夕暮れ時まで続き、ようやく斗蠱大会が終わった。
会盟坡では、三大家族の蛊師たちの陣営が最初の明確な境界線を失っていた。蛊師たちは丘全体に広がり、かすかに三ヶ所の密集した群れが残るだけだった。
斗蠱の勝負は、鬱憤晴らしでもあり、妥協でもあった。
力を第一の価値観とするこの世界では、力こそが尊重され、協力の基盤となる。
熊力が方源に挑んで以来、もはや他の蛊師が彼を狙う者はいなかった。
方源は新参者で、他の二家の蛊師と接点もなく、因縁もなかった。本寨の蛊師たちも、このような場で同族に挑戦することは決してない。
特に方源が自ら降参したことで、他の蛊師たちは彼への興味を完全に失っていた。このような「怠惰」「臆病」な相手を倒しても、自慢する価値などないのだから。
人に踏まれたくないなら、二つの道がある。一つは誰も踏めない強き者になること。もう一つは犬の糞になって、誰も踏む価値を見いだせなくすることだ。
方源は糞だろうが強き者だろうが、名誉など気にしない。手段を選ばず結果だけを求める彼にとって、挑戦者が現れない状況は願ってもないことだった。
周囲の軽蔑的な視線など、眼中になかった。そんな目に耐えられないようでは、魔道を志す資格などないのだ。
会盟は成功裡に終わり、古月一族・白家・熊家は暫定の同盟を結んだ。
第一条、法令を公布する。三族は過去の因縁を一時捨て、共同で狼の襲来に対抗する。危急の際には相互に援助しなければならない。同時に内部での殺し合いを厳禁し、調査・監視チームを設置する。発見次第、殺人者はまず家族から追放され、三族が連携して制裁を加える。殺人者は命で償わなければならず、逃亡した場合はその親族が代わって命を支払う。
仮え蛊師が死亡しても、死体から回収した蠱虫は必ず提出すること。私的に横領・使用した場合、全て(すべて)殺人罪として扱う。蠱虫を提出後、戦功と交換可能とする。
第二条、戦功榜を設置する。グループ単位で、三大家族の各グループの戦績ランキングを常時表示する。電狼の眼球一つで戦功10ポイントと交換可能。戦功は蠱虫・元石など物資と交換できる。
戦功榜の登場は、蛊師たちに比類なき熱意を掻き立たせた。
闘蠱の勝負結果は、実際の戦闘結果を必ずしも反映しない。熊姜と白病已を例えに取ると、白病已は水鑽蠱以外にも攻撃手段を持っている。一方熊姜の影殤蠱の有効範囲はわずか10メートルだ。
しかも、どの戦闘においても結果に影響する要素は多く存在する。
闘蠱の勝負には説得力が欠けるが、戦功榜はより公平な競争の舞台を提供している。
三大家族の蛊師たちは皆、電狼を狩り戦功ランキングの上位を目指して奮闘している。
これは単に個人の栄誉だけでなく、一族の面子にも関わる問題だ。特に戦功榜のトップ3を巡る争いは空前の激戦ぶりで、ほぼ一日おきに順位が変動している。
あっという間に一ヶ月余りが過ぎた。
冬が去り春が訪れ、万物が芽吹き始めた。
一戦の後。
方源は地面に残る雪を踏みしめ、荒い息を吐きながら戦場を見渡した。
戦場には十数頭の電狼が倒れており、既に全て絶命していた。狼の血や砕けた屍体が至る所に散らばり、空気中には濃厚な血腥い臭いが充満していた。
ウォーン……
ちょうどその時、遠くない場所から再び狼の遠吠えが響いてきた。
方源の表情が微かに険しくなった。経験から判断して、一団の狼が急速に接近していることを悟った。
他の蛊師なら、長期戦で空竅の真元が尽きかけていれば、撤退を考えただろう。だが方源はそんな事情を無視し、その場に蹲み込んで狼の屍体から眼球を採取し続けた。
慣れた手付きで効率良く作業を進めたが、採取を終えた時には既に狼群れの半包囲下に置かれていた。
これは中規模の狼群で、百頭近くの傷ついた狼がいる。緑色に光る狼の目が凶暴な気配を放ち、方源を隙もなく見据えていた。
方源は狼の目玉を安全に収め、微笑みながら立ち上がると、水の波紋のように体が揺らめき、徐々(じょじょ)にその場から消えていった。
突進してきた狼群は瞬く間に騒然となった。多くの傷狼が足を止め、困惑した様子を見せ始めた。
所詮野獣のこと、このような不可思議な現象を理解できるはずもない。
「だがこれも電狼が主に視覚に頼り、嗅覚をあまり使わないからだ。電狼はこの世界の奇妙な生物、視力は鷲のように鋭いが、嗅覚は人間と大差ない。俺の隠鱗蠱は電狼を欺くには最適だが、犬の鼻には通用しない」方源は内心しっかり把握していた。
隠鱗蠱は斗蠱会以前に合煉に成功したものだ。鯉の化石のような灰色の物体で、方源の真元海に横たわり、真元の水が生き生きとした鱗の表面を流れている。
