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第13話

よろしくお願いいたします。

 暫く歩くと、生徒達と佐山先生が一緒に巡っている所を見かけた。

 見ると生徒との距離がかなり縮まっている様に見えた。

 その様子を見ているとどこか安心できた。









 生徒と教師が上手い事馴染み合ってくれていれば学校の運営においてもトラブルが起きにくくなる。人間関係の構築に関して、彼女はどうやら俺よりも上手らしい。

 ただ、自分も校長という立場として、また、一人のオトナとして生徒との距離を詰めていかなくてはならない。

 そんな様子を見つつ歩いていると一階部分にある庭園にたどり着いた。

 そこにはまあまあ多くの人が集まっていた。

 その中にちらほらとこのウチの学生も交っていた。








 歩いていると松井と四条のいる班が草の上に座りこみ話をしていた。

 「もう作品は見飽きたのか?」と二人に近寄るとハッと俺の存在に気づいた班のメンバーがこちらの存在に気づく。

 「ああ、先生お久しぶりですぅ」

 「久しぶりって昨日もあっただろ?」

 「冗談ですって」と笑いながら対応された。

 「先生はケガの具合大丈夫ですか?」と優しく松井さんが声を掛けてくれた。

 「えっと、ああ、大丈夫だ」










  相変わらず優しいという印象を彼女には抱いてしまう。包容力というものを感じてしまう。

 「いやぁ、それにしても先生が元気になって良かったです」

  どうやら四条さんも俺の足のケガを心配してくれているようだった。

 「幸い軽い捻挫で済んだからもう大丈夫だ。ありがとう」

 「いや、校長先生の方ではなくてサクラ先生の方なんですけど」

 「えっ……」

  戸惑った俺はつい声が出てしまった。










 「ああ、そっ、そうだな、確かに奴、じゃなくて、サクラ先生が」

 「先生、今、奴って言いましたね」

 「いや、その、奴って言ったんじゃなくていい奴って言ったんだ」

 「へぇ、そうですか」

  そう言いながらも疑わしい目線を彼女は送り続けていた。

 「そうだよ、どうしてサクラ先生をそんな汚い言葉で呼ばないといけないんだよ」

 「じゃあ、サクラ先生の事を先生は信頼しているんですか?」 

 「おっ、おう、もっ、勿論だとも」

 「どれくらい信頼してるんですか?」

 「どれくらいって……そう言われると難しいなぁ」





 






  表面ではそう言っているが正直、信頼なんぞしていない。

  トラブルメーカーに信頼を寄せる馬鹿がどこにいると言うのか。

  だが、生徒の手前、本音を言うと関係性を疑われてしまう。

  よって、上手い具合に取り繕わないといけない。

 「まぁ、どうでもいいです、今の質問は時間の無駄でしたね」

  何を思ったのか質問がピタリとやんだ。









 

 「そうか、じゃあ集合時間に間に合う様に注意して行動しろよ」

  そう言い残して俺はその場から立ち去った。しばらく歩いていると―

 「あれ、万田先生、どうされたんですか?」

  目の前の芝生にタンクトップ姿で大の字になって寝ている男性を見つけた。

  と、同時に職員会議でサクラに詰め寄られ何も言い返せていなかった光景をふと、俺は思い出していた。

 「元を取らないといけませんから全部鑑賞してきたのですよ」とグーサインと共に笑顔を見せる。

 「ぜっ、全部見て回ったんですか?」




     





 「ええ」

  そう言うと先生は上機嫌に白い歯を見せ笑って見せた。

  俺はその事実に驚いた。

  この美術館はパンフにも書いてあったが全て観て回ろうとすると四キロ程歩かなくてはならない。

  ホームページにも歩きやすいスタイルで来る事が推奨されている程である。

  今日の滞在時間だけで全て観ようとするのは到底不可能なはず。

 「お疲れ様ですね……」

 「ええ、まあ……そう言えばサクラ先生は一緒ではないのですか?」

 「なんか、一人で見て回っていますよ」












 「そうですか……あっ、そろそろ集合時間なので受付の場所まで行きましょう」

 「ええ、そうですね」

  俺が了解すると、万田先生は腕元をそっと確認して芝生の上から手を使わず豪快に起き上がった。

  まあ、この見た目で家庭科の教師って言うのが信じられない。





 



