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蛊真人  作者: 魏臣栋
青茅山
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第百二十六節:木魅之殇

降参こうさん……

方源ほうげん言葉ことばが、まだ人々(ひとびと)のみみのこっていた。


一瞬いっしゅんあいだ石楼せきろうしたにいるほぼ全員ぜんいん二転蠱師にてんこしが、おどろきの視線しせん方源ほうげんあつめていた。


方源ほうげん見向みむきもせず、腕組うでぐみしたままうごかず、平然へいぜんとした表情ひょうじょうたもっていた。


降参こうさん?まさか直接ちょくせつけをみとめた?間違まちがいか?」

「あれが方源ほうげんせない腰抜こしぬけじゃねえか、ケケケ」

熊力ゆうりき気迫きはくたしかにすごい。だがけるにしてもかたちだけはつくるべきだろ。直接降参ちょくせつこうさんなんて、自分じぶん臆病おくびょうなだけじゃなく一族いちぞくかおつぶすぞ」

……


次第しだいに、ささごえしずかな湖面こめんひろがる波紋はもんのようになっていった。


最初さいしょおどろきがぎると、おおくの蠱師こし軽蔑けいべつ侮蔑ぶべつ他人たにん不幸ふこうよろこ冷笑れいしょうへとわった。


すくなからぬ古月こげつ蠱師こしかなくなりはじめた。熊家ゆうか白家はくかからの視線しせんは、無形むけいはりのようにかれらの自尊心じそんしんつづけていた。


方源ほうげん古月一族こげついちぞくものかれ直接降参ちょくせつこうさんしたことで、いのものたちまでが面目めんもくうしな結果けっかとなった。


降参こうさんなんてゆるせねえ!方源ほうげん、おまえ古月こげつおとこだろ!って熊力ゆうりきたたかえ!」

かりけたってたいしたことねえじゃねえか」

たたか度胸どきょうすらねえ方が本物ほんものはじだぞ!」


古月族こげつぞく蠱師こしたちがさけち、方源ほうげんあおてる。


方源ほうげん顔色かおいろ一つえず、これらの言葉ことば野良犬のらいぬ遠吠とおぼえのようにながしていた。


名誉めいよ面目めんもく栄光えいこうなどというものは、所詮しょせんいたもち支配層しはいそう組織そしき成員せいいんめた首輪くびわぎない。


この蠱師こしたちも、くびなわつながれたいぬれでしかない。



熊力ゆうりき方源ほうげんをじっとつめ、突然とつぜんわらした。「本当ほんとうにがっかりだな。古月家こげつけ勇武ゆうぶって、こんなものかよ?」


この言葉ことば古月一族こげついちぞく蠱師こしたちは一斉いっせい顔色かおいろくもらせた。


熊家寨ゆうかさいがわからは爆笑ばくしょうこり、白家寨はくかさい蠱師こしたちさえもあざけるような視線しせん古月こげつ見下みおろした。


方源ほうげん周囲しゅういものたちも次々(つぎつぎ)とあしうごかし、ずかしそうに距離きょりっていった。


またた方源ほうげん五歩ごほ圏内けんないががらんどうになり、かれだけが孤立こりつしてつづけた。みち異質いしつ存在そんざいだが、平然へいぜんとした表情ひょうじょうくずさない。


ほかもの勇武ゆうぶ名誉めいよおもんじるなか方源ほうげんはなわらう。この態度たいど自然しぜん周囲しゅうい嫌悪感けんおかんさそった。


名誉めいよへの蔑視べっし大衆たいしゅう価値観かちかん否定ひていする行為こういだ。その価値観かちかんしたがってきてきたものたち自身じしん否定ひていへとつながるからだ。


