表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
蛊真人  作者: 魏臣栋
青茅山
131/453

第百三十一節:孤独こそ最深淵の闇

大雨が激しく降り注ぎ、空では稲妻が蛇のように乱舞し、一晩中続いた。

方源はベッドに横たわり、雨音の中を駆け回る蠱師たちの叫び声や、水溜りを蹴る足音を絶えず聞いていた。


彼は薄目を開けたまま、前世の記憶がまた脳裏に浮かぶのを禁じ得なかった。

前世では狼の群れが襲来した時、まだ一转の蠱師だったため後方支援要員として山寨に身を隠し、逆に難を逃れていた。


だが今世では二转中階に達し、四味酒虫を手に入れ、現在は高階へ大きく歩を進めている。そのため他の二转蠱師たちと同様、こんな深夜に狼群を食い止めに出向かねばならない。


「外はこんな豪雨なのに、暗闇の中でいまだに視界を保つ雷狼の群れと戦うなんて、まったく自ら苦しみを求めるようなものだ」と方源は内心で冷笑った。


彼は今、借りていた家ではなく宿屋に寝泊まりしていた。

借家にいれば間違いなく人夫として引っ張り出されるところだ。


「族の上層部は明らかに今回の狼群の戦力を過小評価している。最も正しい方法は山寨に籠城し、寨を拠り所に防衛することに決まっている。残念ながら彼らは過去の経験に目を曇らせているようで……」方源はそう考えながら、気持ち良さげにベッドで寝返りを打った。


窓の外では大雨がパチパチと音を立て、天を衝くような勢いで降り注いでいる。

ゴロゴロと雷鳴が絶え間なく響き渡る。


街道では蠱師たちが緊急招集される音、足音、怒号が途切れることなく続いていた。

一時は狼の遠吠えが山寨に極めて接近した。


今夜は眠れぬ夜と決まっている。

命がけで寨を出て激戦を繰り広げる蠱師たちも、家に隠れて震え上がっている凡人たちも、そして方源さえも、夜半に自然と目を覚ました。


彼は起き上がろうともせず、暗闇の中でベッドに横たわったまま目を見開いていた。

窓外の音が耳に届く。他者が生死をかけて戦っている中、山寨の外では雷雨が轟き、蠱師と狼の群れが熱気に満ちた大舞台を形成している。どの役者も皆、生命の本質を存分に曝け出している。


