「丙等の資質を持つこの身では、空竅に蓄えられる元海の最大は四割四分に過ぎぬ。蛊虫の真元排斥速度は、自然回復速度を遥かに上回る。蛊の煉化には外力、すなわち元石の消耗が必須だ」
「蛊虫の意志が弱ければ抵抗力も小さく、煉化は容易になる。しかし生命あるものは総て生存への意志を有す。月光蛊の煉化には最低五個、最大八個の元石を要する」豊富な修行経験に基づき、方源は必要な元石総量を算出した。
「現在酒虫を煉化するには、少なくとも十一個、最大十六個を要する」。酒虫は月光蛊と同じ一転蛊虫ながら、より珍稀であり煉化の難度も増す。
即ち、方源が現在保有する十七個の元石は、酒虫煉化後には最大六個、最悪の場合一個しか残らぬことを意味する。
夜空に青白い三日月が清らかな月光を放っていた。
月明かりは仙女の柔らかな手のようで、古月山寨を優しく包み込む。沿道に建つ竹楼が玉の牌のように林立している。
夜風がそよそよと吹く中、方源はこの月光を浴びながら客栈へ戻った。
客栈の扉は既に閉まっていた。
方源は扉をコツコツと叩いた。
「聞こえてますよ! こんな夜更けに誰だ…」
寝惚け眼の店員がぶつぶつ呟きながら扉を開けたが、入口の方源を見るや、不満げな表情から一転、腰を折りへつらうように笑った:「公子様でございますか! この私がご用を承る光栄で…」
方源は無愛想に頷き、客栈へ入った。
この冷たい態度が却って店員の卑屈さを増し、「公子様、お食事は? 厨房に声を掛け、夜食を…」
「結構だ」方源は首を振り、「湯を用意せよ」と命じた。
「承知しました! 即刻お届けいたします」
店員が深く頭を下げる中、方源は階段を上がり二階へ向かった。
灯りに浮かぶ店員の瞳は、羨望の色を滲ませていた。
「これが蛊師か… 私にも修行の資質があれば…!」拳を握り深く嘆息した。
この言葉が方源の耳に入ると、内心で苦笑せざるを得なかった。
蛊師は凡人を超越する力を得るが、その代償もまた膨大だ。
最初の難関は財力である。
修行に元石、戦闘に元石、炼化に元石、交易に元石。
元石なくして如何にして修行せん?
この苦衷は、凡人である店員には理解できない。
今日の夕暮れ、青年蛊師の江牙が酒壺を投げ捨てながら狩人に怒鳴った言葉を思い出す――「俺様でさえ青竹酒に元石を使えぬのに、お前ら凡人が贅沢するとは!」
この一言が、蛊師の修行情境を如実に物語っている。
蛊師は凡人より多く稼ぐが、消費もまた激しい。些細な元石の出費すら銖両を争う必要がある。低級の蛊師ほど、この傾向が強い。
表向きは華やかでも、実の生活は逼迫している蛊師も少なくない。
「しかも境界が上昇するほど、資源への需要は膨張する。後楯なき蛊師の修行は艱難だ」方源は前世の記憶を辿り、深く共感した。
彼が客室に戻り、灯を点した途端、客栈の店員が湯を入れた洗面器を運んできた。
当然、布巾などの洗面用具も揃っていた。
方源は店員を退け、扉を閉め戸締りを施した後、身支度を済ませ寝床についた。
身体は疲れていたが、心の奥に興奮の残滓が残っていた:「遂に酒虫を手にした。月光蛊より価値があり、蛊師の資質を向上させる蛊と言える」
床に結跏趺坐した方源は酒虫を取り出した。
酒虫は未だ熟睡中だった。月光蛊より少し大きく、白く柔らかい蚕の幼虫のような外見。
灯に照らされ、真珠のような光沢を放つ。黒胡麻のような目が丸い頭に埋め込まれ、愛嬌たっぷりだ。
手の平に載せると重さは半分の卵程度。
仔細に嗅ぐと、青竹酒とは異なる酒の香りが漂う。これは酒虫自体が発する清涼で儚い香気だった。
方源が鼻を抽くっと動かすと、香気が体内に吸い込まれ、空竅の青銅色の元海へ直撃した。
元海が微かに波立ち、香気を融合させた。極めて精純な真元が生成された。
通常の真元は翡翠色に青銅の光を帯びているが、この真元は蒼緑色で、一転中階の蛊師に相応しい凝縮度だった。
蒼緑の真元を確認した方源は満足げに微笑んだ:「現段階は一転初階だが、酒虫による精錬で中階の真元を得られる。その効能は言葉では言い尽くせぬ」。しかし直ぐに表情を引き締めた:「だが酒虫を完全に煉化し本命蛊としなければ、真元の効率的な精錬は不可能だ」
決意を固めた方源は元海から青銅真元を抽出し、酒虫を包み込んで空中に浮かべた。
生存の危機を感知した酒虫は覚醒し、激しく抵抗を開始した。自身の力で真元を駆逐しようとする動きだ。
「月光蛊より倍以上の抵抗力か」方源は顔を険しくし、真元の消耗速度に驚いた。
「如何なろうと煉化は断行する」瞳に決意の光を宿らせ、更に真元を注ぎ込んだ。
宿屋の部屋で、机の蝋燭が静かに燃え、中央を明るく照らす一方、隅の壁際は薄暗い。
蝋燭の灯が方源の顔に揺れ、彼は目を閉じて酒虫との対決に集中していた。
青銅色の真元が霧のように全身から湧き出し、酒虫を包み込む。
顔面から一尺離れた空中で、酒虫は青銅真元の中でもがき続けていた。
時は静かに流れ、蝋燭は短くなり、窓外の三日月も沈んで夜明けを迎えた。
朝日が窓の隙間から差し込み、部屋に光の縁取りを描いた。
方源が目を開くと、酒虫の白い体に青緑の斑点が浮かんでいた。半晩かけて得た成果だ。
しかしその面積は全体の1%未満。方源の表情は険しくなった。この酒虫の意志は一転蛊の限界を超えるほど頑強だった。