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蛊真人  作者: 魏臣栋
青茅山
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第百五十三節:本当に老いた

「まさか本当ほんとう三転さんてん昇格しょうかくしたのか」


三転さんてん気配けはい本物ほんものだ、白銀真元はくぎんしんげん確認かくにんできた。間違まちがいない」


……


家主閣かしゅかく広間ひろま厳粛げんしゅく雰囲気ふんいきつつまれていた。


家主かしゅ古月博こげつ はく最上段さいじょうだん主座しゅざすわり、数多あまた家老かれいたちが左右さゆうれつ着席ちゃくせきしていた。


ささやきごえ波紋はもんのようにひろがり、十数人じゅうすうにん視線しせんおおかれすくなかれ堂中どうちゅうむねって少年しょうねんそそがれていた。


そのものこそ方源ほうげんであった。


「まさかこの方源ほうげん三転さんてんに…」


「このなきゃしんじられねえよ…」


丙等へいとう素質そしつだっけ? なんできゅうに?」


「考え(かんがえ)てみりゃ意外いがいでもねえ。赤鉄舎利蠱せきてつしゃりこ二匹にひきれたんだぜ?」


「そりゃそうだ。舎利蠱しゃりこ二匹にひきもあれば修為しゅうい無理矢理むりやりがるわ。おれ修行しゅぎょう時代じだいおもすと…はあ…」


……


家老かれいたちは驚愕きょうがく困惑こんわくじり、この事実じじつ全員ぜんいん対応たいおうわれている様子ようすだった。


「この方源ほうげん、まさか三転さんてんげたとは!たかが丙等へいとう資質ししつで、こんな短期間たんきかんで……まったく予想外よそうがいだった」左列されつ首席しゅせきすわ古月漠塵こげつ ばくじん内心ないしん感嘆かんたんしていた。


二、三年前にさんねんまえおもす――方源ほうげん学堂がくどうにいたころみずからの家僕かぼく一人ひとり殺害さつがいした事件じけん脳裏のうりかんだ。


その家僕かぼく名前なまえはもう漠塵ばくじん記憶きおくからえていたが、事件後じけんご方源ほうげん遺体いたい粉砕ふんさいしておくものにした行為こうい強烈きょうれつ印象いんしょうのこしていた。


その以来いらい漠塵ばくじん方源ほうげん特別視とくべつしするようになっていた。


しかし資質ししつひくさから、おおきな期待きたいいだいていなかった。


まさか!今日きょうのような成果せいかげるとは!


家族かぞく体制たいせいでは、三転さんてん修為しゅういたっした蠱師こしあらたな家老かれいとなる。


あらた家老かれい登場とうじょうは、既存きそん政治構造せいじこうぞう衝撃波しょうげきはをもたらすにちがいない。



「もし事前ぜんかれをスカウトしておけば、この影響力えいきょうりょくものにでき政治的優位性ゆういせいられたのに。はあ……本当ほんとうしいことをした……」そうかんがえながら、古月漠塵こげつ ばくじんおもわず対面たいめん目配めくばせした。


長年ながねんのライバルである古月赤練こげつ せきれん右列うれつ首席しゅせきすわり、いまけわしい顔色かおいろ不気味ぶきみひかり宿やどせていた。


「この方源ほうげんにはかなら秘密ひみがある。赤鉄舎利蠱せきてつしゃりこ二匹にひき助力じょりょくがあったとはいえ、青書せいしょさえなかった三転さんてん昇格しょうかくげたとは」古月博こげつ はくひそかにかんがえをめぐらせていた。