「人生は芝居、これぞまさしく一場の劇だ」

しかし方源には芝居に参加する自覚など微塵もなかった。


むしろ彼は言葉にできない孤独を感じていた。

果てしない孤独。


これは彼が穿越者(転生者)であり、語り得ぬ秘密を抱えているからではない。

人が生まれながらに背負う、この孤独そのものの故であった――


人はまるで無数の浮氷の孤島のようだ。運命の海を漂い流れる。

人と人の出会いは、浮氷同士がぶつかり合うようなもの。衝突すれば必ず影響を及ぼし合う。


時に浮氷は「利益」「親情」「友情」「愛情」「憎悪」という名のもとに癒着する。

だが最終的には皆離れていき、孤独のまま滅びへ向かう。


これが人生の真実だ。

残念ながら人は常に孤独を恐れ、賑やかな群衆に未練を抱き、無為に過ごすことを嫌う。


孤独に直面すれば、往々にして苦痛に直面するからだ。

しかし一旦この苦痛を直視すれば、人は往々にして才華と勇気を得る。故に俗謡にある――傑出した者には必ず孤独が伴う。



「これが孤独の滋味か。味わうたびに、我が魔道を追求する決意が強くなる」方源は目を輝かせながら、人祖の物語を思い浮かべずにはいられなかった。


昔、人祖は態度蠱を手に入れた。態度蠱は仮面のようなものだが、人祖には心がなく装着できなかった。

以前に希望蠱に心を捧げて以来、彼はもはや逆境を恐れなくなっていたからだ。


しかし態度蠱を使うには心が必要だった。

困り果てた人祖は態度蠱に教えを請うた。「蠱よ、態度が全てを物語ることもある。我が直面する問題はお前も知っているだろう。どうすればよいか」


態度蠱は答えた。「難しいことではない。人祖よ、新たな心を求めればよい」

人祖は首を傾げた。「ではどうやって新たな心を見つければよいのだ?」


態度蠱は嘆息した。「心は無くて有るもの。求めるのは難しくも易しい。今の汝なら直ちに得られる」

人祖は喜んだ。「早くその方法を教えよ!」


態度蠱は警告した。「その心の名は孤独。本当にそれを望むか? 得た後は果てない苦痛、寂寥、恐怖に苛まれるぞ」

人祖は警告を気にかけず追及した。


態度蠱は逆らえず教えた。「星ある夜に空を仰ぎ、一言も発さず夜明けを待て。そうすれば孤独の心を得られよう」



その夜はまさに星々が天を埋め尽くす良夜だった。

人祖は態度蠱の教えに従い、独り山頂に座り夜空を仰いだ。


これまで彼は生きるために奔走する日々で、美しく神秘的な星空を眺める余裕などなかった。

今や星を見上げながら、己の卑小さ、弱さ、明日をも知れぬ無気力な日々に思いを馳せた。


「ああ、希望蠱や力蠱、規矩蠱、態度蠱を得たとはいえ、この自然の中で生きるのはなお過酷だ。明日死んでも不思議ではない。もし死んだら、この世界は私を覚えていてくれるだろうか? 私の存在を喜び、死を悲しんでくれる者はいるだろうか」


首を振った。世界に人間は彼だけだ。

蠱たちが傍にいても、骨身に沁みる――

孤独。

孤独の心!


この瞬間、孤独を感じた人祖の体内に突然新しい心が生じた。

東の空から昇る太陽が人祖の顔を照らしたが、彼は喜びではなく果てない苦痛、絶望、迷い、恐怖に襲われた。


孤独と恐怖に耐えきれず、暗黒と終末が迫るかのように感じた!

苦悶の叫びを上げながら、指で両目をえぐり出した。


左目が地面に落ちると金色の髪をした逞しい青年となった。「父上、長男の太日陽莽でございます」と跪いて叫んだ。

右目は人祖の腕を支える少女に変わった。「父上、次女の古月陰荒でございます」


人祖は哄笑を上げた。虚ろな眼窩から涙が溢れ出た。「良し、良し、良し」と三度繰り返し、「我に子ができた。これで孤独の心の痛みにも耐えられる。もはや我が存在を喜ぶ者も、死を悲しむ者もいる。たとえ死んでもお前たちが覚えていてくれる」


「ただ……」長いため息をつきながら、「目を失ったからには、もはや光明を見ることは叶わぬ。この先はお前たちが代わりにこの世を見届けてくれ」と告げた。


……


大雨は一晩中降り続け、夜明け時分になってようやく止んだ。

方源が宿を出ると、街道を行く者たちは皆重苦しい、あるいは悲しげな表情を浮かべていた。


この一夜で、一族の損失は少なくなかった。

実際、青茅山の三大家族のどれもが被害を免れず、それぞれ大きな損害を被っていた。


このことは方源が戦功榜せんこうぼうを見ればすぐに分かった。

一夜明けた戦功榜では25の小組が激減しており、全て狼潮で犠牲になったものだ。仮に生存者が一、二人いたとしても、負傷か障害を負った状態だった。


古月鵬こげつ ほうの小組もこの中に含まれていた。


その後十日余り、状況はさらに悪化の一途をたどった。

まず百獣王級の豪電狼が現れ、続けて狼潮に千獣王級の狂電狼が潜んでいるという情報が流れた。


この知らせは外へ出る二转蠱師たちを震撼させた。

狂電狼に遭遇した場合、少なくとも三つの小組が協力しなければ対処できず、しかも狂電狼の周囲にいる普通の電狼群は計算外だった。


三大家族はやむなく三转家老(さんてん の けろう)を派遣し、危機的状況に対応させた。

こうした状況下で、蠱師たちは毎日非常に危険で長い日々を過ごしていた。


たと方源ほうげん隠鱗蠱いんりんこっていても、慎重しんちょうにならざるをなかった。電眼蠱でんがんこ百獣王級ひゃくじゅうおうきゅう雷狼いなずまおおかみ遭遇そうぐうする可能性かのうせいがあるからだ。


