13 元英雄級
そこにいたのは、ジルフォードだった。
いつもとは違い、全身に鎧を纏っている。戦場にいる戦士の姿でここにいた。
だが、別に驚きはしない。
なぜなら、ジルフォードは・・・
「お主。何者だ?」
どうやら、白夜は体勢を立て直したようだ。
こちらに対して、そのような疑問を投げかけた。
その問いかけに、ジルフォードは威圧感のある声で答える。
「儂は元カイヤナイト伯爵ジルフォード・カイヤナイトだ。元英雄級騎士として、貴様を討伐する!!」
・・・ジルフォードは元騎士なのだ。英雄級のね。
英雄級や災害級と言うのは、大まかな強さや危険度の基準だ。
人と魔物では階級が異なる。
人は下から兵士級、騎士級、団長級、英雄級、伝説級、救世主級、神話級。
魔物は、下級、中級、上級、最上級、災害級、魔王級、神話級。
と分けられている。
災害級と英雄級では災害級の方が、上と言うことになる。
そのため、現状では白夜の方が有利と言う状況は変わってはいない。
だが、ジルフォードならば対等に斬り合うことくらいできるだろう。
それに、ジルフォードは剣がメインと言うわけではない。
「土属性魔法ソードマン」
ジルフォードがそう唱えると、地面から十体の土人形が現れた。
その土人形は、さながら剣士のような風貌をしている。
「行け」
そう命令を下すと、白夜の方に騎士たちは向かう。
白夜は、それに風の斬撃で対応する。
しかし、騎士たちはそれを無傷で潜り抜ける。
「エンチャント「アクセル」」
ジルフォードが魔法を発動すると、騎士たちの動きが早くなった。
白夜はそれにより反応が遅れたのか、騎士たちの一撃を喰らったしまった。
遅れた続いてきた二体の騎士に対して、白夜は腕を振るった。
その攻撃は空を切った。
またしても、白夜は騎士たちの攻撃を喰らってしまう。
なるほど、加速を騎士に付与することで認識をずらし、さらに付与していない個体を作ることで、また認識をずらしたのか。高度な魔力操作が成せる技だ。
「なかなかやるようだな。しかし、この程度の人形では相手にならんぞ」
白夜はそう言うと、大きく息を吸った。
そして、大きな咆哮を放った。
俺は咄嗟に、水魔法で壁を作った。
その咆哮により、土人形は破壊された。
これで破壊されるのならば、土人形は無意味になるな。
俺はそう考えながら、剣も持たずに白夜の背後に回った。
指先に魔力を込める。今日一番と言っていいほどの魔力だ。
さすがに、白夜もこちらに気づいたようだ。
咆哮なんて隙を作る行為を、みすみす見逃すわけがないのだ。
ここはそんなご都合主義な世界ではないからな。
そして、白夜の反応は間に合っていない。
俺は渾身の魔法の名を告げる。
「雷」
次の瞬間。大量の電撃が指先から放たれる。
それが、白夜にぶつかる。すると、雷が落ちたような轟音と共に、白夜は吹き飛ばされる。
白夜はゴォォォン!!という音を立てながら、屋敷の壁にぶつかった。
渾身の魔法だったんだがな。
殺しきれなかったか。
白夜の体には、大きな火傷痕のようなものができていた。
すると、ジルフォードがこちらに近づいてきた。
「やはり、フォンは強かったのじゃな」
「まあ、それなりには」
「別に隠していたことは怒っていない。こういう事態だしな。それで、あいつを殺せる見込みはあるか?」
「無理ですね。少なくとも、お爺様が三人はいないと」
そう、無理なのだ、白夜に勝つことは。
簡単に言うと、ゲームの負けイベントくらい勝てない。
まず、白夜は風と氷の魔法を使ってくる。
この魔法で、大抵の攻撃魔法が弾き返される。
先程までは手加減されていたが、雷を当てたことで本気を出してくるだろう。
次に、あいつの自然回復速度だ。
土人形に付けられた傷がもう回復している。
純粋に殺しきれない。
それに、あいつはまだフェンリルとしての固有能力を使っていない。
このままやっても、敗色濃厚だろう。
「ではどうする?儂が囮となっても良いが」
「それは、なしで行きましょう。アンジェリカさんが悲しみますよ」
「なぜ、アンジェリカが関係あるのだ?」
「本気で言ってますか?」
アンジェリカさんものすごく分かりやすいのに。
三ヶ月、この街で過ごしただけでもわかるんだぞ。
これがいわゆる鈍感っていうのかな?
俺たちがそんな会話をしていると、白夜が起き上がった。
「すまんな。お主らを少し舐めておった。ここからは、本気で行かせてもらう」
ご覧いただき、ありがとうございます。
誤字や間違いがありましたらご報告いただけると助かります。
作品への評価・感想等を頂けると嬉しいです。