方源が以前不足していた魚鱗蠱は、当然黒豕蠱と青書と交換して手に入れたものだった。
この隠鱗蠱を持っているおかげで、方源は狼の群れの目の前で無事に遠ざかることができた。
このような状況は、ここ数日で何度も発生していた。
一般的な狼や犬は嗅覚が鋭い。しかし、電狼は異なり、その速度は非常に速いが、鋭い視力がなければ木や岩に衝突してしまう。
しかし自然は公平で、鋭い狼の瞳を与える代わりに、鋭敏な嗅覚を奪った。
しかし、雷冠頭狼はまた異なる。
方源は隠鱗蠱を持っていれば、普通の狼の群れの中では余裕を持って行動できる。しかし雷冠頭狼のような万獣王の前では、逃れられない。
雷冠頭狼の両目には多くの場合電眼蠱が宿っており、この蠱は隠れた姿を見破る能力があるからだ。
電眼蠱以外にも、実際には多くの他の蠱虫が、姿を隠した方源を感知することができる。
例えば蛇信蠱は熱を感知できる。獣語蠱は蠱師が獣との会話から情報を得られるようにする。順風耳蠱は蠱師の聴覚を非常に鋭敏にする。
したがって、隠鱗蠱を持っているからといって、方源が完全に安全というわけではなく、せいぜい小さな命を守る手段があるだけだ。
山塞に戻った時、まだ昼過ぎだった。
春の日差しが明るく、山塞の門前では人々(ひとびと)が行き来していた。例年とは異なり、道行く人の多くは蛊師で、極少数の凡人しかいなかった。
狼の襲来の影響で、野外は安全ではなかった。猟師たちは全く山へ狩りに行けず、農地も荒廃していた。
街道では、蛊師たちの士気が高揚していた。血まみれになって外から帰ってくる者もいれば、元気に発する者もいた。
彼らは戦功榜の順位について話したり、電狼狩りの経験を語り合ったり、他の塞の優秀な蛊師について議論したりしていた。
方源は人混みに紛れながら山塞に入り、家主閣前の広場に来た。
広場には既に台が設けられており、戦功の交換はここで行われていた。
多量の蛊師がここに集まっており、一転蛊師たちは記録を取っていた。一部の二転蛊師は押し合いながら、血の付いた狼の目玉で戦功を換えていた。
他の一部は戦功を消して、元石や蛊虫、食料などと交換していた。
広場の中央に巨大な旗が立ち、旗面にはこの世界の文字が流れるように動いていた。刻一刻と変化するその様は戦功榜そのものだ。旗には十数匹の遊字蠱が宿っている。
一転の遊字蠱は、一転の後方支援蛊師たちに操られ、旗面に自由に文字を表示することができる。
「ふん、一位は相変わらず白家の白病已グループか?」誰かが戦功榜を見ながら眉をひそめた。
「見てみろ、白病已が一位、我が族の青書グループが二位、熊力グループが三位……俺たちのグループは137位だ」と呟く蛊師もいた。
その時、突然誰かが叫んだ。「変わった!青書グループが一位に躍り出た!白家の病弱を追い落としやがった!」
戦功榜で二位を示していた青書グループの文字が突然動き出し、登り始めた。一位の白病已グループを文字の「手」で引き摺り下ろすと、自らが一位の座に登り、文字の「足」で踏みつけるような仕草を見せた。
この人間味あふれる動作は、もちろん遊字蠱を操る蛊師の仕業だ。
面白い変化を目にした広場の蛊師たちは爆笑を浴びせ、その場にいた青書グループに親指を立てて賛辞を送り続けた。遊字蠱を操っていた一転蛊師は顔を赤らめ、興奮した様子でいた。
「青書様、流石我々(われわれ)二転蠱師の第一人者です!」
「青書様、本当に立派ですわ!」
古月青書は人混みの中を歩きながら、微笑みで応じていた。後ろを付いて歩く古月方正は拳を握り締め、青書の歩幅にピッタリ合わせながら、興奮を滲ませた表情を浮かべていた。
周囲からの賞賛が少年の灼熱のような栄誉への渇望を満たし、方正は光差す平坦な道を歩いているような気がした。無意識に一族への帰属意識が更に深まっていくのを感じた。
「兄……」人垣の間で腕組みして傍観する方源の姿を不意に視界に捉えた。
「兄さん、相変わらず独り寂しそうだな。道理で最初から戦功榜の最下位に沈んでいたんだ。心を開き集団に溶け込まなければ、一族の温かさや喜びは感じられないのに」方正は胸の奥で嘆息し、方源に哀れと情けなさを覚えた。
方源のように独りで奮闘し、仲間もいなければ、家族の情けや戦場の戦友との絆など感じられるはずもない。
一人で全て(すべて)に向き合うのは危険なだけでなく、退屈でもある。
友との友情も、愛も、家族の情けもない人生に、何の意味があるだろうか?
