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蛊真人  作者: 魏臣栋
青茅山
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第百五十一節:魔性

この節は危ない、見ないがほうがいい

危ない、危ない、危ない

「『な…!?』」古月薬楽こげつやくらく言葉ことばいて呆然ぼうぜんとした。


方源ほうげん電光石火でんこうせっかうごき、手刀しゅとう少女しょうじょやわらかい首筋くびすじこうべとすようにりつけた。薬楽やくらく意識いしきうしない、くずちるからだ方源ほうげん素早すばやうですくい上げ(あげ)、隠鱗蠱いんりんこ発動はつどうさせると二人ふたり姿すがたやみけた。


薄目うすめひらいた薬楽やくらくは、薄暗うすぐら洞窟どうくつなかにいることに気付きづいた。


おもたいあたまりながらがろうとするが――


いわなわでぐるぐるきにされていることに気付きづく。麻縄あさなわゆびほどのふとさで、何重なんじゅうにもかれ固結かたむすびされていた。


蠱虫こちゅうは全て(すべて)方源ほうげん強纏きょうてんうばわれ煉化れんかみ。十五歳じゅうごさい華奢きゃしゃからだでは、どうさからえるすべもない。


見知みしらぬ場所ばしょしばり上げ(あげ)られた少女しょうじょむねに、つめたい恐怖きょうふが込み上げ(あげ)てきた。



うしな直前ちょくぜん光景こうけいおもかえすと、どんな天真爛漫てんしんらんまんものでも方源ほうげん悪意あくいさとるだろう。


「でも方源ほうげんわたしをどうするつもり? お婆様ばあさまぐちしたから仕返しかえしに……?」しばられた四肢ししうごかぬまま、脳裏のうり疾走しっそうつづけた。


おもえばおもうほど恐怖きょうふふくらみ、なみだこぼれた。


「お婆様ばあさま、どこにいるの? はやく楽々(らくらく)をたすけて……」ふるえるこえ未曽有みぞう孤独こどく恐怖きょうふつたえていた。


方源ほうげん気配けはいはなく、洞窟どうくつごえだけが反響はんきょうする。


「まさかわたしをここにめて……7なのかも8ようかえさせて、二度にどわせないようにするつもり?」なみだれたまぶたひらき、可能性かのうせいかんがいた。


最低さいてい


方源ほうげん絶対ぜったいゆるさないわ!!


いしばり、元々(もともと)最悪さいあくだった方源ほうげんへの印象いんしょう地底ちていまでちていた。



古月薬楽こげつやくらくまれてこのかた、これほどひとにくんだことはなかった。


そのとき、ザクザクと足音あしおとちかづいてきた。


やがて方源ほうげん姿すがたやみからかびがる。


方源ほうげんなにするつもりよ!はやはなしなさい!さもないとお婆様ばあさまひどわせるわ!」なわしばられたからだ必死ひっしあばき、やわらかいあし地面じめんさまは、わなちた子鹿こじかのようだった。


元気げんきいな」方源ほうげんはなわらった。


薬楽やくらくふたた罵声ばせいびせようとした瞬間しゅんかん方源ほうげん背後はいごから巨体きょたいがゆっくりとあらわれた。「熊、くまが……」見開みひらいたまま、こえのどまった。


方源ほうげん薄笑うすわらいをかべ、くまくろ毛皮けがわでながらった。「狼潮ろうちょうもとでは、こんな野熊やくまつけるのに随分ずいぶん手間取てまどったんだよ」つめたいこえ洞窟どうくつ陰気いんきかぜのようにひびわたった。


古月薬楽こげつやくらく瞬時しゅんじさっした。方源ほうげん熊驕嫚ゆうきょうまんからうばった駆熊蠱くゆうこ存在そんざいおもす。


「そういうことか……」嘲笑あざわらいながらくちひらこうとした刹那せつな方源ほうげん不意ふいちかづき、眼前がんぜんひざをついた。


なにをするつもり!?」少女しょうじょ必死ひっしうしずさるが、方源ほうげん右手みぎて容易たやすくそのほおをしっかりつかんだ。


いとくるしいかおだ。たしかにひときつける」方源ほうげんは淡々(たんたん)とひょうした。


ビリッ!


