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蛊真人  作者: 魏臣栋
青茅山
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第百六十二節:天元宝莲

花酒かしゅ遺蔵いぞうさぐ計画けいかくててはいたが、方源ほうげん当分とうぶん身動みうごきがれなかった。家老かろうとなって注目ちゅうもくまとであり、狼潮ろうちょう活動かつどう頻発ひんぱつしていたので、数多あまた仕事しごとられて、機会きかいうしなっていた。


いしにある秘密ひみつ洞窟どうくつふたたあしれたのは、十数日じゅうすうじつ経過けいかしたあとのことだった。


なつわりのよる


小雨こさめが通りぎたばかりで、あき気配けはいをもたらしていた。


そらには黄金こがねつきが、円盤えんばんのごとくちて、高々(たかだか)とかっている。


みみかすかにこえるおおかみ遠吠とおぼえと、名残なごりのせみこえじっていた。方源ほうげん隠身おんしん状態じょうたいおかうえち、かえって一望いちぼうした。


古月山寨こげつさんさいには無数むすうあかりがともり、破損はそんしたとりで城壁じょうへき何度なんど補修ほしゅうされ、とっくにった平穏へいおんやすらかな気配けはいうしなわれて、無数むすう大戦たいせん巨獣きょじゅうしていきらしているかのようだった。



まれわってからは、狼潮ろうちょうのプロセスさえも随分ずいぶん変わった。記憶きおくなかでは、雷冠頭狼らいかんとうろうはとっくに三日前みっかまえ到着とうちゃくしていたはずだ。しかしいま)(かげ)(かたち)()えない」


方源ほうげん一瞥いちべつするや視線しせんうつした。今夜こんやはようやくひねした時間じかんだ、有効ゆうこう使つかわねばならない。


しばらくして、かれふたたいし秘洞ひとうはいった。


洞口どうこう意図的いとてきいたほこりみだされず、足跡あしあとられなかった。つまりこの場所ばしょ)発見(はっけん)されていないのだ。


このような検出けんしゅつ小手段しょうしゅだんは、表立おもてだ方法ほうほうではないが、方源ほうげん実感じっかんではおどろくほど有用ゆうようだった。


無論むろんかれはこれひとつだけの手段しゅだんもうけたわけではない。いくつかの検査けんさて、この秘洞ひとう当分とうぶん依然いぜん安全あんぜんであることを確認かくにんした。


かれはそっといきいた。自分じぶんまれわって以来いらいえてきたものはどんどんえている。特に狼潮ろうちょう影響えいきょう蛊師こし出動しゅつどう頻繁ひんぱんだ。もしかするとだれかにこの場所ばしょ発見はっけんされる可能性かのうせいがあると危惧きぐしているのだった。


かれ歩道ほどうあるき、第二だいに密室みっしつはいり、石門いしもんひらいて山体さんたい石林せきりん到達とうたつした。


石林せきりんでは、以前いぜん開通かいつうした経路けいろに、ふたた多数たすう玉眼石猴群ぎょくがんせきこうぐんうつんでいた。


しかしいま方源ほうげんは、すでに三転さんてん蛊師こし血月蛊けつげつこ三転さんてんレベルでは攻撃力こうげきりょくとく)(すぐ)れているわけではないが、二転にてん月芒蛊げつぼうこよりははるかにまさっている。


方源ほうげん三时辰さんじこんついやし、十数群じゅうすうぐん猿群さるむれ殲滅せんめつして、ふたた通路つうろ開通かいつうさせた。


中央ちゅうおう到着とうちゃくすると、荒削あらけずりの石段いしだんみしめながら第三だいさん密室みっしつふかはいる。石門いしもん眼前がんぜんさえぎり、その表面ひょうめんにはきざまれていた――「金蜈洞中きんごどうちゅう殺身さっしんわざわいあり、地聴ちちょうもちいれば凶災きょうさいけられる」。前回ぜんかいかれはここで停止ていししていた。


しかし今回は、断固だんことして石門いしもんひらき、そのなかんだ。


松明たいまつかかげ、周囲しゅうい十歩じっぽさきまでをらしす。


この金蜈洞きんごどう広大こうだい主道しゅどうたかさはすくなくとも三米さんメートルはば二米にメートル数多あまたのやや狭隘きょうあい支道しどう分岐ぶんきし、四方八方しほうはっぽうつうじている。