方源は人混みの中に立ち、高々(こうこう)と掲げられた戦功榜を黙って見上げていた。疑いもなく、戦功榜の最下位には「方源グループ」という大きな文字が記されていた。
他の蛊師ならこの位置を見て恥ずかしがるところだが、方源の目は淡々(たんたん)としており、全く気にしていない様子だった。
古月博に組長に昇格されて以来、他の組員を募る気など毛頭なかった。彼は丸腰の組長で、青茅山三大家族の中で最も特殊なグループだった。
独りきりなのだから、当然毎日の狩猟成果も他のグループに比べて少ない。だが方源の実力を本気で発揮すれば、順位が最下位というわけでもない。
しかし方源にとってこれは何の意味も持たなかった。
戦功は必要なかった。生活物資や蠱虫の餌も既に蓄えている。以前は戦功で魚鱗蠱を手に入れる考えもあったが、今や必要なくなっていた。
彼が毎日電狼を狩る理由は二つ。一つは形だけの体裁を整えるため、もう一つは戦功を蓄えて月蘭の花弁と交換するためだ。
何と言っても、彼の月芒蠱にはこの餌が必要なのだ。
半月ほどの時間が瞬く間に過ぎ去り、春の気配が次第に濃くなってきた。
木々(きぎ)は新緑を芽吹かせ、道端には野花が咲き乱れている。
温かい春風がほろ酔い気分にさせる中、蛊師たちは戦闘で勝利の凱歌を上げ続け、戦況は好転しつつあった。
方源が街道を歩くと、目に入るのは皆の笑顔ばかり。耳に届くのは互いを称え合う声や武勇を誇る言葉ばかりだった。
もちろん、心配そうな顔をしたり、眉をひそめたりしている蛊師もいた。そんな蛊師の多くは年配の者で、人生経験が豊かなため、真の狼潮が夏秋の両季にあることを知っていた。方源の胸中には一切合切が明らかだった。
「このような状況が生じた理由は三つ。一つは三塞同盟により相互の警戒が緩み、より多くの蛊師が狼潮への抵抗に注力できるようになったため。二つ目は討伐した電狼が傷ついた残狼に過ぎなかったこと。三つ目は春の訪れで狼群が交尾と繁殖に忙しいからだ。夏になれば真の精強な狼群が四方から潮のように押し寄せ、三大家族の山塞に甚大な被害をもたらすだろう」
この考えが頭を過ぎると、方源の目に冷たい光が走った。
今年の狼潮は歴史を超える空前の規模に達する。一族の上層部でさえ、その深刻さを大きく過小評価している。
記憶の中では、蛊師の大半が命を落とす。三大家族が蓄積してきた底力もほぼ枯渇する。
方源は一族の上層部に警告する考えなど毛頭なかった。第一、仮え警告しても一族が真剣に取り合ってくれる保証がない。真剣にされれば更に厄介――情報源を説明できなくなる。第二、警告しても実力差ではどうにもならない。第三、そして最も重要な理由は、一族に警告することが自らの最大利益に反するからだ!
「天下人に背かれんよりは、我自ら天下人を背かん!」
家族愛や友情、愛情などというものは、人生の添え物に過ぎない。男の大業と比べられるものか?
地球の歴史上、項羽が劉邦の父を煮る刑に処そうとした時、漢の太祖劉邦は笑いながら「煮てくれ、その時は私にも一切れ分けてくれ」と言った。
唐の太宗李世民は玄武門で兄弟を殺し、曹操の軍が兵糧尽きた際には人肉を干し肉にし食糧とした。劉備は荊州を「借りる」と言って返さなかった。
権力者が宣伝する価値観や道徳観など、統治を維持する道具でしかない。
こんなものに縛られていたら、何の大きな事業も成し得ない。
真の高位に立つ者の手に血が付いていない者などいるか?その足元には屍が積み上がっている。資本家の原初的資金蓄積は血塗れだ。政治家は皆汚い。慈善家と称する者は金で社会的名声を買っているだけだ。
成功者の多くは過去の醜い部分を巧みに隠す。成功者の自伝に騙される者こそ愚者である。
「こんな愚か者は至る所にいて、感情や道徳という檻に閉じ込められ、支配され愚弄されるのが当然だ。更に哀れなのは、他人が檻から解き放たれているのを見ると、すぐに飛び出しては批判や非難を浴びせ、自分の価値観を押し付けようとする。他人の自由を妬みながら、その過程で不可解な道徳的優越感や幸福感に浸っている」
方源はそう考えながら、周りの蛊師たちを眺めた。
この者たちは、自分より高い修為を持つ者もいるが、何の役に立つというのか?
皆、単なる駒に過ぎない。檻に閉じ込められた奴隷犬だ。
実際に人の成し得ることを制限するのは、天賦の才ではなく思想である。どの組織も、人は生まれると絶えず価値観を刷り込まれ、洗脳され続ける。非凡な業績を成し遂げるには思想の首輪を打ち壊さねばならない。しかし大多数の者は首輪を栄誉の証と誤解し、その枷に縛られたまま必死で前進している。
方源は内心で冷笑を漏らした。
山塞の大門を出ると、彼は散漫に広がった思考を収め戻した。