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蛊真人  作者: 魏臣栋
青茅山
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第百五十七節:血月蛊

二日目ふつかめ密室みっしつ。..


七色なないろひかり白玉はくぎょくばんしゅうまり、一篇いっぺん秘方ひほう――


血月蠱けつげつこあらわれた。


二転にてん月芒蠱げつぼうこ血気蠱けっきこ相互そうご合煉ごうれんしてつくられる三転さんてん蠱虫こちゅう


一度いちど発動はつどうすれば、月刃げつじん全身ぜんしんまり、洗面器せんめんきほどのおおきさとなる。傷口きずぐちができれば、まらなくなる効果こうかがある。



「これだ」方源ほうげん視線しせん上下じょうげはしらせ、秘方ひほう脳裏のうりきざんだ。じて暗記あんきした内容ないよう反芻はんすうし、またひらいて原文げんぶん照合しょうかごうする。五度ごどかえすうち、完全かんぜんあやまりなく記憶きおくしたと確信かくしんした。


黄金月おうごんづき霜霖月そうりんげつ幻影月げんえいげつという三大さんだい古典こてんくらべ、この血月蠱けつげつこはかなりマニアックだ。


前者ぜんしゃ合煉秘方ごうれんひほうには10万字まんじちか研究資料けんきゅうしりょうしるされているが、血月蠱けつげつこには数千字すうせんじしかない。


歴史れきしとおし、このえらぶ者がきわめてすくなかったことがうかがえる。


血月蠱けつげつこ攻撃力こうげきりょくはまずまずだが、射程しゃていは10メートル。出血効果しゅっけつこうか実際じっさい戦場せんじょうでは些細ささいなトラブルでしかない。


一転いってんから五転ごてん蠱師こし真元しんげん有限ゆうげんなため、長期戦ちょうきせんになりにくい。治療ちりょう専門せんもん蠱師こしれば、簡単かんたん止血しけつされてしまう。


さらに血月蠱けつげつこには最大さいだい欠点けってんがある。


毎月まいつき特定とくてい数日間すうじつかん鮮血せんけつにじしてくる。この期間中きかんちゅう攻撃力こうげきりょく通常つうじょう三分さんぶんいちまで暴落ぼうらくするのだ。


だが、方源ほうげん注目ちゅうもくした最大さいだい長所ちょうしょがある。


やすいのだ。


黄金月おうごんづき霜霖月そうりんげつ幻影月げんえいげつよりはるかに管理かんりらく


必要ひつようえさ月蘭げつらん花弁かべんではなく、新鮮しんせん血液けつえきだ。


りょうおおいが種類しゅるいわない。西漠せいばくではむずかしいはなしだが、南疆なんきょうでは万里ばんりつらなる山々(やまやま)がつづき、密林みつりん奥深おくふかくに様々(さまざま)な野獣やじゅう生息せいそくしている。


ころせば即座そくざ血液けつえき採取さいしゅできる。血月蠱けつげつこにとって、南疆なんきょう全土ぜんど食料庫しょくりょうこえる。どこにでもあるのだ。


「さっそくこの血月蠱けつげつこ合煉ごうれんするか」方源ほうげんこころの中で即座そくざ決断けつだんくだした。


合煉ごうれん詳細しょうさい手順てじゅん注意事項ちゅういじこうすで脳裏のうりいている。手元てもとには月芒蠱げつぼうこがあるが、もう一方いっぽう血気蠱けっきこが少々(しょうしょう)厄介やっかいだ。


血気蠱けっきこ貴重きちょうで、蠱師こし血気けっきおぎな能力のうりょくを持つ。これを所持しょじする蠱師こしつね精力せいりょく旺盛おうせいで、大怪我おおけが大量出血たいりょうしゅっけつしても補充ほじゅう可能かのう。そのため戦場せんじょうでの生存率せいぞんりつ通常つうじょう蠱師こしより格段かくだんたかい。


熊姜ゆうきょうはかつて血気蠱けっきこ強烈きょうれつ渇望かつぼうしていた。もし血気蠱けっきこ遊僵蠱ゆうきょうこ併用へいようすれば、後者こうしゃ副作用ふくさよう激減げきげんし、ゾンビ持続時間じぞくじかん大幅おおはば延長えんちょうできるとかんがえていた。


