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蛊真人  作者: 魏臣栋
青茅山
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第百一章 心老人便老

古月凍土こげつとうどちからをもってすれば、方源ほうげん住居じゅうきょ)()めるのは当然とうぜん)))きだった。


今日きょう)かれ)めずら)しく蛊師こし)武闘服ぶとうふく)着用ちゃくよう)脚絆きゃはん))き、こし)にはあか)おび))めていた。)なりはととの)い、かすかな威厳いげん)ただよ)わせている。


少年しょうねん)おもむ)ろに近付ちかづ)くのを見守みまも)り、視線しせん)をその腰帯こしおび)はし)らせた瞬間しゅんかん)自然しぜん)感慨かんがい)))がった。


丙等へいとう)資質ししつ)十六歳じゅうろくさい)にして二転にてん)突破とっぱ)とは……予想よそう)はず)れだ。どうやって成功せいこう)させたのか。まあ、酒虫しゅちゅう)ちから)大半たいはん)だろうが。残念ざんねん)ながら二転にてん)以降いこう)酒虫しゅちゅう)使つか)えんのだ」


つづ)いて方源ほうげん)口元くちもと))かぶ薄笑うすわら)いを目撃もくげき)するや、凍土とうど)背筋せすじ)こおり)のようにつめ)たくなった。


「この小僧こぞう)余裕よゆう)たっぷりだな……わしを)めおってのか!?」いか)りのほのお)胸中きょうちゅう)とも)った。


方源ほうげんがゆっくりとちかづき、古月凍土こげつとうどまえまった。相手あいてみずからをたずねてきたことはあきらかだった。


方源ほうげんはなしがある」凍土とうどくちひらいた。


なんようだ?」方源ほうげんまゆかろげた。


凍土とうどわらいながら話題わだいえた:「ってるか? わし十五歳じゅうごさいた」


「あのころ狼潮ろうちょう最中さいちゅう蛊師こし大量たいりょう死傷ししょうした。仕方しかたなく、我々(われわれ)訓練生くんれんせい前線ぜんせんたねばならなかった。乙等おつとう資質ししつで、十六歳じゅうろくさい二転初階にてんしょかい十七歳じゅうななさい高階こうかい十八歳じゅうはっさい頂点ちょうてんたっした。十九歳じゅうきゅうさい三転さんてんへの挑戦ちょうせんはじめた。二十歳はたちまでに三転蛊師さんてんこしになれると本気ほんきおもっておった」


「フフフ、あのころわし軽率けいそつで、眼中がんちゅう他人たにんがいなかった。万能ばんのうだと錯覚さっかくし、ほどらぬ若造わかぞうだった。二十歳はたちとき任務にんむちゅう熊家寨ゆうかさい蛊師こしやぶれ、瀕死ひんし重傷じゅうしょうった。薬堂家老やくどうかろうみずからの手当てあてでいのちひろったが……資質ししつ丙等へいとうち、八年間はちねんかん廃人はいじん同然どうぜんだった」


二十九歳にじゅうきゅうさい誕生日たんじょうびあらためておのれ世間せけん見詰みつなおした。人間にんげんちからには限界げんかいがあるとさとったのだ。三転さんてんになろうが、社会しゃかいもっと重要じゅうようなのは個人こじん実力じつりょくではなく、他者たしゃとのつながりだと」


三十歳さんじゅっさい再起さいき四十五歳よんじゅうごさい第二線だいせん退しりぞいた。このあいだ百人ひゃくにんもの蛊師こしから家老推挙かろうすいきょ連署れんしょ数十回すうじゅっかいた。二転頂点にてんちょうてんとどまっているが、もはや必要ひつようない。『隠家老いんかろう』と呼ばれるようになった。同世代どうせだいおおくはくなったが、わし安泰あんたいらしている。いまでも現役げんえき蛊師こしへの影響力えいきょうりょく健在けんざいだ」


長談義ながだんぎすえ凍土とうど本題ほんだいもどった。口元くちもとひややかなわらみをかべながら方源ほうげん見据みすえた:「方源ほうげんよ、おまえはまだあおすぎる。世間せけんらぬ若葉わかばころわしのようだ。なんでもみずかめられると勘違かんちがいし、全て(すべて)を独力どくりょくげられると……フン」



