4 スキル鑑定と試合(1)
あの後、スキルを暴走させたカインは、父オニキスの対処によって事なきを得た。
当然、まだ訓練中のスキルを無断で使用したカインは、父と母たちに怒られた。
そして、俺もカインに無理なお願いをしたことで怒られた。
俺達は、一か月おやつ抜きという罰を受けた。
確かに俺が悪いので、甘んじてその罰を受け入れた。
そんなスキルを暴発させた日から一年ほど経った。
今日は俺の五歳の誕生日だ。
誕生日を兄弟たちと親たちは祝ってくれた。
周りの使用人も祝ってくれて、前世では考えられない光景に驚いた。
そして、俺は今日、自身のスキルの有無を調べる。
そのために今、俺は教会に向かっている。
教会に向かうために、馬車に乗って移動している。
この馬車には、父と母、そしてメイドのサラが乗っている。
馬車の中は、静かな空気間になっている。
オニキスはそんな中、話しかけてきた。
「フォン。緊張する必要は無いぞ。もし、スキルがなくてもある方が珍しいのだ。お前は咄嗟の判断力が高いから、スキルなどなくても問題はないのだぞ?」
「そうね。スキルの有無なんて、その人を形成する一部分でしかないのよ。だから、緊張しないでいいわ」
どうやら、二人とも俺が緊張していると、思っているらしい。
二人の心配はありがたいが、生憎俺はスキルがなくても問題ないとすでに割り切っている。
いや、今の俺からすればスキルはない方がいいのだ。
だから、それほど緊張はしていないし、期待もしていないのだ。
「大丈夫ですよ。私は緊張なんてしてないですよ。それに、家にはカイン兄様がいますから」
俺は微笑みながらそう返答した。
両親は少し顔を顰めた。
何故だろうか?
少し考えると、理由が分かった。
俺の言い方だと、カインがスキルを持っているから、俺には期待しなくていいよ。と、言っているようなものだ。
「あ、別にそういった意味で言ったわけではなくて!」
俺は焦ったように、自身の発言を補足した。
その様子に、両親の表情が和らいだような気がする。
どうやら、誤解は解けたようだ。
すると、サラが不思議そうに口を開いた。
「フォン様って、たまに大人びているときがありますよね」
俺はそのサラの発言に、ドキッと心臓が跳ねた。
一瞬、転生のことがバレたのかと思ったが、ふとした発言だろう。
だから、転生のことはばれていないはずだ。
「そうかな。私はそんな風に見える?」
俺はできるだけ子供らしく振る舞う。
そんな風に、馬車に少しハラハラしながら乗っていると、馬車が止まった。
どうやら、教会に着いたようだ。
父が先に降りて、母をエスコートする。
相変わらず、仲がいいな。
俺もその後に続いて、馬車を降りる。
俺達は、全員で協会に入っていく。
教会の中は、たくさんの長椅子が設置おり、真ん中のカーペットの敷いてある通路の奥に、神像が配置されている。
どうやら、今教会には誰もいないようだ。
もしかして、人払いをしたのかな。
まあ、貴族の息子がスキルなしだったら、世間体がよくないからな。
この世界では貴族の子供は、スキルを持って生まれることが多い。
その原因はいまだ解明されていないが、一説によるとスキルには適性があり、それが遺伝しているからだと言われている。
まあ、多いと言っても半分程度なのだが。
「フォン、あそこのにいらっしゃる司祭様が、フォンのスキルを調べてくれるのだ」
オニキスに言われ、神像がある方を向いた。
そこには、一人の神官らしき人物と、その前に一つの黒い球が置いてある祭壇があった。
あの司祭が俺のスキルを調べてくれるらしい。
俺はオニキスに連れられて、司祭の前まで移動した。
母とサラは、後ろで俺の様子を見守っていた。
「司祭殿、今日はよろしくお願いします」
「ええ、こちらこそよろしくお願いします。オニキス様。フォン様、本日担当させていただきます。アルノーと言います」
「よろしくお願いします。フォンと言います」
司祭と軽く挨拶を交わすと、すぐにスキル鑑定を始めてくれた。
俺は黒い球体の上に手を乗せた。
だが、黒い球体は何の反応も示さなかった。
黒が強まった気がするが気のせいだろう。
俺は司祭の方を見る。
司祭は少し気まずそうな顔をしている。
「大変申し上げにくいのですが、フォン様にスキルはございません」
その言葉を聞いた父は、顔を曇らせた。
俺は背後を見る。
母は顔を手で覆い、サラは涙を流していた。
少し、罪悪感が生まれる。
だが、自分にはどうしようもないことだ。
「フォン。大丈夫か?」
父が心配そうに、こちらを覗き込んだ。
俺は笑顔を、父に向ける。
「大丈夫です。父上」
父は心配そうな表情を、変えることはなかった。
それから、俺はなぜか一人だけ、馬車に先に戻された。
まあ、スキルの有無で何らかの貴族としての対応が違うのだろう。
例えば、家督を継ぐ権利が無くなるとか、あるのかもしれない。
だが、もしそうであっても、そんな気は無かったので全く問題はないだろう。
しばらくして、両親たちが馬車に戻ってきた。
全員、暗い面持ちで、馬車に入ってきた。
なんとなく、この空気間は居心地が悪い。
「父上、なんだか顔が暗いですよ?どうしたんですか?母様と喧嘩でもしましたか?」
空気を読まない発言に、全員の視線が俺に集まった。
最初は全員訝しんだ様子だったが、意図に気づいたのだろう。
オニキスやシルファ達が、口を開き始めた。
「いえ、お母さんたちは喧嘩なんてしていませんよ」
「そうだぞ、俺達は喧嘩なんていつもしないだろう?」
「そうですよ。お二人はいつもお熱いですから」
少し、サラがからかうように軽口を叩いた。
オニキスはその言動に、少し動揺していた。
おっと?もしかして、自覚がなかったのか?
いつも、仕事に行くときにキスをしているのだ。
しかも、二人は別に新婚と言うわけではない。
これで喧嘩したと言われた日には、目玉が飛び出すぞ?
「・・・フォン。俺達はそんな風に見えるのか?」
「もしかして、自覚がなかったのですか?なら、はっきり言って鬱陶しいほどですよ?」
容赦のない言葉に、オニキスは肩を落とした。
シルファは嬉しそうに、頬を赤らめた。
母さん、あなたは乙女なのか?
そんな初心な反応に、サラが我慢できずに笑いを吹き出した。
「っぷ、はは!!」
「おい、笑うなサラ」
どうやら暗い空気を払しょくすることはできたようだ。
俺達は明るい雰囲気のまま、屋敷に戻った。
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