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蛊真人  作者: 魏臣栋
青茅山
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第百一十節 婆よ、未だ青に過ぎる!

酒虫しゅちゅう……」方源ほうげんつぶやきながら中央ちゅうおうのカウンターにちかづいた。


この酒虫しゅちゅうにすれば、っぱい・あまい・にがい・から四種よんしゅ美酒びしゅおぎない、四味酒虫しみしゅちゅう合煉ごうれんできる。もちろんこの合煉ごうれんには失敗しっぱい可能性かのうせいともなう。


だが方源ほうげん手元てもと第二だいに酒虫しゅちゅうがなければ、挑戦ちょうせんする機会きかいさえられない。


人生じんせいとはこういうものだ――努力どりょくしても結果けっかられるとはかぎらず、成功せいこうするともかぎらない。だが努力どりょくしなければ、かなら失敗しっぱいする。


魔道まどうもまたしかり。魔道まどうものおおくはいばらひらき、たけすすむことを得意とくいとする。これが世間せけん大多数だいたすうものには、過激かげき危険きけん行為こういうつるのだ。


さきほどまで第二だいに酒虫しゅちゅうをどうさがすかなやんでいたが、運命うんめいがこの酒虫しゅちゅうを目のまえはこんできた。好機こうきおとずれたいま、どうしてあきらめられよう? この酒虫しゅちゅうれねば!」方源ほうげんひとみ確固かっこたる決意けついひかりはしった。


「もし五転ごてん四転してん修為しゅうい戦力せんりょく充実じゅうじつしていれば、なんまよいもなくうばっていただろう。かみならばかみころし、ほとけならばほとける! 三転さんてん四転してん手段しゅだん豊富ほうふなら、ぬすり、だれにも気付きづかれずにませただろう。残念ざんねんながらいま自分じぶん二転にてん初階しょかい……」


方源ほうげんこころしずかに嘆息たんそくした:「こうなれば真面目まじめ購入こうにゅうするしかない」


かれはカウンターにかかげられた価格かかく一瞥いちべつした。


酒虫しゅちゅう――五百元石ごひゃくげんせき


酒虫しゅちゅう通常つうじょう市価しか五百八十元石ごひゃくはちじゅうげんせき。ここでの表示価格ひょうじかかく市価しかより八十元石はちじゅうげんせきやすい。


だが方源ほうげん本当ほんとう五百元石ごひゃくげんせきえるとおもうなら、前世五百年ぜんせごひゃくねん人生じんせい無駄むだだったとわざるをない。


価格かかくがこれほどひく設定せっていされているのは、賈富かふ人集ひとあつめをはかり、人々(ひとびと)の購買欲こうばいよくあおるための策略さくりゃくだ。


この樹上じゅじょう店舗てんぽあきらかに賈富かふ所有物しょゆうぶつだった。


「おばあちゃん、この酒虫しゅちゅうがたった五百元石ごひゃくげんせきよ!」少女しょうじょり、小さなおどろきのこえげた。


ひとみかがやかせた少女しょうじょ母親ははおやうでにすがりつきながら:「明日あした開竜大典かいりゅうたいてんだよ。プレゼント約束やくそくしてたじゃない? この酒虫しゅちゅうってよ!」


少女しょうじょ祖母そぼしろ腰帯こしおびめ、正面しょうめんに「三」の文字もじきざまれた正方形せいほうけい銀板ぎんばん装着そうちゃくしていた。



蠱師こし三転さんてん修行しゅぎょうすれば、自動的じどうてき家老かろう地位ちい昇格しょうかくする。


ただし家老かろうあいだにも区別くべつがある。権力けんりょくにぎ当権家老とうけんかろうもいれば、利益りえきすくない部門ぶもん管理かんりするものもいる。


しかしこの三転さんてん老婆ろうばは、あきらかに無能むのう家老かろうではなかった。


古月薬姫こげつやくひ……」方源ほうげん彼女かのじょ見分みわけた。この人物じんぶつ薬堂やくどう家老かろうで、薬堂やくどう一族いちぞく後方支援こうほうしえん中心ちゅうしんわば最もあぶらった部門ぶもんだ。古月薬姫こげつやくひ古参こさんであり、族長ぞくちょうたいしてもれいをせずにすわったままこたえることができる。族内ぞくない随一ずいいち治療ちりょう蠱師こしで、数多あまた家老かろういのちすくい、人脈じんみゃくきわめてつよい。