かれ養子ようしである青書せいしょのことをおもわずにいられず、こころの中で嘆息たんそくした。


もし古月青書こげつ せいしょ生存せいぞんしていれば、おそらく三転さんてん修為しゅういたっしていただろう。残念ざんねんながら現実げんじつ残酷ざんこくなものだ。



薬堂家老やくどうかれい古月薬姫こげつやくひめさま到着とうちゃく――!」そのとき守衛しゅえい突然とつぜん甲高かんだかげた。


入口いりぐちからしわだらけの老女ろうじょあらわれた。蒼白そうはくかおするど眼光がんこうたたえ、またたもなく方源ほうげん凝視ぎょうしした。


古月薬姫こげつやくひめ早足はやあしちかづきながらった。「方源ほうげんよ、まさか三転さんてんに?しんじられん!老婆ろうば直接ちょくせつたしかめてやる!おまえ空竅くうこう検査けんささせろ!」


空竅くうこう蠱師こし最重要さいじゅうよう秘密ひみだ。簡単かんたん他人たにんせるものではない。


方源ほうげんかすかにからだかたむけ、ちかづく薬姫やくひめつめたいわらいでむかえた。「古月薬姫こげつやくひめおれ空竅くうこう検査けんさする権限けんげんがどこにある?」


以前いぜん修行初期しゅぎょうしょき学堂家老がくどうかれい定期検査ていきけんさけていたが、いま三転さんてん蠱師こしとして彼女かのじょらと対等たいとう立場たちばだ。


してや修為しゅうい確認かくにん簡単かんたんである。白銀真元はくぎんしんげん偽装ぎそうできず、三転さんてん気配けはいまぎれもない事実じじつだった。



大胆だいたんな!小僧こぞう分際ぶんさいでわしの直呼じかよびするとは!」薬姫やくひめいた。「なぜ検査けんさできぬ?わしの立場たちば十分じゅうぶんだ!薬堂家老やくどうかれいであり、目上めうえものでもある!」


「ふん、ばばあ、名前なまえぶだけでもつらしてやってるんだ。おまえとの貸借たいしゃくはまだ清算せいさんしてないぞ。まえ酒虫しゅちゅうろうとしてことわれたらうらみやがって。九葉生機草きゅうようせいきそうまでげようとしたくせに!三步芳草蠱さんぽほうそうことの交換こうかんはばんだのもおまえだろ?いまおれ三転さんてんだ。えらそうな態度たいどひかえた方がのためだぜ」


方源ほうげん細目ほそめにしながら刃物はもののような言葉ことばげつけた。ひらかえすように露骨ろこつ敵意てきいあらわにした。


もし一転いってん二転にてんころなら、こんな発言はつげんをすれば即座そくざ弾圧だんあつされていただろう。だがいま三転さんてん修為しゅうい家老かれい同等どうとう立場たちば勢力図せいりょくず根本こんぽんからわっていた。


方源ほうげん古月薬姫こげつやくひめ直接ちょくせつ対決たいけつするのを目撃もくげきした他の家老ほかのかれいたちは沈黙ちんもくのまま傍観ぼうかんえらんだ。


高位こういものみな思惑おもわくふかい。元々(もともと)浅慮せんりょものでも、立場たちばが育て(そだて)る。彼ら(かれら)は方源ほうげんをまだらない。丁度ちょうどこの機会きかいひそかに観察かんさつできるのだ。


小僧こぞうがよくも虚言きょげんを!」古月薬姫こげつやくひめ恥辱ちじょくからいかくるった。方源ほうげん指摘してき事実じじつでも、公衆こうしゅう面前めんぜんみとめるわけがない。


すわする家老かれいたちは沈黙ちんもくたもち、事態じたいきを見守みまもっていた。多くの家老かれい九葉生機草きゅうようせいきそうけん認知にんちしており、古月薬姫こげつやくひめ利益交換りえきこうかんさえしていたものもいる。


