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蛊真人  作者: 魏臣栋
青茅山
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第百四十八節:局面

二本にほん巨大きょだい幡旗ばんきかぜひるがえり、パタパタとおとてていた。


一本いっぽん戦功榜せんこうぼう――いま方源ほうげん十位内じゅういないつらねる。もう一本いっぽんばんには多種多様たしゅたよう物資ぶっし記載きさいされ、全て(すべて)戦功せんこう交換こうかん可能かのうとなっている。


だがいまひと往来おうらいえない広場ひろばで、多数たすう蠱師こしたちの視線しせんあらたに掲示けいじされた法令ほうれいせられていた。


法令ほうれい内容ないようおおむね次の通り――狼潮ろうちょう猛威もういにより、家族かぞく蠱師こし死傷者ししょうしゃ日増ひましに増加ぞうか治療能力ちりょうのうりょく強化きょうかのため、薬堂やくどう九葉生機草きゅうようせいきそう所有しょゆうする全蠱師ぜんこしたいし、当該とうがいくさ一時的いちじてき家族かぞく提出ていしゅつするようめいずる。薬堂やくどう人員じんいん組織そしきし、一括生産いっかつせいさん実施じっしする。


通告つうこく最後さいごには連名れんめいしるされており、九葉生機草きゅうようせいきそう所有しょゆうする家族かぞく蠱師こしたちの姓名せいめい列挙れっきょされていた。


うまでもなく、方源ほうげん当然とうぜんふくまれている。


いまかれとおくのすみち、この通知つうちながめながら顔色かおいろけわしくしていた。


一瞥いちべつした瞬間しゅんかん即座そくざさとった――これは古月薬姫こげつやくひめみずからをねら仕掛しかけてきたのだと。


「フン、この古月薬姫こげつやくひめめ、さき酒虫さけむしもとめようとして失敗しっぱいしたのに、まだあきらめてないのか。元々(もともと)十分じゅうぶん戦功せんこうめて三步芳草蠱さんぽほうそうこ交換こうかんしようとしたら、彼女かのじょかげ阻止そしされた。今度こんかいはまさかわしの九葉生機草きゅうようせいきそうまでねらってきやがる……」


しかし古月薬姫こげつやくひめのこの行動こうどう理解りかいできなくはない。


同業者どうぎょうしゃまれつきのかたきあだである。


古月薬姫こげつやくひめ生機葉せいきよう販売はんばい支配しはいすることで権力けんりょくかため、影響力えいきょうりょくふかめ、人脈じんみゃく維持いじしてきた。方源ほうげんひそかにりさばき価格かかくをつり上げることで、無形むけいのうちに彼女かのじょ利益りえきおかし、影響力えいきょうりょくるがせたのだ。


いまのわしは白玉蠱はくぎょこ月芒蠱げつぼうこ強纏きょうてん水罩蠱すいとうこ地聴肉耳草ちちょうにくじそうなど多数たすう蠱虫こちゅうゆうする。九葉生機草きゅうようせいきそう最大さいだい経済基盤けいざいきばんだ。これをうしなえば、かまどからたきぎかれるようなもの。古月薬姫こげつやくひめのこの手口てぐちじつ辛辣しんらつだ」方源ほうげんまゆひそめた。


周囲しゅうい蠱師こしたちの噂話うわさばなしかれみみとどいた。



薬堂やくどうのこの措置そち本当ほんとう素晴すばらしい!生機葉せいきようりなすぎて、需要じゅよういつかないんだよ。物資榜ぶっしぼう一括いっかつてもまたためられる」


薬姫家老やくひかろう本当ほんとう慈悲深じひぶかい!この名簿めいぼろよ、赤脈せきみゃく漠脈ばくみゃく蠱師こしまでふくまれてる。これじゃあ権力者けんりょくしゃかたきまわすことになるのに」


薬姫様やくひさま一族いちぞくのため一途いちずだ。尊敬そんけいあたいする!」


「はあ…薬姫様やくひさまでなければこんな果断だんかん措置そちれないわ。ほか家老かろうにそんな度胸どきょうがあるか?」


「おお!ろ!おらせの内容ないよう変更へんこうされた!赤脈せきみゃく漠脈ばくみゃく蠱師こしたちが九葉生機草きゅうようせいきそう上納じょうのうしたぞ!」


人々(ひとびと)がった。


九葉生機草きゅうようせいきそう集約しゅうやくされ一括生産いっかつせいさんされれば、生機葉せいきよう増産ぞうさんされる。彼等かれらにとってはおおきな朗報ろうほうだった。


