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蛊真人  作者: 魏臣栋
青茅山
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第百十四節:洞中に猿王あり

商隊しょうたい山寨さんさいはなれて三日後みっかご


山体さんたい石林せきりんに、晦暗かいあん赤光あかひかり充満じゅうまんしていた。


洞窟どうくつ天井てんじょうからびる巨大きょだい石柱せきちゅうは、さかさにえた巨木きょぼくのようで、威厳いげんある灰色はいいろ石林せきりん形作かたちづくっていた。


方源ほうげん石林せきりんなかたたかいながら退却たいきゃくしていた。


キィキィキィ……


緑色みどりいろ丸瞳まるひとみをした石猿いしざるれが、方源ほうげん執拗しつよういかけてくる。


月芒蠱げつぼうこ!」方源ほうげんねんじるや、右手みぎて猿群さるむれのほうかるろした。


ヒューッ。


洗面器せんめんきおおきい幽藍色ゆうらんしょく月刃げつじん突然とつぜんあらわれ、空気くうきつらぬいて猿群さるむれのなかさった。


空中くうちゅうがり身動みうごきできなかった玉眼石猿ぎょくがんいしざる月刃げつじん直撃ちょくげきされた。


悲鳴ひめいげられぬうちに、そのからだあたまからあしまでつにかれた。


生気せいき急速きゅうそくうしなわれ、かげおおかぶさる。


またたに、生気せいきあふれた両目りょうめぎょくたまへとわり、落下らっかする途中とちゅう全身ぜんしん石像せきぞうした。


ドン!


かたおととも石像せきぞう地面じめん激突げきとつし、粉々(こなごな)にくだけた。


月刃げつじんかがやきをすこうしなったものの、いきおおとろえず後方こうほう石猿いしざるおそいかかった。


パキパキパキ……


硬質こうしつおとひびき、さらに五、六匹(ご、ろっぴき)の石猿いしざるせられた。


キィキィキィ!


仲間なかまむご石猿いしざるれは激怒げきど甲高かんだかさけごえいきおいを倍増ばいぞうさせ、殺気立さっきだった様子ようす方源ほうげんおそいかかってきた。


方源ほうげん危険きけん直面ちょくめんしながらも冷静沈着れいせいちんちゃくこころこおりのようにり、たたかいながら後退こうたいつづけた。石猿いしざる接近せっきんするたび月刃げつじん反撃はんげきする。


以前いぜん月光蠱げっこうこなら錆蠱さびこ威力いりょくしても、一発いっぱつれるのは1~2ひき限界げんかいだった。だが現在げんざい月芒蠱げつぼうこなら、一撃いちげきで5~6ひきいのちうばえる。


ただししあって、月芒蠱げつぼうこ使用しようには相応そうおう代償だいしょうともなう。


一発いっぱつ月刃げつじんごとに赤鉄真元せきてつしんげん一割いちわり消費しょうひ方源ほうげん空竅くうこうたくわえられた元海げんかい最大さいだいでも四割四分よんわりよんぶしかない。


つまり、全力ぜんりょくしても月刃げつじん四発よんぱつ限度げんどということだ。


四味酒虫しみしゅちゅう合成ごうせい真元しんげん精錬せいれんできれば、月刃げつじん八発はっぱつ連続れんぞくはなてるのに。残念ざんねん第二だいに酒虫しゅちゅうれたが、さんかんから四種よんしゅ美酒びしゅのうち三種さんしゅしかあつめられず、最後さいご一歩いっぽまっている」方源ほうげん内心ないしん嘆息たんそくした。三発さんぱつ月刃げつじんはなったあと空竅くうこうのこ淡紅真元たんこうしんげん一割四分いちわりよんぶだけだった。


安全あんぜんかんがえ、月刃げつじんわりに白玉蠱はくぎょくこ発動はつどうさせた。


石猿いしざるれが包囲ほういせばめ、最前線さいぜんせん一匹いっぴき方源ほうげん足元あしもとうつると、突然とつぜんがった。かたあたま方源ほうげんあごしたからげるように攻撃こうげきしてきた。


方源ほうげんややかにふんいた。こぶしでこの分際ぶんざいらずのさるたたつぶそうとしたが、一瞬いっしゅんおもなおし、攻撃こうげきながすのをめた。


衝突しょうとつ直前ちょくぜんあご白玉はくぎょく冷光れいこうまたたいた。


ドスン!


にぶおとひびく。衝撃しょうげき方源ほうげんあおり、石猿いしざる地面じめんたおあたまかかえて悲鳴ひめいげ、ころまわった。


白玉蠱はくぎょくこがなければあたまほねは粉々(こなごな)だっただろう。だがいまかる眩暈めまいかんじる以外いがい無傷むきずだった。


ただし白玉蠱はくぎょくこ防御ぼうぎょがあっても、衝撃しょうげき物理的ぶつりてきちからめねばならない。


方源ほうげん数歩すうほ後退こうたいしてようやくき、ひとみ冷静れいせいさがもどった。


わざと石猿いしざる頭突ずつきをめたのは、この身体からだ攻撃こうげきへの耐性たいせいをつけさせ、眩暈めまいへの適応てきおうはかるためだった。


生死せいしける局面きょくめん同様どうよう攻撃こうげきけても、素早すばや正気しょうきもどし、一縷いちるせいつかむためである。


方源ほうげんのやりくちつね残忍ざんにんで、その冷酷れいこくさはてきだけでなく自分自身じぶんじしんにもけられていた!