だが政治せいじとは永遠えいえん利益りえきだけが存在そんざいし、不変ふへんてきとももないものだ。


古月薬姫こげつやくひめぎゃく自分じぶん非難ひなんするのをて、方源ほうげんは呵々(かか)と冷笑れいしょうし、反論はんろんさえしなかった。


広間ひろまには薬姫やくひめ甲高かんだかこえ余韻よいんのこしていた。


老婆ろうばからだかすかにふるえていた。この静寂せいじゃく彼女かのじょ孤立こりつさとらせたのだ。


ちがう。


状況じょうきょうすでわっていた。


もし方源ほうげん一転いってん二転にてんなら、家老かれいたちは即座そくざ薬姫やくひめ同調どうちょうし、共同きょうどう制裁せいさいくわえただろう。上層部じょうそうぶ権威けんい下層かそうからの挑戦ちょうせん絶対ぜったいゆるさない。だがいま方源ほうげん三転さんてん族長ぞくちょう正式せいしき宣言せんげんたずとも家老かれい地位ちい確定かくてい事項じこう。もはやかれ薬姫やくひめ対立たいりつ上層部内部じょうそうぶないぶあらそいなのだ。



方源ほうげん新参しんざん家老かれい基盤きばんあさく後ろうしろだてもない。だがそれがぎゃくつよみ――裸足はだしの者は草鞋わらじものおそれぬ。


一方いっぽう古月薬姫こげつやくひめ老齢ろうれい薬堂やくどう掌握しょうあく権勢けんせいふるい、人脈じんみゃくひろいが、それが弱点じゃくてんでもある。


としを取りぎて敗北はいぼくゆるせぬ。後継者こうけいしゃ薬楽やくらく行方不明ゆくえふめい彼女かのじょにぎ巨大きょだい利権りけん他人たにん垂涎すいぜんまとだ。


平時へいじならまだしも、いま狼潮ろうちょう最中さいちゅう――家老かれいとて危険きけんがある。


情勢じょうせい激動げきどう新人しんじん台頭たいとうし、旧人きゅうじん退しりぞく。


変革へんかくときに、安泰あんたい保証ほしょうできる家老かれいなどだれもいない。族長ぞくちょうとてほろびる可能性かのうせいがあるのだ。


古月一族こげついちぞく歴史れきしにおいて、狼潮ろうちょういのちとした族長ぞくちょうすくなくない。


家老かれいたちにとって、みずからの保身ほしんさえ困難こんなんで、おおきな利益りえきもない。他人たにんたたかいにくび余裕よゆうなどない。


古月薬姫こげつやくひめ手強てごわさをかんじていた。


広間ひろまみずったような静寂せいじゃくつつまれていた。


孫娘まごむすめけん三日三晩みっかみばん一睡いっすいもせず、いまっているだけで無形むけい圧力あつりょく身心しんしんけ、ひたいこまかなあせかんでいた。


みずからをきずったいたおおかみのようにかんじた――れから孤立こりつし、かげひそおおかみたちが深淵しんえんのようなみどりひとみつめたく見下みおろしている。


眼前がんぜん方源ほうげんは、狩猟しゅりょう頭角とうかくあらわしたわか雄狼おすおおかみのようだ。あれほどのわかさ、あれほどの野望やぼう、あれほどの強靭きょうじん体躯たいく


まったく――かわ後波あとなみ前波まえなみすがごとく、あらた世代せだいふるきを駆逐くちくする!


この瞬間しゅんかん古月薬姫こげつやくひめみずからのいをさとった。


いのよ!



彼女かのじょのまぶたがさらにがり、気迫きはくも徐々(じょじょ)におとろえていった。


だがこころ古月薬楽こげつやくらく面影おもかげかぶと、くらんだ老眼ろうがん無理矢理むりやり見開みひらき、気勢きせいふたた急上昇きゅうじょうしょうさせた。


方源ほうげんよ、この三日間みっかかん、どこにいた?おまえあらわれなかったら、薬堂やくどう戦死者名簿せんししゃめいぼ名前なまえってたんだぞ。三日三晩みっかみばん失踪しっそうして、もどってきたら三転さんてんに?その過程かていなにがあったんだ?フフ、みなさんもきっと興味深きょうみぶかおもっていることだろう」


