94.突然声をかけられました
桜さんと行く御影ダンジョン。
この間無事に七階層まで到達できたので今回の目的は十階層・・・と行きたいところだけども、新しい装備になれるためにあえて6階層を探索することにした。
この間は弓使いの子がいたので何とかなったけれど彼女無しでちゃんと探索できたのかという不安もあったので改めてのリベンジマッチということになる。
「これが魔装銃ですか、初めて見ました。」
「このあいだ川西ダンジョンで手に入れた装備を使って何とか運用できるようになったけど、この先梅田ダンジョンとかに行くようになれば遠距離攻撃は必要だしとりあえず実戦経験を積まない事には上達しないから悪いけど付き合って貰えるかな。」
「もちろんです!私もこの間は活躍できなかったので、今回は頑張ります。」
「わふ!」
前はリルも活躍できなかったのでやる気十分、とりあえず階段のある洞の近くに目印をつけてから行動を開始。
アリアドネの糸だっけ、さすがに糸を伸ばしたまま動き回ることはできないけれど目印ぐらいは分かるようにつけておかないとあとで探すのが大変になる。
そんなわけでフォレストエイプを探して森の中をゆっくりと移動、途中ロックビートルを発見したのでちょっかいを出してみたけれどまさかリルの爪であんな簡単に引き裂けるとは思っていなかった。
逆を言えばそれだけリルの爪が鋭いという事、この感じだとそこまで困ることもなさそうだ。
「あ、和人さんいましたよ。」
「向こうはまだこっちに気づいていないみたいだな。」
桜さんの直感スキルで獲物を発見、すぐ木陰に移動して魔装銃を取り出し狙いを定める。
初陣は済ませたはずなのに緊張してしまうのはなぜだろうか。
桜さんの静寂の指輪なんかがあればよかったのかもしれないけど、とりあえずやれるだけやってみよう。
幸い制動のグローブのおかげで緊張しても標準がぶれることはない。
狙われているとも知らず木々の間を移動するフォレストエイプ、別の仲間がいたのかそいつの近くまで移動して何やら話をし始めたその瞬間を逃さずトリガーを引くと軽い音共に弾丸が発射、魔力でできた見えないそれは見事頭を貫いた。
「やった!」
「まだもう一匹いる、こっちに来るから迎撃は任せた。」
「任せてください、リルちゃん行くよ!」
「わふ!」
この前は一人だったので複数匹いた場合はすぐに武器を切り替えないといけなかったけど、誰かがいるとこうやって役割分担できるので非常にありがたい。
桜さんとリルが怒り狂ったもう一匹に対処している間にスコープをのぞき込みながら戦闘音に誘われた仲間を探し、向かって来る前に攻撃を仕掛ける。
流石に二度目のヘッドショットとまではいかなかったけれど右肩に命中したのかそのまま木の上から落下、後は同じ流れで敵を見つけては先制攻撃を仕掛け残りを桜さんとリルに対処してもらう。
うーむ、まさかこんなにも手際よく対処できるとは思っていなかった。
桜さんも弓使いの子と一緒に探索に出ていたのでその辺のコミュニケーションっていうか、動きがよくわかっているんだろう。
今までのがダメと言っているわけじゃないけどまさかここまで戦い方に違いが出るとは。
最後は仕留めそこなったやつが大騒ぎしたことでロックビートルまで集まっての乱戦になってしまったけれど、銃を置いて棍に持ち替えればすぐに応戦できるのはやっぱり便利だ。
「お疲れさま。」
「お疲れ様でした!」
「思った以上に敵が来たけど何とかなったな。」
「リルちゃんが頑張ってくれたおかげです、ねーリルちゃん。」
「グァゥ!」
桜さんに褒められ得意げな顔をするリル。
さて、それじゃあ素材を回収して休憩でもするか。
そこら中に転がっている素材を回収しながら順にカバンに詰めていくも、思った以上の量になってしまい最後の奴は押し込まないと入らないぐらいになっていた。
