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蛊真人  作者: 魏臣栋
青茅山
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第百四十七節:狂瀾の相

白凝冰はくぎょうひょう青書せいしょの激戦事件以降、白凝冰はくぎょうひょう追撃ついげきした方源ほうげん名声めいせい一気いっきひろまった。


ここ数日すうじつ方源ほうげん狼潮ろうちょうなか強気つよき一面いちめんせつけてきた。つね単独たんどく電狼でんろうり、その戦績せんせきおどろくべきものだった。


かれあらわれた新世代しんせだい存在そんざいだ。気性きしょう偏屈へんくつ評判ひょうばんわるくなければ、赤山せきざん漠顔ばくがんかたならべる地位ちいていたかもしれない。


しかし熊家寨ゆうかさいものにとって、方源ほうげん熊姜ゆうきょう殺害さつがいした犯人はんにんでもあった。


だからこそ熊驕嫚ゆうきょうまんらが方源ほうげんとき複雑ふくざつ表情ひょうじょうかんだのだ。


方源ほうげん高所こうしょからつたらしながら、悠々(ゆうゆう)とはなった。「援軍えんぐんつづけるか、このつた使つかってがけのぼるか、えらぶがいい」


援軍えんぐんがいつるかなんて、だれかる?


戦場せんじょう事情じじょうつね不透明ふとうめいだ。


熊驕嫚ゆうきょうまんらは当然とうぜん眼前がんぜんつたえらんだが、方源ほうげん報酬ほうしゅう要求ようきゅうしてきた。


この要求ようきゅう熊家寨ゆうかさい蠱師こしたちは激怒げきどした。



方源ほうげん、我々(われわれ)は同盟相手どうめいあいてだぞ!よくもそんな真似まねが!」だれかが怒鳴どなりつけた。


駆熊蠱くゆうこ要求ようきゅうするとは、よくくちにできたもんだ!」べつものあざけるようにった。


方源ほうげん悠然ゆうぜんこたえた。「駆熊蠱くゆうこ一匹いっぴき七百元石ななひゃくげんせき七人しちにんいのちえる。破格はかく安値やすねだ。ことわってもかまわん。おまえらがかれた状況じょうきょう家族かぞく報告ほうこくしてやるさ。フフ、ただ援軍えんぐんがいつ到着とうちゃくするか、途中とちゅう狼群おおかみぐんおそわれるかは保証ほしょうできんがな」


一同いちどう沈黙ちんもくした。


一人残ひとりのこらず顔色かおいろわるくなった。



かった、承知しょうちした。方源ほうげん評判ひょうばんどおりのおとこだこと」熊驕嫚ゆうきょうまん大局たいきょくのため妥協だきょうえらばざるをなかった。その言葉ことばには方源ほうげんへの痛烈つうれつ皮肉ひにくめられていた。


方源ほうげんかたすくめて無関心むかんしんよそおった。この結末けつまつかれ予想内よそうないだった。


つたてながら、こころそこ冷笑れいしょうした。


この四頭よんとう豪電狼ごうでんろうれこそ、かれが引きせたものだ。元々(もともと)は全員ぜんいんんだあと蠱虫こちゅう回収かいしゅうし、戦功せんこう算段さんだんだった。しかし彼等かれら信号蠱しんごくこ周辺しゅうへん複数ふくすう蠱師こしグループをせ、援軍えんぐんせまってきていた。


苦労くろうみずあわにしないため、方源ほうげん仕方しかなく支援要員しえんよういんえんじる羽目はめになったのだ。


熊驕嫚ゆうきょうまんらがつた狼群おおかみぐんから脱出だっしゅつしてもなく、三組みつぐみ蠱師こしグループが到着とうちゃくした。そのなか赤山せきざんグループの姿すがたもあった。


元々(もともと)青白あおじろかった七人しちにん顔色かおいろがさらにけわしくなった。


熊驕嫚ゆうきょうまんはげしく後悔こうかいしていた。つい先刻さっきまで、みずか駆熊蠱くゆうこ意識いしき解除かいじょし、方源ほうげん煉化れんか協力きょうりょくしていた。今更いまさら撤回てっかいできる状況じょうきょうではなかった。



