表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
蛊真人  作者: 魏臣栋
青茅山
156/455

第百五十五節:借

「おいわもうげます」


方源ほうげん家老かれいわかくして有能ゆうのう後輩こうはい模範もはんとすべきおかた!」


今後こんご共事きょうじ本当ほんとうに楽しみですぞ、ははは」


……


家老かれいたちが方源ほうげんかこみ、社交辞令しゃこうじれいならべていた。


学堂家老がくどうかれい人垣ひとがきはずれにち、複雑ふくざつ眼差まなざしで方源ほうげんながめていた。


まさかこのるとはおもってもみなかった――方源ほうげん家老かれい昇格しょうかくするなど。同世代どうせだいでは方正ほうせいもっと期待きたいし、つぎ赤城あかしろ漠北ばくほく見込みこんでいた。


最初さいしょ頭角とうかくあらわしたのが方源ほうげんだとは……。


わたくし些細ささいたことなど、諸先輩しょせんぱいがたくらべようもありません。今日こんにちあるのは家族かぞくのご薫陶くんとうのおかげ学堂家老がくどうかれいさま、ご指導しどういまこころきざんでおります」方源ほうげんやわらかなみをかべ、謙虚けんきょかつつつましい態度たいどおうじた。


学堂家老がくどうかれいはこの問題児もんだいじみずかはなしかけてくるとは予想よそうしていなかった。


一瞬いっしゅん呆気あっけられたが、やがて満足まんぞくげな表情ひょうじょうあらわにした。「随分ずいぶん大人おとなになったようだな、方源家老ほうげんかれい。これからもはげむがいい。家族かぞくにはきみのような新風しんぷう必要ひつようだ。ほこりにおもうぞ!」


方源ほうげんふたたふかれいべると、他の家老かれいたちとの応対おうたいもどった。


五百年ごひゃくねん経験けいけんを持つかれにとって、このような社交しゃこうけ引き(は)朝飯前あさめしまえ仕事しごとだ。


言葉ことばの節々(ふしぶし)にすきがなく、態度たいどおだやかで謙虚けんきょもの春風しゅんぷうつつまれたようなぶんにさせるはなしぶりだった。


古月赤練こげつ あかれんかたわらでややかなつめながら、ればるほど背筋せすじさむくなる思いだった。この方源ほうげん応対おうたい一言一言ひとことひとこと老練ろうれん含蓄がんちくんでいる――本当ほんとう十代じゅうだいわかさなのか?まれつきの政治家せいじか素質そしつでもあるというのか?


学堂家老がくどうかれい内心ないしん驚異きょういおぼえていた。むかし学堂がくどう方源ほうげん同級生どうきゅうせいすら搾取さくしゅするような傲岸不遜ごうがんふそん態度たいどっていたことをおもすと、頭痛ずつうたねだった過去かこいま別人べつじんのような変貌へんぼう愕然がくぜんとしていた。


一方いっぽう古月漠塵こげつ ばくじんは、方源ほうげんのこのようないに違和感いわかんおぼえなかった。


とっくに方源ほうげん計算高けいさんだか側面そくめんあじわっていたからだ。


いま方源ほうげん紳士的しんしてきに人々(ひとびと)の注目ちゅうもくまととなっている様子ようすながら、赤練あかれんった妙手みょうしゅ感嘆かんたんきんなかった。


この会話かいわ表面的ひょうめんてきなものにぎず、時間じかんながくはなかった。しかし家老かれいたちがどのような思惑おもわくち、どの立場たちばっていようと、みな方源ほうげん見直みなおさざるをなかった。こころそこ一斉いっせいうわさむなしさをさとったのだ。


最終的さいしゅうてき方源ほうげん家老かれいたちの招待しょうたいたくみにことわり、古月赤練こげつ あかれんとも微笑ほほえみながら家主閣かしゅかくあとにした。


「フン、これで満足まんぞくか?古月薬姫こげつやくひめ失脚しっきゃくさせ、赤脈あかみゃくまでみやがって!」書斎しょさい赤練あかれんいつわりの微笑ほほえみをて、いかりをあらわにした。


方源ほうげんかいのせきこしろし、悠々(ゆうゆう)とわらかえした。「じつうと、このけんきみこそ感謝かんしゃすべきだぞ。古月薬姫こげつやくひめたおれたおかげで、赤脈あかみゃくおおきな利益りえきただろう?」


古月赤練こげつ あかれんひかりをした。「若造わかぞうあますぎだ。赤鐘あかがねたしかに赤脈あかみゃくものだが、つま薬脈やくみゃくだ。族長ぞくちょうかれかり薬堂家老やくどうかれいえたのは、赤脈あかみゃく薬脈やくみゃく内輪うちわもめを均衡きんこうさせるためだ。――ところで、どうやって赤城あかしろけんった?」


最後さいご質問しつもんで、古月赤練こげつ あかれん双瞳そうどうたかのようにするど方源ほうげんつらぬいた。


方源ほうげん平然へいぜんかたすくめ、「老害ろうがいさん、こっちは元石げんせきりなくなった。さき三千個さんぜんこくれよ」とはなった。


バンッ!