かれ三日みっかおきにこのあらわれ、石猿いしざるほふつづけてきた。


目的もくてきたん花酒行者かしゅぎょうじゃちから継承けいしょうだけでなく、石猿いしざるれを利用りようしてみずからの戦闘能力せんとうのうりょくきたえるためでもあった。


蛊師こし戦闘力せんとうりょくは、身体能力しんたいのうりょく体術たいじゅつ空竅真元くうこうしんげん戦闘経験せんとうけいけん、そして各蛊虫かくこちゅう性能せいのう複合ふくごうしてまる。


これらを完璧かんぺい統合とうごうしてはじめて最大さいだい戦闘力せんとうりょく発揮はっきできるのだ。


石猿いしざるれは鉄槌かなづち方源ほうげんきたがるまえ鉄塊てっかいのよう。つち一撃いちげきごとにてつ強靭きょうじんに、純粋じゅんすいに、まされていく。


15分後ぷんご戦闘せんとう終結しゅうけつした。


地面じめんにはいたところくだけた石片せきへんころがり、そのあいだぎょくたまらばっていた。



今回こんかい四十一匹よんじゅういっぴき玉眼石猿ぎょくがんいしざる仕留しとめた」方源ほうげん毎回まいかい戦果せんか統計とうけいし、みずからの不足点ふそくてんあらして改善かいぜんする習慣しゅうかんがあった。同時どうじ自身じしん成長度合せいちょうどあいかんっていた。


先程さきほど戦闘せんとうでは月芒蠱げつぼうこ大活躍だいかつやく三発さんぱつ月刃げつじんで十七、八匹(じゅうしち、はっぴき)の石猿いしざるたおし、ほぼ半数はんすうめた。のこりは拳脚けんきゃく撃破げきはした」


月光蠱げっこうこでは石猿いしざるへの攻撃効果こうげきこうか限界げんかいがあったが、月芒蠱げつぼうこ進化しんかしたいま最強さいきょう攻撃手段しゅだんとなっていた。


攻撃力こうげきりょく強力きょうりょくなだけでなく、効率こうりつさが最大さいだい利点りてんだ。


三発さんぱつ月刃げつじんはなつのにようした時間じかん数呼吸すうこきゅう一方いっぽう拳脚けんきゃくでの撃破げきはには十数分じゅうすうふんようした。


石猿いしざる身軽みがるさは目覚めざましい。あしをつけているとき攻撃こうげきたりにくく、足蹴あしげ一つでかろやかに回避かいひしてしまう。


唯一ゆいいつすき空中くうちゅうがった瞬間しゅんかん方源ほうげんはこの一瞬いっしゅんのがさず仕留しとめる。


だがこれも豊富ほうふ戦闘経験せんとうけいけんがなせるわざ赤山せきざん漠顔ばくがん青書せいしょら他の二転蛊師にてんこしでは、これほどの精度せいど弱点じゃくてんつづけることは不可能ふかのうだろう。



前世ぜんせ記憶きおく方源ほうげん戦闘中せんとうちゅう一瞬いっしゅん戦機せんきするどとらえさせた。かれ二転にてん修為しゅういながら、ひとひとつのちから精密せいみつ制御せいぎょし、自身じしん戦闘力せんとうりょく極限きょくげんまで引きした。


方正ほうせいのようにはけっしてならない——玉皮蠱ぎょくひこゆうしながら、擂臺らいだい方源ほうげん気迫きはくまれ、本来ほんらい実力じつりょく発揮はっきできなかったおろかさとは対極たいきょくだ。


無論むろん現時点げんじてん方源ほうげん実力じつりょくには限界げんかいがある。石猿いしざるれを正面しょうめんから殲滅せんめつすることはかなわず、毎回まいかいたたかいながら撤退てったい余儀よぎなくされていた。


さいわ石猿いしざる知能ちのうひくく、攻撃方法こうげきほうほう改善かいぜんする知恵ちえたない。何度なんど仲間なかま空中くうちゅう粉砕ふんさいされるのを目撃もくげきしながら、無謀むぼうにもかりつづけた。


同時どうじに、彼等かれら追跡ついせき距離きょり一定いっていえると、いかりよりも生息地せいそくちへの未練みれんまさり、自発的じはつてき追撃ついげき中止ちゅうしする習性しゅうせいがあった。


