一日後。
寝台の上で、方源は胡座を組んでいた。
顔ほどの大きさの白い光の塊が、彼の顔から腕一本分離れた空中に静かに浮かんでいた。
方源は銭袋から元石を一つ一つ取り出し、光の塊に放り込み続けた。
白い光は徐々(じょじょ)に収縮していったが、ますます眩しさを増していった。
拳ほどの大きさに収縮した時、白い光は刺すように眩しく、方源は目を細めて観察するしかなかった。
「多分最後の一つだ」方源は手に握った元石を、肝心な瞬間だと悟りつつ光の塊に投じた。
かすかに、元石が光の塊の中に浮かび、氷が熱湯に入ったかのように溶けていくのが見えた。
大量の石粉がさらさらと床に落ちた。
元石が完全に消えると、光の塊が突然爆発!
パンという軽い音と共に、三匹の蠱虫が三方向に飛び散った。一匹は寝台に落ち、残り二匹は壁に衝突し、床に転がり落ちた。第百六節:半生の蓄積は泡と消え、唯本命のみ永く存す
月芒蠱の合煉が失敗した!
方源の胸中が重くなった。急いで指を曲げて蠱虫を召還する。
月光蠱と錆蠱の一匹が揺れ動きながら浮かび上がり、ゆっくりと手の中へ飛んできた。だが残りの錆蠱は反応しなかった。
乳白色の五芒星形の身体をした蠱虫は床に横たわったまま、徐々(じょ)に空気中へ消散していく。
数回の呼吸の間に完全に消え、何の痕跡も残さなかった。
これが合煉失敗の代償だ――合煉秘方によって異なるが、蠱虫が傷付いたり、最悪の場合直接死んでしまう。
方源が豊富な経験を持ち、集中力を発揮し正しい秘方を使っても、失敗する確率があるのだ。
方源は落胆しなかった。こんな場面は慣れっこだった。最善を尽くしても結果が伴わないなら、運が悪かったと諦めるしかない。
「幸い、月光蠱が消滅しなかった。錆蠱が一匹死んでも店で買える。補充しやすい。もし月光蠱が消えてたら、簡単に手入れできなかっただろうから」今の彼は十分な資金を持っている。錆蠱一匹の損失など、再購入すれば済む話だ。
続いて方源は月光蠱と残った錆蠱を点検した。二匹とも表面が少し褪せて光沢を失っていた。合煉失敗で蠱虫自体が損傷を受けた証だ。
「蠱が傷付くと、合煉成功確率が下がる。回復するまで待つべきだ」方源は焦っては逆効果だと心得、両方の蠱をしまい込んだ。
時間を計算すると、少なくとも三日後に再び合煉できる見込みだった。
修業は終わっていない。
方源は右手を広げた。
左掌の白い肌に、草の緑色の痕が墨緑色の刺青のように刻まれていた。
方源が念じるや、空竅から淡紅色の真元が霧のように腕を伝って痕へ流れ込んだ。
緑の痕が突然生気を帯び、掌から草の先端が現れ、続いて九枚の円い碧玉色の葉、最後に翡翠のように透き通った茎が伸びた。人参の髭のような根は現れなかった。
元々(もともと)あった墨緑の刺青は消え、根を表す墨緑の線が掌紋と交錯して残った。
これこそ二転の草蠱――九葉生機草 だった。
この時、方源の掌は大地のようで、一株の九葉生機草がその上に生えている。玉を彫り出したような精巧な工芸品のようだった。
方源は右手の指を伸ばし、一枚一枚の葉を摘み取った。
丸い葉を摘む度に、髪の毛を抜かれたようなチクッとした痛みを感じた。
九枚の葉を全部摘み取ると、寝台の上に適当に置き、掌の九葉生機草はむき出しの茎だけが残った。
方源は淡紅色の二転真元を催動し続け、手の平から立ち上る煙のように翡翠色の茎を包んだ。
茎は絶え間なく真元を吸収し、次第に新たな葉が茎の根元から顔を出した。
この葉は淡い緑色で、細やかで小さく、触れば崩れそうな脆さだった。
方源が真元を注ぎ続けると、葉は徐々(じょじょ)に成長し色も濃くなった。最終的に深碧色の完全に成熟した葉へと育った。
「二割の真元を消耗した」方源は空竅を点検し結論を出した。
彼の真元海は四割四分しかなく、一息に生機草葉を二枚しか催生できないことを意味していた。
更に一枚催生した後、方源は元石を握り締め、素早く空竅の真元を回復した。
真元海が四割まで回復すると、再び生機草葉を催生し始めた。
この繰り返しで半日後、九葉生機草は再び九枚の葉で満たされた。
彼は葉を摘むのを止め、念じるや九葉生機草は左掌へ収縮し、緑色の痕跡へと戻った。
摘み取った九枚の生機葉を小袋に詰め、肌身離さず携帯した。
一つの生機葉は一転の蠱虫で、各一枚の市場価格は五十元石で売れる。つまりこの九枚の葉蠱だけで、方源は四百五十元石を得られる。
当然、方源には催生コストもかかる。だがそれらを差し引いても四百元以上の元石利益が残る!
全ての財産の中で真に最も価値ある存在は、この九葉生機草以外にない。これを掌握することは金鉱を手にしたも同然!さらに九葉生機草は餌やりが容易という長所がある。水と日光さえあれば生存するため、飼育コストがかからない。
方源にとって、他の財産は全て(すべて)捨てられても、この九葉生機草だけは絶対に手放せない!