 



  どんな栄養バランスを取ればこんな肉体を手に入れられるのだろうか? と俺は不思議に思った。

 「合宿はどうだったんだい、校長先生?」と薄味の味噌汁を啜っていた俺に対してふとお袋が語り掛けてきた。

 「どうにもこうにもトラブル続きだったよ」

 「そうかい、大変そうだね」 

 「全く、大変も大変だよ」

 「……例えばだけど、何が大変なんだい?」











 「まあ、色々まだ慣れていない事も多いが、一番厄介な奴がいてな」

 「厄介な奴?」

 「そう。うちの学校にいるあの二億だよ」

 「二億……ああ、彼女の事ね。きっと優秀なアンドロイドだから役に立っているから一は嫉妬しているのね。だってあの人が迎え入れたのだから……ってどうかした?」とお袋が俺の顔を見て不審そうな目線を送って来ていた。











 「いっ、いや、何でもない」と俺は急いで白米を掻き込み、顔を隠す様にした。

 「ただ、ちょっとだけ冷徹そうな感じがする雰囲気だったわ。昔に会った時にそう感じた事は今でも覚えているわ。まぁ自分に似ていたからあの人が選んだのかしらね」













 そっと目は閉じられ口だけが動いていた。俺は膝に肘をつき、前かがみになった。

 嫌いだった家が、次は、嫌いな機械女に変身した。

 「というより、冷徹って言ったか?」

 「ええ、なんだか冷たい感じのする人、いや機械だったからかしら」

 「そうだ、やっぱりアイツはどこか壊れているに違いない」

 「壊れているですって? それって壊れたんじゃなくて成長したって事なんじゃないかしら?」 

 「なんで分かるんだよ?」

 「だって人工知能って退化しないモノなんじゃないの?」












 「まあ基本は。でも、今のアイツはどこか調子がおかしい。それは間違いない」

 「それでもアンドロイドって人間みたいね」

 「どうしてだよ?」

 「だってお話してみるととても素直でいい子だったわよ」

 「へぇ……母さんは奴に会った事があるのか?」

 「あら会った事あるも何も、ねぇサクラちゃん」

  母さんが台所の方に向かって声を掛ける。味噌汁をすすっていた俺は思いっきり吹きだす。

 「あれ、どうして校長がこんな所に?」

  すっとぼけた声色で台所の方から憎たらしい顔面が質問を投げかけてきた。









  


 「それはこっちのセリフだ! なんで俺の家に上がってるんだよ!」

 「えっ、先生そんなに私がこの家にいる事が嬉しいのですか?」

 「お前、何言っているんだよ?」

 「えっ、だってうれし涙を流してくれてるだなんて ……」

 「ちげぇよ! 味噌汁だよコレは!」と手元にティッシュを手繰り寄せて顔を拭いた。

 「そうですか、それは残念です」

 「で、どうしてお前がココにいるんだ?」

 「えっと、実は先生のお母さまにお呼び出しをされまして、ですね……」













 「……母さん、コレはどういうことだ?」と俺は母の方に目をやる。

 「だって、生身の家政婦を雇う金なんか無いし、電気だけで動く彼女ならそこまで私達の負担にもならないし、家事も手伝ってくれるじゃない」

  なるほど、今日の味噌汁の味付けが薄味なのはそう言う事なのか。って、そんな事、今はどうでもいい。

 「おいおい、母さん勝手にそんな事をされたら困るよ。コイツはあくまでも学校の私物。家で使っている事がバレたりでもしたら他の先生からなんと言われるか」








    