方源ほうげんすすむ先々(さきざき)で、松明たいまつひかりらし、やみ退しりぞいた。洞内どうないには当初とうしょかれ足音あしおとだけが反響はんきょうしていたが、もなくサワサワというおと四方八方しほうはっぽうからこった。


おと一体いったいじりい、途切とぎれることがない。ひかり輪郭りんかく沿って、無数むすう蜈蚣むかであらわれた。


それらは凶暴性きょうぼうせい十分じゅうぶんそなえている。ただあかるいひかり一時いちじはばまれて、方源ほうげん攻撃こうげきけてはいなかった。しかし方源ほうげん承知しょうちしていた――ときつにつれて蜈蚣むかでえ、うしろのむしまえむし状況じょうきょうになれば、この膠着状態こうちゃくじょうたいもなくやぶれることを。


だがかれかいさなかった。


二転にてん時期じきならば、防御ぼうぎょ白玉蛊はくぎょこしかなく、わざわざこんな騒動そうどうこして蜈蚣群むかでむれ興奮こうふんさせることはけっしてなかっただろう。しかしいまかれ三轉さんてん昇格しょうかくし、天蓬蛊てんほうこ防御力ぼうぎょりょく十分じゅうぶん群集ぐんしゅうしたむしみつきをささえるだけのものとなっていた。唯一ゆいいつ留意りゅういすべきは、この場所ばしょ虫王ちゅうおう――鋸歯金蜈きょしきんご存在そんざいだけだった。


やつあらわれた!


方源ほうげん意図的いとてき空窓くうそうから白銀はくぎん真元しんげん一筋ひとすじ引きし、体外たいがいながして三转さんてん蛊师こし気配けはいらした。


その気配けはい鋸歯金蜈きょしきんご強烈きょうれつ脅威きょういかんじさせた。やつにとって、みずからの縄張なわばりにんだ方源ほうげんという強力きょうりょくな「猛獣もうじゅう」は、さき駆除くじょしなければならない対象たいしょうだった。


方源ほうげん鋸歯金蜈きょしきんご対峙たいじした。


この鋸歯金蜈きょしきんごながいちメートル以上いじょう胴幅どうはば両拳りょうこぶしわせたはばほどある。最初さいしょ松明たいまつひかりらし範囲はんいはしに、かげひそんで時機じきうかがうわばみのように、うずくまるようにせていた。


しかし直後ちょくご無数むすう節足せっそく体躯たいくささえながら、ゆっくりとうごし、方源ほうげんへ徐々(じょじょ)にせてきた。


方源ほうげん三转さんてん気配けはい警戒けいかいうながすものの、おそれるほどではなかった。もし四转よんてんであれば、おそらくみずかせることはないだろう。五转ごてんともなれば、ほんのわずかに気配けはいながしただけでも、間違まちがいなくかえりもせずしたにちがいない。


方源ほうげん松明たいまつを高々(こうこう)とかかげていた。松明たいまつほのおさかり、周囲しゅうい洞窟どうくつひかりかげ波打なみうたせていた。


松明たいまつ火影ほかげなかで、鋸歯金蜈きょしきんご仄暗ほのぐら金色こんじき甲殻こうかくが、かすかなひかり宿やどしていた。その胴体どうたい両側りょうがわには銀色ぎんいろ鋸歯きょしがびっしりとえており、徐々(じょじょ)にせるにつれて、それらもゆっくりと回転かいてんしている。あたかも速度そくどとした電動鋸でんどうのこぎりのように、ブンブンというひくうなおとはっしていた。


他のちいさな蜈蚣むかでたちは地面じめんから、壁面へきめんから、方源ほうげんへと包囲ほういするようにあつまってきた。


何匹なんびきもの蜈蚣むかで洞窟どうくつ天井てんじょうのぼり、そこからちて、方源ほうげんかた背中せなかりかかってきた。


方源ほうげんまったかいさなかった。かれ天蓬蛊てんほうこ展開てんかいし、全身ぜんしん分厚ぶあつ白晶はくしょうひかりかびがった。よろい輪郭りんかくがかすかにれ、かれからだをがっちりとつつんでいる。


蜈蚣むかで毒肢どくしは、この白晶はくしょう甲冑かっちゅうかすかにもきずつけられなかった。


くねくねとうごめ蜈蚣むかでなかには、ほほみみ裏側うらがわうものもいる。気色きしょくわるいかもしれないが、方源ほうげん心理的しんりてき耐性たいせいはとっくに無視むしするレベルにたっしていた。前世ぜんせ野末のずえ落魄らくはくしていたときかれなんでもべた。無毒むどく蜈蚣むかでなどなまのままべたことすらある。じつあじ結構けっこういけるほうで、最初さいしょへんだったが、つづけるにつれてれてしまったものだ。