さいわかれ以前いぜん多少たしょう代償だいしょうはらって地聴肉耳草ちちょうにくじそう運用うんようできるようになっていた。


この偵察範囲ていさつはんいひろく、大規模だいきぼ狼群おおかみぐん毎回まいかい回避かいひできた。


こうして気候きこう次第しだいあつくなり、七月末しちがつすえいたった。状況じょうきょう依然いぜん楽観らっかんゆるさないが、三大家族さんだいかぞく不断ふだん協力きょうりょく情勢じょうせい制御せいぎょかれていた。


山腹さんぷく某所ぼうしょ


激戦げきせん三人さんにん蠱師こしが、いましがた到着とうちゃくした豪電狼ごうでんろう対峙たいじしていた。


気配けはい目前もくぜんせまっていた。


「ちくしょう、真元しんげんりねえ!六割ろくわり、いや三割さんわりあればこんなまわされねえのに!」組長くみちょう熊氈ゆうせんは、ねこねずみもてあそぶようにゆっくり接近せっきんしてくる豪電狼ごうでんろうにらみつけ、血痰けったんてた。


まえがけだ。ねえぞ、どうすりゃいい?」顔面蒼白がんめんそうはく組員くみいんこえふるわせた。


「どうにもならねえか?援軍えんぐんてにするしかねえわ。白凝冰はくぎょうひょうさま関所かんしょ戦場せんじょうかったってはなしだ」白家寨はくかさい出身しゅっしん蠱師こしこたえた。


元々(もともと)熊家寨ゆうかさい白家寨はくかさい二組にぐみ狼潮ろうちょう共同きょうどう対処たいしょしていたが、いまやこの三人さんにんしかのこっていなかった。



所在しょざいからん白凝冰はくぎょうひょうてにするより、命懸いのちかけでたたかうぞ!」熊氈ゆうせんいしばった。「獣王じゅうおうこわいのは宿やどしてるからだ。おれ強纏きょうてんならてき強制抽出きょうせいちゅうしゅつできる。ただし術中じゅつちゅううごけねえ。そのあいだ、おまえらがまもれ」


「わかった!」二人ふたり組員くみいんかお見合みあわせ、熊氈ゆうせんまえ豪電狼ごうでんろうさえぎった。


成功せいこう可能性かのうせいが微々(びび)たるものだとりつつ、だれ甘受かんじゅするものはいない。


「引きけりゃ生きびれる!神様かみさまどうか……!」熊氈ゆうせん顔面がんめんゆがませ、右手みぎてをゆっくりげた。


生死せいしけた乾坤一擲けんこんいってきだ!


かれらも豪電狼ごうでんろう気付きづいていない――頭上ずじょう断崖だんがいで、白髪しらが白衣はくい少年しょうねんが淡々(たんたん)とこの光景こうけいながめていた。


人生じんせいって退屈たいくつだな…」地面じめんすわり、片手かたてからだささえながら酒壺さかつぼくちかたむけていた。


がれたのはさけではなく、ただのあま清水しみずかれさけよりみずきだった。


白衣はくい少年しょうねんみずみながら、足下あしもと芝居しばい見下みおろしていた。


たたかえ、ね。おまえらみたいな平凡へいぼん人生じんせいまらん。生死せいしけたいくさぐらいが、ちっとばかりのいろどりをえてやる。そんときだけがおまえらの価値かちだ」


かれこころなかで淡々(たんたん)とわらった。微塵みじんそうという欲望よくぼうなどない。


たとえかれにその能力のうりょくがあったとしても、やまふもとには白家はくけ一族いちぞくがいるというのに。


だが、それがどうしたというのか?かれにとって孤独こどくこそがもっと深淵しんえんなるやみであり、親情しんじょうひかりなどまやかしにぎない。


白凝冰はくぎょうひょうなど、ひとすくうような退屈たいくつ真似まねはしないさ!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