古月赤練こげつ あかれんつくえはげしくたたきつけ、こえころしてうなった。「方源ほうげん!その秘密ひみつにぎったからといって、赤脈あかみゃく自在じざいあやつれると思うなよ。わしはもうとしだ、あと数年すうねんも生きられまい。最期さいごいのちてる覚悟かくごならできておる……協力きょうりょくは受け入れよう、だが脅迫きょうはくことわる!」


今日きょうのような事態じたい二度にどゆるさんぞ!勝手かっててきつくり、赤脈あかみゃくみやがったら、あとかなら後悔こうかいするぞ!その秘密ひみつ赤脈あかみゃく全体ぜんたいほろびると本気ほんきおもってるのか?ふん、あますぎるわ」


方源ほうげん沈黙ちんもくつらぬき、かすかなひかり古月赤練こげつ あかれん怒号どごうを受けながしていた。


古月赤練こげつ あかれんつくえたたいた直後ちょくごとらのような気迫きはくせたが、はなせば話すほどいきおいがおとろえ、最後さいごにはあきらかに虚勢きょせい目立めだつようになっていた。


罵声ばせい途切とぎれたとき方源ほうげんは悠々(ゆうゆう)とわらいかけた。「老害ろうがいさん、そんなにねつくなるなよ。たしかに最近さいきん手元てもとくるしいが、三千個さんぜんこ元石げんせき無心むしんじゃない――りるだけだ。借用書しゃくようしょいてやるよ」


古月赤練こげつ あかれんややかにはならし、語気ごき幾分いくぶんやわらげた。「おまえには元石げんせきりなくなる心配しんぱいはない。家老かれいになったばかりで、家族かぞく特待とくたいらんだろう。家老かれいたるものしゅう百個ひゃっこ元石げんせき補助ほじょ支給しきゅうされる。これは平時へいじがくだ。いま狼潮ろうちょうだから、しゅう三百個さんびゃっこ元石げんせきられる」


「それだけではない。三転さんてん蠱虫こちゅう一匹いっぴき無償むしょう取得しゅとくできる。くわえて家族かぞく秘方ひほう一転いってんから三転さんてんまで公開こうかいされる。存分ぞんぶん秘方ひほうえらび、三転蠱さんてんこ合煉ごうれんすればよい。ほかにも特権とっけんがある――たとえば普通ふつう蠱師こしつま一人ひとりしかめとれないが、家老かれいになれば一妻二妾いっさいにしょうゆるされる」


「なるほど」方源ほうげん内心ないしんではすでくしていたが、表向おもてむきは初耳はつみみのような表情ひょうじょうよそおった。


「だが、そうはっても三千個さんぜんこ元石げんせきりたい。かってるだろう?おれ三転さんてん昇格しょうかくしたばかりだ。三転蠱さんてんこ合煉ごうれんには大量たいりょう元石げんせきるんだ」方源ほうげんは「誠実せいじつ」そうにはなった。




古月赤練こげつ あかれん沈思ちんししたままだまんだ。


方源家老ほうげんかれい身分みぶんなら、借金しゃっきんたおすような真似まねはすまい。名誉めいよにかけても……ただまんいつ狼潮ろうちょうんでしまったら、三千個さんぜんこ元石げんせき水泡すいほうすのではないか?て、かれねば、赤城あかしろ資質ししつけんかくとおせるでは……しかしこの秘密ひみつかれはどうやってった?ほかだれっておるのか?ひとまずして油断ゆだんさせ、さぐりをれるのが良策りょうさくか」


そう考え(かんがえ)いたると、古月赤練こげつ あかれん抵抗ていこうをやめ、ただちにかみふでを取りとりだした。方源ほうげん借用書しゃくようしょき、指印しるしした。


古月赤練こげつ あかれん執事しつじびつけ指示しじすと、もなくいくつかのふくらんだ財布さいふはこばれてきた。


方源ほうげん各財布かくさいふおもさをたしかめたが、不審ふしんてんつからなかった。


かれたしかにこの元石げんせき必要ひつようとしていた。


人獣葬生蠱じんじゅうそうせいこ合煉ごうれんするため、たくわえのほとんどを消費しょうひしてしまっていた。この三千個さんぜんこ元石げんせきまさみずのようなものだ。


三転さんてん昇格しょうかくはじまりにぎない。三転蠱師さんてんこし戦闘力せんとうりょく生存能力せいぞんのうりょくにすべく、三転蠱さんてんこ合煉ごうれんしなければならない。