かれ注意ちゅうい完全かんぜん鋸歯金蜈きょしきんご身上しんじょう集中しゅうちゅうしていた。


鋸歯金蜈きょしきんごは徐々(じょじょ)に接近せっきんし、方源ほうげんとの距離きょり次第しだいみじかくなっていった。


のこり三、四歩しほという距離きょりになると、方源ほうげん白銀真元はくぎんしんげん流出りゅうしゅつめた。それによりかれ気勢きせいきゅうおとろえた。


鋸歯金蜈きょしきんご敏感びんかんにこれを察知さっちし、突如とつじょ速度そくど急増きゅうぞうさせた。金線きんせんのごとく――ヒュッ!


またた距離きょりえ、方源ほうげんふくらはぎにからみついてのぼった。


そのうごきはじつ素早すばやく、うごかなければしずかであるが、一旦いったんうごけば金光こんこうひらめくほどだった。


方源ほうげん反応はんのうしたときには、この鋸歯金蜈きょしきんごへびのようにかれこしをぐるりとまわり、口器こうきひらいて方源ほうげん顔面がんめんおそろうとしていた。


方源ほうげんいそいで両手りょうてばし、金蜈きんご頭部とうぶつかんだ。


鋸歯金蜈きょしきんごはげしくもがき、方源ほうげん双猪大力そうちょだいりきちからつにもかかわらず、次第しだいちからおよばなくなりつつあった。


特に鋸歯金蜈きょしきんご両側りょうがわなら各一列かくいちれつ鋸歯きょしが、こくかず高速回転こうそくかいてんはじめた。


ガリガリガリ!


強力きょうりょく切断力せつだんりょくが、天蓬蛊てんほうこ白晶はくしょうひかりけずる。


瞬時またたきのうちに、方源ほうげん空窓くうそうない白銀真元はくぎんしんげん急激きゅうげき減耗げんもうし、しろひかり火花ひばなのようにった。


かれ真元しんげん初期段階しょきだんかい淡銀たんぎん真元しんげんであり、42%しかたくわえていなかったため、このような消耗しょうもうえられなかった。


しかし方源ほうげん危機ききのぞんであわてず。鋸歯金蜈きょしきんごからみつきからのがれられなくとも、まだ切りきりふだ保持ほじしていた!


春秋蝉しゅんじゅうせみだ!


心念しんねんうごくと、空窓くうそうなか突如とつじょ春秋蝉しゅんじゅうせみ姿すがたかびがった。


春秋蝉しゅんじゅうせみ状態じょうたいさら回復かいふくしており、二枚にまいはねはみずみずしい緑葉りょくようのようにやわらかく、体軀たいく上質じょうしつ木材もくざいのようなおんかみある光沢こうたくはなっていた。ただ全体的ぜんたいてきには、依然いぜんとしてれてかわいた印象いんしょうひとあたえていた。


それ(春秋蝉)はすで二割余にわりあま回復かいふくしており、気配けはい当然とうぜんさらにつよくなっていた。


この気配けはいながれると、猛烈もうれつにもがいていた鋸歯金蜈きょしきんごは、たちまち萎縮いしゅくした!


それはたんなる三转さんてん野生やせい蛊虫こちゅうにすぎない。六转ろくてん春秋蝉しゅんじゅうせみ気配けはいを前にすれば、まったく身動みうごきもできなかった。


方源ほうげんもっと顕著けんちょかんじたのは、前秒ぜんびょうまで必死ひっし鋸歯金蜈きょしきんごつかんでいた感覚かんかくだった。毒蛇どくへびせいするように、その噬咬しこうはばもうとあらゆる手段しゅだんつくしていたのだが、次の瞬間しゅんかん、それはヘナヘナの草縄くさなわのようになってしまったのだ。


方源ほうげんはほほえみをかべ、白銀真元はくぎんしんげんながんだ。鋸歯金蜈きょしきんご最早もはや完全かんぜん抵抗ていこうてていた。方源ほうげん意志いしえだくじくように、たちまちその体内たいない野生意志やせいいし粉砕ふんさいつくした。


わずか数息すうそくの間に、鋸歯金蜈きょしきんご方源ほうげん掌中しょうちゅうおさめられた。


方源ほうげん両手りょうてはなした。鋸歯金蜈きょしきんご無数むすう節足せっそく律動的りつどうてきうごかせ、白晶はくしょうよろいつたい、方源ほうげんこし一周いっしゅうきついたあとかれうでからみついた。


