26 魔王軍
戦場を掛けて三十分くらいたっただろうか。俺達は今森の中を走っていた。
森の中だからと言って、魔物の数は減らずどんどんと増えていく。それが、ここにこの大群の犯人がいることを確信させてくれる。
活路が見えてくると同時に、魔物の群れの中を突き進んでいるわけで、騎士たちの中には疲れが見え始めた者たちが現れた。
「意識を強く保て!」
そこへ前公爵の覇気のある声が、意識を失いそうだった騎士が覚醒させる。
その言葉だけで、全体の士気が上がった。
「主犯格がいる場所まで、もうすぐだ!」
その言葉の通り、目の前の景色が開けてきた。
森の中にあるには不自然に開けた場所だった。先ほどまでの大量の魔物はいなく、その中央に一人の魔族が立っているだけだった。そ子にいる魔族は長い黒髪の女だった。ただ、紫の外套を纏っているせいで、手元が見えない。
「貴様が今回の首謀者か!」
「ええ、そうね」
前公爵のほうを見ると、その顔は真っ赤に染まっていた。渦巻く激情を理性で何とか抑えているように見える。しかし、その魔人は顔色一つ変えない。
「アリスはどこだ!」
前公爵は声を荒げてそう聞く。その声には怒りが漏れている。
「あの子なら、生贄に使ってあげているわよ」
「生贄だと・・・」
「ええ、そうよ。あの子は魔王様の封印を解くための贄なのよ」
なるほどな。こいつの発言によると、魔王を復活させることがこいつらの目的と言うわけか。
そして、その生贄にアリスが必要であると。
だが、何故アリスである必要があるのだろうか。生贄と言うには何か条件が存在するはずだ。何が条件だ。適正属性の数、特定のスキルの有無、特殊な体質、血筋的な要素と年齢などが考えられる。
一番の可能性はスキルと適正属性が特殊であるケースだ。
魔人の発言を聞いた前公爵は、怒りで頭に血が上っていて冷静ではないようだ。普段、内包している魔力が駄々洩れだ。孫娘が攫われたのだ、そうなるのも仕方ない。
「死ぬがいい」
彼は怒気を孕んだ声でそう告げる。
「あら、あなたにそれができるかしら」
魔人は嘲るようにそう返す。それが引き金となったのか、アーノルドは高速で魔人に接近する。そして、剣を抜刀し彼女目掛けてそれを振るう。
彼女はそれを後方に下がることで、冷静に対処した。
「そんなに怒っちゃって、大丈夫?あなた隙だらけよ?」
彼女がそう言った瞬間。
周囲の木々に潜伏していた魔物大群が、アーノルドを襲った。
「ックソ」
彼は悪態を吐きながら、周囲の魔物を切り裂く。
だが、大量の魔物の前ではすべての攻撃を捌き斬ることはできなかった。少しずつ、彼の体を魔物が傷つけていく。
いくら切り刻んでも、増え続ける魔物に彼は、この戦場で完全に孤立してしまった。
そのとき、魔人の眼球がギョロっとこちらに向いた。その視線は凍えるように冷たく、酷く無機質だった。
「あなた達もいたわね」
「あ、そう言えば自己紹介をしていなかったわね。私は魔王軍幹部が一人、メザリア」
「それじゃあ・・・死んで」
メザリアと名乗った彼女は、こちらに向けて紫色の弾幕を張り射出した。
当然、俺はそれを回避する。他の騎士たちも防御か回避していく。
しかし、防御した騎士は急に苦しみだした。この様子・・・毒か!
「ふふふ、どうやら毒が聞いたみたいね」
「貴様【毒姫】か?」
一人の騎士がそう口にした。
「あら、その名前を知っているのね」
毒姫・・・どこかで目にした気がする。どこだったか・・・
ああ、そうだ・・・魔法書だ。
『毒姫、その名前は毒魔法の中ではとても有名な名前で、何百種類の毒を使い分ける魔族。その毒強力さと本人の狡猾さからそう呼ばれている』と、書いてあった。
なら、こちらから攻めなければ苦しくなっていく。
時間が経つほどあちらが有利になってしまう。
そう判断した俺は、気配を消し彼女の背後に回り込んだ。
腰に付けていた剣を抜刀し、居合切りを彼女に放つ。
「なっ!」
彼女は咄嗟に、身体逸らした。だが、躱し切れず左腕を落とされた。
俺は構わず、次々に攻撃を仕掛けていく。彼女は所持している杖でそれをいなす。
体勢を崩している彼女は徐々に、苦しい展開になっていく。
だが、魔王軍幹部がそのままで終わるはずもなく。
俺の足元に魔法陣が出現した。俺は横に避けた。
すると、その魔法陣から紫色のレーザーが発射された。
魔人は俺が回避した隙に、距離を取ったらしい。
「あなた、何者なのよ!!」
「七、八歳の子供にこんな力があるはずがないわ!」
彼女はそんな疑問を投げかけてきた。
俺はそんなことを気にも留めずに攻撃を仕掛けようとした。
「クソ、このままでは【解獄の鍵】を得られないじゃない・・・」
だが、彼女のその言葉を聞いた瞬間。俺の体は止まった。
アレは今なんて言った?
【解獄の鍵】と言ったのか?
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