古月凍土こげつとうどくびつづけた:「だが人生経験じんせいけいけん)めば)かる——ひと)社会しゃかい)一員いちいん)であって、独行どっこう)けもの)ではない。とき)にはあたま))げ、譲歩じょうほ)する必要ひつよう)がある。過激かげき)傲慢ごうまん)振舞ふるま)いは孤立こりつ)破滅はめつ)まね)く。おまえ)はだ)かん)じてるだろう? どの小組しょうそ)もおまえ)こば)み、まわ)りはみな)てき)だ。分家任務ぶんけにんむ))けようが、ひと)りで完遂かんすい)できるはずがない。あき)らめるがよい」


方源ほうげん)眼前がんぜん)中年代ちゅうねんだい)おとこ)しず)かな)見据みす)えた。


(このおとこ)わし)五百年ごひゃくねん)記憶きおく))ったら、どんな表情ひょうじょう)をするだろうか)


おも)いた)るだけで、ひとみ)おく)かす)かなわら)いがにじ)んだ。


じつ)のところ叔父おじ)思想しそう)は、前世ぜんせ)自分じぶん)なが)きにわた)しん)じていたものだった。


血翼魔教けつよくまきょう)つく)り、制度せいど)人脈じんみゃく)巨大組織きょだいそしき)きず)き上げ、一喝いっかつ)ばん)したが)い、資源しげん)独占どくせん)強敵きょうてき)対峙たいじ)した日々(ひび)。


だが六転ろくてん)到達とうたつ)したとき)すべ)てが色褪いろあ)せて)えた。


蛊師こし)において五転ごてん)ぼん)六転ろくてん)せん)。その高み(たかみ)に)てば、巨大きょだい)勢力せいりょく)かせ)でしかないことに気付きづ)いた。


(どの世界せかい)でもしん)たよ)れるのはおのれ)だけ)


)おお)くはよわ)い。孤独こどく))えられず、家族かぞく)友情ゆうじょう)恋愛れんあい)こころ))たそうとする。集団しゅうだん)にすがり、ひと)りをおそ)れる。


くじ)けると仲間なかま))ごと)たの)しみはいそ)いで自慢じまん)失敗しっぱい)恐怖きょうふ)ひと)りで))勇気ゆうき)などない。



古月凍土こげつとうど成功者せいこうしゃか? うたが)いなく成功せいこう)している。


もと)みち)))まり、あら)たなみち)ひら)てん))ばたいた。


だが同時どうじ)敗北者はいぼくしゃ)でもある。


ひと)つの挫折ざせつ)あたま))れ、)みち)えら)んだ臆病者おくびょうもの)が、みずか)らの選択せんたく)よろこ)んでいる。


凍土とうど)当然とうぜん)方源ほうげん)自分じぶん)臆病者おくびょうもの)見做みな)していることなど)らない。沈黙ちんもく)つづ)ける方源ほうげん)を、自説じせつ)))られたと早合点はやがてん)していた。


方源ほうげん)、おまえ)方正ほうせい)ではないから率直そっちょく))おう。遺産相続いさんそうぞく)あき)めれば、わし)友情ゆうじょう)人脈じんみゃく)あた)えよう。千石せんこく)元石げんせき)支給しきゅう)する。借家代しゃくやだい)二日ふつか)滞納たいのう)してるくらい、金繰かねぐ)りがくる)しいのは)っている」


方源ほうげん)薄笑うすわら)いを)かべた:「叔父上おじうえ)、そのふく)ひさ)しぶりでしょう?」


凍土とうど)呆然ぼうぜん)とするなか)方源ほうげん)武闘服ぶとうふく)なが)めながらつづ)けた:「蛊師こし)ころも)はこんなに綺麗きれい)じゃない。あせ)どろ))にまみれ、ボロぬの)のようでこそ蛊師こし)らしいものだ」


叔父上おじうえ)はもう))んだ。わか)き日の野望やぼう)))せ、安穏あんのん))らしがこころ)くさ)らせた。遺産争いさんあらそ)いも修行しゅぎょう)のためではなく、贅沢ぜいたく)つづ)けるためだ。その小心しょうしん)わし))められると思うか?」