かれ二転蛊師にてんこしなかでも傑出けっしゅつした存在そんざいだったが、戦死せんしするまでそののぞみをかなえることはなかった。


密室みっしつなか方源ほうげんふたた中央ちゅうおう石卓せきたくかれた照影蠱しょうえいこ視線しせんうつした。


今日きょう時間じかんはまだ余裕よゆうがあった。一刻いっこく(15分)の制限時間せいげんじかんを、かれはわずか5ふん消化しょうかし、まだ10ぷん余白よはくのこされていた。


黄色きいろ照影蠱しょうえいこには四転よんてん秘方ひほう記録きろくされ、紫色むらさきいろ照影蠱しょうえいこには五転ごてん秘方ひほう収録しゅうろくされていた。


これらの照影蠱しょうえいこ所有者しょゆうしゃ歴代れきだい秘堂家老ひとう かれいだが、実際じっさい飼育しいくになうのは家族かぞくである。


蠱虫こちゅう借用しゃくよう可能かのうだ。ただし蠱虫こちゅう宿やど意志いし承認しょうにん必要ひつようがある。


照影蠱しょうえいこない意志いし秘堂家老ひとう かれい一体いったいとなっている。方源ほうげん家老かれい昇格しょうかくしたことで、その身分みぶんすで秘堂家老ひとう かれい承認しょうにんされており、一部いちぶ照影蠱しょうえいこ自由じゆう使用しようできる立場たちばにあった。


だが秘堂家老ひとう かれいは、方源ほうげん四転よんてん五転ごてん秘方ひほう閲覧えつらんする権利けんりを持つとはみとめていない。そのためむらさき照影蠱しょうえいこ真元しんげんそそいでも、なん反応はんのうられないのだ。


実際じっさい野生やせい天然蠱虫てんねんこちゅうでさえ、その意志いし承認しょうにん獲得かくとくできる場合ばあいがある。


獣王じゅうおうたちがそうやって蠱虫こちゅうちからりているように、人間にんげんなかにもれいがある。五転ごてん吞江蟾どんこうせん伝説でんせつ江凡こうぼんがその典型てんけいだ。


方源ほうげん春秋蝉しゅんじゅうせみ気配けはい利用りようすれば、これらの蠱虫こちゅう瞬時またたきに煉化れんかし、秘方ひほうれることだってもちろん可能かのうだった。


ただし、こうした行為こうい結果けっかあきらかに方源ほうげん現在げんざい背負せおえるものではない。られる利益りえきも、かれこころうごかすほどではない。


じつは最も貴重きちょう秘方ひほうは、これらの四転よんてん五転ごてんのものではなく、逆煉ぎゃくれん一転いってん月光蠱げっこうこつく方法ほうほうだ。初代しょだい族長ぞくちょう考案こうあんし、数百年すうひゃくねん歳月さいげついま規模きぼ繁栄はんえいきずいた基盤きばんなのだ」と方源ほうげんくらおもった。


合煉ごうれん低階ていかい蠱虫こちゅう昇格しょうかくさせるもの。逆煉ぎゃくれん高階こうかい蠱虫こちゅう降格こうかくさせるもの。


昇格しょうかく降格こうかく過程かていで、まったあたらしい蠱虫こちゅうまれる可能性かのうせいがある。


月光蠱げっこうこ天然てんねん蠱虫こちゅうではなく、初代族長しょだいぞくちょう逆煉ぎゃくれんつくしたものだ。


この世界せかい蠱虫こちゅうおおくは、天然てんねん蠱虫こちゅうもと蠱師こし創造そうぞうした新種しんしゅ。そのため方源ほうげん五百年ごひゃくねん経験けいけんってしても、蠱虫こちゅう世界せかい全般ぜんぱんに対する知識ちしきには限界げんかいがある。


どの家族かぞく独自どくじ蠱虫こちゅう一匹いっぴきあるいは数匹すうひき保有ほゆうしている。これらは希少きしょう天然種てんねんしゅか、逆煉ぎゃくれんによる新種しんしゅだ。


