三転蠱虫の力で、青書の両目が翠緑色に変化した。
この瞬間、彼の気配が急変。活気ある人の気配から、深淵のような森の気配へと転換した。
「ん?」白凝冰も思わず微かに驚きを見せ、口角を緩ませた。「随分戦ってなかったからか、面白い手段を持ってるじゃないか」
氷錐蠱。
思念を動かすと、五本の鋭い氷柱が空中に凝結した。
「行け」白凝冰が指差すと、氷柱が矢の如く発射した。
バシッバシッ!
青書の両掌から二本の蔓が伸び出した。空を薙ぎ払う蔓は青蛇の如く敏捷に動き、氷柱を軽々(かるがる)と弾き飛ばした。
軌道を変えられた氷柱は、青書の肩を掠め、凍結した地面や硬質の岩盤、氷像のような森へ突き刺さった。
青書は巧みに力を制し、白凝冰を無駄足に終わらせた。
白凝冰は冷笑を漏らした:「いい鞭さばきだな。だが何本の氷錐に耐えられるか、見物させてもらおう」
そう言うと、白凝冰の両目が淡い青く光り始めた。
十本の氷錐が同時に現れ、眼前に浮遊すると電光石火に青書へ突き刺さった。
続いて更に十本が生成され……
こうして繰り返すうち、瞬く間に氷錐の雨が形成された。
ヒュッヒュッ!
空気を裂く氷錐の音が戦慄を走らせる。
青書は回避しながら、両手の青藤を影の如く舞わせた。
数多の鍛錬を経た彼の鞭術は、意の侭に操れる域に達していた。
だが氷錐の数が圧倒的で、ついに右肩に一撃を喰らった。
氷錐が肩を貫通し、先端が背中側に突き出した。
松針蠱!
痛みを堪え、長髪を振り払うと、髪の毛先から無数の碧色の松葉が射出された。
松針が白凝冰を包み込むが、彼は即座に水罩蠱を展開。強化された水の膜は三転蠱並みの防御力を発揮した。
松針が水罩に突き刺さると、速度が徐々(じょじょ)に落ち、やがて水罩内を循環する水流に押し流されて排出された。
しかしこれによって白凝冰は氷錐攻撃を中断せざるを得なくなった。
古月青書はこの隙に、痛みを噛み締めながら肩の氷錐を無理矢理引き抜いた。
一滴も血が流れ出ないのは、一方で氷錐の冷気によるもの、他方で彼の身体が持続的に木質化しているためだった。
白凝冰が水罩蠱を解除すると、目は即座に古月青書の傷口へ吸い寄せられた。
服の破れた穴から覗く傷口には、木目のような模様が浮かび上がり、目視できる速さで治癒していくのが分かった。新たに形成された肌には樹木の年輪のような紋様が刻まれていた。
同時に、古月青書の両耳が尖り始め、長髪は翠緑色に変わり、毛先から若葉が生え出した。両手も生身の血色からくすんだ色合いに変貌。全身の皮膚が硬化し始め、褐色の樹皮へと変異していった。
これが彼が初めて木魅蠱を無茶苦茶に使い込んだ結果だった!
木魅蠱によって彼は徐々(じょじょ)に樹精へと変貌していく。同時に古月青書は大気中に満ち溢れる豊富な天然元気を感じ取った。
この元気は普通の蠱師には感知できない。樹精など特殊な生命体だけが感応し、吸収・運用できるものだ。
古月青書は母液に浸されているような感覚を覚えた。濃密な元気が全身を包み、極上の快感をもたらしていた。
彼の体では月旋蠱に変化はなかったが、青藤蠱・松針蠱・生機葉からは活気みなぎる意志が伝わってきた。樹精としてこれらの木行蠱虫を駆動する時、その威力は増幅されるのだ!
古月青書が深く息を吸い込んだ。これほど強さを感じたことはない!周囲の豊富な天然元気が尽きることない真元を供給してくれる。これこそ木魅蠱の真骨頂だ。
しかし同時に、彼の胸中に恐怖の念が湧き上がってきた。
彼は悟っていた――この強さと快感に溺れ、木魅蠱を無節制に使い続ければ、最終的に枯れ木のような樹人の屍になることを。
あらゆるものには代償がある。
古月青書は瞬時に恐怖を押し殺し、白凝冰を睨みつけて二言放った――「戦え」
激戦が爆発した。
青藤と氷刃が絡み合い、氷錐と松葉が交差する!
一方は北冥冰魄体で真元回復速度が異常に速く、他方は木魅樹精の体で天然元気を自在に操る。
この戦いは普通の三転蠱師の域を超えていた。
方正が遠くの丘で呆然と見守っていた。これほどの熱戦は生きて初めてだ!
通常、蠱師は真元を節約し、一滴たりとも無駄にせず冷徹に計算するものだ。
だが今、白凝冰も古月青書も制限なく能力を爆発させている。まるで真元が無限であるかのように。山道は破壊され尽くし、巨木は倒れ岩盤は崩れ砕けていた。
激戦続く……
藍鳥冰棺蠱!
