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15 一人の犠牲(2)

ある日の学院でのこと。

私が授業のために教室に向かっていると、曲がり角で誰かとぶつかってしまった。

ぶつかった勢いでしりもちをついた。少したってから、顔を上げる。

ぶつかった人物の顔を見て、私は嫌な汗が大量に流れた。

その人物とは、この国王子だった。

王子とぶつかるだなんて、不敬罪で極刑でもおかしくない。


「すみません。すみません。すみません」


気づけば、頭を地面につけて謝罪の言葉を出していた。

それはただの恐怖心からだった。ジルと関わるようになったが、私など王子の不況を買ったりしたら、すぐに飛ぶような存在だ。

だから、私は必死に謝罪の言葉を紡いだ。


「誰にぶつかったと思っている?」


運が悪かった。

彼は傲慢で有名で、気に入らない者がいればすぐに殺すような人だった。

その悪名は最早、平民にさえも広がっているほどだ。


「私にぶつかった罪は重いぞ」


彼は冷徹にそう言い放った。そうして、彼は腰に携えていた剣を引き抜いた。

そして、私を切り捨てようとした。

しかし、不幸中の幸いと言うべきだろうか。

そこにラピスラズリ公爵家の嫡男が来たのだ。


「何をしておられるのです!」


彼は焦った様子で、王子の剣を止めてくれた。

それから、彼の説得によって極刑を免れることができた。

私は何度も彼に頭を下げて、感謝の言葉を尽くした。


だが、刑が無くなったわけではない。

それから決まった私への刑は、貴族としての地位を剥奪し、平民に落とすことだった。

ああ、私は結局こうやって死んでまうのか。

私がなんとしてでも避けようと思っていた未来になってしまったのだ。

そう思いながら、路頭に迷っていた。




貴族ではなくなってから、一年ほど経った。

私は、日雇いの仕事をしながら、ぼろ宿で寝泊まりをするという生活を続けていた。

もちろん、貴族の娘がそんな生活をしていれば精神は廃れていった。


幸いだったのは、私が過ごしていた町は治安が良かったことだろうか。

力もないか弱い少女、しかもそこそこに顔がいいとなれば、どういう扱いを受けるか分かるだろう。しかし、周りに親切な大人が多かった。

特に、アンナさんは私を男の人から守ってくれた。

だから、私はそういうこともされずに過ごせていた。


だけど、その日はアンナさんが町を出ていた。

その日は仕事の終わりが、遅かった。だから、早く宿に戻りたかった。

私は近いからと、路地裏を通ってしまった。

完全に油断していた。

女性が一人で、路地裏を通ることが危ないことくらいわかっていただろう。

私は気づけば、十人以上の男に囲まれていた。


ああ、私はここで終わるんだな。

これから、私がされるであろうことを認識し、そう悟ってしまった。

でも嫌だ。そんな目に逢いたくない。そう思うのと一緒にもう頑張らなくてもいいのではないかとも思ってしまう。

ここまで辛いことが多すぎたから、すんなりと諦めてしまった。


そんな時、一つの声が聞こえた。


「やっと、見つけた」


そんな声と共に、ローブを被った人物が現れた。

腕をローブから出すと、四色の魔法を手元に出現させた。

魔法を男たちに向けて放つと同時に、男たちに突っ込んでいった。

その人は男たちを次々に、なぎ倒していった。

誰なのだろう?

その人は男たちを全員倒してしまった。

そして、私の方に振り向いて手を差し伸べてきた。


「久しぶりだな」


そう言いながら、もう片方の手でフードを脱いだ。

私はその顔に驚いた。なぜなら、そこにいたのはジルフォードだったからだ。

どんな運命だろうと私は思った。それと同時に、私を探していたのだろうか。と考えてしまう。先ほどの発言から、私を探していたのだろうが、探される理由の心当たりがない。

だけど、その時の私にはそんなことどうでもよく思えてしまって。


「ジル!!」


私は気づけば、彼に抱き着いていた。

彼は驚いた様子だったが、すぐに優しい表情を向けてくれて抱きしめてくれた。

そのぬくもりが暖かくて、懐かしくて、私は彼の胸の中で泣いてしまった。

そんな私を彼は振りほどくわけでもなく、優しく頭を撫でてくれた。




その後、私はジルに拾われた。彼の領地で平民として過ごすことになった。

もう少しで、彼は学園を卒業して領地を治めるようになるらしい。

私はその誘いにすぐに頷いた。だって、好きな人の元へ行けるのだ。

例え、それが平民と貴族と言う身分が違おうと、近くにいることができるその事実だけで、この疲れ切っていた心には十分だった。


だからと言って、私が彼に告白することも。彼から私に告白することもなかった。

当たり前と言えば、当たり前である。私は平民で彼は貴族なのだから。

彼は貴族の令嬢と結婚することになったみたいだ。

別にそのことについては特に思うことはなかった。だって、彼の婚約者である彼女はきれいだったから、容姿なんかじゃなく、その心根が。だから、簡単に身を引くことができた。

それから、私はジルフォードとの距離感を変えた。最初はジルフォードも戸惑っていたが、貴族と平民の距離感だと言えば、それ以上は詮索してこなかった。

私は常に、疲れた時に頼れる平民の一人を演じ続けてきた。




今日、この日までは。

主人公の心理描写が書きづらいせいで、こういう感じに自由に心理描写を書けるキャラになると、筆が乗ります。早く、フォンを三章まで連れてってあげたいです。

書くのが、楽しくて余計なことを書いてしまいました。


ご覧いただき、ありがとうございます。

誤字や間違いがありましたらご報告いただけると助かります。

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