周囲しゅうい蜈蚣群むかでむれは、うしおくようにってえた。


野生やせい鋸歯金蜈きょしきんごは、生来せいらい意志いし虫群むしむれ支配しはいしていたが、いま方源ほうげん意志いしがそれにってわったため、むれとの交流こうりゅう制御せいぎょ能力のうりょく喪失そうしつしたのだった。


方源ほうげん蜈蚣群むかでむれ駆除くじょせず、るにまかせた。数十年すうじゅうねんもすれば、あらたな鋸歯金蜈きょしきんごがこのむれからまれるかもしれない。だがそれは、もはや方源ほうげんおおした関係かんけいはない。


かれ鋸歯金蜈きょしきんごかた鎮座ちんざさせたまま、ふたた洞窟どうくつ奥深おくふかくへと探検たんけんつづけた。



金蜈洞きんごどう四方八方しほうはっぽうつうじており、しばらくすすむと、当初とうしょ主道しゅどうみっつの分岐路ぶんきろかれていた。


方源ほうげんはまず地聴肉耳草ちちょうにくみそう起動きどうし、片時かたときみみますと、中央ちゅうおう分岐路ぶんきろ除外じょがいした。右側みぎがわみちえらんで半刻はんときあるくと、まりだと判明はんめいしたため、もどって左側ひだりがわみちうつった。


鋸歯金蜈きょしきんご収納しゅうのうすると――金蜈きんご気配けはい蜈蚣むかでもっと抑制よくせいするため、あしはこぶ先々(さきざき)でむしどもが退散たいさんした。


これが探索たんさくおおいに容易よういにした。


左道さどうはいってもなく、虫群むしむれ移動いどうしたあとあらわになった洞壁どうへきから、なんらかの痕跡こんせき兆候ちょうこう発見はっけんした。


「これは人為的じんいてき採掘さいくつ痕跡こんせきだ!」方源ほうげんむね高鳴たかなった。


あきらかに、この通路つうろこそが当時とうじ花酒行者かしゅぎょうじゃ千里地狼蛛せんりちろうぐも利用りようして開削かいさくしたものにちがいない。


方源ほうげんはこのみち沿い、ゆっくりとあしすすめながら、忍耐強にんたいづよ探索たんさくつづけた。


この通路つうろにも大量たいりょう蜈蚣むかで生息せいそくしていた――方源ほうげんにとっては吉報きっぽうだった。


虫群むしむれ生息せいそくしているため、数多あまたわな設置せっちされている可能性かのうせい排除はいじょできたからだ。


通路つうろ予想よそう以上いじょうながく、方源ほうげんじつ六刻余ろっこくあまり(やく12時間じかん)をついやし、三里さんりやく1.5km)ちかすすんだ!


坑道こうどう勾配こうばい次第しだいくだ方向ほうこうへとわり、方源ほうげんは徐々(じょじょ)に地底ちていふかくへとはいっていった。


一定間隔いっていかんかくごとに停止ていしし、地聴肉耳草ちちょうにくみそう起動きどうして聴覚ちょうかくませ、可能かのうかぎ危険きけん排除はいじょした。


ザーザーザー。


「このおとなにだ?」方源ほうげんは徐々(じょじょ)に奇妙きみょうおと察知さっちはじめた。


直後ちょくご、そのおと正体しょうたいづいた。


「これは水音みずおとだ…まさか?」むねさわぎ、漠然ばくぜんとした予想よそうかんだ。


みちわりまでると、そこには水晶すいしょうかべあらわれた。


水晶壁すいしょうへき彼方かなたみずたされている。


みずなかには、灰白色はいはくしょく水流すいりゅう螺旋状らせんじょう自転じてんし、あたかも微小びしょう竜巻たつまきのように、あちらこちらで発生はっせいしてはえ、なく循環じゅんかんしていた。


予想よそう通り、これは天然てんねん元泉げんせんだ!」この光景こうけいにして、方源ほうげんおもわずらした。


つづけて、水晶壁すいしょうへきうら元泉げんせんなかに、さらなるもの見出みいだす。


青白あおじろ斑模様まだらもようをしたはなのつぼみが、いずみなか悠然ゆうぜんただよっていた。


「こ、これはまさか…天元宝蓮てんげんほうれん!?」方源ほうげんむねはげしく高鳴たかなった!

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