白凝冰が戦機を捉え、突然口を開き、歯の間から氷藍色の鳥を放った。
鳥はカラカラと鳴き、鳩ほどの体躯だったが、北冥冰魄体の増幅を受けて空を舞ううちに鷲ほどの巨躯へ変貌。旋回を繰り返した後、古月青書へ猛然と襲いかかった。
古月青書は回避できず、硬直で耐えるしかなかった。
ドォン!
爆音と共に、彼は家ほどの大きさの氷晶に閉じ込められた。
「終わりだ……」白凝冰は未練がましく吐息を漏らした。
氷晶内で身動きできない古月青書を見下ろしながら呟く:「面白い経験をさせてくれた礼だ。これまでで最高の戦いだった。青書、本望だろう。お前の名は俺が記憶する」
「青書様!」丘の上で方正が悲鳴を上げた。
「うるさいガキ、次はお前だ」白凝冰が舌打ちしながら近づく。
しかしその時、氷晶の割れる音が彼の鼓膜を震わせた。
「まさか…?」彼が振り返ると、氷晶の中で古月青書に天地がひっくり返るような変化が起きていた。
体が膨張し始め、二転蠱師用の武闘服が瞬く間に破れ散った。
髪の毛が無数の青蔓に変わり、掌大きい緑色の葉が層を成して濃密な緑の塊となった。
指先は完全に頑丈な木質へ、手足も太い枝状に変異しながら、かすかに人体の輪郭を留めている。
バキッ!
氷晶が完全に崩壊した。
古月青書が立ち上がった姿は、もはや元の精悍な人面を失い、鼻先が尖り目玉の巨大な樹精の顔貌へと変貌していた。
身長三米。褐色の樹皮が鎧のように分厚く、巨大な緑葉と蔓が全身を覆っている。
白凝冰がこの変異を呆然と見上げる様は、大人の足下に立つ幼子のようだった。
「この姿……まさか木魅蠱を合煉したのか?この蠱は俺の霜妖蠱より煉化が難しいぞ!」白凝冰は遂に真相に気付いた。
「樹精木魅は空気中の元気を直接利用できる……道理で青書の真元が尽きないわけだ」白凝冰は合点がいったが、更なる疑問が湧いた。
迷いなく直接問い詰める:「青書……木魅蠱をここまで使い込んで、枯れ木の樹人になる覚悟はあるのか?たとえ俺を倒しても、結局死ぬことに変わりないぞ!」
「白凝冰……」古月青書の声は地響きのように重く響いた。「お前は孤児として族長に拾われた……その点では俺と同じだ。だが選んだ道は正反対だ。森で一本の木が枯れても問題ない。森が残る限り、無数の若芽が育つ。来い……宿敵よ」
数百本の青蔓が大蛇の如く白凝冰へ襲いかかる。
「一族のため?馬鹿げている!」白凝冰が表情を歪め後退する。
だが青蔓の速度は以前の数倍で、瞬く間に追いついた。
白凝冰は俊敏に身をかわす。腕ほどもある蔓が体を掠め、地面や岩盤に突き刺さるたびに土煙が舞い、岩片が四方へ飛び散った。
水罩蠱!
白凝冰が次第に回避しきれなくなり、慌てて水の膜を展開。
青書は既にこの蠱の弱点を見抜いており、強攻せず無数の青蔓で水罩を包囲・拘束した。
ぐいっと締め付けると、水罩がプシュッと軋み始めた。表面の水流が暴走し青蔓に衝突、水飛沫を撒き散らす。
水罩は青蔓の拘束力に耐え切れず縮小を続け、崩壊の兆しを見せ始めた。
「まずい!水罩が破れて身動き封じられたら……!」水罩内の白凝冰も決死の覚悟。
次の瞬間、水罩がバンッと破裂!
ゴォォ――!
氷刃嵐が内側から噴出し、渦巻きながら巨大化していく。
白凝冰は意図的に防御を解き――守勢では限界と悟り、攻撃で対抗する道を選んだのだ!
瞬時に温度が急降下、冷気が迸る。
真白い氷刃嵐が古月青書に襲いかかり、青蔓はこの白き竜巻に抗えず無数の断片に切断された。
「来い!」古月青書は微動だにせず、巨体ごと氷刃嵐に突っ込んだ。
ドスンと鈍い音が響き、彼は白き竜巻に抱え込まれる。
両腕を広げ、その身を枷のように巻き付けた。
ガリガリッ!
鋭い氷刃が巨体を削り、瞬時く間に無数の緑葉が散り、樹皮が剥がれ飛んだ。
凌遅のような激痛が走り、青書は呻き声を漏らしたが手を緩めず、全霊を込めて締め付けた。
氷刃嵐は彼の怪力に押され、徐々(じょじょ)に圧縮されていく。
「くそっ!この自棄っぱち野郎……」白凝冰は内心で罵りつつも、氷刃を加速させ続けるしかなかった。
氷刃が青書の体を削る度に刃が摩耗するが、氷刃蠱の力で瞬時く再生。戦局は膠着し、両者とも制御不能な状態に陥った。
古月青書が白凝冰を絞殺するか、白凝冰が青書を斬り伏せるか――双方が攻撃を重ねるこの戦いは、悲壮感と凄惨さに満ちていた。