98.三人でダンジョンに突入しました
雇う時の条件の中に住まいを提供することってのがあったのだが、それに関してはこっちにも準備が必要なのでまた来週という話になった。
今はホテル住まいらしく荷物もほとんどないので引っ越し自体はすぐに終わるらしい。
幸い手配してもらった家には空き部屋があるのでそこを使って貰えば問題ない。
後は風呂の順番とか食事をどうするのかとか、今まで以上に各々のプライベートが重要になってくる。
同居しているとはいえ特別な関係というわけではなくあくまでも他人。
いずれ桜さんが成長すれば同居も解消することになるだろうし、それまでになんとかタワマンの頭金ぐらい貯めておかないとなぁ。
現時点でも今までと比べ物にならないぐらいの貯金額にはなっているけれど頭金となれば話は別だ。
最低でも今の十倍、いや百倍ぐらい必要なのか?
流石に百倍は言い過ぎかもしれないけどそれに近い額は必要になるはず。
でもこの短期間でこれだけに額を稼げたということは、このままいけば来年にはそれだけの額が貯まるということ、しかもレベルを上げてCランクにまで辿りづけたらもっと稼ぎが良くなっていくので早ければ年内にも達成できる可能性がある。
俺には収奪スキルがあるし、リルと桜さんそれと新たに須磨寺さんも加われば今まで以上の成果が上がるはず、ということで早速ダンジョンへで実力を確かめよう・・・と思ったんだけど、準備に三日欲しいと言われたのでそれまでは休暇ということになった。
「いよいよですね!」
「あぁ、けど肝心の須磨寺さんがまだ来てないみたいだ。」
「綾乃ちゃんならもうすぐ着くって連絡ありましたよ。」
「綾乃ちゃん?」
「はい、綾乃くんじゃなんか変な感じですしその方が可愛くないですか?昨日一緒に買い物に行って連絡先も交換したんです。」
まさか一緒に買い物に行っているとは思わなかったが・・・でもまぁ仲がいいのはいいことだ。
確かにあの見た目で君付けはちょっと変な感じだし桜さんがそれでいいならまぁいいだろう。
「お待たせ!」
「こんにちは須磨寺さ・・・ってすごい荷物だな。」
「そう?いつもこれを使っているからあんまり気にならないけど。一応預かったお金の範囲内で準備はしてきたけどもし足りない物とかほしい物があったら教えてほしいから遠慮なく言ってね。まぁ桜ちゃんが一緒だったから大丈夫だとは思うけど。」
「ここぞとばかりにいろいろ買っちゃいました。」
「そしてそれ全部持ってきたと。さすがの俺でもこれをもってダンジョンは無理だなぁ。」
須磨寺さんの背丈を優に超える巨大なカバン、スキルがあるとはいえこれを背負ってダンジョンに潜ると思うとちょっと想像がつかない。
もちろんそれができるからこその運搬人なんだろうけどこれを背負いながら魔物の攻撃を避けるんだろ?
うん、やっぱり俺には無理だ。
「今回はここの七階層からだっけ。」
「転送装置で七階層に向かってそこから一気に十階層の階層主を倒す予定です。道中の魔物は全て倒すつもりなので回収はお任せしました。」
「それが僕の仕事だからね、二人はこっちを気にせず戦いに集中して大丈夫だから。あれ、三人?」
「二人と一頭、まぁどっちでもいいけど。一応周りの状況を見てからになりますけど、誰もいないようならリルにも出てきてもらいます。でも本当に補助しなくていいんですか?」
「一応元Bランク探索者だからね、自分の身は自分で守れるから気にしないで。」
普通は運搬人も鎧とかそういうのを身に着けることが多いけれどまさかまさかのジャージ姿。
唯一一般人と違うのは腰にぶら下げた山刀ぐらいなものだろうか。
本人曰く枝を切ったりするための物らしいけどなんとも使い込まれたそれは間違いなく愛用の得物なんだろうなぁ。
「それじゃあ行きますか。」
「頑張りましょう!」
「おー!」
運搬人を雇って初めてのダンジョン探索、果たしてどんな感じになるのやら。
見慣れた転送装置に手を伸ばして新たなる戦場へと向かった。
「草原、林、森ときて、今度は山なのか。」
「山というか岩場というか、空があんなに高いです。」