 「ええ、それ位は私も分かっているけど。もう私も年でね家事を誰かに手伝って欲しいと思っていたのよ」

  自分勝手に学校の厄介者を自宅に招き入れられてしまっている事実に少し呆れてしまった。

 ただ、自分もお世話になっていたので、母親の言い分を全否定する訳にもいかなかった。

 「サクラちゃんなら無料で使えちゃうじゃない」

 「いや、無料とかそう言う問題じゃなくてだな……(これって私的流用で法律的にはマズイのではないだろうか)」













 「別に、いた所であなたに害は無いのだから構わないでしょ?」

 「そうですよ、校長。これも親孝行の一つだと思えば安い物ですよ」と奴が俺の耳元で囁いてきた。

  悪魔の囁きというモノでは無かったが、コイツに言われると無性に腹が立つ。

  それならもう少しまともに働いて学校環境の改善に貢献してくれよと言いたかったが、母親の手前、心の中だけに留める事にしておいた。

 「私だって日頃お世話になっている校長のお母さまをサポートする事ができて恩返しをする事ができますのでとても嬉しいです」













 奴は母に向かって憎たらしい笑顔を浮かべていた。

 奴は一体何を考えているんだ。

 「あらあら、コレはどうもご丁寧に」

 俺を差し置いて勝手に話がトントン拍子に進んでいってしまっている。

 どうやら俺の母親はこの疫病神に心酔しきっているらしい。

 それに加えて、コイツは俺の母を手玉に取る様に自分の存在価値を売り込んできている。

 「まあ、この家に住まわせて頂ければ、人間を観察……では無く私の成長にもつながりますから」 







 

 

 「お前今、何を観察するって?」

 「いやいや、お母さまを見守る事もできますので」と、まあしぶしぶ折れる事にした。

 そしてこの日俺は決意した。

 コイツを一日でも早く新型のアンドロイドに変えてやると。その為にも金を作らねば。

 金を作る方法。それは、奴を事故に見せかけて破壊する事である。

 奴に多額の保険を掛けて壊してしまえば保険金が下りる。







   


 それで新しいアンドロイドを手に入れるという魂胆なのだが、奴のフィジカルをどの様にして攻略するか。

 とはいえ、悩んでいたがいけない事だと当然ながら自覚はある。

 でも、買い換えたい。

 というか、バグが無い、修理する所が無いって一体どう言う事なのだろう? 

 スマホが動くメカニズムすら詳しく分からない俺からしたら人工知能のメカニズムなんて大して分からない。











 しかし、絶対にそこに何か異常があると思うと勝手に睨んでいた。

 奴のハードはまあ大丈夫だが、ソフトに問題がある。そこで俺の考えは頭打ちだった。

 不具合が見つからないと言われたらそれを信じるしか無い。

 しかし、それよりも朝の目覚めからコイツがいるのかと思うと憂鬱だ。

 母の頼みを聞かないというのも確かにそれは親不孝になってしまう。

 そう感じられたので背に腹は代えられなかった。


▽▲


 梅雨の時期―湿気が鬱陶しくなるこの季節。

 今日から近くの学校の先生と共同で行われる下校時の補導を強化する週間―補導強化週間が始まった。

 簡単に言うと近隣の高校から代表の先生が集まり学生の補導を強化するというもの。一応、念押しの為にこの学校では生徒達にも他校の先生含めて補導されないようにとは言ってある。

 そこで今回の代表となったのが、佐山先生と俺だった。











 「今日はよろしくお願いします、校長先生」

 「こちらこそよろしくお願いします」

白いワンピース姿の佐山先生。

 その下に割れた腹筋がある(らしい)とは到底思えぬ見た目。

 温和そうな外見からでは想像できない。

 正味、映画の世界だったら見た目は弱そうだけど戦ったら滅茶苦茶強いとか言われる様なタイプなのだろう。







    



 集合場所である地下の改札前付近―下校中の生徒がチラチラと我々の集団を見て来る。

 周りを見ると他校の先生方も多く参加していた。

 勿論、他校の代表の先生のなかにその高校の校長は誰一人として参加していなかった。

 校長である自分が今回参加したのは、今年から新しく就任した事を周知させる目的と挨拶を兼ねていた。

 なので、見回りが始まる前に既に一通りの先生方には挨拶を済ませておいた。

 その中で一人だけ俺の存在に過剰に反応する人物がいた。

 









    






 「久しぶりだな桜井」

 「あっ、先生。まさかここで会う事になるとは」話しかけてきた男性は俺の高校の頃の担任の先生だった。白と黒の混じった短い髭が特徴的でダンディな印象は昔も今も変わっていなかった。