方源ほうげん以前いぜんのように容易よういあつかえぬ存在そんざいだとさとり、語調ごちょう幾分いくぶんやわらいでいた。だが言葉ことばやいば以前いぜんよりするどく、巧妙こうみょう仕組しくまれた悪意あくい文脈ぶんみゃくにじんでいた。


流石さすが最古参さいこさん権力者けんりょくしゃ


家老かれいたちはこれをき、かがやかせ興味きょうみあらわにした。すわするもの愚者ぐしゃはおらず、方源ほうげん突然とつぜん三転昇格さんてんしょうかくにはたしかに不審ふしんつのる。なんといっても丙等へいとう素質そしつ周知しゅうち事実じじつだった。


古月薬姫こげつやくひめ一言ひとことで、家老かれいたちはふたた彼女かのじょ陣営じんえいかえった。


しかし方源ほうげん敢然かんぜん帰還きかんした以上いじょう当然とうぜん準備じゅんびととのっていた。


衆人しゅうじん視線しせんびながら、かれ高笑たかわらいした。「ばばあ、りたけりゃおしえてやるよ?孫娘まごむすめくしたあわれみでな……この三日間みっかかん赤練家老あかれんかれい屋敷やしき三転突破さんてんとっぱ修行しゅぎょうはげんでた。古月赤練家老こげつあかれんかれい証人しょうにんになってくれるぜ!」


なに!?」古月薬姫こげつやくひめ驚愕きょうがく表情ひょうじょうかべた。


他の家老かれいたちも様々(さまざま)な複雑ふくざつ表情ひょうじょうあらにした。


瞬時しゅんじ無数むすう視線しせん青黒あおぐろかお古月赤練こげつあかれん集中しゅうちゅうした。


古月一族こげついちぞく最強さいきょう権勢けんせいほこ二大にだい家老かれい一人ひとり赤脈あかみゃく家主かしゅ顔色かおいろはさらにくらく、したたるほどの重圧じゅうあつはなっていた。


しかし衆目環視しゅうもくかんしなかで、かれみな説明せつめいする必要ひつようがあることをさとり、不本意ふほんいながらくちひらいた。「その通り(どおり)だ。方源ほうげんはここ数日すうじつ屋敷やしき密室みっしつ修行しゅぎょう専念せんねんしていた。わたし保証ほしょうする」


この発言はつげんぶや、場内ばない騒然そうぜんとなった。


家老かれいたちは教養きょうようぶかく、おおきなさわぎをこすような野暮やぼはしない。しかしささや議論ぎろんこえまなかった。


「まさか古月赤練こげつあかれん方源ほうげんつなががっていたとは!」


方源ほうげん昇格しょうかく赤練あかれん関与かんよがあるのか?」


おおいに関係かんけいあるだろう!まえだれかが推測すいそくしていたように、方源ほうげん背後はいご支援勢力しえんせいりょくがいるはずだ。まさか赤脈あかみゃくだったとは」


方源ほうげん修行速度しゅぎょうそくど赤脈あかみゃく投資とうしだろう。方源ほうげん方正ほうせいあに赤練家老あかれんかれいのこのさく深遠しんえんだ」


家老かれいたちの半数はんすう噂話うわさばなしきょうじる一方いっぽうのこりのものこころみだしていた。


方源ほうげん無策むさく新参者しんざんものではなく、すで赤脈あかみゃく加担かたんしている。今後こんご慎重しんちょう対応たいおうせねば」


かった……方源ほうげん薬姫やくひめあらそいにまれずにんだ」


薬姫やくひめいたったな。無背景むはいけい家老かれいたたこうとしたら、相手あいて後盾うしろだて赤脈あかみゃくとは!」


古月薬姫こげつやくひめかおさおだった。古月赤練こげつあかれん証言しょうげんみとめた瞬間しゅんかんおどろいてうしろへ一歩いっぽがり、全身ぜんしんかすかにふるわせた。


単独たんどく家老かれいと、赤脈あかみゃく背景はいけい家老かれいへの対応たいおうは、まった次元じげんことなるのだ!






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