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蛊真人  作者: 魏臣栋
青茅山
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第百三十三節:殺させてくれて感謝する

疾走しっそうせよ!


眼前がんぜんの木々(きぎ)が次々(つぎつぎ)に方源ほうげんおそかるかのようにせまってきた。方源ほうげん敏捷びんしょうをかわし、全力ぜんりょくけた。


右耳みぎみみ根須こんすかぜひるがえなかかれ背後はいごには故意こいおこらせた豪電狼ごうでんろう数百頭すうひゃっとうたくましい普通ふつう雷狼いなずまおおかみつづいていた。


雷狼いなずまおおかみ速度そくどかれよりはるかにはやい。特に豪電狼ごうでんろう複雑ふくざつ地形ちけい電光でんこうごとおどけ、急速きゅうそく接近せっきんしてくる。


まさにつかまりそうになった瞬間しゅんかん方源ほうげん姿すがた水鏡すいきょうのようにらめき、せた。


豪電狼ごうでんろうあしめ、警戒けいかいしながら周囲しゅうい見渡みわたした。


方源ほうげん遠方えんぽうふたた姿すがたあらわすと、豪電狼ごうでんろうするど視線しせん即座そくざにそれをとらえた。いかりのひくいうなりごえらし、再突撃さいとつげき開始かいしした。


普通ふつう雷狼いなずまおおかみたちもあわてて追跡ついせき再開さいかい


方源ほうげん内心ないしん冷笑れいしょうし、ふたた逃走とうそうはじめた。


これを三度さんどかえしたすえつい目的地もくてきち到達とうたつ今度こんど完全かんぜん姿すがたした。


追跡ついせきしてきた狼群おおかみぐん方源ほうげんえた地点ちてん一瞬いっしゅん躊躇ちゅうちょしたが、豪電狼ごうでんろうあらたな標的ひょうてき発見はっけんした。


すぐちかくの谷間たにあいで、五人ごにん蠱師こし一団いちだん狼群おおかみぐん交戦こうせんちゅうだった。


ガオォォ!


豪電狼ごうでんろう知能ちのうかぎられており、即座そくざ方源ほうげんのことをわすれた。くびあお雄叫おたけびをげると、背後はいご雷狼いなずまおおかみたちがうしおのように谷間たにあい戦場せんじょうながんだ。


「なんでこうなるんだよ!?」交戦中こうせんちゅう蠱師こしたちはこの光景こうけいて、一斉いっせい顔面蒼白がんめんそうはくとなった。


各狼群かくろうぐんには活動範囲かつどうはんいがあるんじゃないのか!?」

「やっとの思いで豪電狼ごうでんろう一頭いっとうたおしたのに、またるなんて!もう生きのこ見込みこみねえよ」

はや信号しんごうおくってたすけをもとめるんだ!!」


あらたな狼群おおかみぐん参戦さんせん蠱師こしたちの圧力あつりょく急増きゅうぞうし、だれもが恐慌きょうこうられたこえしていた。


偵察担当ていさつたんとう蠱師こしあわててそら金色こんじきちいさな球体きゅうたいはなった。その蠱虫こちゅう金色こんじきちいさな球体きゅうたいのような姿すがたをしているが、色鮮いろあざやかな羽根はねつばさえていた。羽音はおとてて空中くうちゅうまでがると、突然とつぜん爆発ばくはつしてカラフルなほのお花火はなびへとわった。半径百里はんけいひゃくりまで見渡みわたせるほどあざやかだった。


これは信号蠱しんごうこ一転いってん消耗品しょうもうひんで、緊急時きんきゅうじ通信つうしん使つかわれるものだ。


信号しんごうはもうはっした!みんなって援軍えんぐんつんだ!」このグループの組長くみちょうときのがさずさけび、士気しきすこたかめ、軍心ぐんしん安定あんていさせた。


無駄むだ抵抗ていこうだ」方源ほうげんたかがけうえあらわれ、見下みおろしながら内心ないしん冷笑れいしょうした。


この蠱師こしグループの周辺状況しゅうへいじょうきょうは全て(すべて)かれさぐしていた。最寄もよりのべつのチームも狼群おおかみぐん包囲ほういされていた。


その狼群おおかみぐん方源ほうげん故意こいに引きせたもの――彼等かれらあしるためだ。


雷狼いなずまおおかみって目玉めだま一個いっこ十戦功じゅっせんこうポイント。だが戦場せんじょう蠱虫こちゅう回収かいしゅう一族いちぞく上納じょうのうすれば、最低さいていでもせんポイント!こんなこと二、三度さんどやれば、三歩芳草蠱さんぽほうそうこえる戦功せんこうまる」方源ほうげんこころつぶやいた。