蠱師こしたちはこの基盤きばんうえに、各家族かくかぞく固有こゆうちから発展はってんさせてきた。



古月一族こげついちぞく月光蠱げっこうこ熊家寨ゆうかさい熊力蠱ゆうりきこ白家はくけ渓流蠱けいりゅうこ――これらはみなその典型例てんけいれいだ。


もし普通ふつう蠱虫こちゅう使つかっていれば、簡単かんたん対策たいさくてられる。


家族かぞく基盤きばん元泉げんせんにある。元石げんせき産出さんしゅつできること。つぎすくなくとも一種類いっしゅるい固有蠱こゆうこ保有ほゆうし、みずからのちから完全かんぜん解析かいせきされないようにすること。最後さいご血脈けつみゃく血縁けつえんこそが家族かぞくつな最重要さいじゅうよう紐帯ちゅうたいだ。


そのため、月光蠱げっこうこ一転蠱虫いってんこちゅうとはいえ、逆煉ぎゃくれん秘方ひほう価値かち数多あまた四転よんてん五転ごてん秘方ひほう凌駕りょうがする。


月光蠱げっこうこ逆煉秘方ぎゃくれんひほうは代々(だいだい)、族長ぞくちょうが直々(じきじき)に管理かんりしている。もちろん族長ぞくちょう以外いがいに、歴代れきだいで最も忠実ちゅうじつ家老かれい一人ひとり極秘ごくひでこの秘方ひほう承知しょうちしている。同時どうじ月光蠱げっこうこ秘方ひほう記載きさいした照影蠱しょうえいこ厳重げんじゅう隠匿いんとくされている。


方源ほうげんがこの密室みっしつから秘方ひほうつけすことなど、あきらかに不可能ふかのうだった。


「この秘方ひほう価値かちきわめてたかい。出発しゅっぱつまえれられればうことないが、無理むりもとめる必要ひつようもない」方源ほうげんはこのけん冷徹れいてつかつ淡々(たんたん)と見据みすえていた。


かれにとって組織そしき勢力せいりょくきずくつもりはない。月光蠱げっこうこ秘方ひほう必須ひっすのものではなかった。


「むしろ血月蠱けつげつこのような三転蛊虫さんてんこちゅうこそ、最も必要ひつようなものだ」


方源ほうげん現在げんざい三転さんてん修為しゅうい白銀真元はくぎんしんげんゆうするが、蛊虫こちゅうがすべて三転さんてんではないため、戦闘力せんとうりょく発揮はっきできていない。


現在保有げんざいほゆうしている雷翼蠱らいよくこ天蓬蠱てんぼうこくわえ、血月蠱けつげつこ合煉ごうれんすれば三転蛊虫さんてんこちゅう三匹さんびきになる。だがこれではまったりない」


一般いっぱん蛊師こし家族かぞく依存いぞんし、族人ぞくじんとの連携れんけい資源配給しげんはいきゅうがあるため、三、四匹(さん、よんひき)の蛊虫こちゅう十分じゅうぶんだ。


しかし方源ほうげん南疆なんきょう放浪ほうろうとおはなれたくなら、すくなくとも六匹ろっぴき蛊虫こちゅうがなければ、なんとか対応たいおうできる程度ていどである。


かれ経験けいけんによれば、この六匹ろっぴき蠱虫こちゅう攻撃こうげき防御ぼうぎょ治療ちりょう収納しゅうのう偵察ていさつ移動いどう六分野ろくぶんや支援しえん提供ていきょうする必要ひつようがある。


攻撃面こうげきめんでは、血月蠱けつげつこがかろうじて合格点ごうかくてん防御ぼうぎょかんしては天蓬蠱てんぼうこ役目やくめたせる。移動いどうでは雷翼蠱らいよくこ真元しんげん消費しょうひおおいものの、短時間たんじかん飛行ひこう可能かのうにする強力きょうりょく能力のうりょくゆうする。


しかし治療面ちりょうめんでは、九葉生機草きゅうようせいきそうあきらかに力不足ちからぶそくだ。そもそも二転にてん蠱虫こちゅうであり、さらに昇格しょうかくさせても方源ほうげん満足まんぞくさせる結果けっかられない。


二転にてん九葉生機草きゅうようせいきそう自体じたい治療能力ちりょうのうりょく際立きわだっていない。その利点りてんは、一転いってん生機葉せいきよう催生さいせいできるてんだけ。生機葉せいきようればなく元石げんせきられ、かねのなる同然どうぜんだ。