空があるのはフィールド型ダンジョンあるあるだけど、こういう特殊な環境っていったい誰が決めているんだろうなぁ。
見上げれば雲一つない青空と、正面には大小さまざまな岩が転がっている。
無機質な岩場というよりもところどころ木が生えているので山の一部という感じなんだろう、植物系ダンジョンのコンセプトはいまだ継続中のようだ。
「七階層に出るのはファルコンナイフとゴートゴートの二種類、どちらも警戒が必要だけど一番気を付けるべきは急降下してくるファルコンナイフかな。」
「ゴートゴートは確か毛むくじゃらのヤギですよね。」
「あいつが落とす毛皮はあったかくて気持ちいいんだよ。」
「もこもこ、いいですよね。」
「今回は須磨寺さんがいるから遠慮は無用、みつけ次第全部倒す感じでファルコンナイフはこっちで何とかしてみるけど、ダメだった場合はフォローよろしく。」
「大丈夫です!」
周りに探索者の姿もなかったのでリルを召喚、初日に顔合わせしているので特に問題なく受け入れてくれているようだ。
ただ、須磨寺さんがかなりリルに興味を持っているみたいでことあるごとに撫でている。
嫌がっている感じはないのでそのままスルーしているけど、よっぽど犬が好きなんだろうか。
浮石に足を取られないよう慎重に足元を確認しながら岩場を上へ上へと昇っていく。
今までと違いかなりスローペースではあるけれど焦る必要もないのでじっくりいくとしよう。
「和人さん。」
「こっちも確認、2時の方向だね。」
直感スキルで正面の魔物を感知した桜さんとほぼ同タイミングで上空に魔物の姿を確認、鋭いくちばしをもつ隼がぐるぐると旋回していた。
「それじゃあ予定通りリルと桜さんであっちをよろしく。」
「了解です!リルちゃんいくよ!」
「わふ!」
岩の後ろに隠れながら正面のヤギへと近づく桜さんたちを横目に魔装銃を岩場に固定して上空をぐるぐると回る隼へと狙いを定める。
スコープ越しに確認するとまだこちらに気づいていないのか明後日の方向を見ているようだ。
狙うのはちょうど後ろを向いた瞬間、呼吸を落ち着かせてタイミングを取りつつゆっくりとトリガーを引くと乾いた音と共に見えない弾が発射される。
当たれ!と、スコープ越しに願ったものの狙いがわずかにそれてしまったようだ。
それでも右の羽に命中したのかきりもみ回転するように地上へと落ちてきたので急ぎ銃を置いて落下地点まで移動、岩場に叩きつけられたはずが吸収されていないということはまだ生きているんだろう。
棍を構えてゆっくり近づいた次の瞬間、ものすごい速度でロケットのように突っ込んでくるそいつを冷静に叩き落した。
どうやらさっきのは死んだふりだったらしい。
【ファルコンナイフのスキルを収奪しました。羽ナイフ、ストック上限は後四つです。】
消えてしまう前にスキルを収奪、羽ナイフっていったいどう使うんだろうか。
「あ、綺麗な羽。」
「ファルコンナイフのドロップは羽なんだな。」
「一つ一つ色が違うからものによっては高く売れたりするんだよ。」
「因みにこれは?」
「んー、普通かな!」
可もなく不可もなく、まぁ金になるのなら何でもいいけど。
ドロップ品を須磨寺さんに渡しつつ桜さんの方を見ると向こうも戦闘が終わったらしく、リルの遠吠えが聞こえて来た。
ドロップ品に肉があれば喜ぶだろうけど果たしてヤギは肉を落とすのだろうか。
「向こうも終わったみたいだ。」
「リルちゃんがいれば楽勝だね。」
「欲を言えばタンクが居たらもっと楽なんだろうけど、リルの件もあるし中々難しいだろうなぁ。」
「別にリルちゃんでも大丈夫じゃない?」
「リルの機動力を考えればタンクをやらせるよりも迎撃とか陽動とかそっちの方が間違いなく向いている。あとは桜さんがどう戦うかだけど、スキルもあるし前線に居てもらう方が色々と都合がいいからとりあえず今はこのままでいくしかないだろうなぁ。」
「ふーん、結構考えてるんだ。」
何がそんなに意外なのかはわからないけどとりあえず七階層最初の戦闘は無事に終了、このままトントン拍子に行けたらすんなり十階層に行くことも出来るはず。
そんなことを考えながら二人の待つ方へと近づいていくのだった。