古月凍土こげつとうど)顔色かおいろ)鉄青てっせい))わり、いか)りが胸中きょうちゅう)渦巻うずま)いた。


この)にはかなら)ず「老賢人ろうけんじん)」が存在そんざい)する。彼等かれら)世間知せけんし)った口調くちょう)理想りそう)妄想もうそう))び、情熱じょうねつ)軽薄けいはく)あざけ)り、信念しんねん)傲慢ごうまん)断罪だんざい)する。後輩こうはい)説教せっきょう)することでみずか)らの存在感そんざいかん))たす。


凍土とうど)まさ)にその典型てんけい)だった。


方源ほうげん)!」ひく)かつ)した。「長輩ちょうはい)として忠告ちゅうこく)してやったのに、このおん)あだ)かえ)すとは! )し、たたか)うというなら存分ぞんぶん)たたか)え! おし)えてやろう——分家任務ぶんけにんむ)内容ないよう)わし)が全て(すべて)把握はあく)しておる。乳臭ちくさ)小僧こぞう)任務にんむ)完遂かんすい)できるものか!」


方源ほうげん)嘲弄ちょうろう)わら)みを)かべた。最早もはや)隠匿いんとく)する必要ひつよう)はない。


牛皮うしのかわ)水筒すいとう)を取り)し、せん))くとかん)ったるい蜜酒みしゅ)かお)りがただよ)った。


中身なかみ)なん))かるか?」


凍土とうど))))き、心臓しんぞう)奈落ならく)そこ))ちるのをかん)じた。「……まさか! どこで蜜酒みしゅ)))れた!?」


方源ほうげん凍土とうど無視むしし、水筒すいとうふところおさ内務堂ないむどうかってあるした。


凍土とうどひたいつめたいあせにじみ、脳裏のうりはげしくうごいていた。


やつはどこで蜜酒みしゅを……小組しょうそ接触せっしょくすれば即座そくざ把握はあくできるように手配てはいしたはずだ。まさか単独たんどくで? 防御蛊ぼうぎょこたぬで……いや、いま原因究明げんいんきゅうめいより任務完了かんりょうはばむことだ!」


思考しこう錯綜さくそうする凍土とうどあしはやくなる。「方源ほうげんて! はなしおう」


無言むごんあるつづける方源ほうげんよこを、凍土とうどあえぎながらった。


千石せんこくではりぬか? なら二千五百石にせんごひゃっこくだ!」


方源ほうげんみみさず、かえって遺産いさんへの期待きたいふくらんだ。凍土とうどかおゆがめておどした:「かんがなおせ! わしさからえば……手足てあしくなってもらんぞ!」


「ハハハ!」方源ほうげんたからかにわらった。


規律きりつしばられ、目前もくぜん水筒すいとうすらうばえぬなさけなきおとこよくばりながら覚悟かくごりぬものが、どうしててようか)



富貴ふうき危険きけんなかもとむ。どの世界せかいでも、なにかをるには代償だいしょうともなう」


方源ほうげん遺産いさんにしたからって万事ばんじ上手うまくと勘違かんちがいするな! おまえはまだ世間せけんきびしさをらん!」古月凍土こげつとうど耳元みみもとうなるように怒鳴どなった。


方源ほうげんかろくびり、舅父おじにらみつける視線しせん無視むしして内務堂ないむどうあしれた。


この叔父おじたいし、憎悪ぞうおすらおぼえていない。むし理解りかいできる部分ぶぶんさえあった。


もし元石げんせき十分じゅうぶんあれば、こんな瑣末さまつ遺産争いさんあらそいなどこさなかっただろう。


再誕さいたん目的もくてき一時いちじ勝敗しょうはいではなく、頂点ちょうてんへの階段かいだんのぼること)


道端みちばたえるものかま価値かちなどない。だがこの古月凍土こげつとうど進路しんろふさいだ以上いじょう——


つぶしてすすむのみ)


方源ほうげん……方源ほうげんめ……!」凍土とうど歯噛はがみしながら見送みおくる。全身ぜんしんふるわせ、ひたい蚯蚓みみずのように青筋あおすじかべていた。


夕日ゆうひかれびんらす。白髪しらがじり、いのあとにじんでいた。


かれ本当ほんとういていた。

二十歳はたち挫折ざせつしたあのすでこころてていたのだ。

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