7 カインの思惑
カインとの試合の翌日。
俺とカインは執務室に集められていた。
「フォン。これからカインが試合を、仕掛けた理由を説明しようと思う」
ようやく、説明してもらえるのか。
昨日はカインが気を失ってしまったから、説明を聞けなかったからな。
「まず、カインが戦おうとした理由は、お前を元気づけたかったからだ」
元気づける?
どういうことなのだろうか?
俺は不思議に思って、横にいるカインの方を見た。
カインは顔を真っ赤にしていた。
反応から、オニキスが言っていることは嘘ではないようだ。
ますます謎だ。
気づけば、疑問を口にしていた。
「どういうことですか?」
「カインはお前が帰ってくる前に、スキル鑑定の結果を知っていたのだ」
「それが、どうつながるのですか?」
「その、お前の結果はいいとは言えないだろう?」
「はい。そうですね」
「だから、落ち込んでいたり、気に病んでいるのではないかと思ったらしい」
なるほどな。
俺のことを心配してくれた上での行動なのだろう。
まあ、カインの考えが分からないわけでもない。
それがどう、戦うことになるかは疑問だが。
「カインは不器用でな。自分が強いと思わせることで、安心させてやろうと思ったらしい」
「それは、私が頑張らなくてもいいと言っているんですか?」
「まあ、そう言うことだろうな」
カインの思考はこういうことだろう。
力がなくて落ち込んでいる俺→強い兄がいることで弟は安心する。→戦う。
多分、こんな感じで考えたのだろう。
結果として空振りもいいところだ。
その強い兄がいることで安心するということは、自分は頑張らなくていいといった意味で安心することだからな。
まあ、その心遣いは嬉しいものがある。
「ありがとうございます。私の心配をしてくれて」
俺が感謝を伝えると、カインは真っ赤だった顔をより赤くした。
そして、こちらから顔を背けた。
「礼を言われる筋合いはない」
顔を背けたまま、カインはぽつりと言った。
不器用だな。
そう思わずにはいられなかった。
しかし、カインにしては頑張った方だろう。
先程も言ったが、そういう心遣いはやはりうれしいものだ。
「はい。この話はこれでおしまい。二人とも戻っていいよ」
説明が終わり、オニキスが解散の声を掛けた。
カインは恥ずかしかったのか、そそくさと部屋を出て行った。
俺はその後に、ゆっくりと部屋を出た。
それから、数日後。
俺は中庭にいた。
そして、目の前には腕組をしたカインがいる。
今日、朝食の後にカインに呼び出されたのだ。
「カイン兄様。どういう用事なのでしょうか?」
俺は純粋な疑問を口にする。
カインに呼び出されるような、要件があると思っていない。
要件がなければ、カインとは会ったりしないからな。
「フォン。この前はすまなかった」
俺は目を見開いた。
そして、とても動揺した。
その動揺が隠し切れなかったようで、カインはおかしそうにこちらを見ていた。
まさか、カインが謝るなんて思っていなかった。
「それは、何に対して謝っているのですか?」
「いきなり、試合を仕掛けて悪かったと思っている。」
「だけど、あれは俺様・・・俺なりに何とかしようとして、ああなってしまった。」
この数日で何かあったのだろうか?
今までのカインでは、こんな風に謝ることも、丁寧に話すこともなかっただろう。
恐らく、試合で負けたことが影響しているのかな?
天狗になっていた鼻が折られたみたいな。
「それなら、大丈夫ですよ。兄様は私を元気にしようとして、そうなってしまったのですから」
「それでは、俺の気が済まない」
カインの顔つきが変わった。ように感じた。
この場が真剣な雰囲気になった。
「負けた俺が言うことじゃないけど、フォン。お前は俺の弟だ。だから、俺がお前のことを守ってやる」
その言葉は、宣言だった。
兄としての、一人の人として宣言だと。俺はそう思った。
だから、俺も笑って答えた。
「じゃあ、ちゃんと守ってくださいよ。兄様」
今回は少し文字数が少ないですが、きりがよかったのでここまでにします。
誤字や間違いがありましたらご報告いただけると助かります。
作品への評価・感想等を頂けると嬉しいです。
ご覧いただき、ありがとうございます。