すでかれ胸中きょうちゅうには大枠おおわく計画けいかくられていた。三千個さんぜんこ元石げんせきでさえりるかどうかあやしい。


だが心配しんぱい無用むようだ。赤脈あかみゃくかれ巨大きょだい金庫きんことなる。


今回こんかい元石げんせき借用しゃくようついくちぎない。一度いちどあることは二度にどあるもの、れればこっちのもんだ。


返済へんさいなんて……フフ。


元石げんせきにした方源ほうげんいそいでろうとせず、わらいながらった。「もう一つ(ひとつ)りたいものがある」


調子ちょうしるんじゃないぞ」古月赤練こげつ あかれん表情ひょうじょうけわしくしたが、結局けっきょくかえした。「なにだ?」


浄水蠱じょうすいこだ」方源ほうげんほそめ、坦々(たんたん)とげた。


商隊しょうたい以前いぜん浄水蠱じょうすいこられていたとき、最も購入こうにゅう可能性かのうせいたか人物じんぶつ古月赤練こげつ あかれんだった。


かれ自身じしん真元しんげんまご赤城あかしろ空竅くうこう温養おんようし、修行しゅぎょう促進そくしんさせたため、空竅くうこうない異種いしゅ気息きそく残留ざんりゅうしており、浄水蠱じょうすいこでしか除去じょきょできないからだ。


絶対ぜったい駄目だめだ!」古月赤練こげつ あかれん即座そくざ拒絶きょぜつした。


たしかにかれはその浄水蠱じょうすいこ購入こうにゅうしていたが、これは実孫じつまご古月赤城こげつ あかしろのために準備じゅんびしたもの。ふたた入手にゅうしゅするにはえん必要ひつようだった。


断言だんげんするなよ」方源ほうげんはフフッとわらい、「浄水蠱じょうすいこ一匹いっぴき赤脈あかみゃく威信いしん、どちらが重要じゅうようかはかってるだろう。赤脈あかみゃくおさである貴方あなたなら、当然とうぜん判断はんだんができるはずだ」


古月赤練こげつ あかれん顔色かおいろ完全かんぜんけわしくなり、こおりのようなつめたさをたたえた。歯軋はぎしりしながら方源ほうげんにらみつけ、「方源ほうげん自分じぶんなにをしてるかかってるのか?わしを――赤脈あかみゃくおさ脅迫きょうはくしてるのだぞ!」


ちがちがう、これは脅迫きょうはくじゃなく相談そうだんだ。浄水蠱じょうすいこりるだけ、あと新品しんぴんかえす。これも借用書しゃくようしょこう」方源ほうげん微笑ほほえみながらも、るぎない決意けついにじませた。


ゆめるんじゃない!」赤練あかれん態度たいどはがねのようだった。


……


半刻はんとき方源ほうげん三千個さんぜんこ元石げんせき浄水蠱じょうすいこたずさ赤家あかけあとにした。


一方いっぽう古月赤練こげつ あかれん書斎しょさいで、つくえうえかれた二枚にまいうすっぺらい借用書しゃくようしょながめながら、怒涛どとうごとせる鬱憤うっぷんむねがしていた。


赤脈あかみゃくよわみをにぎられた赤練あかれん完全かんぜん受身うけみ立場たちばたされていた。方源ほうげん勝利しょうり当然とうぜん帰結きけつだった。


三日後みっかご


方源ほうげんとこ結跏趺坐けっかふざし、しろひかりかおけていた。


しろ光球こうきゅう空中くうちゅうかんでいる――蠱虫こちゅう合煉ごうれん最終段階さいしゅうだんかいはいっていた。


片手かたて光球こうきゅう意識いしき制御せいぎょしながら、もう片方かたほうで次々(つぎつぎ)と元石げんせきんでいく。


光球こうきゅう突然とつぜんえ、あたらしい蠱虫こちゅう方源ほうげんてのひらんだ。


その姿すがた巨大きょだい瓢箪虫ひょうたんむしのよう。半円形はんえんけい乳白色にゅうはくしょく甲羅こうら黒斑こくはんらばっている。


成人大せいじんおおきなこぶしほどの大きさだ。


三転天蓬蠱さんてんてんぼうこ


「ついに合煉ごうれん成功せいこうしたか」方源ほうげん満足まんぞくげにうなずいた。これがかれ二度目にどめ合煉ごうれんだった。


天蓬蠱てんぼうこ二転にてん白玉蠱はくぎょこと、水属性みずぞくせい防御蠱ぼうぎょこを組みくみあわせて合煉ごうれんしたものだ。


最初さいしょ合煉ごうれんでは水罩蠱すいしょうこ白玉蠱はくぎょこ使つかったが失敗しっぱいし、水罩蠱すいしょうこうしなっていた。


今回こんかい使用しようした水属性防御蠱みずぞくせいぼうぎょこは、方源ほうげんのこすくない戦功せんこう交換こうかんしたものだった。


ただしこの天蓬蠱てんぼうこは、方源ほうげんはじめてにした三転蠱さんてんこではない。最初さいしょ三転蠱さんてんこ家族かぞくから直接ちょくせつ受けうけとったものだ。


三転さんてん昇格しょうかく家老かれいとなれば、家族かぞく無償むしょう三転蠱さんてんこさずけてくれる制度せいどがある。


方源ほうげん雷翼蠱らいよくこえらんだ。


この家老かれいたちが狂電狼きょうでんろうったさい戦利品せんりひんで、雷光らいこう羽根はね形成けいせいし、短時間たんじかんながら飛行能力ひこうのうりょく付与ふよするものだった。


雷翼蠱らいよくこによる機動力きどうりょく補完ほかんで、方源ほうげん戦力せんりょく最後さいご弱点じゃくてんおぎなわれた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