方源ほうげん凝視ぎょうしすると、たしかに名簿めいぼ蠱師名こしめいうしろに「上納済じょうのうずみ」の文字もじ追記ついきされていた。自身じしん名前なまえはその対比たいひ一層いっそうりになっている。


こころなまりのようにおもくなった。



古月薬姫こげつやくひめ流石さすが老獪ろうかい権謀術数けんぼうじゅつすうけている。この措置そち大義名分たいぎめいぶんたて方源ほうげん圧迫あっぱくするものだ。方源ほうげん強硬きょうこう抵抗ていこうすれば、かえって更大こうだい厄介やっかいまねき、よわみをにぎられる。けっして賢明けんめい選択せんたくではない。


これこそ家族体制かぞくたいせいおそるべきてんだ。


家族かぞく犠牲ぎせいいるとき直接ちょくせつわない。かがやかしい看板かんばんかかげ、大義たいぎつつんでせまる。したがわざるをなくさせるのだ。


隠居いんきょしたおいいた蠱師こしたちを召集しょうしゅうし、いのちささげさせたときのように――だれさからえただろうか?


いま九葉生機草きゅうようせいきそうあつめるとは、方源ほうげん一部いちぶ蠱師こし利益りえき犠牲ぎせいにさせ、表向おもてむきは「みんなのため」としょうしつつ、じつ薬姫やくひめ自身じしんはかるものだ。したがわぬものすなわ家族かぞくへの叛逆はんぎゃく民衆みんしゅうからの離反りはん逆賊ぎゃくぞくであり、反逆者はんぎゃくしゃだと断罪だんざいされる!



「この問題もんだい解決かいけつするには、遅延ちえんやごまかしは通用つうようせず、かえってみずからをむだけだ。これらは陰謀いんぼう小細工こざいくぎず、薬姫やくひめのこの措置そち大義名分たいぎめいぶん民意みんいたてにしている。どんな小細工こざいく粉砕ふんさいされる。よりおおきな『いきおい』で堂々(どうどう)と反撃はんげきし、正面しょうめんから彼女かのじょの『いきおい』をくず以外いがい解決策かいけつさくはない」


方源ほうげんこころにはすで根本的こんぽんてき解決策かいけつさくがあった。


この策略さくりゃく単純たんじゅんでありながら威厳いげんちている――三転さんてん昇格しょうかくすることだ。


三転蠱師さんてんこし二転蠱師にてんこし地位ちいまったことなる。家族かぞくにおいて三転さんてんたっしたもの即座そくざ家老かろうとなり、意思決定いしけってい中枢ちゅうすうくわわる。族長ぞくちょうといえども容易よういにその利益りえきおかせない。


このおれで漠脈ばくみゃく赤脈せきみゃく蠱師こしたちが素直すなお九葉生機草きゅうようせいきそう上納じょうのうしたようにえるが、各々(おのおの)が利益りえき犠牲ぎせいにしたわけではない。水面下すいめんか古月薬姫こげつやくひめすで古月赤練こげつせきれん古月漠塵こげつばくじん家老かろう密約みつやくわしていたのだ。


これこそ政治取引せいじとりひきである。


だが大多数だいたすうはこの舞台裏ぶたいうら真実しんじつけず、薬姫やくひめ術中じゅつちゅうはまっていた。


方源ほうげんがもし三転蠱師さんてんこしであれば、たと九葉生機草きゅうようせいきそう上納じょうのうしても、かならずやほか方面ほうめん十分じゅうぶん補償ほしょうられるはずだ。



古月薬姫こげつやくひめがなぜここまでいで方源ほうげんたたこうとするのか?