天地てんちせいひと万物ばんぶつれい


方源ほうげん人間にんげん知恵ちえ石猿いしざる生態せいたい逆手さかてり、適切てきせつ戦術せんじゅつ駆使くしすることで石林せきりん最深部さいしんぶ到達とうたつした。


幾度いくどものたたかいのすえつい最後さいご石柱せきちゅう眼前がんぜんひかえた。


この石柱せきちゅうは「石柱王せきちゅうおう」としょうされる巨体きょたいで、五十人ごじゅうにんつないでもかこれないほどの直径ちょっけいほこっている。


石柱せきちゅう洞窟どうくつ天井てんじょうからがり、地面じめんとどきそうなほど。静寂せいじゃくなか雄大ゆうだい気迫きはくただよわせていた。


方源ほうげん上部じょうぶ石洞いしどうかぞえ、かる見積みつもった。すくなくとも五百匹ごひゃっぴきはいる。これまで出会であったなか最大規模さいだいきぼれだ。


だが玉眼石猿ぎょくがんいしざる多少たしょうえても、方源ほうげんにとっては些細ささい問題もんだい手間てまがかかるだけのことだ。


懸念けねん最上層さいじょうそうひとつの石洞いしどうにあった。


この石洞いしどう入口いりぐち周囲しゅういのどのあなよりも大きく、すくなくとも二倍にばい以上の規模きぼ。その下方かほう密集みっしゅうする石洞いしどうは、ほしつきかこみ、百鳥ひゃくちょう鳳凰ほうおうあおぐような配置はいちだった。「どうやらこの石洞いしどうには猿王さるおうんでいるようだ」方源ほうげんまゆひそめた。


これが問題もんだいだった。



れが大きくなると、かなら獣王けもののおうあらわれる。いのししれには猪王いのししおうがいるように、石猿いしざるれにも当然とうぜん石猿王いしざるおう存在そんざいする。


獣王けもののおう脅威きょうい普通ふつうけものより何倍なんばいたかい。


理由りゆう彼等かれらからだに1~2ひき蛊虫こちゅう寄生きせいしているからだ。これらの蛊虫こちゅう獣王けもののおう共生協力関係きょうせいきょうりょくかんけいにあり、獣王けもののおう攻撃こうげきされると蛊虫こちゅうも力をす。


「この玉眼石猿王ぎょくがんいしざるおうつよくないはずだ。すくなくとも猪王いのししおうよりはよわい。さもないと周囲しゅうい猿群さるむれをしたがれないだろう」方源ほうげん経験けいけんもと石猿王いしざるおう実力じつりょく推測すいそくした。


一般いっぱんれが大き(おおき)いほど、獣王けもののおうつよくなる。よわ獣王けもののおう多量たりょう同族どうぞく統治とうちするちからたないからだ。


れの規模きぼ獣王けもののおう実力じつりょくおおまかにけるなら、ひくほうから「百獣王ひゃくじゅうおう」「千獣王せんじゅうおう」「万獣王ばんじゅうおう」と区分くぶんできる。


病蛇班びょうじゃはん包囲攻撃ほういこうげきした猪王いのししおう千獣王せんじゅうおうだった。そいつの支配下しはいかにあるいのしし千頭せんとう以上いじょうおよんでいた。


方源ほうげん眼前がんぜんにいる石猿王いしざるおう百獣王ひゃくじゅうおうで、配下はいか石猿いしざる数百匹すうひゃっぴきいる。


狼襲来おおかみしゅうらいを引きこした張本人はんほんにんである雷冠頭狼らいかんとうろう万獣王ばんじゅうおうだ。かく雷冠頭狼らいかんとうろうすくなくとも一万頭いちまんとう雷狼いかづちおおかみ統率とうそつしている。


この三種さんしゅ獣王じゅうおうかん実力差じつりょくさきわめておおきい。


千獣王せんじゅうおう狩猟しゅりょうには通常つうじょうみっつのはん協力きょうりょくしなければならず、病蛇班びょうじゃはん猪王いのししおうたおせたのは大前提だいぜんていとして「猪王いのししおうすで重傷じゅうしょうっていた」ことがあった。


万獣王ばんじゅうおうには家老かろう族長ぞくちょうすべ協力きょうりょくしてはじめて正面対決しょうめんたいけつ可能かのうだ。


一方いっぽう百獣王ひゃくじゅうおうなら普通ふつう五人ごにん編成へんせいはん確実かくじつ仕留しとめられる。


しかし方源ほうげんがこの石猿王いしざるおうたお場合ばあい当然とうぜんちからりることはできず、独力どくりきたたかわねばならない。



二転初階にてんしょかい真元しんげん消耗しょうもうはげしすぎる。赤鉄舍利蠱せきてつしゃりこ使つかとききたよう」方源ほうげん石洞いしどうふか一瞥いちべつすると、第二密室だいにみっしつ退しりぞ石扉いしとびらざした。


もしはばむのが猪王いのししおうのような千獣王せんじゅうおうなら、方源ほうげんまよわず撤退てったいえらんだだろう。


だがいま相手あいて百獣王ひゃくじゅうおう。もし方源ほうげん二転中階にてんちゅうかい修為しゅういであれば、挑戦ちょうせんする価値かちがある。


もっとも結果けっか不確実ふかくじつだ。中階ちゅうかい昇格しょうかしたとしても、失敗しっぱい可能性かのうせい七割半ななわりはん成功確率せいこうかくりつ三割未満さんわりみまんぎない。






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