「よしよし、まごねがいならってあげよう」老婆ろうばしわだらけのかお背中せなかまるめ、片手かたてつえをつきながらいつくしみふかわらった。


「おばあちゃん最高さいこう! やっぱりおばあちゃんが一番いちばん!」少女しょうじょうれしさのあまりその古月薬姫こげつやくひきつき、ちいさなくちびるとがらせてほおにチューした。


「じゃあおばあちゃん、店員てんいんんではや酒虫しゅちゅうおうよ!」


古月薬姫こげつやくひくびよこる:「まごや、ここでのものはそう簡単かんたんではないのよ。カウンターのうえまれてるかみふでえるかね?」


少女しょうじょくびかしげながらうなずいた:「うん、えるよ」


古月薬姫こげつやくひ:「そのかみひとり、この酒虫しゅちゅう価格かかくいて、カウンターよこあなれるのよ。いたいひとなか最高値さいかねをつけたものが、この酒虫しゅちゅうにできるわ」


「へえ、面白おもしろ仕組しくみね」少女しょうじょ竹紙たけがみり、ふでったが、さい躊躇ちゅうちょした。



古月薬姫こげつやくひはハハッとわらい、わざと茶目ちゃめせた:「酒虫しゅちゅううのがそんなに簡単かんたんかね? まごや、あとはお前次第しだいだぞ……」


「おばあちゃん!」少女しょうじょあまえるように古月薬姫こげつやくひうできつき、はげしくすぶった。


「もういい、もういい。さぶるのをめなさい。この老婆ろうばからだがバラバラになりそうだ」老人ろうじん溜息ためいきをつき、「ばあさんがわりにいてやるよ」


少女しょうじょ小躍こおどりし、甲高かんだかこえさけんだ:「やっぱりおばあちゃんが一番いちばん!」


古月薬姫こげつやくひふで価格かかくしるし、氏名しめいえた。少女しょうじょ真剣しんけん眼差まなざしでよこからのぞんだ。


老人ろうじんえるとかみたたみ、少女しょうじょにウィンクした:「さあ、これをとうかんしなさい」


少女しょうじょ従順じゅうじゅんにそれを受けり、カウンターよこ四角しかくとうかんこうつけて紙片しへんんだ。


古月薬姫こげつやくひもともどり、不安ふあんげにたずねた:「おばあちゃん、これで本当ほんとう大丈夫だいじょうぶ?」



老婆ろうばうなずいた:「これで大丈夫だいじょうぶだろう。でもなかなにがあるかからない。もしかしたらばあさんよりたか値段ねだんをつけるやつがいるかもな。だがそんなけるなら、酒虫しゅちゅうやつ本当ほんとう馬鹿ばかだわ。安心あんしんしな、もう九分九厘くぶくりんまってる」


「はーい」少女しょうじょあいらしい表情ひょうじょううなずいた。


「さあ、ばあさんと上階じょうかいまわろう」

「わかった、おばあちゃん」


……


祖孫そまごうし姿すがた見送みおくりながら、方源ほうげん一瞬いっしゅんけわしいひかりはしった。


この古月薬姫こげつやくひは、かれにとってたしかに強力きょうりょく競争相手きょうそうあいてであり、軽視けいしできない存在そんざいだった。


しかしこの状況じょうきょうは、方源ほうげんすで予想よそう準備じゅんびしていたことだった。


酒虫しゅちゅう貴重きちょうだ。一転いってん蠱師こしにしか効果こうかがないが、真元しんげん精製せいせいする能力のうりょくじつすぐれている。真元しんげん精製せいせいされ小境界しょうきょうかい向上こうじょうすれば、真元貯蔵量しんげんちょぞうりょう増加ぞうかし、蠱師こし修行しゅぎょう進展しんてん強力きょうりょく推進すいしんする。