かれ謀略ぼうりゃくにより、この蠱師こしグループの結末けつまつすでまっていた。


あと奴等やつらほろびるのをち、狼群おおかみぐん誘導ゆうどうしてはなし、ここにもどって蠱虫こちゅうをかきあつめるだけだ」方源ほうげん崖壁がけべい大木たいぼくもとあるり、その悠然ゆうぜんこしろした。



だれ甘受かんじゅしたくないから、これらの蠱師こしたちは必死ひっし抵抗ていこうしていた。


方源ほうげん千獣王級せんじゅうおうきゅう狂電狼きょうでんろうおびせる危険きけんおかさず、豪電狼ごうでんろうえらんだ。これが彼等かれら最後さいご抵抗ていこう時間じかんあたえた。


特にこのグループには方源ほうげん手下てしたやぶれたものふくまれていた。


古月蛮石こげつばんせきである。


かれ磐石蠱ばんじゃくこ所有しょゆうし、強固きょうこ防御ぼうぎょ能力のうりょく多数たすう雷狼いなずまおおかみ攻撃こうげき一人ひとりふせいでいた。


だがこれこそ方源ほうげんがこのグループをえらんだ理由りゆうだった。


蠱虫こちゅう貴重きちょうであればあるほど、回収かいしゅうして上納じょうのうすればられる戦功せんこうえる。磐石蠱ばんじゃくこ回収かいしゅうすれば3,900戦功せんこうはいり、戦功榜せんこうぼう順位じゅんいを20位以上いじょう上げ(あげ)られる。


もちろん赤山せきざん漠顔ばくがん青書せいしょらの蠱虫こちゅう磐石蠱ばんじゃくこより価値かちたかい。


しかし赤山せきざんのグループには古月赤舌こげつせきぜつがいる。かれ蛇信蠱じゃしんこち、熱量ねつりょう探知たんち隠形いんけい看破かんぱする。方源ほうげん隠鱗蠱いんりんこまった通用つうようしない。


漠顔ばくがん赤舌せきぜつより強力きょうりょく偵察ていさつ達人たつじんで、多様たよう手段しゅだんつ。狼巣ろうそう監視かんし任務にんむ単独たんどく何度なんど達成たっせいしている。


青書せいしょのグループには強力きょうりょく偵察蠱師ていさつこしはいないが、古月方正こげつほうせい存在そんざいするため、一族いちぞくひそかに護衛ごえい家老かろうはいしている。方源ほうげんちかづけば自殺行為じさつこういだ。


ほか二山寨にさんさい蠱師こしたちについては、方源ほうげんくわしくらない。


わな仕掛しかける作業さぎょう容易よういではない。かれ何日なんにち検討けんとうかさねたすえ、ようやくすうのグループを選定せんていなが尾行びこうすえ、この絶好ぜっこう機会きかいつかんだのだ。


……


白凝冰はくぎょうひょうねむりについていたときはげしいたたかいのおとみみとどいた。


かれかすかにひらき、まぶた隙間すきまからつめたいひかりらした。


「またこんな退屈たいくつ場面ばめんか」崖縁がけべりよこたわったまま、谷間たにあい光景こうけい一瞥いちべつし、ふたたじようとした瞬間しゅんかん、ある人影ひとかげ視界しかいとらえた。


「おや?」なか驚異きょういいろひらめく――方源ほうげん姿すがたみとめたのだ。


方源ほうげん大樹たいじゅ背中せなかあずけ、んだ果実かじついながら、冷然れいぜん下方かほう戦場せんじょうながめていた。無関心むかんしん態度たいどに、白凝冰はくぎょうひょうこころ突如とつじょ興味きょうみてられた。まれてはじめて、方源ほうげんのような人物じんぶつ出会であったのだ。これまでかれ周囲しゅういには、家族かぞく忠実ちゅうじつ感情かんじょうおぼれたものしかいなかったからだ。


