むじょうでありえようか?


古月こげつ族長ぞくちょう鉄若男てつじゃくなんよりもこの真実しんじつ理解りかいふかいだけで、


心中しんちゅうかなしみとくるしみは、おさえようのないき上がるものだ。


犠牲ぎせいはあまりにも大きすぎた……


上層部じょうそうぶ家老かろうだけ見ても、その大半たいはんそこなわれた。


二転蛊師にてんこし一転蛊師いってんこし損耗そんもうはさらに悲惨ひさんなものだった。


古月山寨こげつさんさい全体ぜんたい戦力せんりょく空虚くうきょ極限きょくげんたっし、


もはやどんな激動げきどうにもえられる状態じょうたいではなかった。


「なぜ反撃はんげきしないんです? 直接ちょくせつ狼のつぶせばいいじゃないですか!」かたわらで、鉄若男てつじゃくなんかしかしげ、しゅたけ疑念ぎねんかべてう。


狼巣ろうそうには十余じゅうよりの雷気虫群らいきちゅうぐんみ、かず百万ひゃくまんせまり、野生蛊やせいこおびただしく混在こんざいしているからだ。とても太刀打たちうちできぬ、三族さんぞく連合出兵れんごうしゅっぺいでもしないかぎりな」古月薬姫こげつやくひ説明せつめいした。


そううと、彼女かのじょきゅうはなわらい、不気味ぶきみ猛禽もうきんのような眼差まなざしで方源ほうげん一瞥いちべつした:「だがそんな可能性かのうせいひくいわ!この古月一族こげついちぞくなかでさえ、家老級かろうきゅう人物じんぶつ戦陣せんじん離脱りだつし、狼禍ろうか襲来しゅうらいさいにいったいどこへひそんでいたのかかったものじゃないからね!」


この言葉ことばいて、他の家老ほかのかろうたちもおもわず視線しせん方源ほうげんへとうつした。


先頃さきごろ方源ほうげん岩裂いわさけの秘洞ひとう花酒密蔵かしゅみつぞう探索たんさく従事じゅうじし、結果けっかとして狼禍防衛戦ろうかぼうえいせん欠席けっせきした。


この行動こうどう周囲しゅういには「責任逃せきにんのがれの姑息こそく手口てぐち」であり、「じる卑怯ひきょうい」とうつった。


それゆえ家老かろうたちが方源ほうげんける眼差まなざしには──


不満ふまん軽蔑けいべつ、そしてかすかないかりがめられていた。


古月博こげつはく顔色かおいろさえも、けっしてくなかった。


一族いちぞく指導者しどうしゃとして最も嫌悪けんおするのは、方源ほうげんのような──


**みちき、不可解ふかかい独自どくじ打算ださんち、


重用ちょうようしつつもまった安心あんしんできない存在そんざいである。**


宴席えんせき空気くうきがみるみるうちに変質へんしつするなか


鉄家父娘てっかふじょうもこの変化へんか感知かんちし、


人々(ひとびと)の視線しせん辿たどるように方源ほうげんけた。


方源ほうげんの若々(わかわか)しい風貌ふうぼうは、


同世代どうせだいである鉄若男てつじゃくなん関心かんしんはやくからいていた。


方源ほうげんは淡々(たんたん)とさけすすり、


周囲しゅういの**全員ぜんいん視線しせん自分じぶん集中しゅうちゅうしているにもかかわらず、


まるで気付きづかないかのようであった**。


表情ひょうじょう平板へいばんで、


事後じご詰問きつもん ともうべき状況じょうきょう予期よきしていた。


厄介やっかい事態じたいになったな」


心中しんちゅう嘆息たんそくするが──


憂慮ゆうりょはすれど恐慌きょうこうはない。


鉄血冷てっけつれい登場とうじょうが、


かれ脱走計画だっそうけいかくいちじるしく妨害ぼうがいした。


天元宝蓮蓮台てんげんほうれんれんだいうばい、


古月山寨こげつさんさい基盤きばんつような行動こうどうれば、


鉄家父娘てっかふじょう追跡ついせき対象たいしょうとなるのは必定ひつじょうだった。


神捕しんぽ」の世間一般せけんいっぱん


誇張こちょうされた伝説でんせつなどではけっしてない。


かれ現在げんざい手段しゅだん実力じつりょくでは、


鉄血冷てっけつれい追跡ついせき開始かいしした**瞬間しゅんかんに、


のがれることなど絶対ぜったいにありえなかった**。


たとえ天元宝蓮蓮台てんげんほうれんれんだいさずとも、


不可解ふかかい失踪しっそうげれば一族いちぞく調査ちょうさ対象たいしょうとなる。


賈金生かきんせい殺害事件さつがいじけんとのからみも、


鉄家父娘てっかふじょうによる追跡ついせきかならまねくことだろう。


彼がげずに行為こういは、人々の目には「みずからのさとじてげた」と映った。


むをず、方源はのこって様子見ようすみ選択せんたくせざるを得なかった。


衆人しゅうじんからめられていても、この状況は最悪さいあくではない。もし即座そくざ逃亡とうぼうすれば、みずか陣脚じんきゃくみだし、状況じょうきょう悪化あっかさせるだけだ。


