20 アリスの実力
「アリスと一緒に鍛錬に付き合ってやってほしい」
前公爵はそう言った。
それまでの話とは関係ないように感じる発言に、俺は戸惑ってしまう。
「それはどうしてですか?」
「本来は使い魔に護衛させるつもりだったが、こちらの不手際で君を呼んでしまった。だから、その代案でアリス自信を強くさせることにしたのだ。そこで、年の近いフォン君に頼もうと思ってね」
つまり、失敗したのは公爵家のミスだけど、その補填に付き合ってほしいというわけか。まあ、命令のような形じゃないだけマシか。
「なるほど理解しました。そのご要望をお応えできるか分かりませんが、できる限りのことはさせていただきます」
「うむ。ありがとう」
そんなこんなでアリスと鍛錬することになった。
実は俺自身も、最近は剣術の鍛錬や魔法の鍛錬ができていなかったからうれしい。
前公爵によると、アリスは訓練場にいるらしい。
早速、俺は訓練場に向かった。
すると、そこには素振りをしているアリスが居た。
ブン!ブン!!ブン!!!
そんな空を割く音を鳴りしながら、剣を振っていた。剣を振るたびに金髪が靡く。キレイだ。
姿勢や足幅、手首の捻りそれらが回数を重ねるごとに洗練されていく。そして、俺が来たことにも気づかないほどの集中力を発揮している。
この集中を邪魔しては悪い
俺は彼女の素振りが終わるまで待つことにした。待つこと一時間程度。彼女が剣を鞘に収めた。
すると、こちらに気づいたのか驚いたように横に飛んだ。
「い、いつからいました?」
申し訳なさそうに、おずおずとそうこちらに聞いてきた。
「小一時間程度ですね」
「声を掛けてくださればいいのに」
「いえ、あまり邪魔はしたくないので」
何ともないように答える。
「そうですか」
「前公爵様から、一緒に鍛錬するように言われたのですが、よろしいでしょうか?」
「あ、構いませんよ」
前公爵の名前を聞くと、彼女は一瞬落ち込んだように見えた。
だが、すぐに元の表情に戻っていた。
「アリス様は魔法の鍛錬は行われるのですか?」
「いや、その、恥ずかしながら、魔法がうまく使えなくて」
「答えづらいことを聞いて申し訳ありません」
「気にしないでください」
彼女は魔法が苦手らしい。
だが、そうは見えないけどな。
「フォンさんは魔法が得意ですか?」
「それなりにはできるとは思います」
彼女はいきなりそんなことを聞いてきた。
「あの・・・」
もぞもぞと体を動かしながら、ゆっくりと口を開いた。
「私に魔法を教えてもらえませんか!!」
今までの彼女から考えられないほどの、大きな声でそう言われた。
こんなに大きな声が出せたのか、とびっくりする。
魔法を教えてほしいらしいが、どうすればいいのだろうか?
勝手に教えて、前公爵に何か言われたら困る。なにより、俺の魔法は独学であり、正しい教師など付けたことはない。
少し悩んだ後、結論を出した。
「私は独学ですが、それでもよろしいのならばお教えしましょう」
結局魔法を教えることにした。
前公爵の要望に応えるという体裁なら、魔法を教えても問題ないだろう。いざとなれば、これも要望の範囲だと判断したと説明しよう。
「ほんとですか!」
彼女は嬉しそうに頬を綻ばせた。
まあ、彼女くらいの年齢なら初級魔法が使えなければ、貴族として問題だからな。
そう言った焦りもあったのだろう。
「では、早速教えてほしいです!」
彼女は興奮気味にそう迫ってくる。
だが、そうするわけにはいかない。
「その前に、まずは休憩を取りましょう。過度な訓練は肉体にも精神にも負荷を掛けますよ」
彼女は先程まで、剣の鍛錬を行っていたのだ。
少しの休憩を加えないと、事故が起きやすく危険だろう。特に魔法の訓練は、暴発が起きやすいのだから。
「それもそうですね。じゃあ、お茶にしませんか?フォンさんのことをもっと知りたいです」
「かしこまりました」
アリスは近くに控えていた使用人に話しかけて、紅茶を準備させるように指示を出した。
そして、すぐ近くにあるテラスに案内してくれた。
彼女はきれいな所作で席に座った。俺も続く形で席に座る。
「フォンさんは戦うことについてどう思いますか?」
「どう、とは?」
いきなりの質問に、俺は質問で返してしまった。
「私は戦うことは・・・愚かだと思うんです」
「なんでですか?」
「だって、痛いじゃないですか。それに傷だって負う。最悪死んでしまうんですよ。そんな怖いくて、デメリットしかないことをするのは愚かじゃないですか」
「・・・そうかもしれませんね」
確かに、彼女の言う通りのデメリットは存在する。
肉が切れる感覚は、いつ感じても同じように痛みが走る。戦いが加速するにつれて、呼吸が浅くなっていって、視界がぐらついたりする。それが、いやだということも分かる。
「けど、私は戦うことは必要だと思いますよ」
「なんでですか?」
「戦わなければ何も守れないし、何も叶えられないからですかね」
戦わなきゃ何も変えられない。戦わなきゃ奪われるだけだ。
「戦わなくたって、話せばわかるかもしれないじゃないですか?」
「そういう場合もあるでしょうね」
「なら、戦う必要なんてないじゃないですか?」
彼女の言う通り、対話で事が片付くなら戦う必要なんてない。
けれど・・・それは叶わないことだ。
「そうですね。できれば対話で片づけたいですね。ただ、戦わないことが難しいですが」
「そう思いますよね!」
「あ!もうそろそろ休憩は終わりにして、魔法を教えてほしいです」
そう言って、彼女は訓練場の方に早足で戻っていった。
彼女の言っていることは理解できる。共感はできないけど。
ただ、一つそれならば疑問に思うことがある。
なぜ、彼女は強くなろうとしているのだろうか?
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