ひとみずからのかたあやまったとみとめたくない。だから無意識むいしき方源ほうげん拒絶きょぜんし、はいせきするようになる。


こころよわものはこの排斥はいせきくっし、みずからをえて大衆化たいしゅうかするのだ。



だが方源ほうげんまさにこの排斥はいせき必要ひつようとしていた。かれ身上しんじょうには秘密ひみつつづけており、孤立こりつもとめていた。同時どうじに、これらのもの交際こうさいする価値かちもない。記憶きおくにある通り、青茅山せいぼうざん三大さんだい山寨さんさい狼潮ろうちょうかろうじてったが、二年後にねんごのあの事故じこ全滅ぜんめいした。以降いこう青茅山せいぼうざんこおりざされた土地とちる。


方源ほうげんすべきことは、この期間きかん最大限さいだいげん活用かつようして成長せいちょうし、ときのがさず家族かぞくだっし、殺身さつしんわざわいけることだ。


不利ふり状況じょうきょうを目のたりにし、古月山寨こげつさんさい二転にてん最強さいきょうである青書せいしょは、否応いやおうなくがらざるをなかった。


熊力ゆうりき、我々(われわれ)で試合しあいをしてみないか」


「へへ、どうやって勝負しょうぶするつもりだ?」熊力ゆうりきわらいながらも、眉間みけんけわしい表情ひょうじょうかべた。


古月青書こげつせいしょ熊力ゆうりきず、てのひらかすかにげつつ真元しんげんひそかに駆動くどうがった視線しせんひらからおもむろにびる青藤せいとう注視ちゅうししていた。


「おまえ腕力わんりょくためそう。この青藤せいとう束縛そくばくからせたら、わがけだ。どうだ?」


「へへ、面白おもしろ提案ていあんだ。かかってこい」熊力ゆうりきき、するどひかった。


こころ計算けいさんする――すでくま一頭分いっとうぶんちからたくわえ、熊豪蠱ゆうごうこ爆発的ばくはつてきちから放出ほうしゅつすれば二熊にゆうちからになる。青藤せいとう丈夫じょうぶだが、二熊にゆうちからかなら脱出だっしゅつできる。熊姜ゆうきょうすで白病已はくびょういたおした。自分じぶん青書せいしょてば、面子めんつ十二分じゅうにぶんつ!


青書せいしょおだやかに微笑ほほえみ、両掌りょうてひろげた。てのひらから二本にほん青藤せいとうみどりうわばみのように熊力ゆうりきからだからいていく。



熊力ゆうりき両手りょうてこしげたまま、青藤せいとう両腕りょううでからき、またた十数本じゅうすうほんいて両手りょうて背中せなかけた。


ほか蠱師こしたちがらしてこの対決たいけつ見守みまもる。


「どうぞ」青書せいしょ熊力ゆうりきげる。


熊力ゆうりき瞬時しゅんじ見開みひらき、こぶしにぎめて力をはじめた。


かれ全身ぜんしん筋肉きんにく隆起りゅうきし、岩塊がんかいげたかのようにふくらんだ。


一熊いちゆうちから


バキバキッ!


青藤せいとう一本いっぽんまた一本いっぽん巨力きょりょくれず断裂だんれつしていく。


「ははは、青書兄せいしょあに、どうやらこの勝負しょうぶおれちだな!」熊力ゆうりきちから爆発ばくはつさせながら余裕よゆう言葉ことばはなつ。


青書先輩せいしょせんぱい……」かたわらの方正ほうせいあせにぎり、緊張きんちょう面持おももち。他の古月族こげつぞく蠱師こしたちも同様どうようだった。古月青書こげつせいしょかれらの最高戦力さいこうせんりょく。もしやぶれれば古月こげつ面目めんもく完全かんぜんうしなわれる!