方源ほうげんおぼえておくわよ」熊驕嫚ゆうきょうまんが憎々(にくにく)しげに方源ほうげんにらみつけた。

おぼえるかどうかは貴女きみ勝手かってだ」方源ほうげんあわわらい、きびすかえした。


熊秀ゆうしゅうさん、またおいしましたね」こうで赤山せきざんグループがちかづき、丁寧ていねい口調くちょう挨拶あいさつした。


白凝冰はくぎょうひょう事件後じけんご古月一族こげついちぞく青書せいしょを、熊家ゆうか熊力ゆうりきうしない、双方そうほう被害者ひがいしゃとなったことで関係かんけいふかまっていた。政治的せいじてきには白家寨はくかさい共同きょうどう排除はいじょされる対象たいしょうとなっていたが、盟約めいやくはまだ存在そんざいしているものの。


いもうとこと熊驕嫚ゆうきょうまん赤山兄貴せきざんあにきにおにかかります」熊驕嫚ゆうきょうまん無理むりまゆばし、こぶしを合わせてれいをした。「今回こんかい古月一族こげついちぞく援軍えんぐん派遣はけん要請ようせい参上さんじょうしました。熊家寨ゆうかさい電狼群でんろうぐん六日六晩むいかむばん包囲ほういされたままです」


ここ数日すうじつ狼潮ろうちょう悪化あっか一途いっと辿たどっていた。電狼でんろうれは山寨さんさい包囲ほういし、勝手かって攻撃こうげき仕掛しかけるほどに横行おうこうしていた。


熊家寨ゆうかさい三寨さんさいちゅうもっとひく山麓さんろく位置いちするため、さき影響えいきょうけていた。実際じっさい、これが三度目さんどめ包囲ほういで、援軍えんぐんとの連携れんけいによる内外ないがい挟撃きょうげきでしか電狼群でんろうぐん撃退げきたいできなかった。


援軍えんぐんけんは、そうむずかしくないと思う。まえ二回にかいもうまく協力きょうりょくできたじゃないか? でもまず族長ぞくちょう報告ほうこくしないと。みんなについててくれ」赤山せきざんった。


熊驕嫚ゆうきょうまんたちは赤山せきざんグループにしたがい、古月山寨こげつさんさい到着とうちゃくした。


古月山寨こげつさんさい重層的じゅうそうてき防御ぼうぎょいており、外周そとがわ寨壁さいへき何重なんじゅうにも補強ほきょうされ、数十基すうじっき物見櫓ものみやぐら設置せっちされていた。寨壁さいへきしたにはほり穿うがたれ、なかには青竹あおたけするど破片はへんてられていた。


寨壁さいへきじょうには鉄藤蠱てつとうこ毒花蠱どくかこまれている。見渡みわたかぎり、壁面へきめん鋭利えいりいばらおおわれ、あざやかなどくはな何百なんびゃくとなくつぼみをふくらませていた。


正門せいもんはいると、付近ふきん建物たてもの民家みんか酒場さかばもすべて接収せっしゅうされ、臨時りんじ要塞ようさい改造かいぞうされていた。


熊驕嫚ゆうきょうまん七人しちにん熊家寨ゆうかさいから狼群おおかみぐん包囲網ほういもう突破とっぱしてきたため、全員ぜんいん負傷ふしょうしていた。そのためまず竹楼ちくろう案内あんないされ、治療ちりょうけることになった。


竹楼ちくろうには十数名じゅうすうめい治療蠱師ちりょうこし駐在ちゅうざいしており、大半たいはん一転いってん蠱師こし二転にてん蠱師こし二人ふたりいた。しかし熊驕嫚ゆうきょうまんらをすこおどろかせたのは、指揮しきっていたのが二転にてん治療蠱師ちりょうこしではなく、わか少女しょうじょだったことだ。


「この意識不明いしきふめいもの籐椅子とういすかせて」


「こちらにあしほねれた患者かんじゃがいる。古月星こげつせいいそいで治療ちりょうして」


外傷がいしょうだ。阿風あふう止血しけつ阿信あしん消毒しょうどくせつはまず骨折こっせつ固定こていませてから包帯ほうたいいて」


少女しょうじょ漆黒しっこくかみ桜色さくらいろちいさなくちびる水晶すいしょうのようにかがやひとみ、ほんのりあかちゃんでぶほおすずのようなやさしいこえ。だが指揮しき様子ようすきわめて有能ゆうのうで、人々(ひとびと)をおどろかせた。