さけうまいか?」古月薬姫こげつやくひいんめてわらい、方源を直視ちょくししながら問う。「弁解べんかいするはないのか?」


方源はゆっくりさかずきき、一瞥いちべつするように薬姫のうしなわれたうでた。


としれば妖怪ようかい同然どうぜん」という言葉はまったただしい。


古月薬姫はいのちながらえるためみずか片腕かたうでち、「負傷ふしょう」を口実こうじつ戦場せんじょう赴任ふにん命令めいれいのがれた。


この行動は方源の前世ぜんせですでに発生はっせいしており、今世こんせで同じことをするとは予想外よそうがいだった。


彼女の「こまてて主将しゅしょうまもる」策はたしかに効果こうか発揮はっきした。雷冠頭狼らいかんとうろうころされず、追撃ついげき参加さんかしなかったため命をつないだのだ。いま彼女が方源を攻撃こうげきする動機どうきは、ちいさなうらみと、おおきくは他人たにん注意ちゅういを方源へ転嫁てんかし、自身じしんへの関心かんしんらすためである。


おれなに説明せつめいもとめてる? 『命長いのちながらえるためにみずか片腕かたうでった』ってことか?」方源ほうげんひえややかに嘲笑あざわらった。


「なんだと!?」古月薬姫こげつやくひ驚愕きょうがくいかりがじり、座席ざせきからたけち上がった。


両目りょうめいて方源の鼻先はなさき指差ゆびさし、金切声かなきりごえ怒鳴どなった:「小僧こぞうが! よくもさかみつきやがって、もない誹謗中傷ひぼうちゅうしょうおとしいれようと! どうしてここまで卑劣ひれつあつかましくなれる!? 古月一族こげついちぞくに、おまえのようなものまれるなんて!?」


古月薬姫こげつやくひ!」古月博こげつはくかみなりとすようなこえかつした、「すわれ。賓客ひんきゃく面前めんぜん大声おおごえみだすとは不体裁ふていさいはなはだしい!」


古月薬姫こげつやくひはまだののしろうとしたが、族長ぞくちょう相当そうとうけわしい表情ひょうじょうて、のどまでかかった言葉ことばむしかなかった。


烈火れっかのごとく方源ほうげんにらみつけ、苛立いらだった様子ようすこしろした。


古月博こげつはく薬姫やくひせいすると、視線しせん方源ほうげんうつした:「方源家老ほうげんかろうきみ説明せつめい必要ひつようだ。狼禍ろうか山寨さんさいおそったとき、どこにいたのか?」


「方源……彼が方源だと?」鉄血冷てっけつれいひとみ一瞬いっしゅん異様いようかがやきがはしる。賈金生かきんせい失踪事件しっそうじけんにおいて、方源はきわめて重要じゅうよう役割やくわりになっている。鉄血冷は来訪らいほうまえ賈富かふからおおくの情報じょうほうていたが、この少年家老しょうねんかろう方源本人ほんにんとはおもわなかった。


瞬時またたくに、鉄血冷のこころふか関心かんしんがる。


数多あまた事件じけん解決かいけつしてきた彼は、些細ささい痕跡こんせきから真相しんそう看取みとり、推測すいそくすることができる。周囲しゅうい反応はんのうから、方源が戦線離脱せんせんりだつした事実じじつ推測すいそくした。


しかしつねとして、人々(ひとびと)の真実しんじつ認識にんしき表面的現象ひょうめんてきげんしょうとらわれがちであり、真相しんそうつねべつにある。


真相しんそうなにであれ、方源の返答へんとうこころうち一端いったんあらわにするにちがいない。それはこん事件解決じけんかいけつおおいに役立やくだつはずだった。


鉄血冷てっけつれいける探偵たんてい眼差まなざしを感じて、方源の心臓しんぞうおもわずちぢんだが、顔色かおいろ微動びどうだにしなかった。


彼は淡々(たんたん)と周囲しゅうい見渡みわたし、口元くちもとあざけりのみをかべて言った:「説明せつめいすることなどない。だが族長ぞくちょうがそこまでわれるなら、率直そっちょくに言おう。当時とうじおれ恐怖きょうふふるえていた──長期間ちょうきかんかさなった圧力あつりょくへの畏怖いふ限界げんかいたっし、とてもえられなかった。俺は臆病おくびょう小心しょうしんもので、ただ物陰ものかげひそみ、前線ぜんせんには二度にどようとしなかったのだ」


この言葉ことばいた瞬間しゅんかん一同いちどう呆然ぼうぜんとした。


彼らは方源ほうげんわけ弁解べんかいっており、どうやってそれをやぶり、彼の正体しょうたいあばくかまで準備じゅんびしていた。まさか方源がいさぎよみとめるとは思わなかったのだ!


如何いかなるうそでも、事実じじつでないかぎり、かなら破綻はたんしょうじる。ましてや鉄血冷てっけつれいるのだから…」


方源は平静へいせい表情ひょうじょうで、まつげせ、目のまえさかずきだけを凝視ぎょうしした。


鉄血冷てっけつれい双眸そうぼう異様いよういろき上がる。彼は無意識むいしきまゆひそめ、こころ嫌悪けんお反感はんかんしょうじた。


「この少年しょうねんは、ほねずいまで魔性ましょう宿やどしているぞ!」

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