「そうともかぎらん」古月青書こげつせいしょ薄笑うすわらいをかべ、ひとみ自信じしんひかり宿やどした。


その言葉ことばえやらぬうちに、青藤せいとう変容へんようはじめた。もと碧緑へきりょく突如とつじょ墨緑すみりょく変色へんしょくつるふとたくましくなり、周囲しゅうい幅広はばひろ藤葉とうようはじめた。


熊力ゆうりき表情ひょうじょうかたくなる。青藤せいとうからのちから十倍じゅうばい以上いじょう増大ぞうだいしたことを察知さっちしたのだ。


さらおどろいたのは、みずからがったつる再生さいせいし、断裂部だんれつぶつななおようだった。


熊豪蠱ゆうごうこ


あやうしとさとり、空竅くうこうない熊豪蠱ゆうごうこきゅうんで発動はつどうさせた。


瞬時しゅんじかみ鋼針こうしんのように逆立さかだち、全身ぜんしん筋肉きんにく膨張ぼうちょうして体躯たいく巨大化きょだいかした。


双熊そうゆうちから


青藤せいとうがギシギシときしむも、この怪物かいぶつじみたちかられず、熊力ゆうりききびしく拘束こうそくつづけた。


熊力ゆうりきかおめ、極限きょくげんちから青藤せいとうを引きこうとした。しかし結局けっきょく一本いっぽんっただけで力尽ちからつきた。



「わがけだ」熊力ゆうりきみずか熊豪蠱ゆうごうこ強化きょうかき、いきらしながらった。


おそります」青書せいしょ拱手きょうしゅれいり、青藤せいとうおさめた。


青書様せいしょさま流石さすがです!」古月一族こげついちぞく蠱師こしたちが歓喜かんきいた。


「さすが青書先輩せいしょせんぱい兄貴あにきとはくらものになりません」方正ほうせい青書せいしょかたわらにち、尊敬そんけい眼差まなざしでかれ見詰みつめた。


熊力ゆうりき複雑ふくざつ表情ひょうじょう古月青書こげつせいしょながめた。自分じぶん棕熊本力蠱しゅゆうほんりきこ獲得かくとくして成長せいちょうしたように、青書せいしょ進化しんかしていた。その手法しゅほう不明ふめいだが、好敵手こうてきしゅかれだ。方源ほうげんごときはたんなる新参者しんざんものまった心配しんぱいするにりない。



「やはり木魅蛊もくみこか」方源ほうげん遠目とおめから青書せいしょ観察かんさつし、心中しんちゅうつぶやいた。


青書せいしょ対峙たいじする熊力ゆうりき気付きづいていないが、青書せいしょかみあらたなみどり一二枚いちにまいはじめていた。


これは木魅蛊もくみこ使用しよう明確めいかく兆候ちょうこうである。


木魅もくみとは樹精じゅせいのことで、木魅蛊もくみこ発動はつどうすると樹精じゅせいへと変身へんしん戦闘せんとう可能かのうとなる。


樹精じゅせい特異とくい存在そんざいで、天地てんち直接ちょくせつ吸収きゅうしゅう自己じこちから能力のうりょくを持つ。


一方いっぽう普通ふつう蛊師こし空竅くうこうない真元しんげんしか利用りようできない。木魅蛊もくみこ樹精じゅせいした蛊師こし大気中たいきちゅうから直接ちょくせつ天地てんち吸収きゅうしゅうし、天然真元てんねんしんげん補給ほきゅうするのと同然どうぜん効果こうかる。


通常つうじょう蠱師こし戦闘せんとうちゅうに、たたかいながら元石げんせき天然真元てんねんしんげん吸収きゅうしゅうする余裕よゆうなどない。


しかし樹精じゅせいへとすれば、天地てんち吸収きゅうしゅうするのは本能ほんのう的行為こういとなり、まった集中力しゅうちゅうりょくがれない。つまり木魅蛊もくみこ使用者しようしゃ持久戦じきゅうせん達人たつじんだ。真元しんげん無限むげんとはわぬが、持続的じぞくてき補充ほきゅうにより戦闘時間せんとうじかん三倍さんばい急増きゅうぞうする!