熊驕嫚ゆうきょうまんおもたる人物じんぶつがいてたずねた。「このいもうとさん、もしかしで古月薬楽こげつやくらくさんでは?」


熊家ゆうか驕嫚姉きょうまんねえさん、はじめまして。わたし名前なまえをご存知ぞんじなんて」古月薬楽こげつやくらく手配てはいととのえてからちかづき、丁寧ていねい挨拶あいさつした。


薬楽やくらくちゃんは有名人ゆうめいじんですよ。薬姫様やくひめさま仁愛じんあいを受けぎ、卓越たくえつした医術いじゅつってらっしゃる。まだ一転いってん修行しゅぎょうながら、青茅山せいぼうざん十大新星じゅうだいしんせいえらばれた。熊家寨ゆうかさいでもいもうとさんをしたもの大勢おおぜいいますよ」熊驕嫚ゆうきょうまん眼前がんぜん少女しょうじょ背景はいけいさっし、古月一族こげついちぞくへの依頼いらい成功せいこうさせるため、たくみにお世辞せじならべた。



驕嫚きょうまんねえさん、めすぎですよ」古月薬楽こげつやくらくわかさゆえにめられてかおめ、ずかしそうにうつむいた。


そのときかたわらにいた熊家ゆうか蠱師こし嫌味いやみっぽくった。「同じ十大新星じゅうだいしんせいでも、あの古月方源こげつほうげんなんかいもうとさんとはくらべものにならねえよ」


方源ほうげんはなしはするな! 思いすだけで骨身ほねみにくるぜ!」


英雄えいゆうなき時代じだいに、小僧こぞうすとは…はあ」


「あいつの人柄ひとがら最悪さいあくだ。十大新星じゅうだいしんせい首位しゅいになんて…がするわ」


この発言はつげん即座そくざ同調どうちょうするものあらわれた。なかには古月一族こげついちぞく蠱師こしさえじっていた。


古月方源こげつほうげん今度こんどはまたなにやらかしたんだ?」だれかが興味深きょうみぶかそうにたずねた。


「フン、わたし駆熊蠱くゆうこうばい、七百元石ななひゃくげんせき救出代きゅうしゅつだいとやらで要求ようきゅうしてきた。ここまで厚顔無恥こうがんむち利益りえきがくらんだ小人しょうじんたことない!」熊驕嫚ゆうきょうまん不満ふまん爆発ばくはつさせるように啖呵たんかった。


「これぐらいなにでもない、もっとひどいことだってあるんだぜ」


心根こころね石炭せきたんよりくろく、一片いっぺん生機葉せいきようを80元石はちじゅうげんせきりつけるなんて、完全かんぜんよわみに卑劣ひれつ手口てぐちだ!」


「あいつは傲慢ごうまんすぎる。友達ともだちれをたのんだら、ことわるだけじゃなく大勢おおぜいまえ罵倒ばとうしたんだ。調子ちょうしりやがって…丙等へいとう資質ししつ分際ぶんざいで!」


まったくの道楽息子どうらくむすこだよ。おや遺産いさんつぶし、商隊しょうたいから高級こうきゅう赤鉄舎利蠱せきてつしゃりこあさり、白凝冰はくぎょうひょうからもうばった。おれだってあのさえあれば、あいつの修為しゅういぐらい楽勝らくしょうだっての!」


「やっぱ古月青書こげつせいしょさま最高さいこうだった。やさしくおだやかで…残念ざんねんながらはやくなられて」


おとうと方正ほうせい正義感せいぎかんあふれる好漢こうかんで、青書様せいしょさま風格ふうかくを受けいでる。あにとは正反対せいはんたいだよ」


熊驕嫚ゆうきょうまん予想よそうだにしなかった――自分じぶん愚痴ぐち一言ひとことが、これほど多くの古月族こげつぞく共感きょうかんぶとは。


彼女かのじょおどろきをかくせなかった。方源ほうげんがこれほどまでに人嫌ひとぎらいされる存在そんざいだとはつゆともおもわなかった。


彼女かのじょ不審ふしんおもたずねた。「そこまできらわれているなら、どうしてあいつをらしめるものがいないんです?」


竹楼ちくろうない瞬時しゅんじ静寂せいじゃくつつまれた。


古月族こげつぞくものたちはかお見合みあわせ、だれくちひらかなかった。


実際じっさい方源ほうげんのやりくち価格かかくでの販売利益はんばいりえきいかものはいた。かれ因縁いんねんをつけるものおおかったが、毎回まいかい結果けっかは「因縁いんねんをつけたがわおおきな厄介やっかいまれる」というものだった。