だが方源ほうげん身上しんじょうに、白凝冰はくぎょうひょうきわめてしたしみぶか孤独こどくつめたさをかんった。


「あれはだれだ?」白凝冰はくぎょうひょう胸中きょうちゅう疑問ぎもん好奇心こうきしんがった。


……



果実かじつ方源ほうげん現地調達げんちちょうたつしたもの。かれ経験けいけんならどく有無うむなど一瞥いちべつ判別はんべつできる。


果汁かじゅうたっぷりの酸味さんみ甘味かんみ方源ほうげんっていると、突然とつぜん右耳みぎみみがピクッとうごいた――至近距離しきんきょり物音ものおと感知かんちしたのだ!


白凝冰はくぎょうひょうは元々(もともと)さらたかがけうえ無音むおんていたため、地聴肉耳草ちちょうにくじそうでは検知けんちできなかった。だが移動いどうした瞬間しゅんかん方源ほうげん察知さっちされる。


方源ほうげんひとみ電光でんこうはしり、くと――白髪しらが白衣はくい少年しょうねん氷刃ひょうじん先端せんたん崖肌がけはだけずりながら滑空かっくうし、眼前がんぜん着地ちゃくちした。


白凝冰はくぎょうひょう


方源ほうげんはまぶたをかすかにれ、即座そくざにこの人物じんぶつ認識にんしきした。


青茅山せいぼうざん随一ずいいつ天才てんさい白家寨はくかさい台頭たいとう象徴しょうちょう二転にてん他族たぞく三転家老さんてんかろうり、若年じゃくねん三転さんてんたっした青茅山せいぼうざん勢力図せいりょくず一変いっぺんさせた張本人ちょうほんにん


普通ふつう蠱師こしなら白凝冰はくぎょうひょうを独り(ひとり)でれば、緊張きんちょう恐怖きょうふ表情ひょうじょうくずすところだ。


だが方源ほうげん視線しせんかれ一瞥いちべつしただけでふたた谷間たにあいもどり、相変あいかわらず無表情むひょうじょうだった。白凝冰はくぎょうひょう真実しんじつ秘密ひみを、かれ筒抜とうぬけにっているからだ。



「おお……」白凝冰はくぎょうひょうちかづいてきた。ぼうっと方源ほうげんつめ、くちすこけて、こえながった。


かれ好奇心こうきしんかがやかせ、方源ほうげんめずらしいものるように凝視ぎょうしした。


距離きょりちぢめるごとひとみひかり、興味きょうみふくらんでいく。


「こいつのなかに…おれにおいがする? どこかでったおぼえがある。ずっとまえからの友達ともだちのようなかんじ!」白凝冰はくぎょうひょうこころ波立なみだった。


友達ともだち――この言葉ことばを、かれいままであざけり、軽蔑けいべつし、唾棄だきしてきた。


自分じぶん友達ともだち出来できるなんてかんがえもせず、周囲しゅうい凡人ぼんじんたちは仰視ぎょうしするにあたいせず、友達ともだち資格しかくなどいとめつけていた。


白凝冰はくぎょうひょう一生いっしょう友達ともだちなど出来できないと確信かくしんしていた。


だがいま――この感覚かんかく突如とつじょがった!


説明せつめいのつかない不可思議ふかしぎ感覚かんかくだが、かれ確信かくしんしていた。方源ほうげんていると、まるで自分自身じぶんじしんているようながしたからだ。




白凝冰はくぎょうひょう距離感きょりかんちかづきぎた。方源ほうげん漆黒しっこくひとみころがし、あわ視線しせんかれとらえた。


理由わけもなく、白凝冰はくぎょうひょうはその視線しせん意味いみさとった。


これは警告けいこく眼差まなざしだ。かれあわててあしめ、無遠慮ぶえんりょ方源ほうげんるようにつめながらった。「おい、おまえ本当ほんとう面白おもしろ野郎やろうだ」


もし白家はくけ蠱師こしがこれをけば、卒倒そっとうするだろう。


白凝冰はくぎょうひょうひとめる言葉ことばくちにしたことなど、まれてはじめてだったからだ。


方源ほうげんかれ無視むしし、果実かじつかじりながら谷間たにあい激戦げきせん見守みまもっていた。


白凝冰はくぎょうひょう方源ほうげんまわりをグルグルまわり、めずらしい新種しんしゅ生物せいぶつ観察かんさつするようにこまかくつめた。あらゆる角度かくどから方源ほうげんながめ、突然とつぜんしゃがみんでしたから見上みあげた。


