21 魔法が使えない理由
「火球!!」
しかし、火球が発生することはなかった。
アリスの魔法訓練に付き合って、三時間ほど経った。空は赤く染まり、子供なら家に帰って食卓に座って夕飯を待っている時間だろう。しかし、未だ訓練の成果は出ていない。
「もう一回!!」
アリスはそう言って、もう一度魔法を発動しようとする。
「今日はもうおしまいです」
「・・・まだ、できます」
俺は訓練を切り上げるように促す。彼女はそれでも訓練を続けるつもりのようだ。
だが、これ以上同じことをしても結果は出ないだろう。
「これ以上やっても結果は変わりませんよ」
「ッ、わからないじゃないですか」
「魔法と言うのはイメージを非常に重要視します。理解できないもの、イメージできないものは成功率や効果が著しく低下します。何度も失敗が続くと、イメージが固定されてしまいます。なので、今日は切り上げて、明日もう一度挑戦しましょう。」
実際に、魔法のイメージの質によって威力等が変わることは、魔法使いでは有名な話だ。
彼女もそれは知っているのだろう。渋々と言った様子で、使用人に訓練場の片づけを指示した。
「それでは、失礼します」
俺はそう言って、訓練場を後にして自室に戻った。
部屋に戻ると、椅子に座って考え込む。
実を言うと、アリスが魔法を使えない理由についてはもうわかっている。
だが、これは心因性の問題であり、俺にどうにかできるものではない。
前公爵やアリスにどう言おうか。
俺としても無意味な訓練を続けさせるつもりはない。
そもそも、この年で心因性の問題になる理由など家庭環境か特殊な出来事だけだろう。恐らく、襲撃者に襲われたときに発症したものだと思われる。
コンコン
ノックする音がドアから聞こえてきた。
俺は椅子から立ち上がる。
「どうぞ」
ドアが軋む音を響かせながら、開かれた。
そこから現れたのは、前公爵とアリス付きのメイドだった。
「こんな時間にすまないね」
「いえいえ、構いませんよ。それで、どういったご用件で?」
「アリスの訓練の様子はどうなのかね?」
「・・・あまり著しくないですね」
正直、前公爵もダメもとで言っていることは分かっている。
だから、あまり気負うこともなくそう淡々と告げた。
「そうか・・・」
公爵は少し落ち込んだように俯いた。だが、すぐに元の様子に戻り顔をあげた。
「もともと、簡単に行くとは思っていない。もう少しだけ付き合ってほしい」
「そのことなのですが・・・」
俺がそう言い淀むと、前公爵はこちらを訝しむような表情を見せた。
ありのまま、アリスの魔法が使えない理由を話すべきか、少しはぐらかすべきか。
だが、公爵家には今世話になっている。ここは正直に話すべきだな。
「アリス様が魔法を使えないのは、精神的な部分が大きいと思われます」
「ほぅ?それはどういうことなのかな?」
「アリス様は魔力制御、魔力量、適正、魔力の質どれをとっても、同年代の基準値を大きく超えています。しかし、それでも魔法が発動しないのは魔力の流れからして、本人が無意識で魔法を使わないようにしていると感じました」
彼女は魔法を扱うポテンシャルを持っている。だが、無意識で魔法を使うことを恐れているのだ。恐らく、何らかのトラウマでもあるのだろう。魔法に対する恐怖と言うか、もっと言うと彼女の発言から戦いに関することに酷い抵抗感を持っているようだ。
「恐らく、過去に何らかのトラウマがあるのではないでしょうか?」
「・・・ああ、確かにそうなる可能性があった出来事はあった」
「アーノルド様、それは彼に教えてもよろしいことではないと思いますが」
使用人のメイドは前公爵に、そう忠告した。
これはもしかして、公爵家の中で相当大きい事件でもあったのかな。
それにしても、前公爵の名前ってアーノルドだったのか。
「カルミア、いいのだ。フォン殿はこちらの事情に突き合わせているのだから、このくらいの説明はしなければ」
「それなら、お聞きしても?」
「あれは・・・三年前のことだ」
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