16 一人の犠牲(3)
最近はジルフォードの孫が来て、この街はより活気に溢れていた。
だけど、そんな平穏は突然崩れることになった。急に魔物の大群が、キャッツコートを襲い掛かったのだ。
普通なら、避難するべきだったのだろう。だけど、私は気づいたら屋敷の方に向かっていた。
屋敷に近づくほど感じる強大な魔力。私も戦えるとは言え、この化け物には勝てない・・・そう分かるのに、屋敷に向かう足が止まらなかった。
いや、わかっているのだ。この先で、ジルフォードとその化け物が戦っているのが。
愛する人が、必死に自分より強い相手と戦っているのに、見ているだけなどできようか。
それに、私にも奥の手と言う物がある。
あの日助けられた恩を今こそ返すのだ。
そんな思いと共に、私は屋敷に入っていった。
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アンジェリカがこの場に来たことで、使用しようとしていた術を中止する。
確かに、彼女はジルフォードよりは少し劣るが戦える。
しかし、彼女が来たところで勝てるほど魔狼は弱くない。
それはジルフォードも分かっているようで。
「なぜ来た、アンジェリカ!!」
「何よ、来たら悪いかしら」
「ダメに決まっているだろ!!」
「なんで、あんたの言うことを聞かないといけないのかしら。私は、私のやりたいようにやるわ」
なんというか、いつものアンジェリカさんらしくない。もしかしたら、このような場だからこそ素が出ているのかもしれない。
そして思う。この二人ってどっちも互いのこと好きだよな。早くくっつけばいいものを。
恐らく、彼女はジルフォードを助けに来たのだろう。
それなら、二人で逃げてくれないかな。
「さて、もういいかな?」
痺れを切らしたのか、白夜がそう口にした。
こいつ、もしかして空気が読めるな。魔物なのに珍しい。
空気が変わった。
研ぎ澄まされた殺意が場を支配している。その殺意に一瞬二人が怯む。
「もしかして、待っててくれたのか?」
「その通りだ。では行くぞ」
そう口にすると、同時に白夜は俺の背後に回った。そして、大きな腕を俺目掛けて振りかぶった。
俺は術を展開することで、それを弾く。
弾かれたことに驚いたのか、魔狼は僅かな隙を晒す。
今しかない。出力を調整して。
「※※」
次の瞬間。魔狼の左腕が消えた。
魔狼は突然のことに驚いているようだ。だが、二度も同じ轍は踏まないようで、今度は大きく後ろに飛ぶことで、隙を晒さなかった。
そして、そんな一撃を放った俺は、膝から崩れ落ちていた。
そのことをたった今認識したジルフォードは、俺の元に駆け寄った。
「どうした!!」
「ケホッ!!ッッハア、ハア、ハア!!今出せる全力で、あいつの腕を消し飛ばしました。今のうちに逃げて、逃げろ。」
「・・・分かった」
「ちょっと!!ジル!!」
「いいから逃げるぞ!!」
ジルフォードはそう言って、強引にアンジェ力を連れてこの場を離れた。
それを止めようと、魔狼は動いたが俺の魔法によってそれを遮られる。
「ッチ!!」
魔狼はそんな悪態を吐く。
「さてと・・・」
俺はそう言いながら、ゆっくりと立ち上がった。
先程の一撃のせいで、今は碌に魔力もそれ以外も使えない。
はあ、これが詰みか。
まあ、やれるとこまでは頑張ろうか。
「先程の攻撃は何だ」
魔狼・・・白夜がそんなことを口にした。
白夜からしたら未知の力なのだから、驚いて当然だ。
「教える義理は無い。まあ、強いて言うのならば、人の感情は時に異常な現象を及ぼす」
「よくわからんな」
「当たり前だろう。さて、こんな無駄話をする必要もないだろう。さあ、やろうか」
俺はそう言うと、残り物の魔力で刀を生み出す。
そうして、その切っ先を魔狼に向ける。
そして、高らかに口を開く。
「言っておくが、俺は最強だ」
俺はその戦いで命を落とした。
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