唯一ゆいいつ欠点けってんは、酒虫しゅちゅう発展性はってんせいひくいことだ。


ひろられる昇進しょうしん秘方ひほうでは、酒虫しゅちゅうたんなる合煉ごうれん材料ざいりょうとして使つかわれ、あたらしい真元精製能力しんげんせいせいのうりょくうしなう。


これはじつしく、むしろ損得そんとくわない。


そのため多くの一族いちぞく酒虫しゅちゅう合煉ごうれんせず、学堂がくどう新入生しんにゅうせい順番じゅんばん使用しようするよう管理かんりしている。


もし方源ほうげんみずからの昇進しょうしん秘方ひほう暴露ばくろすれば、酒虫しゅちゅう市価しかかなら暴騰ぼうとうするだろう。


「この酒虫しゅちゅうれるのは容易よういじゃないな。あの祖孫そまごたんなる競争相手きょうそうあいてひとつにぎん。ほかなんにんものてきがカウンターにかみとうかんしているかからん」


酒虫しゅちゅうしなしな当然とうぜんだれもがしがる。


ただこれらの競争者きょうそうしゃなかには、本気ほんき購入こうにゅうしたいものもいれば、運試うんためしで参加さんかするものもいる。古月薬姫こげつやくひのようゆたかな財力ざいりょくぬしもいれば、方源ほうげんのようにとぼしいものもいる。


さいわ家産かさんもどし、ここ数日すうじつ一転生機葉いってんせいきよう販売はんばい酒場さかば竹楼ちくろうしで元石げんせきたくわえてきた。でなければ競争きょうそうする資格しかくすらなかった」


だがかれ蓄積ちくせき期間きかんみじかく、他方たほう飼育しいく必要ひつよう蠱虫こちゅうおおい。財力ざいりょく古月薬姫こげつやくひのような家老かろう太刀打たちうちできようはずがない。


「はあ、かえろう。薬姫様やくひさまがさっき公衆こうしゅうまえかみ投函とうかんしたのをたよ」

「わしもた。この酒虫しゅちゅうわたしとはえんがないようだ」

……



カウンターをかこんでいた蠱師こしたちは、次々(つぎつぎ)とがっくりかたとし退出たいしゅつしていった。


のこったのは方源ほうげんただ一人ひとり


かれひとみ幽玄ゆうげんいずみのようにつめたいひかりはなっていた。


退出たいしゅつした蠱師こしたちは、古月薬姫こげつやくひ威圧感いあつかんつぶされみずか退しりぞいた。だが方源ほうげんがそんなことでたじろぐはずがない!


ときにチャンスは眼前がんぜんころがっているが、人々(ひとびと)はみずか見捨みすてる。わたしにはまだ機会きかいのこっている!」方源ほうげん脳裏のうりでは思考しこう渦巻うずまき、ふか思索しさくしずんだ。


財力ざいりょくたたかえば、方源ほうげん古月薬姫こげつやくひてきではない。


しかし……


だからといって、古月薬姫こげつやくひ提示価格ていじかかくかなら方源ほうげんよりたかいとはかぎらない!


酒虫しゅちゅう貴重きちょうだが、所詮しょせん一転いってん蠱虫こちゅうぎない。商品しょうひん価格かかく変動へんどうするが、無制限むせいげん上昇じょうしょうしたり暴落ぼうらくしたりすることはない。全て(すべて)の価格変動かかくへんどうには範囲はんいがある。


ゆえいまかぎは、古月薬姫こげつやくひなんという価格かかく提示ていじしたかだ!


彼女かのじょかね不足ふそくなどない。いとおしむまごのためなら、いくらせるのか?