同時どうじ樹精じゅせいすれば青藤蛊せいとうこ松針蛊しょうしんこなどへの増幅効果ぞうふくこうか発揮はっきする。


方源ほうげん瞬時しゅんじおおくの情報じょうほう連想れんそうした:「木魅蛊もくみこ合成昇進ごうせいしょうしん天下てんかで最も贅沢ぜいたく強化きょうか方法ほうほうの一つ。三転蛊さんてんこから百年寿蛊ひゃくねんじゅことの合成ごうせい四転百年木魅よんてんひゃくねんもくみへ、さら千年寿蛊せんねんじゅこ五転千年木魅ごてんせんねんもくみとなる。この秘方ひほうひろられているが、実際じっさい使つかものまれ寿蛊じゅこはあまりに貴重きちょうで、通常つうじょう寿命じゅみょう延長えんちょうすぐ消費しょうひされるからだ」



この世界せかい人間にんげん無病息災むびょうそくさいであれば、最長さいちょうでも百歳ひゃくさいまでしかきられない。百年ひゃくねん人間にんげん寿命じゅみょう限界げんかいだ。


しかし寿蛊じゅこ使つかえば寿命じゅみょうばせる。


百年寿蛊ひゃくねんじゅこ百年ひゃくねん寿命じゅみょうやし、千年寿蛊せんねんじゅこ千年せんねんながらえることを意味いみする。


寿蛊じゅこきわめてまれで、の人々(ひとびと)がこぞってもとめる至宝しほうである。


方源ほうげん前世ぜんせ五百年ごひゃくねん以上いじょうき、五匹ごひき百年寿蛊ひゃくねんじゅこを次々(つぎつぎ)に使用しようした。合計ごうけい五百年ごひゃくねん寿命じゅみょう追加ついかされ、本来ほんらい百年ひゃくねんわせ六百歳ろっぴゃくさいまでべるはずだった。しかし中途ちゅうと正派せいは集団攻撃しゅうだんこうげきけ、自爆じばくせざるをなかった。


寿蛊じゅこは「長生ちょうせい」を可能かのうにするが、「不死ふし」を意味いみしない。


木魅蛊もくみこ強力きょうりょくだが欠陥けっかんもある。使用時間しようじかんながすぎると、蛊師こし肉体にくたい木質化もくしつかし、最終的さいしゅうてき樹人じゅじんしかばねる。前世ぜんせ古月青書こげつせいしょはまさにこうしてんだ」


そうかんがえると、方源ほうげんがきらりとひかった。


強力きょうりょく蛊虫こちゅうほど弊害へいがいおおきく、ほか蛊虫こちゅうと組みくみあわせて使用しようする必要ひつようがある。そうしなければ蛊師こし自身じしん悪影響あくえいきょうおよぼす。


熊姜ゆうきょう遊僵蛊ゆうきょうこ血気蛊けっきこ併用へいようするのが最善さいぜん使用過多しようかた血液けつえきつづければ、本物ほんもの僵尸きょうしになってしまう。


熊力ゆうりきグループが自陣じじんもどると、白病已はくびょういたおしたあと青書せいしょやぶれたにもかかわらず、拍手はくしゅ賞賛しょうさんびていた。


漠顔ばくがん、おまえ勝負しょうぶだ」

「さあ熊驕嫚ゆうきょうまん相手あいてになってやるぞ!」


……


熊力ゆうりきグループを皮切かわきりに、一気いっき活気かっきづいた。数多あまた蛊師こしが次々(つぎつぎ)と出場しゅつじょうし、目指めざ強敵きょうてきいどみ、みずからの武勇ぶゆう誇示こじした。


会盟坡かいめいは一時いちじ混乱こんらん状態じょうたいおちいり、切磋琢磨せっさたくまする蛊師こしたちの熱戦ねっせんひろげられた。


しん闘蛊とうこ勝負しょうぶいままさにまくひらけたのだ。

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