「私は彼に言った。人が生きる理由は数え切れないほどある。お前が何故生きるのか、私には答えられん。自らで探すのだと」古月博が答えた。
「では族長様ご自身の答えは何ですか?」方正が瞬きしながら問い返した。
古月博はフフッと笑い、目に映る方正と青書の姿が重なって見えた。かつて古月青書も同じ質問をしたことがある。
族長はしばし考え込み、記憶を辿ってから当時の答えを再現した:「組織には常に犠牲が伴う。人は生まれた瞬間から、死を意味しているのだ。生死の間で人は脆いが、たった一つ心を温め照らすものがある。それが愛――これが私の答えだ」
犠牲は常に存在する。
古月青書は古月博の義子であり、長年育てた子だ。その犠牲に、義父としての悲しみは当然あった。
だが族長として、あまりに多くの犠牲を見てきた。
生死を覚悟した時、悲嘆や苦痛は受け入れられるものとなる。
方正は再び首を垂れ、思考に沈んでいるようだった。
族長は微かに笑い、机の抽斗から手紙を取り出し方正に渡した。
「これは古月青書の遺書だ。長年考え続けた答えが記されている。今お前に託そう。これが彼の答えだ」
疑いようもなく、この手紙は方正の心に比類なき引力を及ぼした。
彼は即座に封を切り、最初の一行を目にした途端、涙が止まらなくなった。
まさに古月青書の慣れ親しんだ筆跡。文字の間に漂う彼特有の優しい気配。
手紙の冒頭には、彼の迷いと苦悩が記されていた。
続く年月、思索を重ねる過程で衝撃を受けた出来事が綴られていた。
方正は手紙を読むうちに、古月青書の生涯を追体験しているかのようだった。青書の人生の歩みに付き従い、遂に末尾まで到達した。
最後にこう記されていた。
「家族は森の如し。我々(われわれ)一人一人は森の一本の木。老木は枝を広げ、新芽を風雨から守る。若き木が天を衝く大樹に育つ時、老木は倒れて土の養分となり大地を潤し、新たな木を育む。人は必ず死ぬ。天地は我々(われわれ)を覚えていまい。されど新たに育つ木々(きぎ)こそが、老木の存在証明となる。この連鎖の中で、家族という森は広大となり、栄えゆく」
「人は必ず死ぬ。蠱師たる者も死を免れぬ。七転や八転、九転の蠱師でさえ、ただ長く生きるのみ。死を前に恐怖を覚える。だが深く悟っている。古月青書という者も、いずれ死ぬのだと。老衰か戦死か。その時には平穏に、未練なく旅立てることを願う」
手紙の最後に。
「義父上。かつて私が問いかけましたあの問題、答えを見つけたと存じます」
手紙を読み終えた方正は嗚咽に咽びながら、脳裏に青書との記憶が溢れ出した。過ちを犯せば責める代わりに慰めてくれた言葉。挫けそうになれば勇ますような眼差し。失意の底では温かい掌で頭を撫でてくれた。
古月博が手紙を畳みながら言った:「将来、君自身の答えを見つけた時は、私にも手紙を書くがよい。戻って休むのだ。狼潮の危機はまだ去っておらぬ。お前の力も必要なのだ」
「いえ」方正がゆっくり顔を上げ、拳を硬く握り締めた。
「どうした?」古月博が問い返す。
「私はもう答えを見つけました」方正の声には言い表せない決意が宿っていた。「力が欲しい!身近の者を守るため、二度と傷つけられぬよう。家族を守り、栄えさせるため。狼潮が苦しめぬ世界を、仲間たちの笑顔を見るため!こんな悲しみを繰り返したくない。この両手で、この体で、この魂で、大切な者を守り通します!」
古月博は面喰った表情を浮かべた。その瞬間、彼の目には古月青書の面影が重なって見えた。
「青書よ……無駄死にではなかった」方正の輝く瞳を眺めながら、族長は心で深い嘆息を漏らした。
一本の老木が倒れ、その腐りゆく土壌の中で、新たな若芽が急速に成長を始めていた。
……
人祖は孤独の心に耐えられず、両目をくり抜いて一児一女に化けた。これで孤苦の寂しさを少し解消した。
だが平和は長く続かず、子どもたちは次第に俗世の景色に夢中になり、父である人祖を忘れて遊びに耽り、時間も忘れ、世話することも忘れた。
人祖は何も見えず、眼前は暗闇だった。
しかし時折、微かな光を感じることがあった。
これに非常に困惑した人祖は態度蠱に相談した。
態度蠱は答えた:「おお、これは信念蠱が放つ不滅の輝きじゃ」
「信念?」白凝冰はここまで読むと嘲笑うように笑い、手に持っていた古代伝説の本を投げ飛ばした。
扉がちょうど開き、来訪者は顔面に直撃するところだった。
「凝冰、何をしているのか?」入って来たのは白家の族長だった。