一つは利益りえきのため――方源ほうげん行動こうどう彼女かのじょ利権りけんおかし、同時どうじ方源ほうげん蠱虫こちゅうの数々(かずかず)が薬姫やくひめするものだったからだ。


二つふたつめに、方源ほうげんすで二転にてん頂点ちょうてんたっしている。もうたなければ、かれ三転家老さんてんかろうとなったとき最早もはやほどこしようがなくなるからだ。


三転さんてんへの昇格しょうかく必須ひっすだ。家族かぞくにとって二転蠱師にてんこしなら犠牲ぎせいにすることもできるが、三転さんてんとなればはしらとなる。一人ひとりけてもおおきな損失そんしつだ。してや、いまのわしは厄介やっかいおおかかえている。青書せいしょについて家族かぞく詳細しょうさい調査ちょうさをせず、水罩蠱すいとうこ強纏きょうてん手元てもとめていることにもつぶっている。わしの修行速度しゅぎょうそくど異常いじょうさを上層部じょうそうぶみとめながらも、秘密ひみつさぐろうとしない」


方源ほうげんみずからのかれた状況じょうきょういたいほど理解りかいしていた。


表向おもてむきは強気つよきはなやかだが、じつ危機きき四方しほうひそんでいる。


家族かぞくかれねらっていないのは、狼潮ろうちょうすべての注意ちゅういうばわれているからだ。狼群おおかみぐん抵抗ていこうできなければ一族いちぞくほろぶという圧力あつりょくもと方源ほうげんけん些細ささい問題もんだいでしかない。


しかし一旦いったん狼潮ろうちょうり、家族上層部かぞくじょうそうぶ余裕よゆうまれれば、かならずやあと総括そうかつしようとしてくるだろう。


以前いぜん学堂がくどう時代じだい家老かろうたちが方源ほうげん放置ほうちしていたのは、かれ弱小じゃくしょうすぎておおした影響えいきょうがなく、家老かろうたちの利益りえきれず眼中がんちゅうになかったからだ。


だがいまちがう。


方源ほうげん修行しゅぎょうすで二転にてん頂点ちょうてんたっし、つぎ一歩いっぽ家老かろうとなる。


この修行しゅぎょういきいたっただけで、すで家老かろうたちの神経しんけいれている。一挙一動いっきょいちどう家老かろうたちの監視かんしかれ、こころきざまれているのだ。


あらたな家老かろう誕生たんじょう古月一族こげついちぞく政治的構図せいじてきこうず変動へんどうさせる。ゆえ方源ほうげんへの勧誘かんゆう弾圧だんあつが次々(つぎつぎ)とせるだろう。方源ほうげん一日いちにちはや体制たいせいに組みまれず陣営じんえいくわわらないかぎり、これらの圧力あつりょく激化げきかする一方いっぽうだ。


中間派ちゅうかんはひとつの陣営じんえいである。


もはやだれ現在げんざい方源ほうげんゆるさない――家族体制かぞくたいせいそとただよつづける存在そんざいを。



「もしわしが三転さんてん昇格しょうかくすれば、勧誘かんゆう弾圧だんあつつづくとしても、二転にてん頂点ちょうてんよりは余裕よゆうって対応たいおうできる。これが質的転換しつてきてんかん分岐点ぶんきてんえなければならない関門かんもんだ。突破とっぱすればあらたな世界せかいひろがる。同時どうじ三転さんてん実力じつりょくがあれば進退自由しんたいじゆう最悪さいあく場合ばあい家族かぞくから脱退だったいすればむことだ」方源ほうげんはこの状況じょうきょうるよりあきらかに看破かんぱしていた。


だが三転さんてんへの昇格しょうかくけっして容易よういではない。特に方源ほうげん丙等へいとう資質ししつでは、ほぼえがたい障壁しょうへきだった。


前世ぜんせでは、かれ二転にてん頂点ちょうてん百余年ひゃくよねん停滞ていたいした。のちみじめな代償だいしょうはらってにし、資質ししつ向上こうじょうさせてはじめてこの難関なんかん突破とっぱできたのだ。


蠱師こし修行しゅぎょうにおいて、小境界しょうきょうかい突破とっぱ容易よういで、時間じかんさえかければみずいし穿うがつように達成たっせいできる。しかし大境界だいきょうかいはそれぞれが難関なんかんで、すすむほど困難こんなんす。特に五転ごてんから六転ろくてんへのかべ想像そうぞうし、てんのぼるよりもむずかしい!