何度なんどかえされるうち、つい方源ほうげん楯突たてつものはいなくなった。


そして方源ほうげんは、今回こんかい狼潮ろうちょうあらわれた「十大新星じゅうだいしんせい」の筆頭ひっとうとして公認こうにんされるにいたった。


すべての地位ちいちからす。


方源ほうげん戦闘力せんとうりょく最強さいきょうだからこそ首位しゅいなのだ。評判ひょうばんがどんなにわるかろうと、人望じんぼうがなかろうと。



「またあの方源ほうげんか……」古月薬楽こげつやくらくまゆかすかにひそめ、ひとごとのようにつぶやいた。


彼女かのじょ方源ほうげん面識めんしきがなかったが、そのを度々(たびたび)みみにしていた。少女しょうじょこころきざまれた方源ほうげん印象いんしょう最悪さいあくだった。


先輩せんぱいとはいえ、やりかたえてる。今回こんかい驕嫚きょうまんねえさんを脅迫きょうはくし、駆熊蠱くゆうこまでうばうなんて、両家りょうけ盟約めいやく完全かんぜん無視むししてる。このままでは古月一族こげついちぞくはじだ。おばあさま相談そうだんして、方源ほうげんをきちんと教育きょういくしてもらわないと」


そうかんがいたると、一族いちぞく大義たいぎからても方源ほうげんへの制裁せいさい不可欠ふかけつだと確信かくしんした。


自分じぶんにそのちからはないが、薬堂家老やくどうかろうである祖母そぼ古月薬姫こげつやくひめならかならずやるとしんじていた。


彼女かのじょには、祖母そぼ万能ばんのうちか存在そんざいうつっていたのだ。


……



「わたくしに古月方源こげつほうげんらしめろと?」薬姫やくひ孫娘まごむすめつめ表情ひょうじょうかすかにうごいたのち突然とつぜん緊張きんちょうはしった。


いとしきまごよ、まさかあのものなんじいじめたのか?」あわててたずねた。


わたしにはなにもしていません。でも今度こんど熊家ゆうか驕嫚きょうまんねえさんを脅迫きょうはくし、駆熊蠱くゆうこ一匹いっぴき七百元石ななひゃくげんせき要求ようきゅうしたんです。本当ほんとうにひどすぎる。このままでは一族いちぞく面子めんつつぶれます」古月薬楽こげつやくらくうったえた。


「ふむ、このけん承知しょうちした。まごよ、まずは下が(さが)るがよい。祖母そぼなんじ失望しつぼうさせぬ」薬姫やくひしば思案しあんしてからげた。


「ありがとう、お婆様ばあさま! あのおとこ価格かかくをつり上げ、よわものいじめ、悪事あくじかぎりをくしているんです!」



少女しょうじょると、薬姫やくひふか思案しあんしずんだ。


彼女かのじょ以前いぜんから方源ほうげんらしめたいと考え(かんがえ)ていた。理由りゆう薬楽やくらくのような天真爛漫てんしんらんまんなものではなく、方源ほうげんにぎ利益りえき食指しょくしうごいたからだ。


第一だいいち酒虫さけむし


先般せんぱん商隊しょうたいから購入こうにゅうした一匹いっぴき孫娘まごむすめ薬楽やくらくあたえたが、三転蠱さんてんこ煉成れんせいするためにもう一匹いっぴき必要ひつようだった。


つぎ九葉生機草きゅうようせいきそう


一族いちぞく大半たいはん生機草せいきそう掌握しょうあくし、生機葉せいきよう販売はんばい権力基盤けんりょくきばん強化きょうかしてきた薬姫やくひにとって、方源ほうげん価格操作かかくそうさ許容きょようしがたい行為こういだった。


「あの方源ほうげんめ、りすぎだ! まえ酒虫さけむしおうとしたらことわりやがった。今度こんかい生機葉せいきようげて暴利ぼうりむさぼるとは……この薬堂家老やくどうかろうかざものだとでもおもっているのか? フン!」

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