水晶糸すいしょういとのようにけがれの白髪しらがどろ地面じめんれてもにせず、白袍はくほう地面じめんりつけてもごうかいさない。


この瞬間しゅんかんかれ無邪気むじゃき子供こどものように、方源ほうげん表情ひょうじょう興味深きょうみぶかそうにうかがい、何度なんどくちひらこうとしても言葉ことばてこない。


白凝冰はくぎょうひょう方源ほうげんつたえたいことがやまほどあるとかんじていたが、いざくちにしようとすると、全て(すべて)つたわっているがして言葉ことばんだ。


沈黙ちんもくしばつづいたのち白凝冰はくぎょうひょうくびかしげながらくちひらいた。「谷間たにあいたたかいなんて退屈たいくつきわまりないのに、なん面白おもしろいんだ?」


しかし言葉ことば半分はんぶんないうちに、まゆげてさとった様子ようすせた。「かった。この狼群おおかみぐんはおまえが引きれてきたんだな。こいつらをころすつもりだろ?でもなんで自分じぶんでやらない?ああ、証拠しょうこのこすのがこわいんだ。小心者しょうしんものめ!おまえ気配けはいから判断はんだんすれば二転にてんだ。おれならやりたい放題ほうだいだぜ!」


突如とつじょわらすと、あたらしい玩具おもちゃつけた子供こどものようにかがやかせた。「おまえ本当ほんとう面白おもしろいやつだな。やってることも最高さいこう!ははは、もうきになっちまったよ!」


方源ほうげん視線しせんてんじ、ふたた白凝冰はくぎょうひょう見据みすえる。


かれはこのおとこ理解りかいしていた。


このものこそまれながらの魔人まじんだった。


魔人まじんとはなにか?


世俗せぞくて、衆生しゅじょうないがしろにし!孤独こどくかかえ、感情かんじょう唾棄だきするもの


白凝冰はくぎょうひょう方源ほうげん鏡像きょうぞうのようだった。ただ方源ほうげんがより深淵しんえんきわめ、白凝冰はくぎょうひょう純粋じゅんすいさをしていた。


ようするに、同類どうるいたましいだったのだ!




前世ぜんせ記憶きおくなかで、三大家族さんだいかぞく狼潮ろうちょうったあと、このおとこ三家さんけほろぼし、活気かっきあふれる青茅山せいぼうざん氷山獄ひょうざんごくへとえたのだ!


白凝冰はくぎょうひょう白凝冰はくぎょうひょう……」方源ほうげんこころなげき、ゆっくりとくちひらいた。「随分ずいぶん孤独こどくだったろう」


白凝冰はくぎょうひょうひとみまたたき、地面じめんしゃがんだままはげしくうなずいた。「ああ、マジで退屈たいくつな日々(ひび)だったよ。このまえ熊家ゆうけ蠱師こしころしたときだけがちょっと面白おもしろくてな。この蠱虫こちゅううばったんだ、ほらろよ」


無邪気むじゃき子供こどものように強纏きょうてんを取りし、仲間なかまあたらしい玩具おもちゃせるような仕草しぐさをした。方源ほうげんかれなか強纏きょうてん一瞥いちべつし、わらした。「で、おまえおれころしたいんだろ?」


白凝冰はくぎょうひょう両目りょうめ漆黒しっこくから青水晶あおすいしょう瞬変しゅんぺんした。はずむように直立ちょくりつし、


「はははは!」てんあお三度さんどわらい、興奮こうふんした面持おももちでさけんだ。「やっぱりかってたんだ!そうだ、ころしたい!おまえおれころせ!生死せいしけたいくさ最高さいこう面白おもしろい!おまえみたいな面白おもしろやつ出会であえるなんて、まれてはじめてたのしみだ!」


次第しだいねつび、突然とつぜん両腕りょううでひろげて絶叫ぜっきょうした。「ああ――!人生じんせい一番いちばんかがやいてるがする!名前なまえらねえけど、おまえころさせてくれて…ありがとな!!」

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