しかし今後こんご方源ほうげんながきにわたって人里離ひとざとはなれた場所ばしょあるくなら、たと生機葉せいきよう催生さいせいできたとしても、他の蠱師こし元石げんせき交換こうかんする相手あいてつからない。


偵察面ていさつめん地聴肉耳草ちちょうにくじそうはカバー範囲はんいひろい。二転にてんだが、どうにか使用しようできるレベルだ。


収納しゅうのうめんでは、方源ほうげん完全かんぜん空白くうはく。ここが最重点さいじゅうてんだ。一人旅ひとりたびでは後方支援こうほうしえん最優先さいゆうせん。『三軍動さんぐんうごく前に兵糧ひょうろう先行せんこう』とわれるように、他の五分野ごぶんやささえる基盤きばんとなる。


蠱虫こちゅうえさ保管ほかん人間にんげん食糧しょくりょうくわえ、最も重要じゅうようなのは元石げんせき貯蔵ちょぞうだ。


元石げんせきがなければ、蠱師こし修行しゅぎょう原動力げんどうりょくうしなう。


このてんかんして、方源ほうげんはまだなん進展しんてんていない。理想りそう貯蔵蠱ちょぞうこ入手にゅうしゅするまでは、山寨さんさいはなれないつもりだ。


後方支援こうほうしえんのための貯蔵蠱ちょぞうこは、まず収納範囲しゅうのうはんいひろく、食料しょくりょう元石げんせき保管ほかんできねばならん。さらに飼育しいく容易よういで、できれば保存期間ほぞんきかん延長えんちょうする機能きのうしいところだ。だが三家さんけ物資榜ぶっしぼうてもはない。赤脈せきみゃく利用りようし、彼等かれら奥底おくそこから最後さいご一滴いってきまでしぼるしかあるまい」


一刻いっこく時間じかんぎ、方源ほうげん地下溶洞ちかようどうながら心中しんちゅう思案しあんめぐらせていた。


方源様ほうげんさま、ご機嫌きげんよう」中年ちゅうねん男性蛊師だんせいこし出口でぐちち、あきらかに方源ほうげんかまえていた。


「おまえは?」


来訪者らいほうしゃかすかにわらい「わたし古月赤鐘こげつせきしょう現在げんざいかり薬堂家老やくどうかれいつとめております」とこたえた。


「やはりかれか」方源ほうげん心中しんちゅう合点がてんがいき、おもわず相手あいて観察かんさつした。


古月赤鐘こげつ せきしょうととのった顔立かおだちで角張かくばったおもて全身ぜんしんから沈着ちんちゃくした気配けはいにじていた。方源ほうげん同様どうよう家老かれい身分みぶんだが、修為しゅういすで三転中級さんてんちゅうきゅうたっしている。


方源ほうげん古月薬姫こげつ やくひめ失神しっしんさせたあと古月赤鐘こげつ せきしょう族長ぞくちょうから薬堂やくどう一時統括いちじとうかつするよう任命にんめいされた。つま薬脈やくみゃく重要じゅうよう成員せいいんであることから、これは古月博こげつ はく両派閥りょうはばつあらそいを均衡きんこうさせる政治策せいじさくだった。


だがなんにせよ、古月赤鐘こげつ せきしょうはこの機会きかい地位ちい上昇じょうしょうさせたのだ。


「こちらが三百枚さんびゃくまい元石げんせき今週こんしゅう家老手当かれいてあてです。ここにいるとおよんで、ついでに持参じさんしました。勝手かってけたこと、めないでいただければさいわいです」古月赤鐘こげつせきしょう革袋かわぶくろした。


「このおとこ…」方源ほうげんほそめながらふくろを受けうけとった。


家老手当かれいてあて家老かれいみずからが必要ひつようがある。しかし赤鐘せきしょう代行だいこうできたという事実じじつは、家族内かぞくないでのかれ人脈じんみゃく地位ちいあんしめしていた。


だがその暗示あんじ絶妙ぜつみょう加減かげんされ、好意こうい表明ひょうめいみとめのまれ、しがつよすぎない印象いんしょうのこしていた。


かくさずもうげますと、今回こんかいたずねしたのはおねがごとがございまして」


つづけてかれ前置まえおしに本題ほんだいはいった。


「ふむ、九葉生機草きゅうようせいきそう提出ていしゅつせよと?」方源ほうげんふくわらいをかべた。

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