族長は眉を顰めながら慰めた:「気分が優れないのは分かるが、右腕を失ったからと言って大したことではない。この世界には、お前の傷を治せる蠱虫が数多存在する」
「以前、家老を付けて護衛させようとした時、お前は拒んだばかりか手を出していた。今回の失敗は当然の報いだ」
「だがこれも良い機会だ。小さい頃から順調過ぎた。死に至らぬ限り、少しの失敗は問題ない。傷は既に癒えつつある。しかし狼潮は日増しに凶暴化している。家族には今、お前の力が必要なのだ!」
「小狼の群れごとき、何ができるというのだ?」白凝冰は目を閉じたまま寝台に横たわり、無関心に返した。
族長の顔に険しい表情が浮かんだ:「状況は芳しくない。いや、楽観を許さぬと言った方が良い。偵察によれば、狂電狼群が三群れ以上、山寨の周辺に出没している。お前の敗北は族の者に多大な影響を与えた。今夜の日暮れまでに公の場に現れてもらいたい。お前が倒れていない姿を見せれば、士気を大いに高められる。分かったか?」
「分かった分かった、そんな小さなことだ」白凝冰はぶつぶつ言い、明らかに嫌気が差した様子だった。
もし他の者が族長にこの態度で接していれば、厳罰を受けていただろう。しかし白凝冰だけは別だった。
白家族長はやる瀬ないため息をつき、扉を閉めて退出した。
部屋には再び白凝冰一人が残された。彼はゆっくりと目を開き、孤独と迷いの色を瞳に浮かべた。
自分の体内の異常や死の予感を、他の者に話すことはなかった。
一族の典籍から、彼は「北冥冰魄体」という名称を突き止めていた。限られた資料の中で、十絶体は「必死の天賦」とも呼ばれ、竅壁が限界に達した際の自爆の威力が極めて強大であることが記されていた。
白家族長が白凝冰を養育し寛容に育てたとはいえ、北冥冰魄体の真実を明かせば、最初に自分を殺しに来るのがこの族長だと、白凝冰は疑いようもなく思っていた。
「人が生きるのって、結局何のためなんだ?」
以前この問いを考える時、白凝冰は深い迷いを感じ、退屈や焦燥、憤懣といった暗い感情に苛まれていた。
だが今、彼の心には不思議な平穏が広がっていた。
人は必ず成長する。まして彼ほどの天才なら尚更だ。
かつては自らの死を必然と悟りつつも、絶望の底で命に未練を抱き、心の奥で死を畏れていた。
しかし今、死の淵を彷徨ったことで、かえって悟りが開けた。
三転の白銀真元が空竅を温養し続けていても、最早焦れることはない。
もはや死を恐れなくなったからだ。
生きる意味への迷いは依然として消えぬが、その答えの在処は分かっている。
その答えは、とっくに方源の心に宿っている。
言葉に表せぬ不可思議な確信。だが彼には明白だった。
何より今、石竅蠱も方源の手に渡っている。
「方源……必ず再会する」彼は嗄れた声で呟き、瞳をダイヤモンドのように煌めかせた。
……
「石竅蠱……」借家の中で方源は手の平の蠱虫を眺めながら深い思案に沈んでいた。
石竅蠱は賽子のような形状で、真四角の灰白色をしており、硬さは比類ない。
この蠱は消耗品で、一度使用すると消滅する。作用は蠱師の竅壁を堅固な石壁に変質させること。
これにより空竅の潜在力を徹底的に搾取し、蠱師が瞬時に頂点の修為に到達できるようにする。
例えば方源が現在二転中階の修為だとする。この蠱を使えば即座に二転頂点の境に至る。
しかし代わりに払う代価は、方源が生涯三転へ昇進できなくなること。さらに真元を自然回復する能力を喪失し、今後は元石でしか補給できなくなる。
石竅蠱は追い詰められた蠱師たちが使うものだ。空竅に修復不能な損傷を負い、裂け目が生じたが治療できない場合に用いる。
あるいは特殊な状況下で、修為向上の見込みがなく、短期間で実力を向上させなければ命が保てない時に使用される。
「石竅蠱の合成コストは非常に高い。白凝冰がこの蠱を練り上げたのは、自らの空竅を石竅に変えて死を回避しようとしたからだろう。残念ながらこの方法は死を遅らせるだけで、自爆を根本的に防ぐことはできない。北冥冰魄体がこんな単純な方法で解決できるなら、十絶体などと呼ばれはしない」
この石竅蠱は方源には不要だが、白凝冰から奪った赤鉄舎利蠱と水罩蠱は大いに役立つ。
古月蛮石らから没収した蠱虫は凡庸なものばかりで、山寨に戻ると即座に家族上層部に上納し、多量の戦功と交換した。
狼潮の影響で、青書と白凝冰の死闘は三寨の黙契により伏せられ、表立つことなく処理された。三者とも互いの戦力を必要とする危機的状況だったからだ。
熊林の報告により、方源が白玉蠱を所有する事実が露見したが、彼は「商隊で購入した」と説明してその場を凌いだ。