 「いやいや、本当に。話は聞いているよ、自分ちの学校を継いだんだな……」

 「はい」

 「まさか、俺の教え子が校長になるなんてな。でも本当にそれで良かったのか?」

 「……分かりません。これが正しいかなんて」

 「そうか、まぁ人生長いんだし気長に考えて行けばいいと思うぞ」

 「はい」

 「それと親父さんの事は一応だけどお悔やみを申し上げておくよ。一応な」

 「ええ、まあ、はい」

 「そう言えばお母さんは元気にされているか?」

 「ええ、基本は体調が良いんですけど、持病が悪化しないか心配で」

 「ああ、そうか。せめてお母さんは大事にするんだぞ」

 「そっすね」

 「じゃあ、時間があれば飲みに行こうじゃないか、校長先生!」と笑いながら背中を叩かれて話はそこで終わった。
















  まさか、自分の担任とこんな形で再会するとは、卒業した時には想像すらしていなかった。

  人生何が起こるか分からないものだと改めて痛感した。

 「へぇ、先生ってあの進学校出身だったんですね」 先ほどの会話を傍で聞いていた佐山先生が驚いた様子で声を掛けてきた。

 「えっ、ああ」

 「あの高校に入るんだなんて同い年の人間としてスゴイです!」

 「そんな、スゴイ事無いです。やる事ちゃんとやったらできますよ」

 先生の方に視線を合わせる事無く改札口の壁に張り付いている母校の広告にスッと目をやる。

 入学定員やコース設定が書かれてあるのを見るとなんだか中三の頃を思い出す。

 初めは、桜井家の人間なのだからという理由で桜井高校に入学する予定だった。

 でも俺が勝手に願書をすり替える様に工作して受験した高校を変更した。

 理由は言うまでもない。















 自分の中ではあの高校に入学する事に対しても親父との対立を思い出さずにはいられない。

 「というか、学校での仕事は大丈夫なのですか?」

 「ああ、それなら、サクラ先生にお任せしていますので大丈夫です」とは言いながらも一抹の不安は抱いていた。

 まあ教頭もいるし大丈夫だろう。

 正直、不安なら奴を停止させてしまえば良いのではないのだろうかと思ってしまう事が多々ある。

 が、そうなってしまった時の長期的ダメージの方が大きい。

















 「そうですか、それなら安心ですね」

 「安心……ですか」

 「あれ、不安なのですか?」

 「まあ、はい……」サクラをこのまま使い続ける事に不安を覚えている自分。

  そんな俺を見て佐山先生はそっとこんな事を言い出した。

 「人によって、合う、合わないは有ります。

  ただ私の場合、サクラ先生といるとどこか安心できる感じがするんです 」

 「そうなんですか?」

  まあ、俺にはその安心感というモノは分からんが、もしかしたらそれを学生達も享受しているのだろうかとふと思った。

  俺からすれば、奴の存在は悩みの種なのだが。


    













  一人でそんな事を考えていると彼女との会話が止まっている事に気づかされ咄嗟に話題を作る。

 「そう言えば、佐山先生はどんな高校生だったんですか?」

 「えっ、わっ、私ですか?」

 「はい。何かマズかったですか?」

 「いや、そんな、闇が深い過去を持っているとかそんな事は無くって、少し運動神経が良い普通の学生でしたよ」

 合宿で見せたあの身体能力を思い出すと、どう考えても『運動神経が良い』だなんてレベルじゃない。

 てか、サクラの奴も中々な運動神経してるよな。

 まあ、アイツは人間では無く、アンドロイドだからあれ位……できる個体もあるのか? と少しばかり疑問を抱いた。










  


 「そう言えば、先生ってクラスの子達に人気でしたね。何か好かれたりするコツとかありますか?」

 「えっと、コツ……ですか。うーん」と顎を指先で軽く触れつつ深く考えさせてしまった。

  ああ、この質問だと逆に難しすぎて話題としては不適切だったか。

 「まあ、明るくいる事ですかね。生徒達と同じ目線に立ってあげたりとか。でも、正直私も全然分かりません」

 「じゃあ、どうして先生は自衛隊を辞めてわざわざこの学校にきたんですか?」

 「……」

 「あっ、なんかすみません。込み入った事を聞いてしまいましたね」

 俺はその場で謝罪すると、先生は少し申し訳ない感じの顔をしていた。


最後まで読んでいただきありがとうございます。

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