右手みぎて薬楽やくらく襟首えりくびつかみ、強引ごういんく。


衣服いふくけ、なかのピンクの腹巻はらまきあらわに。


「きゃあ―――!!」一瞬いっしゅん呆然ぼうぜんて、甲高かんだか悲鳴ひめいともくるったようにあばはじめる。やわらかいはだ麻縄あさなわ血痕けっこんきざんでもかまわず。


方源ほうげん薄笑うすわらいをつづけ、さらつづける。


ビリビリビリ。


またた少女しょうじょ衣服いふくはボロぬのし、牛乳ぎゅうにゅうのようなしろはだあらわになっていった。



「やめて、やめてよ!」恐怖きょうふふるえながらさけぶ。方源ほうげん自分じぶんくわえるかもしれない非道ひどうおもい、全身ぜんしん痙攣けいれんしていた。


しかし方源ほうげん彼女かのじょ予想よそうはんし、それ以上いじょううごかずにがり、おもむろに後退こうたいした。


嗚咽おえつわりかけた少女しょうじょごえ――その瞬間しゅんかん黒熊くろぐま熊掌ゆうしょうした。


ひとみはりさきのように収縮しゅうしゅくする。気配けはい全身ぜんしんつらぬいた。


ヒュッ!


熊掌ゆうしょうかぜおと


カキン!


少女しょうじょくびやわらかくがり、不自然ふしぜん角度かくどかたむく。ついさっきまで生気せいきちていた肉体にくたいは、あたたかい屍体したいしていわしばりつけられた。もてあそばれた人形にんぎょうのようだった。


方源ほうげん駆熊蠱くゆうこ操作そうさする必要ひつようもなく、黒熊くろぐましょく本能ほんのうしたがあたまれ、ゆたかな饗宴きょうえんしたつづみをはじめた。



黒熊くろぐまはまず少女しょうじょ喉元のどもとらいつき、鮮血せんけつしてくろ毛皮けがわった。


つづいて少女しょうじょしろとおむね――ひらかぬつぼみのような部位ぶいきばてる。右胸みぎむね)いちぎったくま皮肉ひにくり、しろ不気味ぶきみ肋骨ろっこつ骨格こっかくあらわに。熊掌ゆうしょう一撃いちげきくわえると、それらの肋骨ろっこつ簡単かんたんれ、内臓ないぞうつぶされて血潮ちしおほとばしった。


ほね障害しょうがいえたくま口吻こうふん少女しょうじょ体腔たいこうふかれ、なお鼓動こどうする心臓しんぞう)らいつくと丸飲まるのみにした。


のどとおはらころがりちた心臓しんぞうに、狼潮ろうちょうつづけていた黒熊くろぐま満足まんぞくうなごえげる。


ふたたあたまれたくま五臓六腑ごぞうろっぷむさぼるようにらしはじめた。


ボリボリ、ガブガブ。


あごはげしくうごかすたびに、くろ口腔こうこうからじった肉片にくへんこぼち、水音みずおとのような生々(なまなま)しいおとてた。


なが時間じかんぎ、くまはようやくあたまいた。



少女しょうじょ胸郭きょうかく空洞くうどうとなり、腹部ふくぶまでけた巨大きょだい傷口きずぐちひろがっていた。しろかがやはらわたには、黒熊くろぐま興味きょうみしめさない様子ようす


くま注意ちゅうい蓮根はすねのようにしろほそ少女しょうじょあしうつる。


少女しょうじょ一本一本いっぽんいっぽん優美ゆうびゆび黒熊くろぐまがガブリとらいつき、バリバリと咀嚼そしゃくしてむたび、ほねくだけるおとひびいた。


太腿ふともももまた絶品ぜっぴん


やわらかな皮肉ひにく処女しょじょ芳香ほうこうのこり、黒熊くろぐま満足まんぞくげにくすと、しろ腿骨たいこつだけがのこされた。


ついに、少女しょうじょあたま地面じめんころがりちた。


率直そっちょくえば、たしかにいとくるしいかお立ちだった。漆黒しっこくの大きなひとみまるちいさくうえいたはなはなのように淡桃色たんとういろはだ桜色さくらいろくちびるからのぞ真珠しんじゅのような歯並はならび。


だがいま血色けっしょくうしなわれ青白あおじろ変色へんしょく黒髪くろかみかお大半たいはんおおい、見開みひらかれた恐怖きょうふ怒怨どえんちている。


じず!


