17 初めての敵対者
これで書き溜めが無くなりましたので、これからは完成でき次第投稿したいと思います。
我は魔狼フェンリルとして、この地に存在していた。
そして、我は我が最強だと信じて疑わなかった。
その日は、魔王軍などと言う集団と共に町を攻め落とすことになった。
まあ、我からしたら単なる暇つぶしになるはずだった。
あの少年に会うその時までは。
その少年を初めて見た時の印象は、ただの人間だった。
それこそ、その直前に遊んでいた二人の少年少女の方が才気に満ち溢れていた。少年の方は強力なスキルと、圧倒的なまでの剣と魔法の才を併せ持っていた。少女は少年以上の魔力の才に、世にも珍しい魔眼の素質を持っていた。それこそ、順当に強くなれば我の首に、刃を届けられるほどの成長性を感じた。
だが、目の前の少年にはそんな際は全く感じず、それどころか成長性を微塵も感じなかった。
それなのに、我にその刃の切っ先を向けてきたのだ。
少年との戦闘は拮抗していた。
本気を出していたわけではない。だが、先程の二人とは違うのは、我の動きを完璧に捉えているのだ。
我の攻撃は、一点に集中した魔法によって防がれ。少年の攻撃は的確で、我を殺しうる攻撃を放ってきた。当然、そのような攻撃を喰らわないように回避する。回避していると少年から離れて行ってしまう。
そこで我は一つの違和感を感じた。
何故、この少年は防御に徹しているのだろうか?
そもそもこのレベルの強者ならば、攻撃にも転じれるだろう。
考えられる可能性としては・・・時間稼ぎか!
時間を稼がれていると考えた我は少し、攻撃を強めにした。
それが功を奏したのだろう。
一瞬、少年は思考の方に比重を傾かせた。その一瞬を見逃さずに我は攻撃を仕掛けた。
それを回避することでできる隙を詰め、少年を追い詰めた。
そして、あと一歩と言うところで他の介入者が現れた。
ジルフォードと名乗った老いた人間は、口上を上げたのちに厄介な魔法を発動してきた。
それらは自立しているようで、我の攻撃を躱していく。
そして、我に攻撃を与えてくる。実に面倒だ。
そんな風に苦戦しているとき、ふと気づけば少年が消えていた。
気づいた瞬間、背後から強烈な死の気配が全身を覆った。
瞬時に背後に魔力を集中させる。
巨大な雷鳴が轟き、視界を閃光が埋め尽くした。
どうやら、我は少年のことをなめていたようだ。
今の攻撃は防御しなければ確実に死んでいた。
恐らく、雷の魔法に存在する蓄積と発散の性質を利用し。瞬間的爆発力と圧倒的な速度からくる攻撃。
魔法としてのレベルは低いが、それはあくまで階級はと言うだけ。
発動する難易度としては常軌を逸しており、最上級魔法など目ではない。
我は本気を出すために、魔力を完全に制御した。それと同時に、周辺の空気も我の下に集める。当然、それにより周囲には真空状態が訪れる。なんということだろうか。
あの二人は魔力で自身の周囲の空気を集めいている。
二人ともかなりハイレベルな術者のようだな。
そして、これから戦闘になるというタイミングで少年の雰囲気が変わった。
自身の持っていた刀を投げ捨て、腕を天高くに向けた。
それと同時に感じるのは、先程と同じ死の気配。されど、それは先程とは比較にならないほど大きかった。
些細な変化だった。美しい銀髪は真っ黒な漆黒へ、その碧い瞳は深紅へ変わっていく。じわじわとゆっくりと注視しなければわからないほどに。
そして、我を殺す一撃を放つと思った。
しかし、そうはならなかった。なぜなら一人の乱入者が現れたからだ。
どうやら、少年は本気を出さないようだ。
話しているようだな。少し待つか。もし隙ができれば・・・
その一瞬、少年以外の警戒がずれた。
それを逃すまいと最速で二人に接近する。どうやら、二人とも気づいていないようだ。
我はその腕を使って二人を殺そうとした。
だが、捉えていたその眼が、深い黒が。
次の瞬間、我の半身は消えていた。
思わず、一歩後ずさる。これは人ではない。もっと、おぞましい化け物だ。
どうやら、二人の人間を逃がす判断になったようだ。
我としてもありがたかった。
確実に三人倒せるが、これ以上深手を負わされる可能性があったからだ。
我とそやつは対峙した。
奴は魔力で作った刀の切っ先を我に向け、口を開いた。
「言っておくが、俺は最強だ」
・・・それを言葉に紡いだ瞬間。我の見ている世界から色が消えた。音が消えた。においが消えた。何が起きたのだ。いや、わかっているのだ。ただ、本能が分かりたくないと言っている。
その言葉には多くの意志が乗っている。そして、その言葉を紡いだ奴は死の気配を纏った。
髪が黒色に変色し、瞳は深紅の赤に染まっていく。来ていた服は音を立てずに崩れ去り、何かわからない力を身に纏い、それが服の形を成していく。
それはまるで、人体錬成だった。
奴の眼が我を捉える。殺意が全身を蝕む。
ッズズ
そんな音がしたのと同時に、奴が動き出した。
奴は一歩で我の懐に入ってきた。そして、無機質にその刀を振り下ろした。
それは我の懐を浅く切り裂いた。躱せなかった。
先程までとは違う。無機質な殺すための剣だ。
続く攻撃を避けようと試みるが、やはり斬られてしまう。
何度も何度も、我の体に切り傷が増えていく。
喰らっていくうちに、深い切り傷までできた。
これではまずいと、無理やり魔力を解放すると。奴は吹き飛んでいった。
我は体勢を立て直し、次の攻撃に備えた。
だが、一向に次の攻撃が飛んでこない。
我は慎重に少年の様子を確認した。
どうやら、死んでいるようだ。
我はその呆気なさと、苛立ちから。
フォンの死体を木端微塵にし、風に乗せて吹き飛ばした。
初めてだった、あんなに翻弄されたことは。
あれは敵だった。
気づけば我の心に奴は深い爪痕を残していた。
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