うーん、元々下に潜るつもりはなかったから荷物は少なめにしてきたのにロックビートルの素材が思った以上に場所を取ってしまっているようだ。
収入的にも持って帰りたいところなのでひとまずカバンの奥から食べ物とか飲み物を取り出して場所を確保しつつ、入りきらなかった分はこの場で食べてしまうより仕方がない。
「思ったより荷物が入らないなぁ。」
「やっぱり私も荷物持ちましょうか?」
「気持ちはありがたいけどいざという時にすぐ動けないのは困るし、とりあえず今は俺が持つから大丈夫。」
「でもそのかばんを背負ったまま魔装銃は持てないですよね?」
「持てる・・・はず。」
迎撃担当の桜さんが荷物を持つと色々と弊害が出てしまうのでとりあえず今は俺が持つ意外に選択肢はない。
正直ここまでパツパツなのは初めてなのでやってみないとわからないけど、何とかなるだろう。
知らんけど。
「あ!リルちゃん戻って。」
「わふ!」
その時だ、さっきまで楽しそうにリルのしっぽを撫でていた桜さんが突然緊張した声を出し、それに反応してリルがブレスレットの中へと消える。
それを追いかけるように後ろの藪からガサガサという音がしはじめたので慌てて棍をそちらに構えた。
音はどんどんと近くなり、そして何かがひょっこり顔を出す。
「待ってください魔物じゃないです!」
「え、人!?」
てっきりフォレストエイプが近づいてきているのかと思ったらまさかの人の顔だったので思わず動揺してしまった。
桜さんはスキルのおかげかなんとなくわかっていたみたいだけど、よかったリルを見られなくて。
「こんなところでどうしました?」
「実は仲間とはぐれてしまって・・・。」
「仲間と?群れにでも襲われたのか?」
「そんな感じです。」
フォレストエイプは群れる習性があるからなぁ、この前の四人組みたいに追われている間にはぐれてしまったんだろう。
藪から出て来たのは高校生ぐらいの少年。
はぐれたという割には話し方はしっかりしているし、かなり肝は座っているタイプなのかもしれない。
「なるほどな、この森の中で再会するのは難しいし一人で待つぐらいなら地上で待つ方が無難だろう。ちょうど上に戻ろうかと思っていたところだし、構わないよな桜さん。」
「問題ありません!」
「ってことだから地上までは案内しよう。こういう時こそ助け合うのが探索者、他の仲間も無事に戻ってくるといいな。」
「ありがとうございます。」
とりあえず彼を無事に上へと連れていかなければ、ということで改めてパンパンになったカバンを背負い直して魔装銃を担ごうとしたもののリュックの肩ひもが引っかかってしまってうまく乗せることが出来なかった。
うーん、ここまでパツパツにすると桜さんの言うように担ぐのは難しいか。
地上に戻るまでの辛抱だしこのまま手に持って歩いても邪魔にはならないだろう。
「あのっ。」
「ん?」
「よろしければカバン持ちましょうか?」
「いやいや、かなり重たいぞ。」
「大丈夫です、運搬人なので。」
運搬人とは言うものの体は小さいし見た目も幼い感じ、武庫ダンジョンで見た子もそうだったけど運搬人って低年齢の子が多いんだろうか?
人を見かけで判断してはいけないとよく言うけれど、どう考えてもこれは無理だと思うぞ。
「ほんとうに持てるのか?」
「これぐらいなら余裕です。」
ドスンと地面に下ろしたカバンを表情一つ変えずに片手でひょいっと担ぐ少年。
俺があんなにしんどい思いをして担いだってのにこんなにも簡単に持ち上げられるものなのか。
どんな重たい荷物でも運ぶのが運搬人としてのスキルとは言うけれど、実際目の当たりにするとなんとも不思議な気持ちになってしまう。
自分と同じ背丈、いやそれ以上のカバンを軽々と背負う少年と共に俺達は目印のある洞へと戻るのだった。