方源ほうげん提示価格ていじかかくが、薬姫やくひ価格かかくをわずかでも上回うわまわれば、方源ほうげんちだ。


これは型破かたやぶりなたたかい! つよものかなら勝者しょうしゃとはかぎらず、よわもの敗者はいしゃとはえぬ。推測すいそくけが、このいくさ独特どくとく面白味おもしろみえる。


ほかものなら、見抜みぬけまい。古月薬姫こげつやくひ、さっきわざと発言はつげんして競争相手きょうそうあいておどしたつもりか? だがわたしまえではあまい!」方源ほうげん口元くちもとかすかにゆるみ、自信じしんちたみがかんだ。


この世界せかい商取引しょうとりひきじつ興味深きょうみぶかい。


地球ちきゅうなら、酒虫しゅちゅうのような貴重きちょう蠱虫こちゅう場合ばあい普通ふつうオークション形式けいしきるだろう。


だがここでは、競売きょうばい一般的いっぱんてきではない。



重要な原因じゅうようなげんいんは、親族愛しんぞくあい最上さいじょう価値観かちかんとする家族かぞく結束力けっそくりょくだ。


もしオークションを開催かいさいすれば、家族かぞく成員せいいん賈富かふのような外部者がいぶしゃたいし、潜在意識せんざいいしきで「共通きょうつうてき」への連帯感れんたいかんいだくだろう。


商品しょうひん価格かかくすこたかくなると、おおくの競争者きょうそうしゃ自動的じどうてき撤退てったいする。そのおだやかに協議きょうぎし、利益りえき妥協だきょう交換こうかん補償ほしょうおこなうことさえある。


この世界せかいの人々(ひとびと)はほぼ全員ぜんいん、「家族内かぞくないでのけはたいしたことないが、外部がいぶもの利益りえきうばわれるのは一族いちぞく全体ぜんたいはじ」という観念かんねんっている。


ただし複数ふくすう家族かぞく同時どうじにオークションに参加さんかする場合ばあいべつだ。そうなれば競争きょうそうしょうじ、緊張感きんちょうかんたかまる。


だがこのしゅのオークションは開催かいさい困難こんなんだ。


交通こうつう不便ふべんだからである。


交通こうつう商業しょうぎょう基盤きばん交通こうつう発達はったつしていなければ、商業しょうぎょう衰退すいたいする。商業しょうぎょう根本こんぱん物資ぶっし流通りゅうつうだからだ。


各山寨かくさんさいは山々(やまやま)を拠点きょてんとし、たがいにとおはなれている。途中とちゅうみちあるにくく、猛獣もうじゅうあらわれ、断崖絶壁だんがいぜっぺき悪天候あくてんこう危険きけん野生蠱虫やせいこちゅう存在そんざいし、困難こんなんける。


このような不便ふべん交通事情こうつうじじょうでは、多勢たぜいあつめてオークションをひらくのは至難しなんわざ


たと青茅山せいぼうざん三山寨さんさんさい隣接りんせつしていても、賈富かふはオークション開催かいさい敢行かんこうできない。


第一だいいち、オークション会場かいじょうをどこに設置せっちする? 野外やがいでは不安定ふあんていだし、古月山寨こげつさんさい開催かいさいすれば他二派たにには警戒けいかいする。


賈富かふ自身じしん修為しゅうい四転してん三山寨さんさんさい族長ぞくちょうたちも四転してんなので、かれにはおさえるちから不足ふそくしている。


地球ちきゅうくらべれば、この世界せかい商業しょうぎょう発達はったつしておらず、独自どくじ規則きそくがある。


方源ほうげん前世ぜんせ地球的ちきゅうてき商業理念しょうぎょうりねん駆使くしし、とみきずいたこともあれば、失敗しっぱいもした。血涙けつるい教訓きょうくんて、実践じっせんから真知しんちた。


地球ちきゅう健全けんぜんゆたかな商業理論しょうぎょうりろんみずからの経験けいけんむすびつければ、誇張こちょうなしにえる――方源ほうげん商業しょうぎょうへの理解りかい世界最高水準せかいさいこうすいじゅんだ。


山塞さんさいみ、青茅山せいぼうざんから一歩いっぽたことのない老女ろうじょが、わたしから酒虫しゅちゅううばおうと?


ばあさん、まだまだあまいわよ!

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