方源ほうげん一転いってんから二転にてん昇格しょうかくしたときですら、非常ひじょう苦労くろうようした。いま二転にてんから三転さんてんへとすすむには、通常つうじょう方法ほうほうでは成功せいこう可能性かのうせいなどまったくない。


しかしさいわ方源ほうげんには五百年ごひゃくねん人生経験じんせいけいけんがあり、膨大ぼうだい雑多ざった記憶きおくなかに二、三(に、さん)の特殊とくしゅ方法ほうほうのこされていた。えば「新機軸しんきじく」、わるえば「邪道じゃどう」とべるものだ。


方源ほうげんいまえらんだこの方法ほうほうこそ、現状げんじょうかれ最適さいてき選択肢せんたくしだった。



三転さんてん昇格しょうかくするためには、奇妙きみょう血生臭ちなまぐさ煉成れんせいしなければならない――そのは「人獣葬生蠱じんじゅうそうせいこ」。古代こだいのとある魔道まどう教主きょうしゅ配下はいか実力じつりょく強化きょうかすべく、心血しんけつそそいでした秘伝ひでんじゅつである。


人獣葬生蠱じんじゅうそうせいこ二転蠱師にてんこし三転さんてん境界きょうかい突破とっぱするため特別とくべつ開発かいはつされたものだ。


方源ほうげん前世ぜんせ遺跡いせき探検たんけんちゅうえんあってこの秘法ひほうれ、強烈きょうれつ印象いんしょうけずっと記憶きおくきざんでいた。


肝心かんじんなのは、煉成れんせい必要ひつよう材料ざいりょうけっしてめずらしいものではないてん


平常時へいじょうじなら方源ほうげん環境かんきょうでは、これらをあつめるのに2、3ねんようするが、狼潮ろうちょう大量たいりょう機会きかいをもたらした。


ここ数日すうじつすで十分じゅうぶん元石げんせき蠱虫こちゅうあつえ、のこるはひとつの材料ざいりょう――それだけが最適さいてき時機じきつばかりとなっている。



……


「みんなはやて!薬堂やくどうあたらしいおれをしたぞ!」


「まさか九葉生機草きゅうようせいきそうあつめて一括生産いっかつせいさんするって?」


「これってちょうビッグニュースじゃないか!」


竹楼ちくろうの中で、蠱師こしたちがかべられた通告つうこくかこみ、かおかがやかせながらんでいた。


「ハハハ、これで方源ほうげんめ、つらするんじゃねえか」


「フン、生機葉せいきよう高値たかねりやがって、おれたちの汗水あせみずしぼったかねげやがって!」


いま方源ほうげん表情ひょうじょうてえもんだ……きっとあおざめてるにまってるぜ」


おおくのもの他人たにん不幸ふこう面面おもおもしくよろこんでいた。


「フフフ、これでやっと溜飲りゅういんがるわ。でも薬楽やくらくさんに感謝かんしゃしなきゃね。彼女かのじょ薬姫様やくひさま説得せっとくしなかったら、こんななかったんだから」


「そうだよ、本当ほんとう薬楽やくらくさんありがとう」


薬楽やくらくさんはうつくしいだけでなく、心根こころねやさしくて正義せいぎのためにうごいてくれた。薬姫様やくひさま風格ふうかくを受けいでるね」


……


周囲しゅうい称賛しょうさんこえなくつづなか古月薬楽こげつやくらくずかしそうにうつむき、こころの中でうれしさがふくらんでいた。


薬楽やくらくちゃん」そのとき熊驕嫚ゆうきょうまんとびらから竹楼ちくろうはいってきた。「おわかれの挨拶あいさつたわ。薬堂やくどう通告つうこくたよ。むねのつかえががったわ。方源ほうげんみたいな害群がいぐんうまは、きちんと処分しょぶんしなきゃね」


驕嫚きょうまんねえさん、もうおかえりになるんですか?」古月薬楽こげつやくらくうれしげな表情ひょうじょう見上みあげた。


熊驕嫚ゆうきょうまん片手かたてこして、もう片方かたほう親指おやゆび門外もんがい蠱師こしたちのほうけた:「援軍えんぐん確保かくほしたからいそいでもどらなきゃ。またおうね」


薬楽やくらくむね突然とつぜんせつない感情かんじょうがった。


熊驕嫚ゆうきょうまん旅立たびだったとき十人じゅうにん蠱師こしがいたが、ここに到着とうちゃくしたとき七人しちにんっていた。いま門外もんがい彼等かれら残酷ざんこく戦場せんじょうかう――たして無事ぶじ帰還きかんできるもの何人なんにんいるだろうか?

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