25 進群
一時間ほど経っただろうか。屋敷中を兵士たちが探し回ったが、誰一人としてアリスもカルミアも見つけ出すことができなかった。
俺はその間、前公爵の側に留められた。この状況で一番怪しいのは俺なので、当然の判断だろう。
「・・・仕方がない、今は魔物への対応を考えよう」
苦悶の表情を浮かべながら、前公爵はそう兵士たちに告げた。
その言葉を聞いた兵士たちの顔は、一気に引き締まった物となった。
彼らは、前公爵のアリスへの愛情をよく知っているからだろう。そこには、驚きと悲しみが混ざっていた。
「これからの対応について、まずは魔物の大群に対して攻城戦を仕掛ける。外壁に公爵軍の半数を待機させ、冒険者にも依頼を出せ。それと、もう一つ私が指揮を執る別動隊を作る。その隊の目的は、主犯格である存在の拘束、または殺害だ。何か異論のある者はいるか?」
彼がそう周りに聞くと、異論は内容で誰も何も言わなかった。
「では、総員配置に付け。街に残るのは第二部隊で、残りの第一部隊は私と共に来てもらう。そして、フォン殿は・・・この街に残るか、我々と共に主犯格を狙うか、共に街を守ってほしい。どうされる」
「共に主犯格を狙います」
この状況で、街に残っても危険は変わらない。ならば、問題が好転するかもしれない別動隊について行くのは合理的だ。
返答を聞いた彼は、深くうなづいた。
「頼むぞ」
「かしこまりました」
そして、この場にいた者が全員移動を始めた。
俺は前公爵に、声を掛けた。
「前公爵様、剣を一つお借りしてもよろしいでしょうか?」
「構わない、武器庫から持っていくといい、武器庫の場所は分かるな?」
「はい」
準備を終えた俺達は、外壁の近くに集まっていた。
全員で百人程度、つまり一部隊辺り五十人程度か。
どうやら街に潜伏していたようだな。
それとは別で、冒険者らしき風貌の集団がいる。そこには三十人程度いるようだった。
すると、前公爵が馬に乗って現れた。
それに気づいたこの場にいる者たちが、ざわざわとざわめきだす。
「皆、よく集まってくれた。私はラピスラズリ公爵家前当主、アーノルド・ラピスラズリだ。」
「集まってくれた冒険者諸君にまずは感謝を申し上げる。」
「ありがとう。共にこの街を守ろうではないか。」
「今回の作戦だが、今回の魔物の大群には主犯格となる人物がいると我々は踏んでいる。だから、その人物を狙う遊撃隊と、街を守る防衛隊に分けるつもりだ。冒険者諸君には、防衛隊に入ってほしい」
「我々はこの街を守るための英雄だ。一人一人が英雄なのだ。だから、信じよ我らは敗けん。皆の者、勝つぞ!」
前公爵の演説が、辺りに響いた。
シーンと言う音が、聞こえるくらい辺りは静かだった。
しかし、次の瞬間には
「オオオオウウウウゥゥォォ!!!」
そんな空気を割るような、喝采に包まれた。
彼の姿はまるで、何百もの戦場を渡り歩いてきた歴戦の戦士であり、軍を統べる将軍のようである。
この演説には、そう思わせるだけの覇気があった。
公爵は別動隊を率いて門から出発しようとしていた。
騎士も皆その心構えだった。
この場にいる者すべて、戦う覚悟を持っていた。
だからこそ、この刹那起きた衝撃に対応できた。
外壁に何かがぶつかった音が、辺りに響き渡った。いきなりの出来事だ。
しかし、この場にいる者は慌てなかった。素早く己が持ち場に移動し始めた。もう戦いは始まったのである。
それが、合図となったのか門が開かれた。門が開かれたことを確認した、前公爵は馬を走らせ、別動隊を率いて外壁の外に飛び出した。それに続くように俺も後を追う。
外壁の外には、万を超える魔物の大群が迫っていた。その中の一体に巨大な竜の魔物がいた。全長二十メートルほどだ。恐らく、あいつが外壁に攻撃を仕掛けたのだろう。
そして、この群れの中であいつは頭一つとびぬけた強さを持っている。
ここで一つ問う。
もし、自身の手駒がある状態で戦争に挑むとき、盤面にある駒をどのように配置するか。自分の命を大事にするものなら、強いものほど自身の近くに配置するだろう。
つまり、あの方向に敵がいる可能性が高い。
前公爵もそう判断したのか、その竜の方向に走り出した。
そして、別動隊が竜と二百メートルほどの距離になったとき、前公爵が剣を抜いた。
それまでの魔物は近衛の騎士に任せていたのだが、ここで初めてその牙を使うのだ。
百、五十とどんどん竜との距離が近づいていく。
公爵は剣を横薙ぎに振るった。すると、竜の動きが急に止まった。
次の瞬間には、竜は真っ二つに切り裂かれていた。
俺達はその竜の死体に目もくれず、敵がいるであろう方角に進んでいく。
一応補足しておきます。前公爵が強すぎるので一瞬で殺されてしまいましたが、竜の強さはゲームで言うとレベル60くらいです。
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