方源ほうげん腕組うでぐみして傍観ぼうかんした。古月薬楽こげつやくらく表情ひょうじょうながめながら、地球ちきゅう仏語ぶつごおもす――「無我相むがそう無人相むにんそう無衆生相むしゅじょうそう無寿者相むじゅしゃそう紅粉骷髏こうふんこどくろ白骨皮肉はっこつひにく


われこそが自我じがであり、自我じが存在そんざいしない。自我中心じがちゅうしんくだし、おのれ平凡へいぼんさをる。「無我相むがそう」とは「万人ばんにん平等びょうどう差異さいなきこと」


人間にんげん人類じんるいぎず、他生物たせいぶつ卑賎ひせん見下みくださない。「無人相むにんそう」は「衆生しゅじょう平等びょうどう差異さいなきこと」


衆生しゅじょう一切いっさい生命せいめい山石さんせき水流すいりゅうにすら霊性れいせいみとめる。「無衆生相むしゅじょうそう」は「森羅万象しんらばんしょう平等びょうどう差異さいなきこと」


万物ばんぶつは各々(おのおの)寿命じゅみょうゆうす。「無寿者相むじゅしゃそう」は「存在そんざいするもせざるも平等びょうどうまった同一どういつ


美男美女びなんびじょついには白骨はっこつとなる。ほねにく一体いったいながら、人はにく執着しゅうちゃくほねおそれる。これこそ表相ひょうそうとらわれた「平等びょうどう真相しんそう」を見落みおとしている。


この仏語ぶつごは全て(すべて)のそうやぶり、真実しんじつよとくのだ。



美色びしょくそうならば、人我にんが衆生しゅじょう寿者じゅしゃもまたそうなり。諸相しょそうそうならざるものとれば、すなわ如来にょらいる。本質ほんしつ見抜みぬき、ひとしくいつくしむこと、これが衆生平等しゅじょうびょうどうなり。


ゆえ仏祖ぶっそててとらわせ、にくいでたかあたえたり。これこそが大慈悲だいじひこころ万物ばんぶつおのれ見做みなし、一切いっさいあいし、あらゆる存在そんざい慈愛じあいそそあかしなり。


われであれ他者たしゃであれ、動物どうぶつ植物しょくぶついのちなき山河さんが水土すいど、さらには存在そんざいせざるものにいたるまで、全て(すべて)をあいせよ。



凡夫ぼんぷがここに立ち、くまひとうのをれば――血気盛けっきさかんなおとこし「畜生ちくしょうひとうな!」とか「美少女びしょうじょよ、がるな!叔父おじさんがたすける!」などとさけぶだろう。


これこそ凡夫ぼんぷ愛憎あいぞう少女しょうじょあい巨熊きょゆうにくむ。いま真相しんそう見透みすかせず、表相ひょうそうとらわれ紅粉骷髏こうふんこどくろ見抜みぬけぬ。


仏陀ぶっだがここに立ちくまひとうをれば、嘆息たんそくしつつ仏偈ぶつげとなうだろう「われ地獄じごくらずしてだれらん」と。少女しょうじょすくし、みずからの黒熊くろぐまささげるのだ。


これこそほとけ愛憎あいぞう少女しょうじょ巨熊きょゆうひとしくあいし、差別さべつせぬ大愛たいあいなり。



しかしいま、ここにつのは方源ほうげんである。


少女しょうじょ惨死さんしても、こころ波紋はもんしょうぜず。


これは生死せいしれた麻痺まひではなく、そうやぶ執着しゅうちゃくだっしたからだ。無我相むがそう無人相むにんそう無衆生相むしゅじょうそう無寿者相むじゅしゃそう……


万物ばんぶつひとしく衆生しゅじょう平等びょうどうかんず。


ゆえ少女しょうじょは、一匹いっぴきいなご一頭いっとうきつね一本いっぽんなんわらない。


されど凡夫ぼんぷには、少女しょうじょいかりやにくしみをこす。もしくま少女しょうじょわれたなら、かれらはなんともおもわぬだろう。老婆ろうばわれれば、その悲嘆ひたんうすれ、極悪人ごくあくにんわれれば喝采かっさいおくる。


真実しんじつは――万物ばんぶつ平等びょうどう天地てんちじんなくして万物ばんぶつ芻狗すうくす。



大自然だいしぜん公平こうへいである。愛憎あいぞうかたらず、無情むじょう万物ばんぶつ差別さべつせぬ。


弱肉強食じゃくにくきょうしょく優勝劣汰ゆうしょうれったい


ひとつの生命せいめいえようと、広大こうだい自然界しぜんかいにとって、深淵しんえんたる星空ほしぞらにとって、滾々(こんこん)とながれる歴史れきし大河たいがにとって、なん意味いみがあろうか?


ねばんだ。不死ふしものなどいない。少女しょうじょ巨熊きょゆういなごきつね樹木じゅもく老婆ろうば殺人鬼さつじんきも、みな卑小ひしょう下賎げせん芻狗すうく


この真理しんりさとり、一切いっさいそうやぶ真実しんじつれば、神性しんせいしょうず。


この神性しんせい光明こうみょう一歩いっぽせばほとけやみ半歩はんぽすすめば


魔性ましょう

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