19 天才
アリスに召喚されてから一週間が経った。
この一週間は本当に何も起きなかった。
食事と風呂の時に使用人が呼びに来るだけで、それ以外は人と接触すらしていない。
だが、今日は違うようだ。
コンコン、そんなノックの音が聞こえる。
いつも呼びに来る時とは違い、今は食事の時間でも風呂の時間でもない。
何だろう?
扉が開かれた。
そこから現れたのは、オールバックに髪を整えている初老の男性だった。明らかに使用人では無い服装と姿勢からにじみ出る強者特有の覇気を感じる。恐らく、この人物がアリスが言っていた前公爵だろう。
「お初にお目にかかります。閣下。私はカイヤナイト伯爵家三男フォン・カイヤナイトと申します。この度は閣下自ら足をお運びいただいてありがとうございます」
座っていた椅子から立ち上がり、そう言って一礼した。
この人物が前公爵か、強いな。少なくともこの国の基準では。多分、ジルフォードと同じくらいの強さな気がする。
「ああ、丁寧な挨拶をありがとう。この度は孫娘が迷惑をかけたようで申し訳ない」
「いえいえ、私は大丈夫ですよ」
「そう言ってもらえると助かるよ」
そうやって、爽やかに笑った。
どうやら、いきなり追い出されたりはしないようだ。常識のある人でよかった。]
「今日はアリスのことで君の所に来たんだ」
「そうですか」
「君はアリスを見てどう思った?」
アリスを見てどう思った、か。
「・・・可愛らしい少女だと思いましたよ?」
「正直に話してくれて構わない」
・・・やっぱりごまかせないか。
「正直に申し上げますと、彼女は天才だと思いました」
「なぜ、そう思うのかね」
そう、彼女は天才だ。
もしかしたら、俺より強くなれる才能を有している。
この世には天才と秀才、凡才、などと言われるものがある。
秀才と凡才は見分けがつけづらい。正確に言うと、凡才も秀才に特徴的な差異がないからだ。秀才が凡才より優れているのは、学習速度、理解力が優れているからだ。
それに対して、天才は分かりやすいのだ。
なぜなら、天才は唯一無二だからだ。天才は自身で道を作れる存在だ。圧倒的な才能と独自性、創造性を両立する。さらに、他者とは明確に違う思考回路を持ち合わせている。
だから、天才は秀才とは別格だ。
秀才が一を百にするのならば、天才は零を一に、一を一億に、そんなことができる存在なのだ。
俺はそう考えている。
ではなぜ、彼女が天才なのか。それは・・・
「雰囲気と見ている視点ですかね」
「ほぅ?」
手を顎に当てながら、興味深そうに聞き入る。
「天才と言うのは常人とは別の景色が見えていると言われます。私から見ると、彼女は明らかに視点が違うと感じるのです」
「うむ、実は私も同じように思っている。あのような才があれば、王国一の剣士に慣れただろうと、羨んでいるよ」
どうやら、前公爵も同じように感じていたらしい。突拍子のない評価だから理解してもらえて助かった。
「ここからが本題なのだが、アリスは天才だ。だからこそ、狙われていると言える」
才能のある人間であることを分かったうえで、狙っているというわけか。
そして、才能のある人間を狙う理由は大方見当がつく。
幼少期に手に入れられれば、刷り込みを行うことができる。成長していたとするならば、少し難しいが洗脳や催眠魔法を使って戦力にできる。
・・・もしくは、解剖して内部をかいせきしたり、実験の被検体にしたりするかもしれない。
「アリスには内なる天才性とは別に、明確にアリスには天才だと思わせる要因があるのだ」
「それは?」
「魔法適正の数だ。アリスは九つの適性を持っている」
九つ!?あまりにも多すぎる。
一般的な魔法適正の数は三つ、四つくらいだ。
それが九つもあることから、それが規格外なことが分かるだろう。
「・・・それは、狙われるのも分かってしまいますね」
「であろう」
なるほどな、だから彼女は狙われているのか。
それが分かっただけで、数々の疑問が分かった。
「それで、それが今回訪れられたことと、どう関係するのでしょうか?」
「うむ。それはな・・・」
「アリスと一緒に鍛錬に付き合ってやってほしい」
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