当然、この九葉生機草は方源だけが持つものではない。山寨内にも数人の所有者が存在する。
更に五株の九葉生機草が一族の共有財産として管理されており、毎日専属の後方支援蠱師が生産任務を遂行し、交代で大量の生機葉を生み出している。
方源にとってこれは良い(よい)ことだ。
もし彼一人しか九葉生機草を持っていなければ、一族は必ず手を出し、古月青書が酒虫を買収しに来たように、この草蠱を接収しただろう。
酒虫や黒白豕蠱九葉生機草のような貴重な蠱虫は、一族の上層部が管理権を握り、全族のため活用することを望んでいる。
三日後。
光の塊が方源の視界の中で突然爆発し、新たな蠱虫がゆらりと空中に浮かんだ。
透き通った水晶のような青い三日月の形――要するに月光蠱が倍の大きさになった姿だ。
だがこれは月光蠱ではなく、更に上位の二転・月芒蠱である。
今回、方源の合煉は成功した。
月芒蠱は月光蠱一匹と錆蠱二匹で合煉される。錆蠱一匹で月刃の攻撃力が倍増するが、二匹使用しても効果は重畳しない。
しかし合煉された二転月芒蠱の攻撃力は、月光蠱の三倍に達する!
実際、月光蠱の合煉秘方は多種多様で、進化ルートも複数存在する。
方源が選んだこのルートは、月刃の攻撃力を最大限に増幅させるもの。攻撃範囲は十米のままで拡大しない。
一方、月光蠱と痕石蠱 を合煉するルートもある。完成する月痕蠱は攻撃力は変わらないが、射程距離が倍の二十米に伸びる。
また一般的なルートとして、月光蠱と旋風蠱 を合煉し月旋蠱を生み出す方法がある。使用時には月刃が青から緑に変色し、直線的な攻撃が曲線的に変化する。古月青書はこのルートを選択していた。
古月方正に関して言えば、彼は月光蠱と玉皮蠱※1 を合煉し、月霓裳※2 を生み出した。これは比較的珍しい進化ルートで、最高五転まで昇格可能な宝月光王蠱※3 へと至る。
ただし五転の秘方が存在しても、必ず五転蠱虫が完成するわけではない。
多くの五転蠱師でさえ、全身に五転蠱を一匹も持たない者がいる。この矛盾した状況の最大の原因は材料不足ではなく、成功率の低さにある。
蠱虫の合煉は100%成功するわけではない。高級な蠱虫ほど成功率は低下する。方源が前世で春秋蝉を合煉した際、成功率は1%未満で、数限りなく失敗を繰り返した。運が良ければ蠱虫の犠牲が少なく済み、悪ければ全滅することもあった。
六転の春秋蝉を合煉するには、五転蠱虫が材料となる。これらが死ねば、方源が苦労して蓄えた全て(すべて)が水の泡と消え、幻のように散ってしまう。
方源は失敗する度に最初からやり直し、新たに蠱虫や特殊材料を集め直した。遂には大きな騒動を起こし、天の怒りと人々(ひとびと)の怨みを買い、血の海に屍が浮かぶ事態にまで発展した。
運良く最終的に合煉に成功し、春秋蝉を手にした。
だがこの六転蠱虫を獲得するや否や、虎視眈々(こしたんたん)と狙っていた正道の者たちに包囲され、宝物を温める暇もなく自爆する羽目になった。
何千年もの間、この忌々(いまいま)しい失敗率が無数の高転蠱師たちを台無しにし、元の鞘に収めさせてきたのだ。
唯一の方法が、この失敗率を少し抑えられる。
それこそが――
本命の蠱だ。
合煉の結果が成功でも失敗でも、蠱師の本命蠱は死なない。最悪でも傷付く程度で済む。
なぜそうなるのか?
多くの者が推測しているように、本命蠱が蠱師の最初の蠱虫で、命を共に修行してきた神秘的な生命連携が形成されているからだろう。
蠱師が生存している限り、本命蠱は合煉失敗後でも瀕死の状態が最悪のケースだ。
もちろん、本命蠱と共に合煉した他の蠱虫が死傷する可能性は残る。
だがそれでも、蠱師の成果の一部は保存され、徐々(じょじょ)に蓄積されていく。
本命蠱は蠱師の最大の財産であり拠り所だ。どのような本命蠱を選ぶかが、蠱師の進化方向を大きく左右する。逆に、蠱師も積極的に秘方を探し求めて本命蠱の階層を上昇させようとする。
二転や三転の低級な秘方は、かえって蠱師の発展可能性を狭めてしまうこともある。
方源が春秋蝉が本命蠱になったと気付いた時、なぜあれほど喜んだのか?
その理由はここにある。
春秋蝉は稀代の珍品で、人間を再生させる天を逆らう能力を持つ。どんな合煉を試しても滅びることがない。もし前世のように本命蠱でなかったら、合煉を続ける度に消滅の危機に直面していただろう。
春秋蝉は六転という高レベルに達しており、大多数の蠱師が生涯をかけても到達できない偉業だ。数多の蠱師が六転の秘方すら持たず、必死に探し求めている! 方源は今のところその真価を発揮できないが、これこそ最大の財宝だ。花酒行者※1 の力の継承など比べものにならない、地と天ほどの差がある。